第二十九話 帰宅
「ただいま!お腹空いた~!」
夕紀が家に入った途端の一言目がコレだったので、白夜は苦笑いしながら、
「食べて来たばかりじゃないか?」
と、あきれ顔。しかし、夕紀はさも当然っと言った顔で、
「ご飯とスイーツは別物よ!」
「そ、そうか・・・。まぁ・・・冷蔵庫に有るモノで何か作るかな。取りあえず風呂に行くといい、その間に何か作っておく。」
「え・・・?白夜は一緒に入らないの?」
不思議そうな顔で白夜の方をジッと見る夕紀に、
「何故、不思議そうな顔をする?たまには一人で入れ!」
「え~・・・。白夜と入りたぃい!」
夕紀は口を尖らせて、駄々をこねるように体を左右に振った。
白夜は、無言で腕を振り上げて斜め45度の角度で、夕紀の頭にチョップを入れた。
「いっったぁぁぁい!!ひどいわ!白夜!」
「やかましい!さっさと入ってこい!」
「は~い・・・。」
夕紀は、トボトボと歩いて風呂場に向かい途中、何か言いたそうな目で白夜の方に振り向くが、『早く行け!』と手で合図していた。
夕紀の姿が見えなくなるのを確認してから、白夜は腰に手を置きヤレヤレと言った表情で、台所へと入っていった。
――1時間後・・・
「白夜~!お風呂空いたよぉ~。」
夕紀は頭を拭きながら、風呂場から出てきた。
「丁度、こっちもご飯の支度が出来ている。お主が食べてる間に、ワシも風呂に入るかな。」
夕紀は頭を拭きながら、使用した調理器具を洗ってる白夜の後ろ姿を眺めていた。
そして、無言で白夜に近づいた。
「ん?どうした?早く食べないとオカズが冷めるぞ?」
近づいて来た夕紀の気配に気がついた白夜は、洗い物しながら尋ねた。
その瞬間、
「えい!」
「うひゃぁっ?!」
「おぉ?!やわらかくて触り心地がいい。」
夕紀は白夜の無防備な脇の下から服の隙間に手を忍び込ませて、直接的に胸を触った。
突然の事に思わず悲鳴が出た白夜は、動揺が隠しきれなかった。
「なななな、何をしている?!バカな事してないで、早く離さんか!こそばいでわないか!」
「無防備な隙間に手を滑り込ましたくなるのよねぇ・・・。」
ひたすら触り続ける夕紀に対して、両手がふさがってる白夜はされるがままだった。
「ちょ!やめっ!離せ!!」
必死に悶える白夜の姿に、だんだん興奮してきた夕紀。
「やだぁ・・・悶える姿の白夜が可愛い過ぎる!」
「うぅぅ・・・いい加減に・・・しろ!!」
白夜は後頭部で、調子に乗ってる夕紀の額に頭突きをした。
「あう!?」
「ひゃん!!」
夕紀は頭突きを貰い、悲鳴と共に後ろに倒れた。その拍子で白夜の胸から夕紀の手は勢いよく離れたので、思わず白夜も短い悲鳴を上げた。
取りあえず白夜は急いで手を洗い、濡れた手をきちんと拭いてから、夕紀の頭にチョップを打ち込んだ。
「あいたぁ?!ちょ、白夜痛ぁい!!」
「やかましい!ちょっとそこへ正座しろ!」
流石の白夜も、夕紀のイタズラに顔を真っ赤にして怒ってしまった。
――・・・それから、白夜の説教が小一時間続いた。
「・・・全く、これから自重しろ!わかったか?」
「ふぁぃ・・・。」
スッカリ意気消沈している夕紀の姿を見て、白夜も腕を組んで一息ついてから、夕紀の頭を撫でると、
「反省したなら、飯を食べろ。少し冷めてしまったが問題ないだろう。その間に、ワシは風呂に入ってくる。」
「・・・うん。」
白夜は夕紀の頭から手を離すと、そのまま風呂場へと向かった。
残った夕紀はゆっくりと立ち上がり、椅子に座ると白夜の作った料理を食べ始めた。
――30分後――
白夜が風呂から出てきた。丁度、夕紀も食べ終わって食器を洗っていた。
「お?洗ってくれてるのか?反省したんだな?」
「うん。お詫びと言ったら何だけど・・・私のも・・・触っていいよ?」
と、頬を染めながら夕紀が振り向くと、白夜はテレビの前に座って電源を付けた。
「いやぁぁ!スルーしないでぇ!!」
自爆した夕紀は、顔を真っ赤にしてしゃがみ込んでいた。その様子を見ていた白夜はタメ息をついた。
「お主の将来が本気で心配になってきたぞ?」
「え?大丈夫よ。白夜が居てくれるもの。」
「ぬ?」
「だって・・・私が間違ってたら、ちゃんと怒ってくれるでしょ?」
夕紀は再び立ち上がって、食器を洗い始めながら語った。
それを聞いて、白夜は吹き出した。
「クッ・・・ハハハ・・・!」
「え?!私、変な事言った?!」
突然笑い出した白夜に、戸惑いながら夕紀は白夜の方へ振り向いた。
「クックックッ・・・いや・・・そうではない・・・。」
白夜は少し深呼吸してから、夕紀の方を見て、
「ふぅ・・・そうだな。簡単な事だな・・・間違っていたら叱ればいいんだな?」
「あっ!で、でも、私的には・・・優しいほうがうれしいよ?」
「安心しろ。厳しく行くからな。」
「えぇ?!そんなぁ・・・。」
ガックリと肩を落としている夕紀に対して、白夜は笑っていた。
洗い終わった食器を乾燥機に入れ、夕紀も白夜の側に寄り添うように座った。
「ん?どうした?」
「ううん。何でもない。」
ニコニコしながら横に座ってる夕紀の顔を見て、苦笑いする白夜がテレビのチャンネルを切り替えると、今日行った店が映っていた。
「あれ?コレ・・・今日行ったお店じゃない?何で映ってるのかな?」
「さぁ?」
不思議に思い見ていると、画面右下にタイトルで『謎の少女を追え!』と言うタイトルが付いていた。
思わず夕紀は、吹き出してしまった。
「どうしたんじゃ?イキナリ吹き出して・・・。」
「あっ・・・いや、改めて・・・凄い事になってるなぁと思って・・・。」
「何がだ?」
苦笑いしながら画面を見る夕紀に、首を傾げる白夜に、
「白夜の事が話題になってるから・・・カラオケ行く前に髪を黒く染める?」
「黒にすればいいのか?」
「うん。そうすれば目立たなくなると思う。できる?」
「可能だが・・・意識しないと戻ってしまうがな。」
「長時間は無理かぁ・・・じゃぁ、染めようか?」
「染めるって・・・まさか、墨でも塗るのか?」
不安そうな顔をする白夜に、夕紀はクスッと笑い、
「大丈夫よ。ちょんとしたヤツがあるから、今度買ってきてあげる。」
「うむ。頼む。」
「カラオケが楽しみだねぇ。早く休み来ないかなぁ?」
「そうだな。まぁ・・・時が経つのは早いさ。それまで勉学に励め。」
「うっ!・・・が、頑張ります。」
「うむ。」
そして、しばらく談笑がしながら夜が更けていった。