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水鏡に咲く白き花 作者:水城ゆま

第一章 『 一蓮托生 』

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「 花の行方 」

 
 
 
―――――― 目覚めた瞬間、睡蓮(スイレン)はとても幸せな気分だった。

( 何か夢を見た様な気がする…――― )

どんな内容の夢だったかは忘れてしまっていたが、恐怖で一杯になっていた心の中は
落ち着きを取り戻していた。

( ここは、秋陽(しゅうよう)先生の診療所ね……? )

自分が診療所の寝台に寝ていると気付いた睡蓮(スイレン)は、ぼんやりと目覚める前に自分が何をしていたかを、ゆっくりと思い出す ――― 。

途中、体を起こそうとした際に 矢の傷の痛みに襲われて
(ようや)く、自分に矢が刺さった事を思い出した。


「 あ…あれ…? でも、無い……!?」


彼女が胸の辺りを見ると、寝間着の中で真っ白な包帯がぐるぐる巻きになってはいたが
あの黒い矢が姿を消していたので、体に矢が無いのは 秋陽(しゅうよう)の御蔭に違い無いと思い
睡蓮(スイレン)は、 " やっぱり先生が救ってくれた! " ――― と、花の様に笑った。


( あの晦冥(カイメイ)と云う(かた)も……ここには いないわよね…? 皆さんは ご無事なのかしら…――― ? )

証明できる物は無く、何となくでしか無いのだが
あの黒い矢は晦冥(カイメイ)の仕業の様な気がして、彼の姿を思い返すと急に不安が押し寄せて来て
部屋に独りで居たくなくて、誰か探しに行こうと痛む体を我慢して寝台から()り始める ――― 。


以前、目覚めた時と違って外から明るい光が差し込んでいるので
少なくとも、秋陽(しゅうよう)何処(どこ)かに居る筈だろうと寝台を下りた その瞬間 ―――
胸の傷に激痛が走り、彼女が()(まま) 床に(うずくま)る様にしゃがみ込んだのを日葵(ひまり)と交代で睡蓮(スイレン)の様子を見に来た白夜(ハクヤ)が目にし、彼女の(もと)に駆け寄った ――― 。


「 傷が痛むのか!? 」

「 す…少し……。 」


睡蓮(スイレン)の返事を聞くと、白夜(ハクヤ)は彼女を軽々と抱きかかえ、そっと寝台の上に降ろした ――― 。
痛みに耐えて下りた筈なのに、再び寝台の上に戻ってしまった事について
睡蓮(スイレン)は、ほんの少しだけ 何とも言えない(むな)しい気持ちになった。

( い…いま、下りたのに…――― ! )



「 待ってて、父さんを呼んで来るから ――― ! 」
「 あ…待って――― !! 」
白夜(ハクヤ)がまたどこかへ行ってしまうと思った瞬間、睡蓮(スイレン)はとっさに
白夜(ハクヤ)の片腕をしがみつくように引っ張った。


「 ――― 睡蓮(スイレン)……? 」

「 あ……ご…ごめんなさい! ――― あの…でも、(ひと)りになりたくなくて……」


白夜(ハクヤ)がよく見ると、睡蓮(スイレン)の手が震えていたので
白夜(ハクヤ)の脳裏に東雲(シノノメ)から聞いた即位式の睡蓮(スイレン)の話がよぎる。
確かに、晦冥(カイメイ)は他の者達と違う雰囲気を持つ男だが、睡蓮(スイレン)を知っている様子も無かったので
彼の何がここまで睡蓮(スイレン)(おび)えさせるのか、白夜(ハクヤ)には理由が(わか)らなかった。


「 ……()
白夜(ハクヤ)が何か言おうと口を開いた瞬間、秋陽(しゅうよう)睡蓮(スイレン)白夜(ハクヤ)のいる部屋に訪れ、
寝台の上に横たわったような姿勢で 白夜(ハクヤ)の腕に絡みついてる睡蓮(スイレン)
彼女を静かに見つめていた自分の息子の姿を目にし、
秋陽(しゅうよう)は、瞬時に 自分がとんでもない失敗をしてしまったと痛感し、二人に背を向けた。

「 すまん! 出直す…… 」

「 違うから!! 何でも無いから!! ――― ほら、睡蓮(スイレン)が起きてるだろう!? ちゃんと診ろ!!」


―――――― 室内に白夜(ハクヤ)の叫び声が鳴り響いた。










結局、女性である日葵(ひまり)がいない事には睡蓮(スイレン)の身体を診る事は出来無いので
食事に行っていた日葵(ひまり)睡蓮(スイレン)の部屋に戻り、白夜(ハクヤ)は新しい住まいに荷物を運びに出て行った。
――― 日葵(ひまり)達の話から、睡蓮(スイレン)は即位式から二日経っている事を知る。
 
「 え… 王宮の近くに住むのですか? 」

家移りについて聞かされた睡蓮(スイレン)は、自分の事も連れて行きたいと申し出た秋陽(しゅうよう)の言葉に目を見開いて驚いた。

「 うむ、白夜(ハクヤ)は そういう決まりが()るからなんじゃが(わし)も お(ぬし)の治療の資料や情報を集めたくてのう。
  宮廷(きゅうてい)には多くの書物が有り、優れた医師達が山の様におるんじゃよ。」
――― と、秋陽(しゅうよう)は張り切った様子で続ける
「 最初は、お主は日葵(ひまり)達の家にと思ったのじゃが
  診察の度にあの階段を上らせるのは、治るもんも治らんと思ってのう。」

秋陽(しゅうよう)との話を 横で聞いていた日葵(ひまり)
睡蓮(スイレン)、あんたに刺さった あの矢の犯人はまだ捕まってないんだよ……! ――― 王宮近くなら、武官もいっぱいいるからさ!ここよりちょっとは安全だと思うよ? ――― 昼間以外は、同じ家の中に(ハク)ちゃんだって いるんだからさ!! 」と、真剣な様子で睡蓮(スイレン)に告げた。

「 どうかのう?睡蓮(スイレン)…――― 急な話なのじゃが、一緒にどうじゃ?
  まだ返事は貰っとらんが、桔梗(ききょう)も来るかもしれぬし、日葵(ひまり)にも通わせるから女子(おなご)は お主 ひとりでは無いし、心配はいらぬよ? 」

秋陽(しゅうよう)の言葉を聞き、日葵(ひまり)は " ついに本格的な減量をおこなう時が来たか・・・ " と悟る ――― 。



「 はい……! 一緒に行くのは構わないのですが…――― 」
晦冥(カイメイ)の姿が睡蓮(スイレン)の脳裏に浮かぶ ――― 。

花蓮(カレン)女王の側近(そっきん)という事は、当然 晦冥(カイメイ)も王宮の何処(どこ)かに居る ――― 。
自ら晦冥(カイメイ)(もと)へ近づいて行く事に、睡蓮(スイレン)は不安を感じずには居られ無かった。

(しか)し、世話になっている身で 自由に選択できる立場に無い事も自覚しているし
今の自分の身体では あの階段を 何度も上り下りする自信も無く ―――
仲睦(なかむつ)まじい日葵(ひまり)春光(しゅんこう)の邪魔にもなりたくなかったので、睡蓮(スイレン)は自分さえ我慢すれば・・・・と、覚悟を決め始めていた。


思い詰めた様な彼女の様子に気付き、秋陽(しゅうよう)日葵(ひまり)は少しでも場を和ませようと殊更(ことさら)に明るく努める。

「 大丈夫じゃ! まだ光昭(こうしょう)此処(ここ)におるし、(わし)らが向こうに移るのは あやつとお主の傷が もう少し癒えてからにするつもりだからのう。 」

(ハク)ちゃん と 紅炎(コウエン)光昭(こうしょう)は、昨日から運び屋と一緒に荷物運んでるけどね♪
  片手とは言え、力持ちの光昭(こうしょう)がいてくれて助かったよ!
  睡蓮(スイレン)、あんたも彼にお礼言わなくちゃね ――― あいつは矢を抜こうとしてああなったんだから…… 」

日葵(ひまり)光昭(こうしょう)の手を思い出して震え上がり(なが)らも
「 そうそう!(ハク)ちゃんにも言っておくんだよ? ――― 最終的に矢を抜いたのは白ちゃんなんだからね!」と、白夜(ハクヤ)の存在を強調した。


「 え…? そうなのですか……? 」

矢を抜こうとした光昭(こうしょう)がどうなっているのかは分からなかったが、
また白夜(ハクヤ)が自分を救ってくれたと知り、睡蓮(スイレン)は 自分の心が華やぐのを僅かに感じた ――― 。

( ? ――― 何かしら…? 胸に怪我してるからかな……? )



「 のう、睡蓮(スイレン)…――― 思い出したく無かったら言わなくても良いのじゃがお主は矢が刺さった時、どう感じた?
  ――― 痛かったとは思うが、熱さは無かったかの?
  矢からあんなに黒煙が出ていて、光昭(こうしょう)達も火傷を負ったのに
  お主とお主の持っていた鏡は、大した傷にはなっていなかったんじゃ。それが どうしても 不可解でのう…… 」
――― 秋陽(しゅうよう)が首を傾げながら呟く様に睡蓮(スイレン)に尋ねると、彼女は矢が刺さった瞬間を何とか思い出しながら答えた ――― 。

「 あの……先生、痛みと熱さの違いは よく判らないのですけど
  私、あの矢は あの晦冥(カイメイ)と言う方が(はな)ったような気がしていて…… 」
――― 言いながら、睡蓮(スイレン)(うつむ)いた。
晦冥(カイメイ)とは目が合っただけなのに、其処迄(そこまで)決めつけても良い物かと自分の中で葛藤しているのだ。


「 ええっ!? ――― でも、どうやってだい!? 」

「 あやつか…――― (しか)し、睡蓮(スイレン) どうしてそう思うのじゃ?
  いくら何でも、あの大勢の中で矢を放てば誰かが目撃しておるぞ!? 」


「 はい…。でも、私 あの(かた)が恐ろしくて花蓮(カレン)様に頭を下げるのを忘れていて……
  その時に あの方と目が合って、気が付いたら矢が胸に…――― 」


秋陽(しゅうよう)日葵(ひまり)は、(うつむ)睡蓮(スイレン)を見ながら 怪訝(けげん)とした表情で顔を見合わせた ――― 。

二人共、彼女が嘘を言っているとは考えてはいなかったが
仮に 晦冥(カイメイ)が矢が放ったのだとしたら、何も持たず、誰かに指示もせずに
どうやって 矢を放ったのと言うのか・・・・・・。



秋陽(しゅうよう)日葵(ひまり)は、睡蓮(スイレン)がいる部屋の前の廊下に出ると
彼女に聞こえてしまわないように、小声で今後の睡蓮(スイレン)の居場所について話し合いを始める。


「 先生…もし、もしもだよ? 本当に矢が " 何とか様 " の仕業なら……
  やっぱり睡蓮(スイレン)は あたし達の所にいたほうが安全じゃない!?
  家移りの文書も直接 届いたんだろ!? なんか、怖いよ! 」

(いや)、落ち着くのじゃ日葵(ひまり) ――― 確かに、あの男は怪しいが花蓮(カレン)様の側近じゃぞ!?
  睡蓮(スイレン)は ああは言っておるが、まだ 犯人と決まった訳では無い。

  それに、お主達夫婦は共働きで 四六時中 睡蓮(スイレン)を見守る事はできぬじゃろ?
  春光(しゅんこう)晦冥(カイメイ)では、体格的にも体力的にも晦冥(カイメイ)のほうが有利じゃろうし……
  万一の時、今のお主 ひとりでは適切な応急処置が行えるとも思えぬ。」

――― 秋陽(しゅうよう)の言葉を聞き、日葵(ひまり)春光(しゅんこう)が黒い矢に刺されて倒れる姿を想像して全身が寒気に襲われた。 
そんな状況で、自分は落ち着いた処置ができるのだろうかと、日葵(ひまり)は真剣な表情で心の中で自問自答する。


「 その点、儂は一日中 家の中にもおれるし ――― 医者じゃ。
  白夜(ハクヤ)もおるし、桔梗(ききょう)は来るかは分からんが……あの娘も朝から晩まで睡蓮(スイレン)(そば)に居られる。
  まあ、桔梗(ききょう)は武芸に秀でている訳では無いから、巻き込む事になったら直ぐに家に帰らせるが
  あの娘が居てくれたほうが、白夜(ハクヤ)が本気出すからのう…。
  ――― それに、宮廷に居るほうが 何かあれば花蓮(カレン)様や医官も頼れるし、晦冥(カイメイ)の動きも掴みやすそうとは思わんか? 」


「 うん…… あたしも 人目が多いほうが良いとは思うね! 」



秋陽(しゅうよう)日葵(ひまり)は、顔を見合わせて納得した様子で無言で頷いた。

――― 本当は、葬儀式や即位式やらが落ち着いたら身元不明者を保護した事を宮廷に報告する予定でいたのだが、秋陽(しゅうよう)()の報告を もう少し保留にする事にした。



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