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水鏡に咲く白き花 作者:水城ゆま

第二章『 蓮の糸 』

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「 白夜と桔梗 」

 

「 原因はあなたよ!! あなたがハッキリしないのが問題なのよ!! 」

「 ハッキリしてるだろ!? 俺が好きなのは君だって何度も言ってるじゃないか!? 」

桔梗(ききょう)は独りで食器を洗い終えると、廊下で白夜(ハクヤ)と口論を始めていた。
食器洗いの手伝いを睡蓮(スイレン)白夜(ハクヤ)其々(それぞれ)申し出たが、桔梗はどちらの申し出も断った ―――― 。


桔梗(ききょう) ――― 睡蓮(スイレン)は 今は家族の一員になっていて、俺も妹のように思ってるけど、記憶が戻ったり本当の家族が見つかれば居なくなってしまう女性(ひと)なんだよ? 」

「 そんなのは その時にならないと分からないわ!! 」


「 あのー……」

突然、睡蓮(スイレン)の声が聞こえ ――― 白夜(ハクヤ)桔梗(ききょう)はハッとした表情で彼女のほうを見た。
睡蓮(スイレン)は申し訳無さそうに頭を下げ、目を伏せたまま二人のほうに顔を向けると、自分が何故 現れたのかを語り始めた。

「 お邪魔してしまい申し訳ありません!!先生のお手紙の紙が足りなくなったので取りに来たのですけど…あの…そこ私のお部屋の前なので…… 」

「 ……!? 」 「 ……! 」

廊下を移動しながら口論する内に、白夜(ハクヤ)桔梗(ききょう)の二人は睡蓮(スイレン)が使っている部屋の扉の前に立ち止まっていた。

「 ごめんね ――― どうぞ、睡蓮(スイレン)

「 は…はい!私こそ、ご…ごめんなさい!! ――― 失礼します! 」

気まずそうな白夜(ハクヤ)と無言の桔梗(ききょう)が扉の前から除けると ――― 睡蓮(スイレン)は暫くは自分の部屋に戻らなくても済む様に、自分が持ってる書簡紙の束を一式全部持って行った。
睡蓮(スイレン)が去ったのを確認すると、白夜(ハクヤ)桔梗(ききょう)は会話の続きを再開させたのだが、睡蓮(スイレン)の事で揉めていた筈なのに、彼女が現れたおかげで二人は すっかり喧嘩する気が削がれていた。


()(かく)桔梗(ききょう) ――― 彼女の事を気にする必要は無いんだよ?睡蓮(スイレン)にだって、誰か心に決めた人が居るかもしれないんだし…… 」

「 あの娘は まだ十四歳かもしれないのでしょ? そのような相手がいなかったらどうするの!? ――― あなた、あんな良さそうな娘に不誠実な事をするつもり!? 」

「 君、言ってる事が無茶苦茶だよ? 俺にどうしろと!? 」

「 だって……!あなたの事は…大好き…だけど、私も この国の生まれだからそういう考え方だってするわよ……。あなたの(そば)にいられても、あの娘に不幸な思いをさせる事になったら ――― きっと、私も心から幸せになれる日は無いわ。 」

睡蓮(スイレン)が、もう少し嫌な女の子なら良かったのに・・・と桔梗(ききょう)は涙を流した。 

睡蓮(スイレン) は記憶が戻るまでは誰かと一緒になる気は無いと言っていたよ?俺もそうだよ? もし、睡蓮(スイレン)に誰か相手がいたとしたら…その男性(ひと)の邪魔するような真似もしたくない。――― だって、もし、俺がその男の立場だったら…例え、君が俺の事を忘れてしまっていても、簡単に別の男に渡す事はできないから…――― 」

白夜(ハクヤ)()(まで)も ずっと、そうして来た様に桔梗(ききょう)の事を抱きしめたのだが ――― 桔梗(ききょう)()の時、ある理由から 彼の微妙な変化を感じ取っていた ―――――― 。

 

 
「 先生… そんなに沢山 何を書いていらっしゃるのですか? 」

「 ん? 今 書いてるのは桔梗(ききょう)のお父上への謝罪の手紙じゃよ。 ――― さっきまでのは東雲(シノノメ)日葵(ひまり)達の分じゃ! 」

睡蓮(スイレン)秋陽(しゅうよう)は、先程まで食事をしていた台の上に紙を広げ ――― 其々(それぞれ)手紙を書き綴り続けている。
秋陽(しゅうよう)の筆は速く、睡蓮(スイレン)は目を奪われつつ、二人で手紙を書く()の状況に懐かしい気持ちを感じていた。

( やっぱり、先生も どなたかと似ている……? ――― それとも、私は以前も どなたかと一緒にお手紙を書いた事があるのかしら……? )

(ところ)で ――― お主は分からない字とかは無いのか? 」

「 はい! 自分でも驚きましたが、思ったまま文章に書き表せられます。 」

「 そうか……、その辺の記憶はしっかりしている様じゃな…?生まれもリエン国の可能性が高くなって来たのう。」

睡蓮(スイレン)がリエン国の生まれなら ――― やはり、白夜(ハクヤ)の花嫁は睡蓮(スイレン)で決まりだなと秋陽(しゅうよう)は彼女を見つめた ――― 。
同時に桔梗(ききょう)の事を想い、秋陽(しゅうよう)は複雑な気持ちにもなっていた。

秋陽(しゅうよう)にとっては、睡蓮も桔梗も自分の娘みたいなものであり ――― どちらにも幸せになって欲しいと何時(いつ)も願っている。
息子がどちらかを選ぶ時 ――― どちらか片方は・・・選ばれなかったのが桔梗であれば、彼女は傷付いてしまうであろう事を秋陽(しゅうよう)は懸念していた。

「 心の傷もサッと治療出来たら良いのじゃが…… 」

「 ? ――― 心の傷…? 」

「 独り言じゃ! ――― お主は、そのまま誰が相手でも、何の話でも良いから手紙を書くのを続けるように!文字を書くのは脳に良いと聞くからのう。 」

「 はい! 」



「 なんか凄い紙の山だけど、二人で何やってんの? 」

「 ん? ――― 別に何でも無いぞ? 」
白夜(ハクヤ)が戻って来たので、秋陽(しゅうよう)は まだ折り包んでいない東雲(シノノメ)日葵(ひまり)達夫婦宛ての手紙を見えない様にサッと隠した。

「 お手紙を書いております…! 」

「 ああ、そうだったね ――― 睡蓮(スイレン)は 最近、手紙に()まっているよね? 」

白夜(ハクヤ)桔梗(ききょう)との会話を睡蓮(スイレン)に聞かれたのではないかと気になって睡蓮(スイレン)を見つめたが、彼の目には 睡蓮(スイレン)の様子は普段通りにしか見えなかった。
( やっぱり、睡蓮(スイレン)は判り易いようで判り難い所があるな…… )

「 あの……桔梗(ききょう)さんは? 」

「 !? ――― ああ…えっと、風呂に入るって! 」

白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)から目を逸らしつつ ――― 自分も椅子に座ると、気を紛らわす為に適当に書簡紙を手に取り、いろんな色や模様を眺め始めた。

白夜(ハクヤ) ――― 明日 桔梗(ききょう)が帰る時はお前が送って行くのかのう? 」

「 うん。 ――― 今、本人と約束して来た。 」

「 なら、紅炎(コウエン)で一っ走り 東雲(シノノメ)日葵(ひまり)達の所に(わし)らの手紙を渡して来てはくれぬか? 桔梗(ききょう)のお父上にもじゃ ――― なるべく、渡すのが早いほうが良いからのう……! 」

「 いいよ? 」
 
流石(さすが)秋陽(しゅうよう)も、桔梗(ききょう)の手から泥沼の三角関係の話を書いた書簡を渡させるのはどうかと考え直していたので、丁度良かったと思いながら再び筆を進ませた。

睡蓮(スイレン)のは誰に渡せば良いの? 」

日葵(ひまり)さんと…今、東雲(シノノメ)さんへのお手紙を書いております! 」

「 ふーん… 東雲(シノノメ)ねぇ…… 」






――― 翌日 ―――

白夜(ハクヤ)紅炎(コウエン)は、桔梗(ききょう)を彼女の家の前まで送ると、別れを惜しむかの様に二人して なかなか()の場を離れようとはしなかった。
今朝は霧が出ており、白く冷たい薄霧が二人の姿を包み込んでいた。

桔梗(ききょう)、やっぱり 君のお母さんにもご挨拶したほうが…… 」

「 いいのよ、お父様がまだ家に居たら あなたの家に泊まった事を怒り始めると思うから……――― あなた、お父様に自分の剣で斬られかねないわよ? 」

「 じゃあ、これを ――― 父さんからの手紙。 」

桔梗(ききょう)は、自身の父親宛ての秋陽(しゅうよう)からの手紙を受け取ると、自身が書いた白夜(ハクヤ)への手紙を(ころも)の中から取り出して 彼に手渡した。

「 帰ったら読んで? 」

「 ……桔梗(ききょう) ――― また会えるよね? 」

薄霧に包まれた桔梗(ききょう)が、そのまま何処(どこ)かに消えてしまいそうで ――― 白夜(ハクヤ)は思わず、彼女にそう訊ねずには居られなかった。

「 ええ。 ――― でも……あなた達の所に顔を出すのは もう少し気持ちの整理が付いてからにするわ。 」

「 うん、それで構わない ――― 俺のほうが会いに来るから……手紙の返事も必ずする…! 」

「 ええ、楽しみに待ってるわ! 」


―――――― 何時(いつ)もなら・・・・・・

別れ際に白夜(ハクヤ)は自分に口付けをする筈なのだが、()の日()しなかった事を桔梗(ききょう)は気付いていた。
睡蓮(スイレン)が現れてから、額や頬 ――― 手や首筋にはしてくれるが、唇だけは彼の唇で触れられる事は無い。

それは、最終的にどちらの女性を選ぶのか分からなくなって来た白夜(ハクヤ)の、どちらの女性も傷付けまいとした無意識からの行動の表れだったのだが ――― 睡蓮(スイレン)に対してはそれで良いのかもしれないが、桔梗(ききょう)にとっては大きな変化以外の何物でも無かった。

( 確かに、あなたの態度はハッキリしているわね…――― 白夜(ハクヤ)

霧で薄らいで行く 白夜(ハクヤ)の後ろ姿を、桔梗(ききょう)は覚悟を決めた様な表情で見えなくなる(まで)見つめ続けていた。




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