Episode52 恋の予感Ⅱ
屋台テントから少し歩いた先にその工房はあった。土の賢者グノーメ様の魔道具工房。ここで彼女は日夜、商品を作りまくっているらしい。
かなり広い一間だった。土埃まみれでとても綺麗と言えるような工房じゃない。部屋の壁伝いに梯子がかけられていて、2階はないがロフトのような空間があった。そこに工具や完成した商品が乱雑に山積みにされている。
「あんたのその右腕、あたしに詳しく調べさせてくれないか?」
「いや急に言われましても」
グノーメ様は振り向き様に突然俺に吹っかけた。
「俺にもなんだか分からないです。まぁ力込めると光の粒子が噴出して体が浮くので、戦いにはよく使ってますが……」
「光の粒子?! 新種のスラスターシステムか? うーむ……右のサイドエンジンだけで体が浮くってのも不思議な話だぜ」
グノーメ様は俺の右腕と右手首をまじまじと見ながら執拗にナデナデしてきた。幼女にベタベタ触られる俺の腕。
「にしてもこんな細い手首に射出機が内包されているとも思えねぇ……ふむふむ、これは一種のコンバーターか。魔力をエーテルに変換して射出しているとも――」
「あのー……」
「これはロマンを感じる! 悪いが、その右腕、取り外してくれっ」
「できるわけないだろっ!」
シルフィード様と違ってこっちの精霊は滅茶苦茶だな。一通り、俺の右腕を眺めて満足したのか、あるいは別のことを考えたのか、グノーメ様は工房奥のソファに腰かけて脚を組み始めた。
「それでロストとやら。あんた、サプライズプレゼントを探してるんだってな?」
「ま、まぁそうです」
「ははーん………その様子、さては恋人だな?」
その幼い顔にニヤニヤとした表情を浮かべていた。恋人というのは間違っているけど、まぁそういう関係になれたら嬉しいななんて思ってたりする。
「な、なにぃ……」
それを聞いてアルバさんはまたしても頬を赤らめて体をもじもじさせ始めた。この際、アルバさんのことは無視した方が余計な会話をしなくて済むだろう。
「わ、私たちはまだそんな関係じゃないんだが、その……ロストがどうしてもって――」
「いや、ハーフエルフの女の子にちょっとしたプレゼントを考えてただけなんです! 別に誕生日とか特別な日とか、そんなじゃないから軽いものをっ!」
「む、ハーフエルフだと? それは私じゃなくてシアの――」
「くっくっく、なるほどな。わざわざ男からプレゼントだなんて女々しいやつだぜ」
もしかしてこれ思春期ってやつか。本でよく見かける二次性徴の一つ。だったら女々しくても仕方ないさ。だって男の子なんだからなっ!
「よし、交換条件といこうじゃねぇか……あんたのその右腕を調べさせてもらう代わりに、あたしが特別にプレゼント用の魔道具を作ってやってもいいぜ?」
「え、本当ですか?!」
まさか賢者お手製の魔道具をつくってもらえるなんて。
それこそ本当にサプライズじゃないか。
それだったらシアも喜ぶこと間違いない。
でも、俺の右腕を調べるってどうやって――。
「でも調べるってまさか右手を切断するとかしないですよね」
「もちろんさ。一晩だけこの工房で横になっててくれればいい。ただし、魔道具作成にはちょっとばかしの金は頂くけどな」
あぁ、それもそうか。全部タダってわけにはいかない。退魔シールドで1500万ソリドってことはそこまで大したものは作ってもらえないかな。
「そのハーフエルフってのは何が欲しいんだい?」
「それが、いろいろ考えてたんですが……まだ悩んでて」
グノーメ様は目を細めて口角を上げると、俺をからかうように見つめてきた。
「女ってのはよ、異性の男らしさに惚れるってもんさ」
「男らしさ?」
「そうさ。いわゆる漢気ってやつよ」
幼女の分際で漢気を語るか……いやグノーメ様はこんな姿でももう長年生きているんだ。見た目で騙されちゃいけない。
「男はロマンを追いかけなきゃいけねぇのさ。あんたなりのロマンってやつをな。それをその女に見せつけてやりゃぁイチコロさ」
なるほど。いや、しかしプレゼントにこっちの漢気を見せつけるような物を渡しても迷惑じゃないのか。それとも、そうやってウジウジ悩むこと自体が男らしくないってことなのか。俺がこれを選んだんだからこれを黙って受け取れって、そういう態度が漢気……?
分からない。
「仕方ねぇな。こっちに付いてこい。女々しいロストに男のロマンってやつを見せてやるよ」
幼女に男のロマンの何が分かるんだと思うが、相手は賢者だし、細かいことは気にしない。そう言うとグノーメ様は組んでいた足を颯爽と解いて、すっと立ち上がり、工房の奥の方へと歩いていってしまった。俺とアルバさんも首を傾げながらそのあとに付いていった。
奥へ行けば行くほど埃っぽさが増していく。
…
魔道具工房は思いのほか広かった。奥に行けば行くほど、もっと広い空間が待っていた。そこに置いてあるのは何に使えるのか分からない大きな機械ばかりだ。
「まずはこいつを紹介しようじゃないか。あたしの自慢のメカだ」
そうして取り出したるは大砲……じゃないか。なんだろう、筒状のものに様々な付属品が付いている。手で握れるようにハンドグリップも付いている、そして指先にトリガーがかかるようになった大筒の兵器だ。
―――Virginal Arms。体が簡単にはじけ飛ぶから覚悟してね。
広いホール。黒衣を纏った白い髪の女性。赤い瞳。向けられた砲口。
頭が痛い。なんだろうこの既視感は。今回ばかりは強烈だった。
「こいつの名前はレールガンさ。メタルスケルトンが迷宮で発見されて以来、電撃骨子が手に入ったんでな。電磁誘導を利用して弾丸を飛ばす。すげえ威力だぜぇ」
「メタルスケルトン……そういえばそんなもの狩りまくってたな。まさかその骨がこんなところで利用されているとは」
その銃口を壁に向けて、グノーメ様は遠慮なくレールガンをぶっ放した。キュイーンというチャージ音の後、どがーんと激しい音が響き渡って、工房の壁に大きな風穴が空いた。
「くっくっく、ロマンを感じるだろう?」
グノーメ様は得意げに振り返った。
「こんなもん女の子にプレゼントできるわけないだろっ!」
「なに? このロマンをわからねぇのか」
「というかその漢気ってやつ必要ですか?!」
アルバさんもその光景に唖然としている。
「すごいパワーだ。これでシアの心臓も射止められる事だろう」
「射止めるっていうか完全に殺しにかかってるよっ!」
それからグノーメ様は調子に乗ってありとあらゆる魔道具を紹介してきた。飛び出すロケットパンチや高速で地面に穴を掘るボウリングドリル、伐採に使えるチェーンソー……どれも聞いたことのないような兵器が山ほど出てきた。
グノーメ様曰く、もう剣やら槍やら斧やらツルハシは旧時代の物だとか。 新時代の兵器はこうでなくちゃいけないと……でも怖ろしい兵器だ。こんな人が造りだしたアーセナル・ボルガって一体どんな兵器なんだろう。
ある程度グノーメ様のロマンを見せつけられて、アルバさんが思い出したように片手をぽんと打った。
「そういえばこないだシアとお買いものしていて聞いたことなのだが―――」
「なんだ? なんか欲しいもののヒントか?」
アルバさんはある日の出来事を語り始めた。
◆
「今日は天気が良すぎて暑い。こういう日はオカイモノに向いていないのではないか?」
「そんなことはありません。むしろ逆です」
マーケット通りをだるそうに歩くアルバさんに対して、シアは忠告を入れた。
「天気が良い日こそお買いものも捗ります。ただ、こういう日は日傘があればベストですけど」
「ヒガサ?」
「太陽の光を防ぐ傘です」
「雨も降っていないのに傘をさすのか?」
「アルバさんは太陽光に強そうですけど、私は強く浴びすぎると火傷してしまうんです」
「なるほど、不便な体だ」
そうしてアルバさんはシアの後ろをだらだらと付いていくのだった。
「シアはヒガサを持っていないのか?」
「欲しい欲しいと思っていてもいざ買いに行くほどのものでもないので」
◆
「という話だ。シアはヒガサが欲しいと言っていた」
アルバさん、グッジョブすぎる。
まさにシアが欲しいものを聞き出している。
それだよそれ。
太陽がギラギラ照りつけるこのアザリーグラード。
そして色白で日光に弱い、買い物好きのシア。
そこで俺が日傘をサプライズプレゼント。
まさにシアのことを考え抜いて選んだプレゼントだ。
「うーん、太陽の光を防ぐ傘か……」
グノーメ様もそれを聞いて何やら考えている。というか、日傘くらいだったらわざわざグノーメ様に頼まなくても買えるんじゃないかな。
「グノーメ様、というわけで日傘を買うので、魔道具の方は……」
「ダメっ! 全然ロマンを感じねえ!」
「えええ」
グノーメ様は俺を指差して断言した。その強い眼差しに、シンプルな日傘をプレゼントしようとしていた俺自身が恥ずかしくなってくる。
「男のロマンっていうのはアイディアが大事なんだぜ? ロストにもそれを分かって欲しくてここに連れてきたんだからっ」
「そう言われましても……」
「日傘といってもただの日傘じゃつまらねえ! あたしが造る特注の日傘じゃなきゃだめなんだっ」
精霊とか賢者っていうより職人みたいな人だな。
見た目は幼女のくせに、拘りが強すぎる。
「まず太陽の光を防ぐ傘は闇魔法の力を付与することで可能だ。傘を開いたとき、その下に闇が広がるように施せば、どんなに太陽が照りつけようとも差してる本人は一切日光に当ることはない」
そんなに太陽の光をシャットアウトしちゃう必要ないだろっ!
グノーメ様はどこから取り出したのか分からないが図面みたいなものに傘の構造を作図し、そこにどういう魔法を加えるか書き記し始めた。
「ほう、そんな事もできるとはな」
アルバさんも関心を示して両腕を組んでうんうんと頷いている。
「ならば使う場面が暑い日というのもあるからな。傘のハンドルから水が出てくるというのはどうだ? 私なら暑い日には水を飲みたい。水魔法なんてものも使えんからな」
「はぁ?!」
「いいねえ、採用だ。傘のハンドル部分には蛇口を付けてそれをひねれば水が溢れ出てくる。素晴らしいアイディアだ。アルバもなかなかに創造力が働いてきたじゃねえか」
そんな調子で、俺を置いてけぼりでグノーメ様とアルバさんは2人で特注の日傘を考案し始めた。
「そして欠かせないのはやっぱりレールガンだっ。石突からはレールガンが射出できるようにしようぜ。メタルスケルトンの骨で基本骨子を作ればいける」
「え……え?!」
「水、雷と来たら炎魔法も付けてしまうのはどうだろうか。せっかくだからな。この骨の放射状に広がる先からそれぞれ炎が出るようにはできないか?」
「それいいな、炎魔法はブースターだっ! それぞれの露先から火を噴けば、空も飛べるロケットになるっ」
もう何がなんだか分からない兵器が完成しようとしていた。
○
「ロスト、できたぜ……」
翌日、不安とともに魔道具工房を訪れたところ、徹夜明けなのか目の下に真っ黒な隈を浮かべて出てきた幼女グノーメ様。そこまでしてもらって悪いという気持ちはある。だけど、この世にはありがた迷惑という言葉もあるんだ。
俺はそんな謎の兵器を作ってくれとは一言も言ってない。
グノーメ様から手渡された日傘は、一応、日傘の形態は維持していた。
しかしその機能を知れば、誰もが震え上がる兵器なんだろう。
「ちょっと実験だ……こっちにきやがれ……」
相当疲れているのか、グノーメ様は言葉に覇気がない。
そうしてその日傘の性能を確かめた。
まずは普通に開く日傘。
ここまでは普通だ。いい感じに日陰も出来て涼しさが確保できる。
だが問題は中の棒についている3つのボタンと、握りしめるハンドル部分にある蛇口だ。傘を一度畳んで下に向け、ハンドルの蛇口を捻れば先端から水が際限なく出てくる。
ま、まぁこれはいいだろう。
ちょっとしたオモテナシと思えばまだ許せる。
次は、中の棒の3つのボタン。
一つ目は黒いボタン。押せば、傘下に完全なる闇が展開される。これを使えば太陽の光が一切入ってくることはない。さらに外からは暗黒しか見えないので差している本人が誰だか分からなくなる。
2つ目は青いボタン。押せば、先端の石突からレールガンが放出される。チャージ音後に轟く激しい轟音により、どんな標的も木端微塵にする破壊力を併せ持つ。
3つ目は赤いボタン。押せば、放射状に広がったそれぞれの露先から炎が噴出される。強く押し込むと、傘は浮力を持って空へと飛ぶ。差している本人も傘を持ちながら、空を自由に飛べるのだ。
「どうだ……ここにまた、あたしの力作が完成してしまったぜ……」
「あ、えーっと……ありがとう……ございます」
「ふ、大負けに負けて500万ソリドだぜ」
ぼったくりだった。
俺は全財産をはたいて、その日傘を買わされた。
…
特注日傘のことを、俺はヒガサ・ボルガと名付けた。
土の賢者グノーメが造りだした新たな兵器ヒガサ・ボルガ。
その性能は常人には理解できず、狂人だったら発狂して喜ぶ最凶兵器。
申し訳程度にリボンを巻き、「サプライズ!」と書かれたメッセージカードを添えてシアの廃屋の玄関先に置いた。
あとはシアの帰宅を待つだけだ。
帰りを待って、その日傘を手にした瞬間、俺は飛び出して言い訳する。
変な兵器を買ってしまったんだけど日傘に使えそうだから使ってみてくれ、と。
これでいくしかない。
そしてシア・ランドールはいつもの調子で現れた。
いつものように買い物袋を提げて、家へゆっくりと歩いていく。
「………」
俺は固唾を飲んで見守った。
シアがヒガサ・ボルガに気付いた。
そして手に取って、メッセージカードを読んでいる。
今だ――!
「サプラーイズ!」
飛び出した俺。
「ロストさん?」
あぁ、その瞳で見られると緊張する。
というかサプライズと飛び出して何言うつもりだったんだっけ?
いや、そもそも笑顔が見られればそれでいい。
プレゼントの中身じゃなくて、サプライズプレゼントという行為で喜んでくれ。
もうそれしかない。
だけど、シアは俺が思っていた以上に表情が硬く、その顔を綻ばせることはなかった。
「なんですかこれは」
「あ、いや、変な武器を買ってしまったんだけど、よくよく見たら日傘になりそうだったから――」
「というか、どう見ても日傘です」
それもそうだ。
外見的には明らかに日傘にしか見えない。それを武器として買う奴がいたらただの変人だ。まるで俺が日傘を見て武器と見間違えたみたいに思われてしまうじゃないかっ!
シアはその傘のハンドル部分の蛇口を眺めたり、傘を開いてみたりして、その形態を確かめていた。
「これを頂けるんですか?」
「そ、そうだ。ほら最近日差しが強いし、シアは日光に弱そうだからどうかなーと思って」
「………」
そしていつもの通り、無愛想なじとーっとした目を向けられた。
あれま、失敗。
「このボタンは?」
シアは開いた日傘の中棒にあるスイッチに気付いた。
「あ、それは説明するけど――――」
俺が言葉を挟む寸前に、シアは押してしまったようである。
押したのは青いボタンだった。
先端の石突は俺の方に向いている。
「あぁ、待て待てっ!」
チャージ音の後に俺に向けてレールガンが放たれる……!
まずい、死ぬぞ!
思わず身構え、しかし恐怖心で足がすくんで尻餅をついてしまった。
ぎゅっと目を瞑った。
―――パァンッ!
だがその直後、鳴り響いたのは乾いたクラッカー音。
俺に向けて放たれたのは電磁誘導された弾丸ではなかった。
細かい色紙やカラフルな紐が俺の頭に降り注いだ。
「へ………」
レールガンじゃない? なんだこの紙切れは。
「ふ………」
そしてシアと目が合った。その口角は釣り上げられ、ニンマリ顔。だけどそのニンマリ顔も崩されて、シアは大きな声を上げて笑いだした。
「あっはは」
その時、俺は初めてこの子の本気で笑う顔を見られた。
「「サプラーイズ!!」」
その直後、飛び出してきたのはタウラス、ユースティン、アルバさん、グノーメ様の4人だった。俺はその瞬間、理解した。サプライズで驚かされたのは俺の方だったようだ。なるほど、すべて筋書き通りということか。
これまでの事は全部、踊らされていたんだ。
でも何のために?
「こ、これは―――」
「無様だな、ロスト。まさか本気で気づかないとは」
そういえばサプライズプレゼントを提案してきたのはユースティン。
「なかなかに楽しい余興だったぞ。そもそも私が迷宮に行かずにマーケットなど回る性質ではないことは理解していよう」
休みだと言って突然マーケットに現れたアルバさん。
「最近お前が元気なさそうだったからよ、ちょっとしたスパイスってやつだ。どうだ?」
タウラスも裏で動いていたのか。
そしてグノーメ様……なんでこの人が?
「あたしは途中参加だ。面白いものを観させてもらった。くっくっく………」
あぁ、そうか。そういうことかよ。
みんなして俺をはめて笑いものにしていたのか。
俺の恋心を弄んでくれてありがとう……。
○
夜更けのシムノン亭―――もはやここに通うことが毎晩の日課だ。
カウンター席で空いた皿をぼんやりと眺めながら、溜息をついた。
「はぁぁ……」
みんなの気持ちはよく分かる。俺がこうやって元気なさそうにしてるから驚かせて元気づけようとしてくれたんだろう。でも、シアに対しての気持ちは本気だし、その感情を逆手に取ることはないじゃないか。
ん……待てよ。
ってことは最初からシアも俺の気持ちに気づいてるのか?
それだったらどうしろってんだよ。
会わせる顔がない。
「知ってるか? 最近マーケットに変な化け物が出るらしいぜ」
テーブル席の方から、他の冒険者たちの会話が耳に届いた。
「あぁ。なんでも日傘を差してて、闇に溶け込むんだってな。しかも火を噴いて空を飛ぶらしい」
「らしいな。青い髪した女だってよ」
―――ギィ……ギィギィと、留め金が軋む音。
酒場のスイングドアが開いて閉じて開いて閉じて。
そこから青い髪した女の子が入ってきた。
「ひ……あれだ……化け物だ………」
冒険者たちはその姿を見て驚嘆した。
それぞれ顔を引き攣らせて、その天使を化け物呼ばわりしている。
その青い髪の化け物天使は俺のところまで歩み寄ってきた。
「あら、ロストさん」
「なんですか、シアさん」
俺はカウンターに突っ伏してそっぽを向いた。
顔向けできる気分じゃない。
「プレゼントありがとうございます。大切に使ってます」
「みたいだな」
どうやら俺へのドッキリ企画だったとはいえ、贈り物はちゃんと受け取って使ってくれてるらしい。それだけで俺はもう満足だ。彼女を笑わせられるなら喜んで道化になろうじゃないか。
まぁ日傘で空を飛ぶ光景は至極、滑稽だけどな。
ヒガサ・ボルガは結局レールガン機能も、ロケットブースター機能も付いている。大金払って買ったんだし、グノーメ様にはちゃんとした物を用意してもらった。
好きな子へ、そんな兵器をプレゼントする俺って異常者なのかも。
「巷じゃ化け物呼ばわりされてるみたいだぞ」
「ええ、そうですね」
シアは事も無げに、冷静に、いつもの口調でそう答えた。
俺の気持ちに気づいているくせに。
ずるくないだろうか。
これで放置プレイだったら俺だってどうしていいか分からないぞ。
それともちゃんと告白して欲しいタイプの子なのかな。ユースティン曰く、ちゃんと言葉で伝えて欲しいっていう女の子も多いそうだ。だけど、その後のことを考えると言葉にするのには勇気がいる。拒否されたら気まずくなってお互いこうして一緒にいられなくなってしまうし。
顔を伏せながらいろいろと考えていた俺に、シアは俺の後ろに回り込んで、肩にそっと手を置いた。口元が俺のうなじに近づいているのを感じた。
「化け物同士、よろしくお願いします」
小声でふっと囁かれた。
俺は顔面が真っ赤になるのを感じてより深々と顔を伏せた。
そういえば初めて俺のことを化け物呼ばわりしたのはシアだったかな。
それが今じゃシアが化け物呼ばわりされている。
俺のプレゼントによって。
「ん……よろしくお願いします?」
「はい」
シアの方を振り返る。
「どういう意味だ」
「そういう意味ですけど」
「そういうってなんだ」
「そういうはそういうです」
またはぐらかす。
まぁ、シアの笑顔も見れたし、今回はこれでいいか。
今より一歩先の関係になるのはもっとお互い成長してからかな。