【Prologue1-4】出兵
祖父の代にも、同世代のオルグの子らにもその親たちにも、蔑まされてきた。
オルグにしては白く、中央の民にしては黒い、どちらつかずの肌の色が、ミロを見るオルグ達の目を淀ませた。
かつて、中央の王国を築いた女王エマが、オルグに与えた憐れみ。その屈辱は、五百年以上が経過した今でも、オルグの誇りの中に深い傷を残し、消えていない。混血であるミロの存在は、他のオルグ達にとって、その傷の生きた象徴のようなものだった。
孤独。
そんな言葉が、遠巻きにミロを見る人々の群れから、漏れ聴こえてきたことがある。しかし、孤独ではない状態を知らないミロには、その言葉の真意がいまいち理解できないし、それを苦痛と思ったことも無い。
許せないのは、同じ世代の中でも群を抜いたミロの武を、誰も認めようとはしないことだ。
混血のオルグに劣る。
純血の誇りが、その事実を認めたくないが故に、ミロの存在自体を反故にしようとする。それが、許せない。
混血だろうと何だろうと、俺が最強だ。
そんな信じて疑わない想いはあっても、それを証明できる機が、これまでは無かった。
悔しい。でも、だからといって母を恨んだことは無いし、得体の知れぬ父を憎んだことも無い。すべては、平穏に過ぎていったこの平原の刻のせいだ。そしてそんな焦燥は、きっと、もうすぐ消え去る。
戦が始まる。
平原の西部、エメネスト半島を治めていた、アウベルダという中央の領主のひとりが、王国からの独立を宣言した。謀反だった。鎮圧部隊が組織され、エメネストへ侵攻したが、殲滅された。そして、アウベルダは王国へ宣戦を布告した。
謀反鎮圧。
国王からゼデン首領の元へも、援兵の要請が来た。ミロはその先遣隊に志願し、受け入れられた。十九年生きて、ようやく手に入れた好機だった。
錬兵とは違う。ハイランド・ベアを狩り殺して積んできた鍛錬とも、もちろん違う。目の前に横たわる屍が多いほどに自身の価値を高めることのできる、本物の戦場へ、今、向かおうとしているのだ。
「次代を担う戦士たちよ、いついかなる時もオルグの誇りを胸に留めろ」
祭壇前に隊列を組む、出兵直前の、若い世代で編成された先遣隊を、ゼデン首領が一括する。
「眠らせていた我らが闘志を吐き出す、これは好機だ。オルグの血を平原に知らしめる、好機なのだ。武の御霊が貴様らと共にあらんことを!」
若い兵士たちから、雄叫びが上がる。
地鳴りにも似たその響きが、ネアドの台地を包覆う。
ミロはその猛りに乗じることなく、黙したまま、ゼデンを見据えた。
―――お前にも認めさせてやる。
奥歯を力ませ、ゼデンを睨めつける。
戦が、始まる。
本当の意味でのミロの生は、今この時から、その史を刻もうとしていた。 |