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水鏡に咲く白き花 作者:水城ゆま

第一章 『 一蓮托生 』

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「 白夜の妹 」

 

「 失礼 ――― 彼女の名は " 睡蓮(スイレン) " と云うのですか? 」

「 え…? ええ、そうです…けど…… 」

紅炎(コウエン)(そば)蒼褪(あおざ)めた顔で茫然(ぼうぜん)と立ち尽くしていた桔梗(ききょう)は、()の男の突然の問い掛けに奇妙に思いながらも返答した。
彼女に話しかけて来たのは、朱色の布を(まと)った あの晦冥(カイメイ)と云う名の男である。

桔梗(ききょう)は、日葵(ひまり)達から晦冥(カイメイ)の事を 詳しく聞かされてはいなかったが
この騒動の中で " 睡蓮(スイレン)の名前が気になる "と言うのは、何か違うような気がして
直感的に、晦冥(カイメイ)には関わらないほうが良いと感じていた。


大勢の人々が睡蓮(スイレン) の為にと布や綿を集めて駆け回っていた中、
晦冥(カイメイ)が充分な大きさのある朱色の布を着飾ったままでいる事も桔梗(ききょう)には不快に思えてならない。



「 ――― 桔梗(ききょう)? 晦冥(カイメイ)様、彼女に何か……?」

紅炎(コウエン)桔梗(ききょう)を迎えに来た白夜(ハクヤ)は、桔梗等と共に晦冥(カイメイ)が居るのを不審に思いながらも表情には出さずに晦冥(カイメイ)に敬礼した。

「 君か…――― 一部始終を見ていましたが、先程はお見事でしたね。
  確か、(ハチス)先王の遺言状に名が記されていた剣士だったかな? 」

「 はい ――― 白夜(ハクヤ)と申します。 」

「 そう、白夜(ハクヤ)……。 ――― 君の事は良く覚えていますよ。 」

晦冥(カイメイ)様に そう言って頂けるとは光栄です! 」と、本心からではあったが
白夜(ハクヤ)敢えて(・・・) 桔梗(ききょう)晦冥(カイメイ)の間に入るように立ち、桔梗から紅炎(コウエン)の手綱を受け取った。

自分が目を離した隙に、桔梗(ききょう)に男がまとわりつくのは何時(いつ)もの事なので晦冥(カイメイ)の事も そうなのだろうと思っているのだ。


桔梗(ききょう)、ありがとう。 ――― あと、これ…君の日傘だろ? 天幕にあったから持って来た。 」

「 ありがとう…! ――― あなた、手は大丈夫なの!? 」

「 うん、軽い火傷だから。」と、桔梗(ききょう)に傘を渡すと白夜(ハクヤ)晦冥(カイメイ)のほうに身体(からだ)を向けた。
白夜(ハクヤ)と一回り程は離れた年齢の晦冥(カイメイ)は、彼の心を見透かした様に含み笑いを浮かべながら話を続ける。

「 君が引き抜いたあの矢は何だったのだろうね? 」

「 分かりません…――― でも、彼女を狙って放たれた矢ではないかと。 」

「 ……彼女は何者なのですか? 」

「 彼女は…―――――― 」


――― 睡蓮(スイレン)の事を何と説明すれば良いのか白夜(ハクヤ)は迷った。

最初は『 記憶を失っている診療所(ウチ)の患者 』 にしようと思ったが、
身体(からだ)を見た罪悪感と責任感から『 未婚妻(婚約者) 』 にしておいたほうが良いのかとも思い始める。
(しか)し、()れは 桔梗(ききょう)の前では口が裂けても言えないし、睡蓮(スイレン)にも確認を取っていない ――― 。
『 拾った女の子 』 にしようかとも思ったが、詳細を聞かれたら説明するのが面倒臭い。

本音を言えば、早く 睡蓮(スイレン)の容体が知りたいので、晦冥(カイメイ)との会話をさっさと終わらせたいと考えていた。


「 自分の " 妹 " …――― のようなものです。」


「 " 妹 " …――― ? 」

「 本当の妹と言う訳では無いのですが…… 」

「 …………。 」

白夜(ハクヤ)の妹と聞き、晦冥(カイメイ)は何かを考える様に黙り込み、倒れている睡蓮(スイレン)のほうに目を向けた。
(しか)し、睡蓮(スイレン)は既に診療所へ運び出されており、もう 其処(そこ)にはいなかった ―――。

一方、白夜(ハクヤ)は、桔梗(ききょう)の前で睡蓮(スイレン)について色々聞かれるのは面倒な事になりそうなので
中々(なかなか) 去ろうとしない晦冥(カイメイ)から逃げ出す準備を始める。

「 申し訳ありません!晦冥(カイメイ)様。 ――― 自分はこれで失礼いたします。
  桔梗(彼女)を送ったら持ち場に戻りますので……… 」


「 いや、君も含めて 怪我をした者達は(ただ)ちに治療を行いなさい。
  ――― どうせ、この雨では行進は続けられない。
  後の事は気にしなくて良いから ゆっくり静養すると良い。
  勿論、そちらの(かた)をお見送りするのは止めはしないよ?
  後程、君のお父上の診療所に使いの者を送るから、今後の詳しい事は()の者に伝達させよう。 」


「 承知致しました!お心遣いありがとうございます。 」

「 では、白夜(ハクヤ)…――― また宮殿で会えるのを楽しみにしていますね。 」

そう告げると、晦冥(カイメイ)は 霧の様な雨の中へと 消えて行った ――― 。
()の背中を、桔梗(ききょう)は睨む様な瞳で見つめていた。



「 今の(かた)花蓮(カレン)様の側近ですってね……?」

「 うん、そう。 ――― あれ?教えたっけ? 晦冥(カイメイ)様が自分で言ったの? 」

「 あの()があんな目に遭ったのを見ていたのに
  どうして、すぐに 花蓮(カレン)様を宮殿に戻さなかったのかしら…? 」


「 ……! 」


白夜(ハクヤ)桔梗(ききょう)の言葉にハッとしたような表情を浮かべる。
確かに、側近でありながら こんな所で 立ち話してる場合では無い。

「 犯人探しもされないのね……。
  (ハチス) 様は こんな恐ろしい事件を放置なさる事なんて無かったのに……!」

「 え? ――― 犯人は捕まってないの!? 」

「 そうよ!? ――― 一体、何なのよ? あの弓矢……
  白夜(ハクヤ)、早く ここを離れましょう!? この手も ちゃんと治療しなくちゃ……! 」

桔梗(ききょう)は、白夜(ハクヤ)の手に触れると 泣きそう顔で訴えた。
不気味な矢への恐怖と、()れが自分の知る人間に突き刺さった恐怖と、白夜(ハクヤ)が矢を掴み取った時の心配疲れから桔梗(ききょう)の心は破裂寸前だった。

白夜(ハクヤ)は怯える桔梗(ききょう)の手を取り、辺りを警戒しながら桔梗(ききょう)を乗せて紅炎(コウエン)と共に診療所へと向かった ―――。

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