【Prologue1-2】オルグの廃退
王国エルトニアの北東、東方の異民族ドルドアの民との国境を望むネアド台地に、オルグ達の自治区はあった。
中央の人々に『亜人』と称される二つの民族のひとつ、オルグ。隆々とした筋骨と、威圧的な巨躯、そしてそれを覆う深い褐色の肌が、彼らが『亜人』と呼ばれる所以だった。
古の時代、オルグはこのエルトニア平原の東部一帯を統治していた。武に恵まれた体躯と、剛毅さとを備えた騎士団を擁していた彼らは、西の豪族たちを威圧し、侵されることの無い国家を平原の東に築き上げていた。
―――が、武の時代の常として、オルグ族の繁栄もまた、例外なく終焉の時を迎える。
過去三度の異民族ドルドアのエルトニア侵攻のうち、最も古い『エマ・ヴァルデの聖戦』で、オルグ族はドルドアの英雄ヒウデルによって、その繁栄に幕を引かれた。
元々は細々とした遊牧騎馬民族の集合体だったドルドアの民だが、主要部族を一代で纏め上げたヒウデルは、一気にエルトニアへ侵攻。エルトニア東部を治めていたオルグらを、その勢いのままに僅か半年で壊滅状態へ追い込んだ。
敗退したオルグ族の残党が北岸へ退き、中央への進路を確立したドルドアが、エルトニア侵攻に本格的に乗り出そうとした時、当時エルトニア西部の豪族を束ねていたヴァルデ家の党首の娘、エマが、太陽神アウレスと契約を交わし、ドルドア軍を『神の業火』で焼き払ったと伝えられている。
神の力を借りたとされるエマの所業は、今の時代の史学家たちの間でも、その真偽の賛否は分かれるところだったが、『神の力』と結論付けないことには成り立たないほどの武力の差が、当時のヒウデルとエマの間にはあった。
真実はともあれ、『聖戦』に勝利したエマの一族と、中央の民とがその後平原に王国を築き、太陽神アウレスの信仰がそこに広まり、これが、エルトニア王国とアウレス教の起源となった。
戦後、エルトニア北東の僻地に追いやられたオルグは、中央の民に『敗北の民族』と蔑まれるようになったが、エルトニア王国第一代女王エマは、ドルドアの侵攻に果敢に挑んだオルグ族の栄誉を称え、ネアド台地に王国統治外の自治区を築くことを許した。
生き永らえる地を与えられたことは、敗退したオルグにとってこの上ない恩恵ではあった。が、蛮勇の民族を自負して生きてきた彼らの誇りは、憐れみともとれるエマの慈悲に、大いに傷つけられた。かといって、その恩恵を反故にもできず、かつて、もてあますほどに溢れていた覇気は失われ、以降オルグ族は、北東の寒地で静かに営みを続けるようになった。
ただ、彼らは武に対する探究心まで失ってしまったわけではなく、後の、二度目のドルドアのエルトニア侵攻の時、虚を突かれた王国軍を、南へ急進して救ったのは、彼らオルグの末裔達だった。その戦いぶりは壮絶で、侵攻してきたドルドラの一万の軍は、オルグ族によって根絶やしにされた。過去の屈辱を清算するような、執拗なまでの残忍さだったと、当時生還した中央の兵士達は王都に戻り、口々に語った。
この戦の後、オルグは王国に自治区の拡大を提示されたがこれを拒否。再び、北東の寒地へと引きこもった。
繁栄よりも、武の頂点にあらんことを。
今の時代も受け継がれるオルグ族共通の信条はこの時に確立された。 |