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水鏡に咲く白き花 作者:水城ゆま

第三章『 泥中之蓮 』

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「 蓮華の花守 - 予兆 」(九)

 
 
――― 翌朝 ―――


睡蓮(スイレン)は女官仲間に夜間の話をしてみるが、皆 口々に " 自分では無い " と述べ、職務を続けた。

「 きっと、警備の者よ ――― あなた達 怖がりなのね? 」と、睡蓮(スイレン)の話を聞いた花蓮(カレン)女王が湯船の中でクスッと笑みを浮かべたかと思いきや「 それよりも、遂に明日ね……嫌だわ…大嵐でも来ないかしら? 」と、朝から早々に表情を曇らせた ――― 。

「 でも、陛下……いつかはお世継ぎを御産みになりません事には ――― 」

紅魚(ホンユイ)が 敢えて、少々 突っ込んだ言葉を掛けると女王は(しか)めた顔を(うつむ)かせたまま ()の後、女官達に口を開く事は無かった。



「 良い? 睡蓮(スイレン) ――― ライル様が良さそうな方なら、今回の縁談を必ず成功させる為にあなたも頑張るのよ? 」

湯殿の後片付けをしながら、紅魚(ホンユイ)睡蓮(スイレン)に念を押す様に強い口調で告げる。
彼女や珠鱗(しゅりん) ――― ある程度 歳を重ねている臣下達は、リエン国に必要なのは次期国王と考えており、女王付きの女官と言えども、()ればかりは女王の意思を優先する事ばかりは出来ないと思っている ――― 。

「 はい…! ――― そう言えば、ロータス国って、どんな所なのですか? 」

「 リエンと違って熱いとは聞くかな? 地面とか渇いてるらしいよ? 」と、答えた緋鮒(ひぶな)の言葉に睡蓮(スイレン)は " 渇いている地面 " とは、どの様な状態なのだろうかと関心を寄せた ――― 。

( ロータス国の記憶も私には無いみたいね…――― )




三日目の今日は、宮中全体が慌ただしい雰囲気に包まれており、花蓮女王の機嫌も 余り良いとは言えず、睡蓮(スイレン)も休憩の時間まで何かを考える様な暇も無く ――― 無心で自分の出来る事に務めた。

「 今日は人少ないね~? 」と、東天光(トウテンコウ)が緑色のお茶を飲みながら食堂の円卓に座る顔ぶれを眼鏡越しに眺める。
自分以外には、睡蓮(スイレン)白夜(ハクヤ)日葵(ひまり)の三名しか座っていない ――― 。


日葵(ひまり)、帰らなかったんだね? 」白夜が日葵に問うと、日葵は笑顔で「 王子様も気になるし、睡蓮(スイレン)や先生も心配だからね! 」と橙色の異国の飲み物を口にした ――― 既に二杯目である。

「 父さんは? ――― 帰ったの? 」

「 うん!(しゅん)ちゃんと朝から診療所に帰ったよ ――― でも、後で帰って来るって言ってたから夜には戻ると思うよ? 」


睡蓮(スイレン)白夜(ハクヤ)に昨夜の足音についての女官達と女王の話をすると、白夜は「 そう…――― 警備の者か。 」と、腑に落ちない様子で返事をした。

「 足音って? 」 ――― 訊ねて来た東天光(トウテンコウ)に、睡蓮と白夜の二人が昨夜の出来事を話すと、東天光は怪訝(けげん)とした表情で黙り込み、日葵(ひまり)は「 " 何とか様 " じゃ無いのかい!? 」と迷わずに晦冥(カイメイ)を疑った。

「 いや、晦冥 様なら気付くか…――― あの人は、中途半端に気配を残すような事はしないような気がする。 」と白夜(ハクヤ)も眉を(ひそ)めると、()ぐに何時(いつ)もの穏やかな表情に戻り「 そう言えば、桔梗(ききょう)は? ――― 元気にしてる…? 」と、日葵(ひまり)に訊ねた。

睡蓮(スイレン)の前で初めて白夜(ハクヤ)桔梗(ききょう)の事を(たず)ねて来たので、色恋の話が大好物の日葵(ひまり)()(まで)と何かが変わっている事に瞬時に気付いたが、今日の所は突っ込む事は止める事にした。


「 そうそう、睡蓮(スイレン)ちゃん ――― 後で、医院の人達が花蓮様の所に向かうと思うからよろしくね? ――― あ!あたしは行かないけどね。 」

()東天光(トウテンコウ)の言葉通り、睡蓮(スイレン)が女王の私室に戻ると小規模ながらも宮中の医者が列を作って佇んでいた ――― 。

「 あの…これは? 」圧倒された睡蓮(スイレン)が恐る恐る尋ねると、蝶美(チョウビ)が「 女王さまの体調の確認だよ♪ 歯とか肌とか血液とか、ぜ~んぶ 診るんだよ ――― スゴイよね? 」と明るい笑顔で答える。
良く見たら、姫鷹(ヒメダカ)の姿も()ったので睡蓮(スイレン)は彼女に微笑むと、姫鷹も片目を閉じて睡蓮に微笑んだ。


長時間、医者と過ごした花蓮(カレン)女王の苛立ちと疲れが最高潮に達した頃 ――― 夕刻の湯浴みの時間になる。
明日は人前に出るので、花蓮(カレン)女王は()(まで)以上に自身の脚に磨きをかけねばと考えており、()(まで)と同じ様に 脚の手入れを蝶美(チョウビ)に任せていた ――― 。

「 女王さま、この後 爪に装飾もしましょうね! 」

蝶美(チョウビ)の言葉に()(まで)と同じ様に花蓮(カレン)女王は無言で頷くと、睡蓮(スイレン)のほうを見て微笑んだ。

( ? ――― 女王様がこちらを見てる……? )

睡蓮(スイレン)が微笑み返すと、女王は今度は目をつり上がらせて睨むような瞳で見つめ返して来た ――― 。
()の燃え上がる様な女王の瞳が何を意味するのか睡蓮(スイレン)には解らなかったが、睡蓮は女王の瞳 ――― 視察の時に感じた様な()(まで)とは違う雰囲気の彼女に微かな恐れを感じていた。


湯浴みを終え ――― 女王の着替えの手伝いが終わると、女官達は()(まで)と同じ様に蝶美(チョウビ)に女王を任せて、二人の背後で 明日からの日程の確認を行い始めた。
()(まで)と同じ様に、花蓮(カレン)女王は自身の鏡台の鏡に映る睡蓮(スイレン)の姿を見ている ――― 。



「 見て!睡蓮(スイレン) ――― 綺麗でしょう!? 」

蝶美(チョウビ)による手足の爪の装飾が終わると、花蓮女王は いの一番 ――― 真っ先に睡蓮の名を呼び、自身の手 ――― 特に両脚を嬉しそうな笑顔で見せた。

「 はい…!とても…――― とても、綺麗です! 」

微笑みながらの睡蓮(スイレン)の返答に満足した花蓮(カレン)女王は、再び キッとした表情に変わり、紅魚(ホンユイ)のほうを見つめると「 紅魚(ホンユイ)、あなたは 今日は まだ 帰らないで! ――― どうせ、夫も子供も居ないのだから暇でしょう? 」と、嘲笑う表情で紅魚を見つめた。


花蓮(カレン)女王の()の言葉に棘があった事は、紅魚(ホンユイ) ――― そして、他の女官達も()ぐに気付いたが " 女王 " 相手に 何処迄(どこまで) 意見して良いのか判らず、全員が固唾(かたず)を呑む様に各々(おのおの)の出方を(うかが)う ――― 。

睡蓮(スイレン)は " 言葉に棘がある " と断定するまでには至っていないが、女王が紅魚(ホンユイ)に冷た気に言葉を掛けた事には気が付いており ――― 湯殿での瞳と重なり、女王の様子が()(まで)とは何かが違う様な気がしていた。


「 ええ、(おっしゃ)る通り暇ですので何なりと ――― 」
" 女王は今朝の自分の言葉を根に持っている " と考えた紅魚(ホンユイ)は、図らずも()の瞬間から花蓮(カレン)女王の母親役を買って出る事となる。


顔色ひとつ変えない紅魚(ホンユイ)花蓮(カレン)女王は不満そうに見つめると、「 蝶美(チョウビ)、いつもありがとう…! 皆はもう休んで? 明日はよろしくね。 」と、()(まで)とは違い、女官達に初めて(ねぎら)いの声を掛けた。

女王の言葉を素直に受け取った蝶美(チョウビ)()(まで)を知らない睡蓮(スイレン)以外の女官達 ――― 紅魚(ホンユイ)珠鱗(しゅりん)緋鮒(ひぶな) の三名は、女王の雰囲気が以前とは違う事を感じ取ってはいたが、不敬罪になる可能性を恐れ ――― 女王の部屋を離れても女王の変化について話題にする者は誰ひとりいなかった。

――― と、言うより 、各々は明日からの見合いの準備で雑談をする余裕など無かったのだ。


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