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水鏡に咲く白き花 作者:水城ゆま

第三章『 泥中之蓮 』

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「 睡蓮の記憶と花蓮の記憶 」

 
「 ――― と、云う訳で御二人は夫婦も同然なんですよ。 」

「 それ マジなの!? 睡蓮(スイレン)、やるぅ~! 」

「 おい、デタラメを教えるな! 」

蝶美(チョウビ)に『 一緒に住んでいる理由 』を聞かれ、瞳をぱちぱちとさせて言葉を失った白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)の代わりにテキトーに答えた蒼狼(せいろう)が案の定、白夜(ハクヤ)に怒られる。
四名は宮廷にある臣下達が利用する食堂で同じ円卓の席に座って昼食をとっている所だ。


蝶美(チョウビ)は、女王の着替えに関する仕事を中心としているので、他の女官達より睡蓮(スイレン)の面倒を見る時間がある ――― と、言うより、彼女は自身と ニ・三歳程度しか歳の変わらない睡蓮(スイレン)の事を " 新しく出来た友達 " と認識しており、単に 仲良くしようと思ってるだけだ。

出鱈目(デタラメ)じゃ無いでしょう!? 海の話しますよ!? ――― 痛っ!!」

白夜(ハクヤ)蒼狼(せいろう)を軽く小突くと、睡蓮(スイレン)のほうを見た ――― 赤くなった顔を両手で覆って(うつむ)いてしまっている。
( ――― だと、思った睡蓮(スイレン)! まさか、俺の事をまた避けないだろうな…… )

白夜(ハクヤ)が心配そうに睡蓮(スイレン)を見つめていると、彼女が「 ……白夜(ハクヤ)さんには桔梗(ききょう)さんがいますものね? 」と困った様に顔を上げたので白夜は瞬時に凍り付いた ――― 。

睡蓮(スイレン)…… やっぱり、あの時 聞いてたのか… ――― )

桔梗(ききょう)さんって? 」 ――― 蝶美(チョウビ)蒼狼(せいろう)が声を揃える。

「 この髪飾りの持ち主です。 」

「 そうなんだ!? ――― アタシも会ってみたいなぁ…! その人、オシャレでしょ!? 」

白夜(ハクヤ)さん……後で説明してもらいますよ? 」と、女性の事に関しては白夜(ハクヤ)銀龍(ぎんりゅう)と並ぶ逸材と認識した蒼狼(せいろう)は、呆れ顔で呟く様に白夜にそう告げた。
白夜と銀龍じゃ無かったら、彼は剣を抜いて二人を成敗している所だろう。


「 ねぇねぇ、二人は仕事どうだったの? 慣れた? 」
沈黙している睡蓮(スイレン)白夜(ハクヤ)の二人に全く気付いていない蝶美(チョウビ)と、気付いて、少し責任を感じている蒼狼(せいろう)が会話を続ける。

「 ……慣れるも慣れないも突っ立ってるだけなんで ――― (ところ)で、何で通路にあんなに鏡があるんでしょう? 」

「 あぁー…アレかぁ。こないだからだよ? 模様替えかなぁ? キレイだよね! 」

花蓮(カレン)様の御部屋には、晦冥(カイメイ)様がいらっしゃる事はあるんですか? 」

「 あるある! て言うか、女王さまのお部屋の近くに晦冥(カイメイ)さまのお部屋もあるよ? 」

「 えっ!? あそこ 王族の方々の居住棟じゃ ――― ? 」

「 ? ――― よくわかんないけど、晦冥(カイメイ)さまが使ってるお部屋があるのはホントだよ? 」



「 仕事部屋か何かでしょうか? 」蒼狼(せいろう)が深刻な表情で白夜(ハクヤ)と顔を見合わせて小声で話し始めるが、白夜(ハクヤ)のほうは小声で話す前から 桔梗(ききょう)睡蓮(スイレン)の事で深刻そうな顔をしている。

睡蓮(スイレン)、どしたの? それマズかった? 」――― 食が進んでいない様子の睡蓮(スイレン)を見て、蝶美(チョウビ)が心配する。

「 いいえ…! そんな事は…… 」

睡蓮は、単に海で助けて貰った話を思い出し ――― ついでに、夢の中の白装束の男の事も思い出して、隣に座っている白夜(ハクヤ)(そば)から早急に逃げ出したいだけである。
彼女は " 晦冥(カイメイ)も女王の部屋を出入りする事がある " ――― と、いう自身にとって重要な話を聞き逃してしまっている様だ。

「 ここ、こないだから料理長さんが変わっちゃったらしいんだよねぇ? ――― アタシも前の味のほうが好きだったんだけどさぁ…… 」





―――――― 酉の中刻(十八時頃)

紅の空に蒼が混ざり始めた夕刻、睡蓮(スイレン) ――― 女官達は、女王の湯浴みと着替えの手伝いで()の日の仕事は完遂となる。
女官長の珠鱗(しゅりん)は夜間も仕えなければならず、現在は見合いの準備もあるので帰れない者もいるが睡蓮(スイレン)の初仕事は間も無く完遂である。


「 ……睡蓮(スイレン) ――― ここでのお仕事はどうだった? ちゃんと出来そう? 」
自身の身体よりも大きく華美な鏡台の椅子に座り、蝶美(チョウビ)に櫛で髪を()かせながら花蓮(カレン)睡蓮(スイレン)に話しかける。

「 はい…!何とか ――― 頑張ります! 」

睡蓮(スイレン)の返事に花蓮(カレン)は楽しそうに「 ふふふ……! 」と、花の様に笑いながら続ける「 あなたはお(うち)に帰るんだったっけ? ずっとお家から通うつもりなの? 」

「 はい…! 」

花蓮(カレン)は何も言わず、目の前の鏡台の鏡に映る 自分の背後に立っている睡蓮(スイレン)の姿をじっと見つめた。


睡蓮(スイレン)さんは、ご自分の恩人 ――― 知人の武官の(かた)のお家に住んでいらっしゃるのですよ! 」と、珠鱗(しゅりん)が睡蓮と花蓮の両方を見ながら微笑む。

「 知人の武官……? 」 ――― 花蓮(カレン)は、思わず眉を(ひそ)めた。
彼女は、白夜(ハクヤ)に関する記憶を湯浴みで洗い流したかの様に綺麗サッパリ忘れてしまっており、()れが誰の事なのか本気で見当もつかずにいた。

「 そうそう!白夜(ハクヤ)さんって言って、今日から晦冥(カイメイ)さまに仕えてるそうですから女王さまも そのうち会えますよ? 」微笑みながら蝶美(チョウビ)花蓮(カレン)の洗い立ての美しい黒髪を整え終わる。

「 どうして、その人の家にいるの? 」 ――― 本日、睡蓮(スイレン)とあまり接点の無かった緋鮒(ひぶな)が素朴な疑問を問うと「 その方のお父様が診療所の先生でお世話になってるんですって! ――― 睡蓮(スイレン)、過去の記憶が無いらしいのよ。 」と、紅魚(ホンユイ)が睡蓮に聞いたままを答える。

「 え…?そうなんだ……睡蓮(スイレン)ちゃん、見かけによらず苦労してるっぽいね…… 」緋鮒(ひぶな)は瞳と口を大きく開き、ぽかんとした表情で睡蓮を見つめた。


―――――― " でも、どうして そのような身元不明者が陛下の女官に……? " と、

緋鮒(ひぶな)紅魚(ホンユイ) ――― そして、僅かに珠鱗(しゅりん)までも思ったが、睡蓮(スイレン)を蔑視する様な物言いにもなり ――― そもそも彼女を女官にしたのは女王の考えと聞いているので 、三名はその想いを胸に秘めた(まま) 花蓮(カレン)睡蓮(スイレン)の両者を見つめた。


「 ……何も覚えてないの? 」 ――― 何時(いつ)もの呟く様な細い声で花蓮(カレン)が訊ねる。

「 !? ――― 私ですか? はい、何も…… 」

返答しながら、睡蓮(スイレン)は女王の部屋への通路に既視感を覚えた事を思い出したが口にはしない。
花蓮(カレン)は何も言わず、目の前の鏡に映る 自分の背後に立っている睡蓮(スイレン)の姿を不安げな瞳で見つめ続けた ――― 。



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