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水鏡に咲く白き花 作者:水城ゆま

第二章『 蓮の糸 』

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「 睡蓮と桔梗 」

 

「 そろそろ、洗濯をしないといけないのう? 」

「 え… 何の話!? 」


秋陽(しゅうよう)の言った" 洗濯 " を " 選択 " と聞き間違えた白夜(ハクヤ)は、頭の中に桔梗(ききょう)の顔と睡蓮(スイレン)の顔が同時に浮かび、少し焦りを感じた自分に更に焦りを感じ始めていた。

親子は、睡蓮(スイレン)も加えた三人で白夜(ハクヤ)の作った夕食を囲んでおり、台の上には睡蓮(スイレン)の機嫌を直そうと白夜(ハクヤ)何処(どこ)からか持って来た花が花瓶に生けてある。


白夜(ハクヤ)から自身が海で助けられた話を聞いた日から睡蓮(スイレン)は、白夜と(ほとん)ど口を聞いておらず、目も合わせようとはしなくなっていた。
決して、彼に対して怒っているのでは無く、忘れようとしても心から湧き出て来る恥ずかしさを(いま)だ処理出来ずにいるのだ。


現在の睡蓮(スイレン)は『 記憶 』と云う『 他の情報 』が自分の中に少ない為なのか、彼女にとっては白夜(ハクヤ)に助けて貰った話が強烈過ぎて、心の中は晦冥(カイメイ)どころでは無くなってしまっている。
余り目にする機会の無い晦冥(カイメイ)よりも、毎日 顔を合わせる白夜(ハクヤ)のほうが睡蓮(スイレン)の心の中を掻き乱していた。

 

「 ご…ごめんなさい、先生……本当はお世話になってる私がしなければいけないのに……! 」

―――睡蓮(スイレン)は申し訳無さそうな顔で秋陽(しゅうよう)に謝った。
『 洗濯 』の事は理解しているが、何をどう洗えば良いのか『 洗う方法 』は忘れてしまった様で彼女は次に日葵(ひまり)桔梗(ききょう)が訪れた時に洗濯を教わろうと心に決めている。


「 洗濯なら俺がやっても良いけど……睡蓮(スイレン)()…… 」

" 睡蓮(スイレン)(ころも)は洗えない " ――― と、言おうとして白夜(ハクヤ)睡蓮(スイレン)の前で " (ころも) " という単語を言うのを控えた。
睡蓮(スイレン)に避けられ続けて白夜(ハクヤ)は ちょっとだけ凹んでおり、彼は睡蓮(スイレン)を刺激しない様に細心の注意を払いながら生活している。

「 良い良い、そろそろ桔梗(ききょう)が来る筈じゃから頼んでみるかのう? 」
――― 口にはしないが、秋陽(しゅうよう)は息子の恋模様が どうなるのか楽しんでいる。


三者三様、それなりに新しい生活に慣れ始めて来た頃 ――― 秋陽(しゅうよう)の予想通りに桔梗(ききょう)白夜(ハクヤ)(いえ)を訪れた。
彼女は、白夜(ハクヤ)達の家移りの件で 未だに父親と揉めているのだが
母親は彼女の味方なので、(ようや)く父親の目を盗んでコッソリと白夜(ハクヤ) ――― 彼と睡蓮(スイレン)の様子を見に来たのだ。




「 ええ、構いませんよ。秋陽(しゅうよう)様 」

白夜(ハクヤ)(いえ)を訪れて間もなく、秋陽(しゅうよう)に洗濯を頼まれた桔梗(ききょう)は快く引き受けたのだが " 睡蓮(スイレン)と一緒に " と云う点については彼女は戸惑いを隠せずにいる。
睡蓮(スイレン)のほうは、桔梗(ききょう)の心情に微塵も気付いておらず、これで(ようや)く洗濯の方法が覚えられると安堵しつつ、意気込んでいた。


其々(それぞれ)の想いを胸に抱き、特に口を聞かないまま桔梗(ききょう)睡蓮(スイレン)白夜(ハクヤ)達の家の備え付けの水場で洗濯を開始する ――― 。


「 ごめんなさい、桔梗(ききょう)さん ――― お手を煩わせてしまって…… 」

「 良いわよ、別に。 手伝いをするために来たんだもの。 ――― それよりも、睡蓮(スイレン)さん ちゃんと覚えて? この布地は繊細だから 余り力を込めては駄目よ? ――― あと……こういう作業をする時は髪をまとめたほうが良いわ。」

桔梗(ききょう)は濡れた手を石鹸水で洗いなおすと、自身が予備に持っていた髪飾りで睡蓮(スイレン)の長い髪を束ねた。

髪を触られた時、睡蓮(スイレン)桔梗(ききょう)に懐かしさを覚えた。
以前にも、似た様な事があったような気がしたのだ ―――――― 。
相変わらず、()れ以上は何も思い出せない ――― 釈然としない(まま)の何とも言えない気持ち悪さを感じながら睡蓮(スイレン)桔梗(ききょう)に微笑んだ。

「 ありがとうございます! 」
「 さあ、続けましょう 」

睡蓮(スイレン)が嬉しそうな笑顔を見せたので、思わず桔梗(ききょう)も微笑んだのだが()ぐに我に返り、悲し気な表情を浮かべた。
彼女の()の様子に気が付いた睡蓮(スイレン)は、不思議そうな顔で彼女を見つめ続けた ――― 。


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