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 次回作が遅くなってすみません。しかし、納得のいかないうちは、投稿するわけにはいきません。(できるだけ推敲に失敗しないようにするために必要だと思ったためです。)また、この作品は波乱に満ちた物語にするつもりです。今現在は諸事情のため、不定期更新とさせていただきます。
序章 欲望と精神の狂騒
 寒さの残る優雅な朝焼けとは裏腹に、気の弱そうな男たちのうめき声が、宮殿の石で整備された広い階段の前で小さく鳴り響いた。

 階段へと続く歩道はあまりにも幅が広く、普通に叫んだだけでは音が地面にうまく跳ね返らず、下手をすれば、まったく聞こえないであろう。

 「お助けを!」

 「黙れ。」

 文官のローブを着た男たちは、イスにしばりつけられ、鎧姿の男に釈放してくれとたのんだが、男は面倒くさそうにただ口を閉じていろと忠告した。

 「もう一度だけ聞く。ゼムヘイオに出兵すると賛成するか?そうであれば、今からでもお前たちを忠実な臣下として迎えるとの、イムダイの寛大なるお言葉である。」

 階段の上から叫んだのは、金で装飾されたイスに肘をついて座る男のすぐそばで、一枚の丸く曲がった紙のしわを直す老人。

 「陛下、なりません!ゼムヘイオの帝国と戦って勝てるはずはもはやございません!私どもは御国のことを考えて申し上げているのです!」

 文官の一人の言葉を聞いた王はイスから立ち上がると、老人にひそひそと耳元でつぶやき、しばらくして老人は三人のほうへ向きなおった。

 「陛下の命により、この三人の国賊を抜指の刑に処す。イムダイの崇高なる威光の前に滅びよ!」

 老人の言葉とともに、彼らのそばにいた男が剣を取り出して、鞘を抜く。

 「おやめください!我らを殺せば、もはやこの国を滅亡へ、ぐああああああっ!」

 男が剣で彼らの指をサッと次々に切り落とした。

 石の床にはボタボタと血が滴り落ち、まだ水気のある今にも動き出しそうな指が体から分離しているのを見て、文官三人は即座にショック死した。

 「イムダイ、万歳!皇帝陛下、万歳!エデモルカよ永遠なれ!」

 文官たちの死に際を看取った臣下たちが出てきて、彼にそう呼びかけ続ける。

 イムダイとは、皇帝の名乗る称号である。

 この第6代イムダイの王レスレダ9世は、先日敵のゼムヘイオ帝国から一通の書信を得た。

 その内容はこうだ。


 ― ゼムヘイオの将軍ラミダンより、エデモルカのイムダイにこの書信を差し上げる。貴国の兵力を我が方は把握できている。無駄な血を流す前に、我らが皇帝メルダテスは貴国が降伏する事をお望みである。ただし、降伏する際にはそなたが退位されることを前提とする。 ―


 「おーのーれぇーっ!」

 この知らせを受けた時、威厳を踏みにじられた王レスレダは激しく怒り、すぐさま見せしめとしてゼムヘイオ帝国に向けて出兵するつもりでいた。

 しかし、エデモルカは帝国に敗走続きで、戦いをするには十分な兵力がなかった。

 これを知った臣下たちは、戦をするかしないかで意見を分裂させ、議会は大混乱に陥った。

 しかし全ては王によって決められるもの。

 戦争に反対する臣下は容赦なく次々と刑にかけられ、今日この日に、いよいよ最後の反乱分子が国賊として殺された。

 「エデモルカよ永遠なれ!」

 臣下たちの歓喜の声を片手をあげて制した王は、武装した兵士たちが階段の前に並び終わると同時に、唐草模様で装飾された帯剣を抜いて雄たけびを上げた。

 「ウォォォォォォォーっ!」

 その声に兵士たちも続いて叫び、太陽の日差しが差し込み始めた城内は、異常な熱気と震える剣の音に包まれた。

 「あれはなんだ?」

 「うさぎでございます陛下。」

 ふと小さな動く物体を遠くに発見したレスレダは、ウサギと聞いて鼻で小さく笑うと、兵士たちに片手を斜めに延ばし合図して、対象に向けて弓を構えさせた。

 「放て!」

 王の手の一振りで、何百もの矢がウサギに襲いかかる。

 「ギャッ!」

 ウサギは遠くから敵を察知できるように耳が長くなっているが、広範囲に広がる矢の雨を当然よけきれるわけもなく、悲鳴を上げきらないうちに第二、第三の矢がささり、地面に張り付けになって立ち上がることができず、息絶えた。

 「ハハハハハハハハ!」

 この高らかに笑うのはレスレダという名の王である。

 時と場合によっては神にも、地獄の魔王にも、鬼にもなる粗野な男だった。

 「行くぞ!出陣だ!」

 何千もの兵士が帝国に向けて行進を始めた。





 「私たちはこれからどうなるのです?」

 イムダイと兵士たちが出陣した後、宮廷に残った文官たちの前で、華やかなローブをまとった黒い髪の貴婦人が一人、文句を言っていた。

 「ジョパルはまだ、十歳にも満たないではありませんか!」

 「ですからヘレネ王妃、殿下のためにも我々はこの戦で何としても勝利せねばなりません。」

 「勝てる根拠はありまして?」

 王妃の言葉に、四人の文官たちは小さくのどでせき込みながら、気まずそうに目をそらす。

 「あなた方が、本当は戦争に否定的なのは存じております。王の性格上無理もないことだとは私とて同じ考えです。」

 しかし、と王妃は威厳を保ったまま文官たちを見る。

 「しかし、なぜ反対の声を上げないのです?あなたがたの仕事は戦争ではなく、国を守ることなのです。オスピソン。あなたはなぜ財務長官なのです?モルモゼロ、あなたもなぜ外交長官をしているのですか!それに王を補佐する大臣、ヴィシュトぺに、大臣たちをまとめる長、ムィンダンテ!これはあなたがたに託された崇高なる、民を守るための使命です。」

 「しかしながら王妃…」

 「何ですモルモゼロ?言い訳など聞きたくありません!あなたがたは、王の無謀な戦争に自分の身を守るために賛成の声をあげ、国を滅亡へと導いたではないですか!それに今日の朝、反対派の文官三名が処刑されたと聞きましたよ?あなた方が殺したと…」

 彼女はあまりにもむごい仕打ちをされた文官たちを想ったのか、気を失いかけてよろめいた。

 それを大臣たちが支える。

 「大丈夫ですか王妃。」

 「ええ、でも肝に銘じておきなさい。命に代えても、国を守るのが大臣の、文官の務めだということを。そして命を落とした文官たちを弔う意味も込め、今からでも王に私の考えを伝えなさい。それが無理なら、敵に許しを請うのです。恥ではなく、民のために。」

 「承知いたしました、王妃。」

 文官たちはがっくりした様子で用意された馬に乗り、早々と駆けていった。

 やがて文官たちが見えなくなると、ヘレネはそばに手を握っていた彼女に似て、黒髪の長い髪を一本に結んでいる少年に笑いかけた。

 「母上。父上は死ぬのですか?」

 「いいえ。死んだりはしません。死なせるわけにはまいりません。それよりもほら、服が乱れていますよ?」

 彼女は少年の上着を丁寧に整えると、彼の体を持ち上げ、大事そうに両腕を回した。

 母の目には、涙。

 しかしそれを少年に見せることはない。

 

 

 

 
 


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