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水鏡に咲く白き花 作者:水城ゆま

第二章『 蓮の糸 』

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「 不可解な鏡 」(四)

 

東雲(シノノメ)桔梗(ききょう)が帰って暫く経った後 ――― 睡蓮(スイレン)白夜(ハクヤ)(いえ)にあった正方形の鏡を手に持ち、浮かない表情で自身の顔を見ながら()(まで)の事を思い返していた。
――― 因みに、秋陽(しゅうよう)はご機嫌で食事の支度をしている。


( 私が誰かを思い出そうとしたのは、白夜(ハクヤ)さんと先生と桔梗(ききょう)さん…… )

年齢も性別も違う三人に誰が重なったのか ――― 考えても全く判らなかったが、白夜(ハクヤ)秋陽(しゅうよう)が血縁者である事は 何か意味があるのでは無いかとも思え始めていた。

白夜(ハクヤ)さんは(ころも)を着せてもらった時だったかしら…? 後ろ姿……? ――― 先生は光昭(こうしょう)さんを上手く誘導されて笑顔になられた時……桔梗(ききょう)さんは、髪を束ねてくださった時……? )

(しか)し、(ころも)を着せるのは日葵(ひまり)もしてくれた事で、東雲(シノノメ)にも髪を(さわ)られたばかり ――― 他の人物の後ろ姿や笑顔も目にしているのに、どうして()の三人だけなのか 睡蓮(スイレン)には全く解らなかった。

( あとは ――― あの晦冥(カイメイ)と言う(かた)…… )

晦冥(カイメイ)を思い出しただけで、睡蓮(スイレン)は胸の傷が(うず)いたのを感じ、鏡を持つ手も僅かに震える・・・――― 。

( 初めてお会いしたはず……よね? 何がこんなに恐ろしいのかしら……――― " 赤色 " …? )



「 ただいま 」
「 !! 」

白夜(ハクヤ)(いえ)に帰って来るなり、睡蓮は無意識に手に持っていた鏡で自身の身だしなみを確認すると()の鏡を盾にする様に顔の前に掲げ ――― 白夜(ハクヤ)が現れる方向から自身の顔が見えない様に顔を隠した。


( !? ―――……あれは何をやっているんだ? )白夜(ハクヤ)は眉間にしわを寄せた表情で睡蓮(スイレン)を眺めた。
彼には睡蓮(スイレン)また(・・)鏡を握って何かやっている様に見えている。

睡蓮(スイレン)? ――― ただいま 」

「 お…おかえりなさいませ!! 」

鏡で顔を隠したまま睡蓮(スイレン)は頭だけでお辞儀し、白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)の所をそのまま通り過ぎて行き ――― 秋陽(しゅうよう)のいる水屋(台所)へ向かうと紅炎(コウエン)に食事をさせたかどうかを父親に訊ねた。


「 ああー!!忘れておったわ! 」

「 だと思ったよ! 」

「 いや、でも 夜の分だけじゃぞ!? ――― ほれ、そこに用意はしておる!! 」

白夜(ハクヤ)紅炎(コウエン)の食事が入った桶のような容器を手に持ち、また直ぐに外の馬屋へと向かう。
外で行う作業を終わらせて、早く 浴室に向いたいのだ。

白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)にも覚えさせたらどうじゃ? 一緒に連れて行け 」

「 え………? 」

白夜(ハクヤ)は思わず歩みを止めて、何とも言えない面倒くさそうな表情を浮かべた。
睡蓮(スイレン)に教える事自体は構わないが、海で助けた話を最後に何日もまともな会話をしていない(まま) ――― 再び、二人きり( と一頭 )になるのは苦行(くぎょう)の様なものだ。


睡蓮(スイレン)紅炎(コウエン)()……ご飯(・・)のあげ方を覚えて欲しいんだけど……返事は良いから、()(かく)付いて来て。 」

声を掛けた瞬間、睡蓮(スイレン)が逃げ出そうとしたのを察すると白夜(ハクヤ)は彼女の返事を聞かないまま(いえ)の外へと向かって歩き進み ――― それを見て、気が変わったのか 言われたままに睡蓮(スイレン)白夜(ハクヤ)の後ろを付いて行き ――― その様子をコッソリと確認し終えた秋陽(しゅうよう)は料理を再開する。

「 やれやれ、世話が焼ける二人じゃ……! 」




 
 
( 洗濯物も そのままか…… )
白夜(ハクヤ)は干しっぱなしにされた洗濯物を見て、" 誰が洗濯したのだろう? "と考えた ――― 候補は二人しかいない。

「 もしかして、今日 桔梗(ききょう)が来てる? 」

そう言いながら、後ろを振り返って目にした睡蓮(スイレン)の髪型が違う事に白夜(ハクヤ)(ようや)く気が付いたのだが、相変わらず(うつむ)いている彼女に声を掛ける事が出来ずに髪の話は流す事にした。
 
「 はい…――― いらっしゃいましたけど、帰られました。 」

「 え…? 彼女 一人で帰ったの!? 」

東雲(シノノメ)さんがご一緒だったので お二人で帰られました。 」

「 ああ、東雲(あいつ)も一緒か…――― どおりで、昨日まで無かった飲み物の瓶が大量に置いてある筈だ。 」

其処(そこ)で二人の会話は止まり、波の音が大きく鳴り響いた ―――――― 。
波の音の中、睡蓮(スイレン)白夜(ハクヤ)との会話について " つい最近までの桔梗(ききょう)との会話に似ている " と考えていた。
桔梗(ききょう)とは最初からそんな感じだったが、白夜(ハクヤ)との会話の空気は明らかに以前と変わってしまっていて ――― 自分の態度が原因とはいえ、睡蓮(スイレン)は寂しさを感じていた。

彼女自身は気が付いていないが、何の記憶も無い状態は心の支えが何も無い様な状態でもあり ――― 人間関係も()の世の全ても秋陽(しゅうよう)の診療所で目覚めてから見聞きした事が全てである睡蓮(スイレン)にとって、白夜(ハクヤ)が欠けてしまうだけでも大きな悲しみを意味していた。


紅炎(コウエン)睡蓮(スイレン)だ。 ――― もう 覚えてるよな? 」

紅炎(コウエン)は届けられた食事に気づくと、自分専用の放牧場から綺麗に掃除された馬屋に戻り ――― 睡蓮(スイレン)の顔を見つめるなり彼女の顔を舐め始めた。

「 ひゃあっ!! あ…あの……!? 」

「 大丈夫だよ! 気に入られてる証拠だ。 」

――― そう言って、最初は白夜(ハクヤ)も笑って見ていたが 紅炎(コウエン)がそのまま睡蓮(スイレン)を舐め続け、睡蓮(スイレン)の声が段々と卑猥(ひわい)な想像をさせ始めたので白夜(ハクヤ)は慌てて紅炎(コウエン)を押さえ込む羽目になる。

紅炎(コウエン)…お前も仲良しなようだな……!?  うっ…!? 」

紅炎(コウエン)は困惑した表情の白夜(ハクヤ)の顔も一舐(ひとな)めすると、何事も無かったように食事を始めた ――― 。
秋陽(しゅうよう)同様、彼も全てお見通しなのだ。



睡蓮(スイレン) 、大丈夫!? 紅炎(コウエン)に悪気は無いんだ…――― ! 」

ふと、白夜(ハクヤ)は魂が抜けた様に()の場に座り込んでいる睡蓮(スイレン)の首筋が目に入り、頭から首にかけての(あざ)が薄くなっているのを見て安堵すると、何時(いつ)もの彼らしく ――― 睡蓮(スイレン)に優しく声を掛けた。

睡蓮(スイレン)、次は洗濯物を取り込もう? 」――― そう声を掛けて、白夜(ハクヤ)何時(いつ)もと違う睡蓮(スイレン)の髪型に思ったままの言葉を口にしようとしたのだが、桔梗の思惑(・・・・・)によって、全く違う言葉が口から出る事となる。


「 その髪飾り……桔梗(ききょう)のだね? 」

「 はい… 」

「 彼女、元気だった? 」

「 はい……!お洗濯の仕方を教わりました。 」

「 ――― そっか、じゃあ 行こうか睡蓮(スイレン)? 」

桔梗(ききょう)の思惑が役目を果たすと、白夜(ハクヤ)は自身の気持ちを隠す様に微笑み、言いかけた言葉を飲み込んだまま歩き出した ――― 。
 
 
 
 
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