サブちゃん「ちわー三河屋でーす」
学校。
中島
「磯野っ」
カツオ
「おう。中島」
中島
「……昨日は」
カツオ
「ああ、ちゃんと行ったよ」
中島
「なぁ磯野、あのさ」
カツオ
「……なんだ?」
中島
「こんなこと言うのもあれだけど……僕らもう、花沢さんの事件は忘れるべきじゃないのかな……」
カツオ
「何をっ……」
中島
「だってさ!」
中島が、言葉を強くする。
中島
「僕らには、どうしようもないんだ!僕らイチ学生には、なんにも出来やしないんだよ!
警察だって手をこまねいているのに……」
カツオ
「……てめぇ」
右手に力が入り、気づいたときには。
中島
「ぐっ……」
中島を、殴っていた。
カツオ
「……あ」
早川さん
「磯野君!何してるの!」
カツオ
「……あ、ご、ごめん!中島!」
慌てて、地に頭をつけて謝る僕。
どうしてだ。殴る相手は、中島じゃないはずなのに。
中島
「……いや、いいさ。僕が悪かった。でもさ、磯野。いつまでもこうやって、うじうじ花沢さんのことを引きずのを、
花沢さんは望んでいると思うか?」
カツオ
「それは……」
中島
「前に進んで欲しい、と思ってるとは思わないか……?」
カツオ
「……ぐ」
そんなこと。
そんなこと。僕だってわかってるんだ。
僕はそのまま駆け出してしまった。
早川さん
「磯野君!」
早川さんが僕を呼ぶ。
僕は、止まらなかった。
――駅前――
気づいたら、駅前にいた。
カツオ
「……」
この街で、一番繁華なこの地域。
その騒音が、今の僕にはこのうえなく不快だった。
予備校職員
「あ、キミ!あの学校の生徒だよね!どう?キミもいい大学を目指してみない?」
空気を読んで欲しい。
そうは思っていても、半ば強引にパンフレットを渡された。シャープペンつきの、分厚い冊子。
カツオ
「……ん?」
このシャープペンに、見覚えがあった。
カツオ
「○○予備校……」
どこかで見たことがある。
思い出せ。そうだ。決して忘れてはいけないものだったはずだ。
思い出す。
そうだ。
これは。
カツオ
「花沢さんが殺されたときの……」
あのときのシャープペンと、同じものだ。
カツオ
「……あ」
予備校。
僕が中学三年生の時。近所で、予備校に通っていたのは誰だ?
浪人生なんて、そんな。
そうたくさんいるものじゃない。あんな免罪符を持ったニートなど、そうたくさんいては国が滅ぶ。
カツオ
「…・・・まさか」
そんな人、僕の知り合いの中には一人しかいない。
カツオ
「……!!」
気がついたら、走り出していた。
カツオ
「母さん!」
フネ
「カツオ?!どうしたの?!」
カツオ
「神戸学院大学って、どこだ?!」
フネ
「神戸学院……?どうして、あなた学校は?」
カツオ
「良いから!教えてよ!」
母さんはたじろいで、目をしばしばさせながら考える。
えっと、あ、そうだ。
フネ
「神戸学院って、甚六さんが行ってるとこじゃない?
そうそう、確かあそこは明石の……」
カツオ
「判った!」
証拠は、このペンだけ。
あってるかどうかなんて、そんな。
今、気にすべきことじゃない。
電車を乗り継いで。
知らない街まで。
手にはペン。こいつが、多分全てを語ってくれる。
カツオ
「甚六さん!」
甚六
「……カツオ君?」
日差しが強い、空の下。
目の前には甚六さん。
僕の息は切れ切れ。
甚六
「どうしたんだい?」
カツオ
「はぁっ……はぁっ……これを」
甚六
「……なんだい?これは。……あ」
僕が渡したシャープペンを、握る甚六さん。
カツオ
「それに、見覚えは?」
甚六
「……んん」
カツオ
「どうですか?」
甚六
「ないね」
カツオ
「……本当に?」
甚六
「本当さ」
さぁ、賭けだ。
カツオ
「甚六さんに、聞きたいことがあるんだ」
甚六
「何かな?僕、こう見えても忙しいんだ」
カツオ
「忙しい?んん。そうだろうね。これから逃げる準備だ」
甚六
「何をっ……!!」
判りやすい。
これだけで証拠になりそうじゃないか。
カツオ
「僕、甚六さんが花沢さんを殺したんじゃないかって、思ってるんだ」
僕は言い放った。
僕らの間に、一吹きの風。
青い葉っぱが宙を舞って、僕らの間に落ちる。
この、距離。
僕の、捜し求めていた人物との距離。
甚六
「……僕が、花沢さん……を?」
カツオ
「そうだ。甚六さんが、花沢さんを、殺した」
甚六
「なんで、何を証拠に。これかい?このペンが証拠、とでも言うのかい?」
カツオ
「前に、姉さんが言ってたんだ」
甚六
「何を?」
カツオ
「姉さんは、いつもあの道を通ってたんだ。そう、花沢さんが、殺されたあの公園のあるあの道」
甚六
「キミの姉さんが仕事?そんなの初めて聞いたよ」
カツオ
「朝早いからね。昔と違って、日中家にいるわけではない甚六さんが知ってなくても不思議じゃない」
甚六
「……」
カツオ
「姉さんは言ってた。甚六さんを見たって」
甚六
「……っ」
カツオ
「あの道で、甚六さんを見たって。あの日だけ。なんでだろうねって、言ってたんだ」
甚六
「たまたま、ということがある。そうだ、ちょっとコンビニに行ってたんだよ、あの日は」
カツオ
「……本当に?」
甚六
「そうさ!週刊誌を買いにいったんだ!」
カツオ
「もう夜遅かったよね?」
甚六
「買い忘れくらい、するだろ?」
カツオ
「そう。……甚六さんはコンビニに行った。そして、あの道を通った。そうなんだね?」
甚六
「そうだよ。なんなら、家に帰って雑誌を見せようか?残ってるかどうか判らないけど」
カツオ
「いや、これだけで十分だよ」
甚六
「……?」
カツオ
「だって、姉さんが甚六さんを見たっていうのは、嘘っぱちなんだから」
六
「!!」
カツオ
「甚六さんは、間違いなく、あの道を通っていたんだ」
甚六
「……」
カツオ
「こんな軽いひっかけに見事に引っかかるとはね……」
甚六
「……」
カツオ
「で、どうなのさ。甚六さん」
甚六
「……」
カツオ
「……甚六さん、法学部だったよね」
甚六
「……」
カツオ
「……二年かけてやっと学ぶことが出来たことを、裏切ってるかもしれないんだよね」
甚六
「……で」
カツオ
「……甚六さん。お願いです。本当のことを、言ってください」
視線が交錯する。
僕の目と、甚六さんの目と。
その視線が交じり合う、その数秒。
どれだけ長い時間に思えただろう。
僕の一年越しの答えが、そこにあるかもしれなくて。
僕は、胸の高鳴りが抑え切れなくて。
そして、そのながいながい時間の終わりに、ゆっくりと、甚六さんが口を開いた。
甚六
「本当のことを話そう」
カツオ
「……!」
賭けに、勝っ……た?
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