第18章 久しぶりの再会
あのとき、ティペスは彼を必死になって呼んでいた。
「ジョパルーっ!」
しかし彼の意識はなく、混乱の中で帝国の将軍に持ち上げられ、馬に乗せられた。
それを最後に、彼はティペスの視界から消えた。
取り残されたゼムヘイオの軍は、ラミダンの騎兵になんとかしてついて行こうとするが、挟み撃ちにされているせいで、敵の兵士に逃げる途中で容易に殺されていく。
二ヴェナの太鼓のリズムが変わり、敵は攻撃するのをやめ、大きな盾を持って彼らを押しつぶそうとする。
「そのとき老将の声が聞こえたんだ。」
「抵抗する者は容赦なく斬り殺す! だが、我が王国の軍門に下るなら、それなりの待遇が与えられる。 速やかに投降せよ!」
国家に対する忠誠というものは、生存欲の前ではいかに曖昧で、いかにもろいかをそのとき彼は見た。
立ち上がって両手を上げる者。
座りこんで武器を地面の土に突き刺す者。
自分だけは違うんだ、あいつらなんかの腰ぬけとは違うんだといくら意地を張ったところで、何も変わらない。
いるのはみじめになっていく自分。
しかし、ティぺスはすでにこの時答えを見出していた。
「必ず、生き残ってジョパルを救ってやる。」
そして強くなってやると。
自分の手で、同じ境遇を持つあのジョパルを、帝国の憎しみにとらわれた彼を呪縛から解き放ってやれたら、これほど素晴らしいことはない。
絶対に一人だけの友を失ってはいけないと、そう思った。
― 「うわあ!」
「よし、いいぞティペス。 その調子だ。 お前を明日より下士官として扱う。」
「はい。 喜んでお受けいたします!」 ―
彼は二ヴェナの軍に入隊してから、ものすごい勢いで特訓を続け、一つ上の階級の兵士との試合にも勝ち、ひと月にも満たないうちに下士官という異例の昇進を遂げた。
「今はさらに特訓を続けたおかげで、今日中隊長になったばかりなんだ。 でも、ジョパルが生きていて安心したよ。」
これまでのいきさつを話した彼は、軽く一礼して道を開けると、彼女に言った。
「さあ、ついて来てください。 王がお待ちです。 ジェスナ様。」
すっかり変わり果てたティぺスに案内されて、ジョパルたちは階段を上っていき、その先にある城の門へと入った。
重厚な造りの扉をあけると、いくつかの白く美しい柱で支えられた天井の上から、光が差し込んできた。
屋根が一部ではあるが吹きさらしになっているようだ。
幻想的な空間に彼らがみとれていると、玉座の方から声がした。
「この宮殿を造ったとき、誰もが世の感性をほめたたえた。」
彼らが声に気づいて前を見ると、そこには金髪のひげを長く伸ばした男が青いローブを肩にかけて座っていた。
「だが、珍しさゆえではなく、美しさゆえに人は価値あるものも犠牲にすると、そんな想いが込められていることを、理解したのはわずかな臣下だけであった。 たとえば、雨をしのぐには屋根が必要だ。 しかしそれでは太陽の光は入っては来ぬ。 だから、ほんの少しの犠牲を払い、天井に小さな穴をあけた。」
彼はそう言って上を指さした。
「見えるであろう。 美しきものは困難の末に手に入る。 最初から美しきものなどない。 人の心も同じように、醜い部分に気づいてそれを捨てていき、真の極みへと導かれる。 この意味が分かるかティぺス?」
「はい、陛下。」
いつの間にこんなに雲の上の存在になってしまったのかと、この時ばかりは彼らはティぺスに驚かされた。
「あまたの困難を勝ち抜いてきたお主に、これは愚問であったな。 許せ。」
「とんでもございません。 それよりも、例の者たちを連れてまいりました。」
二ヴェナの王であるウィンバートは、彼らの真ん中にいたジェスナを見て、人差し指を髪にあてた。
「娘。 そなたは確か、帝国の…」
「ラミダン将軍の花嫁です。 でも、今は違います。」
昨夜のこともあり、ジョパルのいる目の前でそれを話すのは気まずい。
彼女が黙っていると、王の方から助け船を出してくれた。
「まあよい。 帝国から逃げ出したとのうわさは、すでに世の耳にも入っておる。」
問題は二ヴェナの配下になることである。
「受け入れます。 どうせもう帝国に私たちの居場所はありません。」
「そなたは、誰だ?」
彼女の代わりに口を開いたジョパルに、王はたずねた。
レスレダは息子をわざわざ紹介するほどの者でもないと、半ば蔑視していたし、二ヴェナとの仲は悪かったせいで、ウィンバートはろくにエデモルカの王族の顔を知らなかったから無理もない。
「私は、エデモルカの王レスレダの息子です。」
「レスレダだと!」
王は目を大きくして、機嫌が悪いというより、何かに困ったような顔をした。
「あやつは最後まで私を敵視していた。 とくにこちらが拒む理由などなかったものを。 ジョパル。 我が二ヴェナの都にいたければ、好きにするがいい。 しかし、臣下の中にはお前が王子であることに不満を持つ者もいるだろう。 殺されるかもしれんし、世もそうならぬように努力はする。 それでもよいか?」
「もちろん、二ヴェナに忠誠をつくします。」
「そうか、ならばよい。」
彼らはこうして二ヴェナに家臣として仕えることになったが、その様子を影から見ていた少女が一人、ジョパルを見つめていた。
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