サド王子 1
「あー、暇だ。暇だぞう。ルディ」
立派な執務室のいすの上でごろごろしていた主人から、バサリと書類を投げつけられた。
痛くは無いが、片付けに手間がかかる。
よりにもよって、何枚もある書類を投げるとは・・・狙っているに違いない。
「暇ではございません。こんなにも書類がたまっているのですから、書類にサインしてください。王子」
冷たい氷を心の中に思い描きながら、書類をそろえて王子に渡す。
「冷たいな」
王子と呼ばれた青年は目にかかった髪を手のひらですくい後ろへなでつけた。
髪は日の光を浴びて黄金にきらきらと輝いていた。
浮かべた笑顔もさわやかで100人見れば99人は褒め称えるであろう容姿。
その目は空のような青。
その目がルディに注がれる。
「昔はあんなにも可愛かったのになぁ」
似非である。
この笑顔にだまされてはいけない。
「可愛くなくて結構です」
「あー暇だ暇だ」
王子は書類を見る気がすっかり失せてしまったらしい。
書類がぐちゃぐちゃになるのもかまわず、両手を伸ばして机の上に伸びてしまう。
いったい誰がそれを片付けると思っているのか。
「うるさいですよ。だいたい貴方に関わって、かわいらしい性格でいるというのが難しいのです。あきらめてください」
「ワイマールの娘も飽きたしなぁ」
「もう飽きたのですか」
思わずあきれたようにルディも口にしてしまう。
「お願いですから、手を出すのは大貴族の御息女は控えてくださいよ。もしあちらが正式に申し込んできたら妃として迎えなければなりませんよ」
「妃はまだいやだなぁ」
このわがまま王子め。
「手を打っておいたほうがいいんですね」
「あー。うん。頼むわ。ちょっと優しげないい男見繕ってあげて」
ルディは頭を抱えてしまう。
この王子にかかるといつもこれだ。
顔の良さに惹かれて、多くの女性とつきあうが、一見甘い・・・その実、強烈に酷い仕打ちにたいていの女性は耐えられない。
「だってさぁ。ムチとか使うと泣くんだもの。しなる音だけでシクシク泣き出されて・・・たまらないよなぁ」
たまらないのはこちらです。
と、言いかけたのをルディは飲み込んだ。
いたいけな娘をムチ打つなんて、どんな酷い男ですか。
「ムチを使うのは、馬くらいにしてください」
「ええーっ。そんなのあたりまえすぎてつまらないじゃないか」
この王子は・・・。
思わず苦虫をかみつぶしたような表情になってしまう。
王子は人としては最低な部類であった。
「木馬とか乗せてみたいよねぇ」
木馬といえば普通の者が思いつくのは、単なる木の馬だが、この王子が思いつくのはろくでもないことばかりだ。
どうせ単なる木馬ではない。
顔だけはいいのに。
ああ、いや・・・これさえなければ頭もいいから・・・どんな国の王女でも引き受けられるのに。
「はぁ」とルディは王子に聞こえるようにあからさまなため息を吐いて、顔を手で覆った。
ルディは国王にも密命を受けていた。
この王子の、この性癖をなんとかするようにと。
隠せば良いものを、あまりにもオープンすぎるのである。
「なんだ、ルディ。ため息を吐くと幸せが逃げていくと言うぞ。苦労してるんだなぁ。どうせまたろくでもないことを父上が命じたんだろう」
気がついているのかいないのか見当違いのことを王子は言って、自らも「はぁ」とため息を吐いた。
「あー、ムチもろうそくも大丈夫な可愛い娘ってのはいないものかなぁ」
この王子・・・にして・・・国王様。
わたくしめはこの王子を改善させる前に、いつか手を下してしまうかもしれません。
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