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水鏡に咲く白き花 作者:水城ゆま

第二章『 蓮の糸 』

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「 睡蓮花 - 長い一日 」(一)



「 あれ? なんで また戻って来てんの!? 」

医院から白夜(ハクヤ)の家へ向かう途中の東雲(シノノメ)は、進行方向から白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)が歩いて現れたので、先程、二人と遭遇した時とは真逆の方角と位置に立ち止まった。

「 ――― あと、君は誰? 」

蒼狼(せいろう)と言います。初めまして! 」 ――― 東雲(シノノメ)の問いに、蒼狼(せいろう)が爽やか笑顔を浮かべて答えた。

彼は、睡蓮(スイレン)が逃げて行った所も、()の後、白夜(ハクヤ)晦冥(カイメイ)が会話しながら何処(どこ)かに歩いて行ったのも見届け ――― 暫くしてから、花蓮(カレン)女王と晦冥(カイメイ)の二人と云う滅多に目にする事が出来ない二人組が揃って戻って来たので度肝を抜かれたかと思いきや、()の直後に、白夜(ハクヤ)と憔悴しきった睡蓮(スイレン)が戻って来たので、本当は仕事を終えて帰る所だったのだが " 何かあった " と 勘付いたのと、僅かな好奇心から白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)に付いて来たのだ。


「 俺は東雲(シノノメ)です。初めまして 」

「 知ってますよ、墓守の方でしょ? ――― 親戚の葬儀の時にお世話になりました! 」

「 そうなんだ? 」

「 二人共、立ち止まるな!医院で話せ! 」

――― そう言った白夜(ハクヤ)の手が、(てのひら)を握ってはいないものの、睡蓮(スイレン)の手首を掴んでいるのを目にした東雲(シノノメ)は、桔梗(ききょう)の話はどうなったのかと疑問に思い始めていた。
彼は、白夜(ハクヤ)桔梗(ききょう)が揉めた時は何時(いつ)だって 妹の様な存在で女性でもある桔梗(ききょう)の味方をして来たので、今回も そのつもりでいる。

「 医院って…、俺 いま医院を出て来たんだけど ――― 何かあったの? 」

「 僕も詳しくは知らないんですけど、白夜(ハクヤ)さんの彼女が怖い思いをされたそうで…… 」
東雲(シノノメ)の声が聞こえていない白夜(ハクヤ)の代わりに蒼狼せいろうが答えたのだが、東雲(シノノメ)は困った様な顔をして蒼狼(せいろう)の勘違いを訂正した。

「 いや、あの娘は……まあ、彼女と言えばそうなんだけど ――― 白夜(ハクヤ)の彼女は別にいて…… 」

「 えっ!? ――― 二股ってやつですか……!? 白夜(ハクヤ)さんて真面目そうなのに意外だな……。 」

「 いや、それも違うんだけど…――― ところで、君は何なの? あの二人の知り合い? 」

「 あ、白夜(ハクヤ)さんの武官仲間です。 ――― 一応。 」

――― 三人と一人が 医院に出戻ると、男性の割合が多い ()の顔ぶれに姫鷹(ヒメダカ)(こぶし)を振り上げて歓喜の雄叫びを上げたので、医院中の医師や看護師達がぎょっとした顔で医院長室のほうを見ては溜息を吐いた。

「 よっしゃあぁぁぁっ!!! コレ!! コレよぉぉぉっ!? この瞬間の為に、あたしは今まで頑張って睡蓮(スイレン)ちゃんを助けて来たのよぉ!! ――― さあ!誰!? 誰から診察すれば良い訳!?」

瞳をギラつかせ、明らかに興奮状態で自身の義足まで はしゃがせる姫鷹(ヒメダカ)の異様な姿に、東雲(シノノメ)は慣れてるので 相変わらずだなぁと云った様子でニコニコしているが、白夜(ハクヤ)は身の危険を感じて後退り、蒼狼(せいろう)は思わず自身の剣を抜こうとした ――― 。

「 先生、お気持ちは解かる…解かりますけど、まずは仕事しましょう? ――― 何があったんですか? 」

葵目(アオメ)の問いに、白夜(ハクヤ)一先(ひとま)晦冥(カイメイ)の名前を伏せて睡蓮(スイレン)に何が起こったのかを説明する事にした ――― 。
先程が初対面の筈の晦冥(カイメイ)睡蓮(スイレン)が怯えるのは、彼女の過去の記憶が関係している様な気が白夜(ハクヤ)はしていた。




「 ―――…そうね、あなたの言う通り、過去の記憶がそうさせたんじゃ無いかしら? 」
姫鷹(ヒメダカ)()の言葉に、睡蓮(スイレン)(うつむ)き気味だった顔を上げ、「 過去の記憶ですか……? 」と、姫鷹(ヒメダカ)の顔を真っ直ぐ見つめた。

「 あなた、その人と会った事があるんじゃないかしら? ――― それか、とても よく似ている人を知っている。 ――― で、そいつに何か酷い目に遭わされたのかも…? ほら、首とかに…… 」

睡蓮(スイレン)の身内と呼べる人間だけでは無さそうなので、姫鷹(ヒメダカ)は睡蓮の(あざ)の事をふせて、そう告げた。

蒼狼(せいろう)は何の話だかサッパリ理解出来ずにいたが、東雲(シノノメ)晦冥(カイメイ)の話だと勘付き、白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)の身体に付いていた酷い痣の跡と、先程まで目にしていた晦冥(カイメイ)の表情を思い返すが、晦冥(カイメイ)睡蓮(スイレン)以上に読めない所があると感じていた。


「 心が忘れていても、習慣にしていた事とかを体のほうが覚えてる時があるの。 ――― あたしも こないだ知ったんだけど、人間の記憶には いろいろ種類があるそうなのよ。 ――― 睡蓮(スイレン)ちゃんが覚えていたり、いなかったりするのは きっと、そのせいね。 」

「 先生も、そんな事を言っていたな……。 」

秋陽(しゅうよう)先生? 」

「 はい。 」

東雲(シノノメ)の言葉に、姫鷹(ヒメダカ)は " 自分の読みは当たっているようだな " と納得する。

葵目(アオメ)、ちょっと 東天光(トウテンコウ) 呼んで来て。 」

「 はい。 」

葵目(アオメ)東天光(トウテンコウ)と呼ばれる人物を呼びに行くと、状況を呑み込めていない蒼狼(せいろう)が質問を投げかけ始める。

「 あの、お話中の所 すみません……その(かた)は記憶喪失か何かなのですか? 」

「 はい…… 」――― 睡蓮(スイレン)自身が答える。

「 そうですか……それじゃあ、何かと大変でしょう? ――― 僕は蒼狼(せいろう)と言います。白夜(ハクヤ)さんと同じ武官です。よろしく! ――― 何か困った事があったら、僕で良かったら何時(いつ)でも力になりますよ? 」

睡蓮(スイレン)と申します。 ――― ありがとうございます。蒼狼(せいろう)さん 」

自身の目の前で二人が軽く頭を下げる様子を白夜(ハクヤ)は黙って見守っていたが、黙ってられない人物が口を開く。

「 あたしは姫鷹(ヒメダカ)ね!! ――― よろしく、蒼狼(せいろう)くん! 」

「 あ……はい! ――― よろしくお願いします! 」

「 ほら!白夜(ハクヤ)くん、あなたも名乗りなさい!! ――― 名前は!?年齢は?どんな女性が好み?身長いくつなのそれ!? ちょっと胸板 測っても良いかしら!? ――― ほら、何もしないからこっち来いっ!! 」

「 ――― 既にご存じのようなので、名乗る必要無いですよね……? 」

白夜(ハクヤ)さん、睡蓮(スイレン)さんが恐怖を感じる人って どっち(・・・)の事? ――― 俺、あなた方が戻って来る前に戻って来た御二人を見てるんだよね……。 」

先程までは話に付いて行けなかったものの、勘の良い蒼狼(せいろう)は事態を呑み込み始めていた。
丁度、姫鷹(ヒメダカ)から逃げたかった白夜(ハクヤ)は彼の言葉に耳を傾け、彼を見つめる ――― 。

「 いいから、いいから全部 言っちゃいなさい! 守秘義務があるから大丈夫!!あんた達も口は固いでしょ!? 自信無い子は出てって! ――― で、どんな女が好きなの? 」

「 そっちですか? 」

――― 蒼狼(せいろう)姫鷹(ヒメダカ)に突っ込みを入れたのと同時に、葵目(アオメ)と一人の女性が現れる。

「 先生ー 何か用ー? 」

東天光(トウテンコウ)!ちょっと加わって!! 」

葵目(アオメ)と一緒に部屋に入って来た『 東天光(トウテンコウ) 』と言う名の女性は、専門では無いものの脳神経の症状を診るのが得意の医師で、少々 じとっとした目つきで気怠そうではあるが、誰が見ても宮廷務めと思わせる貴重品である眼鏡をかけており、姫鷹(ヒメダカ)の独身仲間でもある。
ただ、姫鷹(ヒメダカ)より東天光(トウテンコウ)のほうが若く ――― ()の事で二人が衝突する事も少なくは無い。

「 あー…あの、いきなりで悪いんですけど、その 目の所の硝子。それって どこで手に入るんですか? 」

秋陽(しゅうよう)が欲しがっていたのを思い出し、白夜(ハクヤ)東天光(トウテンコウ)に眼鏡の事を訊ねると、東天光(トウテンコウ)は " まさか、それだけの為に呼ばれたのか… " と、ちょっと(イラ)っとしながら面倒くさそうに答え始めた。

「 んー? ああ、これね。……やだっ!あなた 近くで見ると綺麗な顔してるじゃないの!? 」
白夜(ハクヤ)の顔を見た瞬間、東天光(トウテンコウ)の中の面倒くささと気怠さはどこか吹き飛んだ。
目の悪い彼女が眼鏡越しに部屋を良く見てみると、顔なじみの東雲(シノノメ)や 年下に見えるが美形の剣士っぽいの( 蒼狼 )も居るのが見え ――― 若い女の子( 睡蓮 )も一人居ると (ようや)く彼女は認識した。

「 どう?東天光(トウテンコウ) ――― ヤバいでしょ? 」

「 ヤバいですねぇ……! 」

二人の女性医師が、医院に久し振りに現れた若い男達に瞳を輝かせて華やぐ姿を見て、――― " まさか、この先生 これだけの為に呼ばれたのか・・・ " と、白夜(ハクヤ)蒼狼(せいろう)は医院(医院長)に不安を感じ始めたが、慣れている東雲(シノノメ)は ニコニコと微笑みを浮かべ ――― 睡蓮(スイレン)も初めて会った東天光(トウテンコウ)に興味津々で笑顔で彼女を見つめていた。
直感的に、()ままでは(らち)が明かないと判断した蒼狼(せいろう)は、自分が仕切る事を決意する。

「 皆さん、そろそろ 話を戻しましょうよ? 睡蓮(スイレン)さんはどなたが怖いんですか? ――― 睡蓮さん、言いたくないかもしれないけど……教えてもらっても良いですか? 」

「 おい、無理に言わせようとするな……! 」

「 良いんです、白夜(ハクヤ)さん ―――…お話します。 」

睡蓮(スイレン)は、少しずつ・・・ぽつりぽつりと呟く様に、()の場の全員に晦冥(カイメイ)の事を話し始めた。
以前、秋陽(しゅうよう)日葵(ひまり)に話した時と同様に、黒い矢の話も交えながら・・・・―――



 
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