第2章 踏み荒らされる宮殿
「王に刃向かえぬのなら、敵に許しを請うのです。」
ムィンダンテはそれすらできない状況であったことを、心の中で悔みつつ、エデモルカの宮殿に向かって三人の大臣と馬を駆っていた。
「一体、ヘレネ王妃にどうお伝えすればよいのだ?モルモゼロ殿。お主は外交長官ではないか。何か良い手立てはないか?」
「わ、私に王は討ち死になされたと、伝えよと申すのですか?事実かどうかも分からぬものを勝手にねつ造できませんぞ!そのような重大な報告は、大臣長官であるあなたがすべきでしょう!」
「二人ともやめなされ。あの状況、おそらく王は生きてはおりますまい。それよりも、今は一刻も早くイムダイに大事があったと王妃に知らせるべきです。」
オスピソンの言葉に、ムィンダンテは口をすっぱくして言う。
「オスピソン殿!縁起でもないことを。もし陛下が生きておられたら、どうなさるおつもりか!だいたい財務などという緊張感の持てない職務に就いているからそのような気でいられるのだ!」
「なんですと?言葉がすぎますぞ大臣長官!ヴィシュトぺ殿!」
「は、はい…」
力のない返事をして、国王補佐大臣のヴィシュトぺは答えた。
「あなたはイムダイが討ち死にされたとお思いですか?現実主義のあなたなら分かるはずです。」
「わ、わたくしはですな…」
そわそわとして、大臣たちの顔色をうかがう彼は、どう答えようか迷ってしまった。
「黙っているということは、オスピソン殿の意見に反対ということでよろしいか?そなたの一言で、王妃になんとお伝えになるかが決まるのだぞ?」とムィンダンテ。
と、その時。
「危ない!」
殺気を察知して、ヴィシュトぺの馬が大きく前足を上げてひなる。
彼の目の前を一本の矢が通り過ぎた。
「いかん!帝国の追撃だ!早く、皆早くするのだ!」
四人は即座に止めていた馬を走らせる。
「いたぞ!必ず生け捕りにしろ!」
ゼムヘイオの隊長が指揮棒を持ち、その矛先を大臣たちに向けて叫んでいた。
「王妃様!それにジョパル殿下!」
なんとか追手を振り切った四人は、急いで宮殿に入り、馬のままヘレネのところまでやってきた。
「どうしたのです?王には書信を渡してくれましたか?」
しかし大臣長官は顔を曇らせる。
「陛下は王妃様の文を握りつぶして、ガルべ河に投げられました。敵を説得しようとした頃には、もう遅く、陛下の安否は分かりません。」
「分からない?まさか、討ち死になされたのですか?」
「確かとは、言えませんが、おそらく…」
途端に白目をむき倒れる王妃。
「王妃様!」
「だから申し上げたではないですか!事実を伝えるべきではないと!」
しかし、ムィンダンテがオスピソンにそう叫んでいる間にも、外門の方で兵士たちの声が騒がしく聞こえてきた。
「この声は、ゼムヘイオ軍か?いくらなんでも早すぎる!」
「ででで、では一体…」
ヴィシュトぺが震える声でムィンダンテにたずねた。
「間違いない。パレヴァンだ!」
「うわさ通りの汚い犬どもだ。」
「モルモゼロ殿。そんなことより、早くお二人をかくまわなくては。」
オスピソンは倒れている母親の体をゆするジョパルを抱える。
「母上、母上!」
泣いているジョパルと気絶したヘレネを背負い、文官たちはとりあえず宮殿の護衛兵が敵を止めている間に、宮廷の裏から森を抜けようと走り出した。
「ムィンダンテ!母上は…」
「心配ございません殿下。気絶しておられるだけです。」
もう少しで宮殿の裏口にたどりつく。
彼らは助かったと思い、最後の角を曲がろうとした、が、曲がる前に突如として剣を突きつけられられ、後ろを歩いていた大臣の三人は玉突き状態になった。
「ムィンダンテ殿、一体どうされました!早くしなくては、つかまって…」
彼のすぐ後ろを走っていたモルモゼロは、鼻をおさえながら、隙間から見えた輝く刃を目にしてはっとした。
「静かに。それと動いてはならぬ…」
恐怖に震える大臣長官の声に状況を悟った残りの大臣たちも、手を上にあげ、投降する。
パレヴァンの軍は、実は二手に別れて逃走経路を断っていたのだ。
たちまち兵士たちに取り囲まれ、彼らは宮廷の広間へと連行された。
「我々をどうする気だ!」
オスピソンが彼らとともに縄をかけられ、床に座った状態で威勢を張っていた。
「黙れ。舌を切るぞ?」
何だと、と驚いた顔で彼は近づいてくる指揮官の前に何も言えなくなった。
「お前たちは、エデモルカの王レスレダの大臣ども、それにヘレネとジョパルだな?」
「王妃様とお呼びしろ!汚い犬どもめ!どさくさに紛れてイムダイの神聖なる都を汚すでない!」
そう言った瞬間、ムィンダンテはペッと額につばをはかれた。
「何をする!」
「いいか?俺はお前たちを用済みだと考えてる。我が陛下が臣下にしたいとおっしゃっていたが、場合によっては殺して事故に見せかけてもいいんだぞ?死にたくないだろう?」
中年の指揮官はまるで酒でも飲んでいるかのような、生温かい息で彼にささやいた。
悔しそうに歯ぎしりするムィンダンテを見て、パレヴァンの指揮官はにやついていたが、敵襲との声を聞いて舌打ちした。
「総官、ゼムヘイオの将軍が兵を連れて我が軍を攻撃しています!ご指示を!」
「くそ!ラミダンめ。厄介な奴だ!いいか、そこにいろ。逃げたら殺す!」
そう言い残し、総官は表門の方へと走って行った。
「こ、ここは?」
「ヘレネ王妃様!目を覚まされましたか。」
彼女は縛られている大臣たちとジョパルを見て、何事かと思ってあたりを見回した。
「ごらんの通り、パレヴァンから逃げる途中、我々は捕まりました。このムィンダンテの不注意をどうかお許しください。」
「パレヴァンですって?なぜ?それに帝国がなぜ攻めてきているのです?」
「分かりません。しかし、このモルモゼロめが察するに、イムダイが降伏書信を拒絶されたことによる見せしめかと。」
「見せしめですって!」
王妃は怒りをあらわにして言う。
「一体これ以上民を、我々を傷つけて何になると言うのです!もう陛下は死んだというのに…」
「分かりません。いずれにせよ、このままでは国は乗っ取られてしまいます王妃様。先ほど、パレヴァンの総官と名乗る男に、臣下となるよう勧められました。」
「まさか、ヴィシュトぺは応じたのですか?」
「と、とんでもございません!」
彼は力いっぱい拒絶する。
彼らが話をしていると、ついに表門を突破したゼムヘイオが王妃たちのいる宮殿内に押し寄せてきた。
逃げなくては!
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