イササカ先生「…と、言う話はどうでしょう?」
甚六
「僕は、そうだ。共犯、と言っていい」
カツオ
「共犯?」
甚六
「共犯。凶器は確かに、僕のシャープペンだ」
カツオ
「そして犯人はあなただ」
甚六
「だから、共犯だって言っただろ?犯人は、もう一人いるんだ」
カツオ
「……なに?」
甚六
「キミの、よく知っている人さ」
カツオ
「何……だと……」
甚六
「あの公園で、いつも遊んでいたのは、誰だい?
」
カツオ
「まさか!」
昨日の出来事とが脳裏によぎる。
甚六
「キミが、弟のように可愛がっている」
頭が、爆発しそうになる。
甚六
「タラちゃんさ」
カツオ
「……そんなの信じれるか!」
その時、僕の後ろに、誰かが立っている気配がした。
タラヲ
「やっぱり、昨日、殺しておくべきだったですねぇ〜」
カツオ
「タラちゃん!」
そこにいたのは、あのタラちゃんだった。
包帯の巻かれた包丁をすっと、とりだして、はらはらと包帯を解いた。
太陽の光が、その刀身を輝かせている。
タラヲ
「……そうです。花沢さんを殺したのは、僕です」
カツオ
「そんな……」
タラヲ
「一年。一年待ちました。そして、カツオ兄ちゃんが花沢さんを忘れてくれるようなら、生かしてあげようと思ってました」
カツオ
「……」
言葉も出ない。
タラヲ
「でも、カツオ兄ちゃんは花沢さんを忘れませんでしたねぇ。だから昨日は殺そうと思ったんです〜」
カツオ
「でも、でも、なんで!なんで花沢さんを!」
タラヲ
「女の人の体がどうなってるのか、知りたかっただけですぅ」
いつもどおりの顔で、タラちゃんは言う。
タラヲ
「最初はママに聞きました。でも、まだ早いって教えてくれなかったんです。その後は、ワカメ姉ちゃんに聞きました。
教えてくれませんでした」
カツオ
「……」
タラヲ
「ふてくされて公園に行きました。そしたら、花沢さんがいたんですぅ」
カツオ
「それで、花沢さんは……」
タラヲ
「でもよくわからなかったし騒がれちゃったから、甚六さんにもらったシャープペンで刺したんですぅ」
カツオ
「!」
甚六
「僕も……僕が何気なくあげたシャープペンが、あんなことに使われているなんて思いもしなかったんだ……」
頭を抱えて、座り込む甚六さん。
タラヲ
「抜けなくなったって、甚六さんに伝えにいったんですぅ。そしたら、すぐに逃げちゃいましたねぇ」
カツオ
「……っ」
震えたまま、立ち上がらない甚六さん。
つまり、そういうことなんだ。
甚六さんは、直接的な犯人ではない。
直接手を下して、直接花沢さんをあんな姿にしたのは。
カツオ
「タラちゃん……」
タラヲ
「僕だっていつまでも子供じゃないんですぅ。女の人に、興味だってありますぅ」
カツオ
「そんな………常気を逸している…っ!!」
握り締めた手から力が抜け。
ひざの力も抜ける。
タラヲ
「カツオ兄ちゃんが死ねば、ほんとのことを知ってるひとはいないですぅ」
ぎらり、と、刃が光る。
足に力は、入らない。
タラヲ
「しねっ!」
僕の首が飛んで、花沢さんと同じところにいくのもあと数秒。
そうか。タラちゃんだったのか。
犯人がわかった安堵以上の、その相手に対する驚きと、恐怖。
こんなやつと、同じ屋根の元ですごしていたのか。
…死ねない
ワカメ、姉さん、母さん。そしてついでにマスオさんの顔が浮かんだ。
このままではいけない。
でも、足に力が入らない。
だめだ。
カツオ
「っ!」
刃が、すぐそこまで迫ったその時。
中島
「磯野!!」
聞きなれた声。
そして飛びちる鮮血と、倒れる中島
タラヲ
「ちっ!」
カツオ
「な…中島ァ!!」
慌てて体を起こす。傷は、深い。血が、止まらない。
中島
「う……」
早川さん
「磯野君!」
駆けてくる早川さん。その後ろには、母さんだ。
タラヲ
「しまった……!」
タラヲ
「くそ!ですぅ!」
カツオ
「逃がすかよ!」
投げられる白球。50メートルほどの距離を、白球は一直線に走り、タラちゃんの包丁を弾いた。
タラヲ
「ですぅ!?」
早川さん
「逃がさないわよ!」
そして、その後ろからタラちゃんを抑える早川さん。
タラヲ
「く……う……」
観念したらしく、ひざをつく。
カツオ
「中島……っ!」
僕は中島に目を落とす。
カツオ
「母さん、救急車だ!」
中島
「……ああ、磯野。ごめんよ、僕、磯野に……」
カツオ
「いいんだ。僕のほうこそ……」
中島は、肩で息をしながらなんとか僕の方を見ている。
目は、死んでない。目は、そうだ。
カツオ
「もうすぐ、救急車がくる。頑張って!」
中島
「……ああ、頑張るよ。でも、どうだい?
僕のたった一人の…大切な親友。その親友を守って死ぬ……今までの、そう…まるで滑稽なピエロだった、僕の死に方としては、上出来じゃないか」
カツオ
「何を……」
中島
「……磯野……ごめん」
カツオ
「中島っ!」
ぐったりとする中島
到着する救急車。
タンカの上の中島。
遅すぎた救急車。
タンカの上の……
僕が覚えているのはそこまでだ。
気がつけば病院の、手術室の前に座っていた。
治療中のランプ。
隣で祈る母さん。早川さん。
カツオ
「……甚六さんは?」
早川さん
「タラちゃんといっしょに、警察に……」
カツオ
「そっか……」
僕は手術室を見やった。
まだ、出てくる様子はない。
カツオ
「少し、一人にさせて欲しい」
僕は席を立って、屋上に向かった。
既に夜だった。
夏でも、少しひんやりとした風が、僕の顔をなでた。
カツオ
「犯人、やっと見つけたってのにな……」
達成感というより、脱力感
脱力感というより、無力感
カツオ
「まさかタラちゃんだったとはなぁ……」
あの体で、よくも。あの花沢さんを。
カツオ
「男の欲の力は恐ろしい……僕ももしかしたらああなってしまうのかな」
でもとりあえず、終わったんだ。
この事件がどういう結果で終わるかはわからない。だけど、これで、一区切りだ
カツオ
「……一年。長かったなぁ……」
床に寝転んで、空を見た。高い空。
カツオ
「……もう、前に進まないとなぁ……」
どうなんだろう。
僕は本当に前に進めるのだろうか。
でも、頑張らなきゃな。
花沢さんのためにも、頑張らないとだな。
カツオ
「頑張ろう」
|