挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
水鏡に咲く白き花 作者:水城ゆま

第一章 『 一蓮托生 』

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

8/85

「 睡る花のような少女 」(五)

 

外が薄明りに照らされ始めた頃、何時(いつ)の間にか眠ってしまったらしいと少女は気づく。
 
助けて貰ったお礼を言おうと、日葵(ひまり)と一緒に白夜(ハクヤ)の帰りを待っていた(はず)なのだが彼女の姿も見当たらなかった。


( 自分のお(うち)に帰られたのかしら…? 今は真夜中…? )


先程と違い、体が軽く感じたので 寝台から立ち上がってみると
少し、ふらついたが 歩けるまでに回復していた。
 
嬉しさから明るい気分で 部屋の扉を(ひら)いてみたが、
目の前にある通路は真っ暗で、塀のような壁にある透かし―――窓のような隙間から差し込む薄明りだけが頼りだった。

何処(どこ)如何(どう)歩いて行けば良いのか分からず、
抑々(そもそも)秋陽(しゅうよう)の居場所も分からないので少女は (しばら)()の場に立ち尽くす。


(  鳥が鳴いてる…――― 朝なのね。  )


寝ているのなら起こしたく無いので、秋陽(しゅうよう)日葵(ひまり)を探す事は一旦やめる事にして
()()えず、目の前の通路にあった窓ぐらいの大きさの隙間から外を覗き込む。

――― 隙間の向こうには、ちょうど 一人の男と 一頭の馬が立っていた。


声をかければ聞こえるであろう距離だったが
()の男は何かの準備をしている様子だったので邪魔をしたく無く、
知らない人物だったので 少女はその様子を 静かに見守る事にした。


( まだ薄暗いのに、早起きして何をしているのかしら? )


(しばら)く眺めていると、男が少女のほうを振り返り 二人は目が合った ――― 。


「 あ… おはよう。」

少しだけ 驚いた様子で、白夜(ハクヤ)は少女に挨拶をした。
少女は気づいていないが、少女が見つけた男性は白夜(ハクヤ)だったのだ。
 

白夜(ハクヤ)のほうは、紅炎(コウエン)の様子が いつもと違うのを 不審に思って振り返ったのだが、
少女がいるとは思わなかったので怪訝(けげん)な顔をしていた。

( ……全く気配を感じなかったのは、俺の修行不足なんだろうか? )
 
 
 
「 おはよう ――― 勝手に見ててごめんなさい。邪魔したらいけないと思って……
  あなたは ここに住んでる(かた)なのですか? 」

「 そう、白夜(ハクヤ)。 ここの診療所の秋陽(しゅうよう)の息子。」


白夜(ハクヤ)の返事は素っ気なかったが、噂の恩人と (ようや)く会えたと(わか)り、少女の胸は高鳴った ――― 。

「 あなたが白夜(ハクヤ)!? あのっ、あの私は ――― ! 」


――― 名乗ろうとしたが、自分が名前を思い出せない事を 少女は思い出す。
これから、人と会う度に こんな事を繰り返さなければならないのだろうかと一抹の不安も感じた。

「 大丈夫、聞いてるよ。記憶が無いんだってね? 」

「 はい…。 」

紅炎(コウエン)の世話が一通り終わると、白夜(ハクヤ)は少女のほうへと歩き始めた。
遠目には気づかなかったが、自分のほうへ近づいて来た白夜(ハクヤ)の姿が
見上げるほどに背が高く、細く見えたが筋肉がついた自分より大きな身体だと気づいた少女は
白夜(ハクヤ)が近づくにつれて、その威圧感に緊張し始めていた。


「 あの… あなたが助けてくれたと聞きました。だから…ありがとうございます。 」
――― 少女は白夜(ハクヤ)に深々と頭を下げた。


「 うん、お礼は受け取るけど頭は下げなくてもいいよ? 顔をあげて?
  助けたと言うか、たまたま 通りがかったんだ。
  父が医者だから (うち)に連れて来るのがいいかと思っただけで
  俺は何も………――― あまり何もしてはいないよ? 」

何もしていないと言いかけて、自分が彼女に何をしたのか白夜(ハクヤ)はハッキリと思い出した。
自分が少女に施した処置について切り出すべきか迷ったが
会って()ぐに ()れを伝えるのもどうかと思い、なかなか切り出せずにいた。
何より 見知らぬ少女と結婚する気が無いので、できれば その話題は避けたい。

( この()、どこまで聞いているんだろう……?
  とりあえず、謝ったほうが良いのか? う~ん…… どうすれば…… )


空に明るさが増して、お互いの顔がわかる程度になると
顔をあげた少女の照れたような表情と仕草が愛らしく見え始め、
白夜(ハクヤ)満更(まんざら)では無い気持ちになるが、益々(ますます) 傷つけない(ため)には どう話せば良いのかと頭を抱え込んだ。
 
 
「 あの… 本当は昨日 お礼が言えたらって思っていたのですけど…… 」

「 ああ、ごめん。待っててくれたんだってね? 」

「 いいえ!謝らないでください…!私がいつの間にか 眠ってしまって… 」

――― 言いながら、少女は(うつむ)いた。
薄明りのせいなのか、記憶喪失のせいなのか・・・・
儚げでもある彼女の様子に白夜(ハクヤ)も 自分が彼女の肌を見て、触れて
口づけをした事を 無効にしようと考えている事に少し罪悪感を覚え始めていた。

( 悪い()では無さそうだ…… 弱ったな……。 )


「 あの、遅くに帰られたみたいなのに早起きですね。もうお仕事に向かわれるのですか? 」
――― 少女は紅炎(コウエン)のほうを見ながら尋ねた。


「 いや、ちょっと 散歩がてら海に行こうかなと 」と、白夜(ハクヤ)は剣を隠すかのように(さや)の部分に手をかけた。
本当は、いつものように鍛練(たんれん)しに出かける所なのだ。



「 海… ――― 私がいた所…ですか? 」
 
はにかんだような笑顔を見せていた少女が、暗い表情に変わったので白夜(ハクヤ)は自分が失言したのだと気づく。
  
「 ごめん、嫌なことを思い出させてしまったようだね……? 」
  
「 いいえ… 海にいた事も覚えていないから大丈夫です。
  ただ、どうして 私は海にいたのかと気になっていて…… 」
 
そう言いながら、また 少女が俯いてしまったので 
白夜(ハクヤ)は " 良くない " と思いつつも、思ったままを口にする事にした。


「 一緒に来る? 何か思い出すかも? 」

「 え? 」

「 待ってて、今 そっちに行くから! 」

「 あ…白夜(ハクヤ)さん!待…――― 」

返事をする前に、白夜(ハクヤ)が行ってしまったが、少女は自分が倒れていた場所に行きたいと強く思い始めていた。
彼が言う通り、何か思い出せるかもしれない ――― 。








「 はい ――― 外は寒いから これを着て。 」

「 !? 」

ぼんやりしている間に、白夜(ハクヤ)()ぐ近くに来ていたので少女は驚いた。
隙間()越しでも威圧感があった白夜の体格の良さは、小柄の彼女にとっては間近で見ると
殊更(ことさら)に大きく感じ、勝てる見込みは無くても身構えずにはいられない。

手渡された羽織着を どう着たら良いのか(わか)らずに立ち尽くしていると
それに気づいた白夜(ハクヤ)が 少女の手から(ころも)を取り、それを広げて少女を包み込んだ。

「 …… ありがとうございます。 」

「 どういたしまして ――― 」と、華やかさのある白夜(ハクヤ)が 初めて軽く微笑んだせいか
少女は 何となく恥ずかしくなり、頬を赤く染めて(うつむ)いた。
彼女の その様子が愛らしく思え、白夜(ハクヤ)は自分に妹ができたような気分になり、少しだけ胸を弾ませる。

( 朝の鍛えは できそうにないけど… まぁ、いっか ――― 。 )

最初の頃より 少女の事を前向きに受け入れつつあったが、
助けた時の状況を どう切り出すべきかで 再び 頭を抱え込み始める ――― 。
慎重に言葉を選んで話さないと、軽蔑されかねない・・・・。

 
「 顔とか洗う? あっちに水があるから、ついてきて。 」

「 あ… ――― はい…! 」

照れもあってか、白夜(ハクヤ)は無意識に少女に背を向けて歩き出した。
白夜(ハクヤ)の後ろを歩きながら、少女は 白夜(ハクヤ)の背中をじっと見つめる。

( 私より 大きくて、ちょっと怖いけど…… 優しい(かた)のようね。まるで……

!? ――― ま る で(・ ・ ・)………―――? )


少女は 一瞬、白夜(ハクヤ)が誰かに似ているような気がしたのだが
頭の中が霧が かかっているかのように、()れが誰の事だったのかは思い出せない。

救いを求めるかのような表情で、もう一度 白夜(ハクヤ)の背中を見つめたが
考えても考えても 何も思い出す事は無かった――― 。






+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ