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 対テロ用アンドロイド Lapis Lazuliの戦い
Prolog 7

 砂漠を渡る風が戦がせる砂の乾いた音だけがBGM。
 1/fの自然な音を背景に不規則なアンドロイド達のアクチュエーターの動作音が不快な交響曲となって奏でられているだけだった。
 永遠に『静寂』が続くかと思われた時、不意に行動を開始したアンドロイドが居た。

 Lapis Lazuli。
 標的である『彼女』が最初に静寂を破ったのである。

22.砂を駆ける少女
「じゃ。行ってきます」
 Lapis Lazuliはラプラス・バタフライに片手を上げて挨拶すると、一気に砂丘を斜めに駆けおりた。
「フん。こっちの心配マでして……」
 少女型アンドロイド、ラプラス・バタフライはLapis Lazuliの行動を理解していた。
 敵達に向かって直線的に駆けおり、それを合図に敵達が一斉に発砲した場合、流れ弾は当然Lapis Lazuliの後ろに居るラプラス・バタフライに当たる事になる。
 そういう事態を回避するために斜めに砂丘を駆けおりたのはLapis Lazuliの危険予測&回避ロジックの演算結果。
 つまり、ラプラス・バタフライを「仲間」として演算した結果であった。
「ま、アタシも心配さセてもらうケど」
 ラプラスは上着の小さなポケットから『ある物』を取出し準備した。

 砂丘を駆けおりるLapis Lazuliの動きが、敵達に『行動』の選択と実行を決定させた。

 Lapis Lazuliの破壊。

 今はそれだけに演算を集中させている。
 移動位置を経時的に確認し、次の瞬間の位置を予測する。
 その位置に到達するタイミングでの弾道を計算し、到達予測時間での位置を再計算し直す。
 それを連続的に演算し続ける。確実に命中するタイミングを求めて。
 後は……トリガーを引くタイミングだけであった。

 乾ききった空気の中。
 Lapis Lazuliが駆抜ける音だけが響いている。
 まるで戦場に放たれた無邪気な天使。
 彼女に無数の弾丸が放たれる瞬間が訪れるまでの砂上の楽園。

 そして破壊の『時』……それは彼女が砂丘を駆けおりてこちらに近づくために越えるであろう手前の砂丘の頂上に達した瞬間。重力的にも空中に位置し、回避行動が不可能な瞬間が選ばれた。
 そして無限の瞬間が演算され……彼女の上半身が砂丘から現れ視認された『時』……総ての遠距離攻撃武器の砲弾が放たれた。

「はーはっくチゅん」
 取出した紙捻りにより発生したラプラス・バタフライのくしゃみは砲声と砲弾の爆発音にかき消され誰の耳にも届くことはない。

 ミサイル。ロケット弾。重機関砲弾。あらゆる種類の弾丸と砲弾と炸薬と爆薬がLapis Lazuliをめがけ殺到し……そして与えられた機能を全うして……爆発した。
 立上る爆煙。すさまじい衝撃波。一面を火の海に変えるナパームの炎壁。

 ……地獄のような時間が経過した後、Lapis Lazuliが越えようとしていた砂丘は砂塵と化し……砂漠を渡る黒き風となって跡形もなく消えていた。
 そして……次の瞬間からLapis Lazuliの消失を確認したアンドロイド達の無差別デスマッチが始まったのである。

 Lapis Lazuliの消失。
 それこそが本当の戦闘開始のゴングであった。

23.悪魔の知覚
 審査会場ではスクリーンに映しだされたLapis Lazuliの消失の瞬間に歓声が上がっていた。それまでは、小さなざわめきだけが会場のBGMだったが今は狂喜と歓喜の罵声と嬌声が満ちあふれていた。
 気の早い者はどの機種の放った弾丸が最初に致命的ダメージを与えたかを確認しようと高速撮影のフィルムの再生を要求した。また、ある者は我らの機種こそがLapis Lazuliを葬ったと喧伝に励んでいた。
 にわかダフ屋がLapis Lazuliを屠った機を駆けの対象に泡玉金を稼ごうとする。
 このコンペが始まってから……いや始まる前から、この会場のほとんど総ての人間がLapis Lazuliの滅壊を望んでいた。
 そして、『それ』が現実となった。
  いま喜ばずにいられるか。
  我らの機種こそ最高なる破壊用アンドロイド。
 あからさまな狂喜が会場の悍ましさを飾り上げていた。

 狂喜に噎ぶ会場の一角で数人の技術者が冷静な面持ちでスクリーンを注視していた。
 彼らが冷静な理由。それは彼らの機種がLapis Lazuliを屠った可能性が皆無であるからに他ならない。
 彼らがコンペに持ちこんだ機種、R-MiA07はRunning-Multi-Areaの語句からつけられたという名の由来からも明らかなように原子炉などの配管点検修理用ロボットの基本設計をベースに改造し創り上げたモノだった。
 蛇の形態を持つロボットをスケールアップし、数十体束ねて知覚センサーと論理演算部を付加した機体。無数の蛇が絡まったような中に女性の上半身を模した演算部を押し込んだ容姿は神話に出てくる半獣半人の怪物に見えた。
 「ラミア」と呼ばれる機体は性能的にはかなり良く、これまでのテストで良好な成果を得ていたのだが……攻撃力に劣っていた。
 何故ならば……主な武器は鞭。
 蛇のような脚部と腕部を相手に叩きつける。それだけの機能を持った奇想な機種。
 人間には有効かもしれないが、対アンドロイド戦という点ではかなり劣っていた。
「ま、たった3ヶ月で作ったんだから……今は出番が回ってこなくても仕方あるまい」
 彼らの中、チーフらしき技術者が呟く。
 事実、彼らは会社の広報活動として急にコンペへの参加を命じられたのが、僅か10週間前。
 それでも、なんとか様々な試験で平均点以上のポイントを獲得する機体を創り上げたのは奇跡としかいいようがなかった。
 そして、創り上げた彼ら自身が思いも寄らなかった性能……砂に隠れ移動する技能……を有していた。
 もっとも、それは性能試験をした別の砂漠での実地テストで偶然に発見した技能だったのだが。
 今はその技能をいかして無差別な虐殺(?)に参加せずに砂の中に隠れている。
 ラミア達の位置は彼らが持ちこんだノート型PCに逐次映し出されている。
 もちろん、『指示する』事はできない。
 アンドロイドは自立行動する。
 それが基本原則である以上、遠隔操作で行動指示することはその機体がアンドロイドではない事を証明する事に他ならない。
 しかし、『今後の開発のため、データを収集する』事は許されていた。
「……ラミアAとBが移動しています」
「ん? 何処にだ?」
「『踊り子』が破壊されたあたり……何か『異常』を感知したようです」
 嬉々としてスクリーンを見つめつづける若きエンジニアをチーフらしき男は無表情な顔を眺めていた。
 何故ならば……ラミアを創り上げたのは殆どがこの若きエンジニアの仕事。
 チーフである彼は書類上の責任者として選ばれたに過ぎなかったからである。

 嫉妬。
 全てはその一言に尽きた。

 このコンペがいかなる形に終わろうと、此処までアンドロイドを創り上げたという賛美はこの男に集中する。
(そして、それを眺めていかなければならないのか……この変人の出世を)
 チーフは目の前の技術者が……はっきり言って嫌いだった。
 アンドロイドといえど、実態はロボット。単なる『機械』に過ぎない。
 それがチーフであるこの男の感想。いや、信念だった。
 それをこの若い男はまるでペットに対するかのような愛情をもって接して論理演算AI(人工頭脳)を完璧なまでに鍛え上げた。
 そして……その行為と成果こそがチーフの嫌悪する理由となっていた。
(機械は機械だ。黙って主人の言うことだけを遂行していればいいんだ)
 彼の思う通りのことをラミアは実行しているに過ぎない。
 その事実は認識している。認識しているからこそ、チーフは若きエンジニアと奇跡的な成果であるラミアを嫌っていたのである。
 ……矛盾が嫉妬を掻き立てていた。
「AとB、サポートとしてCが追尾しています」
「……DとEは? 故障か?」
「いえ。Dは後方防御に。Eは何かを探査して『思考』しているようです」
 彼らが創り上げ、試験に持込んだラミアは5体。

 A〜Eのサブネームを与えられ、それに相応しい役割を自ら演じていた。
 Aはattack。つまりは先制攻撃を。
 Bはbomber。つまりは追加の無差別攻撃を。
 Cはcritical。つまりは残存する敵の殲滅を。
 Dはdefence。つまりは攻撃に専任する上記3体の他の敵からの防御を。
 Eはear。つまりは敵の探知と攻撃方法の画策を。

 全ては整備士や若きエンジニアのコジツケの名称だったがラミア達はその名称に恥じない動きをした。
 いや、むしろ、それぞれの名称の意義を全うするかのような動きを常に自ら選択したのである。
 そして、その事は若きエンジニアを喜ばせ、チーフの憎悪を深くする結果となっていたのだが。
 特にラミアEはラミア達の司令塔である事から(エース)−Eとして扱われ、別名 an-earl。つまり『伯爵夫人』として呼ばれて整備士達からも愛される機体となっていた。
 実際、その別称はラミアEの麗らかさを思わせるゆったりとし、常に人に配慮した動作ゆえのものでもあった。
「ラミアEの報告。あの砂漠の下に広大な空間があります。『踊り子』、つまりはLapis Lazuliが其処に居る可能性があります!」
「なにぃ!?」
 チーフの声を単なる驚きと仲間たちは判断した。
 しかし……それがチーフである彼とラミア達の運命を決する決断の声だということは……誰も知る由もなかった。
 ただ一人、この舞台の全ての総合演出者を除いて。

「……よし。ラミアが『踊り子』、Lapis Lazuliを破壊する『栄光』のアンドロイドになる目が出てきた。……ふふふ。これでやっと出番が巡って来たということだ……ふふふ……はっはっはっははははは」

 運命の悪魔は静かに、そしてはっきりと脚本の存在を男に意識させ………男は歓喜の声で笑い始めた。
 その脚本の中に自分のラストシーンが描かれているとも知らずに。

24.地の底
「……え〜と。ここは?」
 衝撃によるリセットから目覚めたLapis Lazuliの目に映ったのは……長い円筒の果ての青い空。空と筒の境目から砂が零れ落ちてくる。
 壁は鋼鉄製。所々に何かがついていたらしい溶接の痕。高い所に幾つかの扉や傷痕。何かが引っかかれたような傷は新しい。
 Lapis Lazuliは円筒の底で砂に半分埋もれながら、仰向けに寝ていた。
 皮膚……防弾シリコンに埋没していた砂粒が表面に浮き出て、ぽろぽろと落ちていく。凄まじい砂と風の衝撃を受けた証拠だった。
「……何が起こったのかというと……落ちたんだよね。確か……」
 勢いよく走っていた。
 敵達が発射したロケット弾の軌跡の計算も済んでいた。
 躱す自信は? 無かった。
 いや、確率的に100%では無かったが、蹴り上げた砂粒で第一波のロケット弾を誘爆させ、そのまま砂に隠れる。
 速度は十分に出ていたはずだ。
「軍曹さんがあの速度でアレだけのクレーターを作って埋没したんだから……潜れたはずだけど……コレは違うよね?」
 この試験の参加直前に見せたSNOW WHITEの斜突クレーター。
 アレを造り上げることができたら……ほとんどの砲弾を躱すことができる……とLapis Lazuliは計算したのである。
 全てが躱せる確率は……50パーセント以下であったのだが。

 走りながら、砂を蹴上げようとした瞬間、周りから砂が噴出した。
「そのまま、自由落下に近い加速度で落下して……途中から、減速した。減速した加速度からして……空気バネ?」
 「気絶」するまでの記憶をもとに状況を解析してみる。が、すぐには結論がでない。
 立ち上がり、砂を蹴り掃く。
 数回の蹴りで露出したのは……鉄の板。
(これは……大陸間弾道弾サイロの射出口を閉じていた蓋……か。ここは廃棄された射出サイロなんだ……)
 周りの壁を捜査して、円筒の構成と直径、推定される建造年月日。そして使われなくなってからの年数を推測して、過去の事象を検索した結果だった。
「………アルファ連邦政府は通常軍隊で永久に平和を維持することが可能と判断し、アルファ連邦が全世界に向けて設置していた熱核弾頭弾ミサイル……大陸間弾道弾を全面廃棄する事を発表した。万国平和連合会の監査が終了したモノは射出口の爆噴式防砂蓋を撤去。40mmの厚さの鉄板を溶接され永久に使用不可とする。なお、アルファ連邦政府は地下空間を防災基地や学術研究装置の設置空間として利用する予定と発表。アルファタイムス9月19日朝刊より……だったよね……24年前の新聞……」
 コンペに参加するにあたって、事前知識としてF.E.D.氏の役に立つかもしれないと記憶していた新聞の知識が、今は自分へ起った事象の確認に役に立っていた。
「……という事は、どこかに地上へ出る通路への扉が……誰っ?」

 不意に感じた殺気。
 いや、センサーが感じたのは赤外線測距レーザー。

 そのレーザーを発したのは……地上と筒の境目から覗いている触手。
「……蛇? 蛇型アンドロイド……?」
 姿を確認した直後、参加アンドロイドのリストから該当機種を検索する。
「最高確率該当機種……R-MiA07。multi-area-runningを特徴とする。重量クラス。対アンドロイド戦闘武器は触手の鞭、つまり白兵戦専用機種。……いけない!」
 狭い筒の中。まともに戦ったらば勝ち目はない。しかも、白兵戦では優位とされる位置、上空に相手がいる。
 周りを見渡し扉を捜す。
 しかし、今の床は長年に渡って落ち込んだ砂の上に落下した鉄の蓋の上。
 通路として使われていたであろう扉は、鉄蓋の下、砂の中に隠れていた。
 その様子を2体のR-MiA07、ラミア達は筒の縁から本体……女性の上半身を模した部位を出してこちらを確認している。
 光の加減でその頭部は暗く見えない。が、不意に差し込んだ光がその口元を照らし……ニヤリと笑ったようにみえた次の瞬間、ラミア達はするりと筒の中に身を踊らせた。
 直径十数mの筒の壁面に無数の触手を突っ張り、押さえつけてゆっくりとしかし確実に距離を縮めて降りてくる。
「銃を……あ……」
 今、ホルダーに装備しているのは短刀だけ。銃は背負ったケースの中。
 取出す時間的余裕は……無かった。

 これはニフティのSFフォーラム内にあった「マッドSF噴飯高座」より派生した拙作です。

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