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水鏡に咲く白き花 作者:水城ゆま

第一章 『 一蓮托生 』

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「 蓮の台 - 閑話 」(五)



「 先生、睡蓮(スイレン)に これ飲ませても平気だよね? 桃の味やつなんだけど。」

()いぞ、(かね)は後でな。 」

「 いやだな~、これくらい差し上げますよ? いつもお世話になっていますから。 」と、桔梗(ききょう)と入れ替わるように 東雲(シノノメ)が買って来た飲み物を秋陽(しゅうよう)睡蓮(スイレン)に手渡すと秋陽(しゅうよう)は 貰ったお茶を ごきげんで 飲んでいる。( ※無料(タダ)なので。 )


「 はい、どうぞ!睡蓮(スイレン) ――― とりあえず、果実の物を選んで来たよ。」

「 ありがとうございます…! 」

” 果実 ” は解るが、" 桃 " と言うのは睡蓮(スイレン)の記憶には無いようで
睡蓮(スイレン)は緊張した様子で渡された飲み物を口に運ぶ ――― 。

「 どうかな? 」

「 おいしい…と思います。……飲んだ事あるかもしれません? 」

「 お、いいね~!何か思い出すかもしれないね?
  じゃあ、こっちも行ってみよう。 俺のだけど、まだ飲んでないから一口どうぞ。」

「 これ!東雲(シノノメ)(わし)は飲ませて良いとは言ったが (たわむ)れろとは言うとらんぞ! 」


「 すみません、先生。
  出かける前に睡蓮(スイレン)が " 自分が好きな飲み物が わからない " と 言ってたので
  いろいろ 飲み比べてみるのはどうかなと思いまして。 」

「 うむ……そういう事なら……それは良い考えかもしれんのう。
  心では忘れてしまっても、体では覚えてる場合があるそうじゃからのう。
  確かに、睡蓮(スイレン)は味覚も曖昧(あいまい)になってるような気がするのう。
  (わし)が作ったスープも " 不思議な味 " とか言っておったし…… 」

「 いや、先生が作るのは薬みたいで 大半が不味(まず)いですよ……? 」


――― 突き刺さるような東雲(シノノメ)の言葉は聞かなかった事にして、
秋陽(しゅうよう)は手元にあった紙に睡蓮(スイレン)の味覚について書きこんだ。
睡蓮(スイレン)の症状の経過や、覚えていない事などを 記録する事にしたのだ。



睡蓮(スイレン)? これ本当に飲んでないから 別に汚くは無いよ? 」

「 はい…それは わかっているのですけど…… 」


飲みたくないとか、()るいは東雲(シノノメ)が嫌とかでは無く
なんとなく、睡蓮(スイレン)は人の分まで飲んでしまう事に抵抗を感じていた。
自分は()の様な行為をしてはいけない・・・・そんな考えが彼女の頭の中に渦巻いていた。

(しか)し、東雲(シノノメ)の厚意を無下にしたくも無いので
睡蓮(スイレン)は 思いきって、手渡された飲み物を 少しだけ口にする ――― 。



「 うっ……! 酸っぱい……!! 」

(しか)めっ面の睡蓮(スイレン)の顔を見て、東雲(シノノメ)は " してやったり "と言わんばかりに笑みを浮かべ「 良い顔するね!睡蓮スイレン 」と、表情に乏しい睡蓮(スイレン)の感情表現を見て微笑む。
白夜(ハクヤ)同様、東雲(シノノメ)睡蓮(スイレン)の事が妹の様に思え、彼なりに楽しんでもいるのだ。


「 ねえねえ、(シノ)ちゃん! 今、三人で話してたんだけど
  あんた、(ハチス) 様の葬儀の時に花蓮(カレン)姫にはお会いしなかったのかい? 」

その日葵(ひまり)の質問に、その場にいた全員が 興味津々で東雲(シノノメ)の回答に耳を研ぎ澄ませた。

「 うん、会ったよ? ――― 布越(ぬのご) しにだけど。 」

「 お顔は見てないのかい? 」

「 うん、今日になるまで人前に出られないからって理由で
  謁見(えっけん)する時は、花蓮(カレン)様の周りを厚い布が囲んでたんだ。
  影は 少し透けてたけど、顔まではわかんなかったなぁ……

  本当は墓守(俺達)と会う予定は無かったんだけど、
  (ハチス)様の葬儀の件で、どうしても 直接 お礼が言いたかったんだって。 」

「 へぇ~ すごいじゃないか!! (シノ)ちゃん! 」

「 ふむ……その話を聞く限りでは、(ハチス) 様の印象と重なるのう。 」

「 あ、はい。 俺もその時は そう思ったんですけど…―――――― 」


東雲(シノノメ)の話の途中で、花蓮(カレン)姫がリエン国の新しい国王になったと告げる宮殿の鐘や鈴の高く長い音が大きく鳴り響いた。

朝や夕刻に鳴らされる時鐘の響きとは違い、水面に波紋が広がって行くように
澄んだ音が、新しい王の誕生を喜んでいるかのように いつまでも鳴り響く ――― 。


「 式が終わったみたいだね!? いよいよ花蓮(カレン)様がやって来るよー!!!♪」


「 あ!待って、日葵(ひまり)!!あの階段だよ? すぐには いらっしゃらないよ!? 」

――― 天幕を飛び出して行った日葵(ひまり)春光(しゅんこう)が追うと、
桔梗(ききょう)は手鏡を見て簡単に身支度し、 隅に置いていた日傘を 再び手にした。
秋陽(しゅうよう)睡蓮(スイレン)に関する記録の書きこみを中断し、念の為に薬品などの確認を始める。
東雲(シノノメ)睡蓮(スイレン)は、二人して鐘の音の中に浸り続けていた。

ふと、東雲(シノノメ)は " あの階段じゃ、御輿(おこし)(かつ)ぐ人は大変だろうな " と、輿が階段から下りてくる様子を想像して 思わず吹き出した。
――― 如何(どう)考えても、かなりの重労働である。


「 あの、東雲(シノノメ)さん…… 」

「 ん? 何? 」東雲(シノノメ)は、自身の想像に笑いを堪えながら睡蓮(スイレン)のほうを見た ――― 。

「 先程、何を言いかけていらっしゃったのですか?」

「 ああ! そうだね 、そうだった! ――― (いや)(ハチス) 様の葬儀の時は わざわざお礼を言われた花蓮(カレン)様が
昨日の(ハチス) 様の法要では 全く 姿をお見せになられなかったから、なんていうか……ちょっと違和感を感じたんだよね。」

「 今日のお式の準備でお忙しかったのでしょうか? 白夜(ハクヤ)さんもそうですし。 」

「 まあ たぶん、そんなところだろうね? 」


睡蓮(スイレン)東雲(シノノメ)が、なかなか 天幕から出ようとしないので秋陽(しゅうよう)が ゆっくりとした歩みで二人に近づき「 ほれ、ここには(わし)が残るから、お前達も花蓮(カレン)様を出迎えに行って良いぞ? 」と、花蓮カレン女王を出迎える様に促し始める。

「 わしゃ、先が短いが お前達は これからも長い間 花蓮(カレン)様と共に生きるのだから、きちんと御挨拶しておきなさい。 」

「 先生、さっきの俺の話 忘れましたか? ご挨拶はもう……――― 」

「 口答えはせんで良い!!
  お主は睡蓮(スイレン)に付き添っていれば それで良いんじゃよ。 」

「 でも、睡蓮(スイレン) 行ける……? 」

「 ………。」

東雲(シノノメ)睡蓮(スイレン)の体調の事を心配しているのだが、睡蓮(スイレン)晦冥(カイメイ)に遭遇したくなくて迷っていた。



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