ヒマワリを憎む村
その村はヒマワリを燃やす風習があった。
仕事で夏休みが取れたので、僕は彼女の家に挨拶しに行った。彼女とは大学からの付き合いで、もう五年以上の関係だ。いつかは彼女と共に生きることを、と思っていた。
彼女の実家は山奥にある。
都心からいくつも県を超えて、何回も電車を乗り継がなければならない。
駅からさらに一時間ほどバスに揺られると、僕はやっと彼女が生まれた村に着いた。
人口が子供でも数えられそうなほどの小さな村だ。しかし、茅葺き屋根の家屋や水車小屋など日本の原風景がのぞける貴重な場所で、太陽が照りつける今の季節は、とくにすばらしい景色が広がっていた。
……はずだった。
しかし、村で最初に目にしたのは異様なものだった。
ヒマワリが燃やされていたのだ。
各々の庭で、何本ものヒマワリが積み重ねられ燃やされていた。
「私の村ってね。大昔は日照りがすごかったらしく、夏のこの時期とか太陽を憎んで憎んで仕方がなかったらしいんだよ。だから、こんな風習があるんだ」
僕が少し引き気味だったのを表情で悟ったのだろう。彼女が苦笑を浮かべながら説明してくれた。
確かに、ヒマワリを燃やすのを見て、怖いと感じはした。だが、どこの地方でも異質な習慣や伝統はあるものだ。慣れぬとはいえ、彼女を不用意に心配させてはいけない。僕はすぐに顔を作り、大丈夫と彼女の肩を抱いた。
彼女は僕と同じくらいの年なので、まだ二十台前半くらいだが、彼女の両親はけっこう歳をとっていた。どうやら姉が三人もいるらしく、彼女は一番末っ子なんだとか。(姉達はみんな都会に移り住み、お盆でさえあまり帰ってこないという)
彼女の両親は温かく僕を迎えてくれた。とても良い人たちだった。だから、このとき、祭りに誘われたときは、ご厚意だと思い、ありがたく受け取ってしまった。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
祭りは、夜の九時くらいに行われた。真夏の夜中なのに、セミの声は聞こえない。
燃やされていた。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死」
カゴに入れられたセミ、ヒマワリ、すいか、風鈴、浮き輪、水着、かき氷、トウモロコシ、麦わら帽子、サンダル、浴衣。
夏の風物詩とされるものが全て一カ所に集められて燃やされていた。村の神社に集まり、村人は燃やされている風物詩を眺めながら、ぶつぶつと、死ね死ねと呟いていた。
僕は、そばにいる彼女と彼女の両親を見てみた。
やっぱり、言っていた。