【Prologue3-3】東へ
それがいいことなのか悪いことなのかは別として、戦況は予想通りの動きを見せた。
南洋騎士団が東西に二分され、アウベルダ軍の中央が手薄になったと見ると、隙を見つけたとばかりに沈黙を破って、中央重騎士団が進軍を開始した。
その名の通り、重い甲冑に身を包む彼らの進軍は、決して俊敏なものではなかった。が、分厚い装甲に頼んだ強引な歩みを、滞らせることは至極困難だった。
ゆっくりではあるが着実に、アウベルダ軍本陣へとにじり寄っていく敵軍。ヒューゴはそれを、東に展開された自軍の後方から見ていた。
―――すまない、ヌーノ。
小さく呟き、前線を睨みつける。
東西から挟み込むように、南洋騎士団が敵軍の本隊へ向けて攻め込んではいるが、そのことごとくが弾き返されている。南洋騎士団が誇る騎馬の機動力は、こういった密集戦や防戦には向かない。相手もそれを判っていて、陣を密に組み、深追いもせず、一塊になってただ真っ直ぐにアウベルダ軍本陣に向けて行軍している。
最初から、こうなる前から、結果は見えていた。でも成すすべは無い。後は、自陣が敵軍の怒涛に飲み込まれる、その時が来るのを待つだけだった。
―――待つだけ?本当にそれでいいのか?
振り払ったはずの葛藤が、再び胸の中で燻りだす。
「ヒューゴ、行くよ」
前線に釘付けにされたヒューゴの視線を引き剥がすような、ファビオの声が背中にぶつかった。
「何もかもが無駄になる前に、行くんだ」
だめ押しするように続けられたファビオの言葉で、ようやくヒューゴはまなざしを前線から逸らし、ファビオに向き直った。
まっすぐにヒューゴを見据えるファビオの目には、ヒューゴの抱くそれと同じ揺らぎが、確かに、僅かにではあるが、在った。が、ファビオは胸の奥から湧いてくる衝動を必死に押さえているのか、曲がらない、曲げられない意志を、鋭い光に変えて、赤く湿った瞳のずっと奥に携えていた。
「判った。」
ヒューゴも、胸に痞えていた葛藤を飲み込んだ。
―――そうなんだ。俺が折れる訳には、いかない。
奥歯を力ませ、手綱を握り返し、何かを振り払うかのように、勢いよく騎馬の鼻先を東へと向ける。
「行くよ、ファビオ!」
短く叫び、馬を煽った。
前線に背を向け、本隊から離脱して、東へと下る丘陵を駆け下りる。ファビオがそれに続き、その更に後を、彼ら直衛の小隊が続いた。
丘の頂上が前線からの視界を遮っているはずだ。恐らく中央重騎士団の本隊から、東へと進路をとったヒューゴらの小隊は見えていないのだろう。背後から迫る気配は全く感じられなかった。
―――必ず、我が一族の使命を成す。彼らの犠牲に応えるにはもう、それしかないんだ。
戦場の、絶叫にも似た怒号と金属がぶつかり合う無数の甲高い音が、背中に刺さる。それを振り払うように、ヒューゴは何度も、強く握った手綱を撓らせた。
東へと向けて――― |