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魔力の系譜 ~名も無き英雄~  作者: 胡麻かるび
第2幕 第1場 ―記憶探し―
56/322

Episode47 最強の証明


 ある日の晩。


「よし、決めたぞロスト」

「じゃあ出すぞ? せーのっ!」


 俺の札 弓C vs タウラスの札 光S


「あぁぁ! またかよっ!」


 俺とタウラスはシムノン亭で暇つぶしがてらに「インクライズ」というカードを使って遊んでいた。

 2人でも簡単にできる"ウォーリア"が人気だ。


「ロスト、お前透視スキルでも持ってんのか?」

「そんなものないって。直感スキルならあるけど」

「直感?! 直感ってお前、山奥の獣人族が持つっていうチートスキルじゃねえか!」


 もしかして俺って獣人族?

 いや、違う。マナグラム上では人間と魔族のハーフだ。


「タウラスは顔に出やすいんだよ。直感が働かなくても誰だって分かる」

「くっそー」

「ってわけで今晩もお代よろしく!」


 ウォーリアは1:1で賭け事にもよく使われる。こんな感じで最近はシムノン亭でどっちが奢るか賭けて対戦するのがブームだ。

 といっても、俺はこの勝負で未だに負けたことがない。だいたい相手が何のカードを出してくるのが分かる、っていうのもあるが、このゲームのコツを熟知している。ハッタリの掛け方や勝負の持っていき方。

 要するに度胸が大事ってことだ。

 でも、どこで覚えたんだろうな。



「そこのお前」


 カードで盛り上がっているところ、声をかけられた。

 盛り上がりすぎるとこんな感じで注意を受けることがある。

 もう慣れっこだけど、突っかかってくる客には謝るしかない。

 俺は見た目もまだ子どもってのもあって、謝ればだいたい許してくれる。


「うるさくしてすみませんでした!」


 俺は椅子から立ち上がり、振り返ると同時にすぐ頭を下げた。


「なんのことだ?」


 っていうか、声がわりと高い。

 わりとっていうか、女性の声だ。

 ハスキーで張りのある声だった。

 恐る恐る頭を上げて、視線を上に向けてみた。 

 目の前にはでかでかと映る二峰の山。

 で、でけえ……。


 褐色の肌にブロンド髪の女戦士が仁王立ちしていた。

 その胸を覆う胸甲は、金属部分が少なくて2つの山を隠しきれていない。

 鎧として意味があんのかこれ?

 だけど、プレートブーツやガントレットはがっちりしていて、剣と盾も背中に携えていた。というか全体的に露出度が高い。胸以外には腕、脇、太ももはその褐色の肌を惜しげもなく露出させている。

 一言でいえばえろい。

 そんな豊満な体とは別に、きりっとした顔。

 顔も美人の部類に入るだろう。


「ひゅー」


 タウラスがその人に反応した。周囲にいるシムノン亭に居る野郎どもはこぞってその女戦士をいやらしい視線で眺めていた。


「めちゃくちゃいい女じゃねえか!」

「やめろ。見世物ではない」


 見世物じゃないならそういう格好はやめろよ。


「お前ではなくそこの小僧に話がある」

「な、なにぃ。ロスト、お前歳は?」

「あー、まだ11だけど」

「そ、そんな……」


 タウラスは11歳の子どもに負けたと感じたのかショックを受けていた。


「そこの男も大して変わるまい。この青二才が」

「え、そうなの? タウラスっていくつなんだ?」

「俺は15だな」


 うそだろ?

 けっこう長い仲だけど、初めて知った。額の傷のせいで20歳くらいに思ってた。いや、額の傷だけじゃなくて野良パーティーのリーダーを率先してやるからっていうのもあるけど。


「お姉さんはいくつなんですか?!」


 タウラスが気持ちを切り替えて声を張り上げた。

 失礼じゃないのか。


「私は16だ」

「「変わらねえじゃん!」」


 俺とタウラスの声が重なった。



     …



 女戦士は俺とタウラスと同じテーブルにどしりと腰かけた。

 16歳のわりに豊満な体だ。


「小僧、名は何という?」


 ずいぶん偉そうな人だな。


「ロストだ」

「俺はタウラスでーす!」


 タウラスは身を乗り出してアピールしていた。


「お前には聞いてない。私はアルバ・サウスバレットだ」


 アルバさんか。

 腕も組んでるし、喋り方もずいぶん偉そうな印象だ。


「ロスト、お前は直感スキルというものを持っているそうだな」

「まぁそうだが、それがなんだ?」


 偉そうなやつには偉そうに返してやるさ。

 今までその顔と体でずいぶん得して生きてきたんだろう。

 それでこんな偉そうな性格になったに違いない。


「ランクは?」

「Aだ」

「なに? ということは相当、直感の効く人間ということか」

「そうだ」

「………」

「………」


 沈黙が走る。

 正直、圧倒されそうだ。

 アルバさんのその気迫。

 なにか真に迫るその眼差し。


「………」


 いつまで黙ってんだよ。

 俺に対する挑戦か?

 度胸試しか?

 いいさ。続けてやるぜ。

 このにらめっこをな。

 絶対先に目をそらすもんか!


「頼む! 私とパーティーを組んでくれっ!」


 がたんとテーブルに両手をついて、急にアルバは頭を下げた。

 な、なに……頭を下げられる人間だったのか。


「なんだ? どうした急に?」

「なんだとはなんだ。私が頭を下げているのだ。恥をかかせるつもりか」


 周りもなんだなんだとアルバさんの方を眺めていた。

 主に胴体から下に垂れる特大の胸を見物するために。


「いいから頭を上げろ」

「ふむ、では明朝から私とパーティーを組んでもらおう」

「切り替えはやっ! てか別に返事してねーよっ」

「今、"いいから"と言ったではないか」

「それはOKって意味じゃない! とりあえず、みたいな意味だ」


 この女戦士、けっこう頭の方は残念なタイプなのか。


「オーケー、オーケー。とりあえずロストとパーティーを組みてえってんなら、まずリーダーの俺を通してからにしてくれ」


 そこに口を挟んだのはタウラスだった。


「いつからお前と正式にパーティー組んだんだよ」

「いつも野良パーティー組んで冒険してる仲じゃねえか」

「まぁそれはそうだけど」


 確かにタウラスが仲介人になって野良パーティーに参加させてもらってる機会は多い。それはもう野良とも言えないかもしれない。


「ってわけだ。アルバさん、まずは俺と、な?」


 タウラスは座っているアルバさんにまで近づいて、肩に手をかけた。


「あ、艶やかな肌に思わず手が滑った―」


 そしてその肩に置いた手をアルバさんの胸元へと滑らせ、露出した部分を思いっきり揉もうとしていた。なんて狡いやり方だ。さすがタウラス、度胸がある。その未知への挑戦、まさに冒険者のリーダーを務めるに足る器を持つ男だ!


「ふんっ」


 だが、その腕が胸に辿り着く前、アルバさんは背負い投げでタウラスを吹っ飛ばした。がしゃんと大きな音を立てて派手に倒れるタウラス。

 アルバさん、とんでもない馬鹿力だ。

 全身筋肉でできているんだろう。


「……はっ、すまない」

「いや、あれでいいっす」

「そうか。それでは明朝から私とパーティーを組んでもらおう」

「だから、OKって意味じゃない!」


 この人、自分の思ったように会話の流れを変えちゃう性格みたいだな。



     …



 タウラスの治療が終わって、とりあえず事情を聴くことにした。

 ちなみに店の修理代はタウラスが払うことになった。


「私は最強を目指している」

「は、はぁ……」


 初対面の人に最強を謳う女の人を初めて見た。


「アルバ姉さん、さすがっす!」


 タウラスも顔中、包帯まみれになりながら声援を送った。

 とりあえずタウラスは黙っていてくれ。


「だから私とパーティーを組んでくれ」

「いや、端折りすぎだから! もうちょっと何をするのか説明してくれよっ」


 驚くほどに会話が先に進まず、足踏みしている。


「ふむ……。この街で最強を証明するには大迷宮の攻略しかないと思っている」

「大迷宮の攻略!?」


 反応したのはタウラスだった。

 いつしか真面目モードに切り替わっている。


「大迷宮を攻略したパーティーは未だにいねえんだ。どんな最強パーティーで踏み込んでも絶対に無理だぞ」

「なぜそう決めつける?」

「だってゴールがあるかどうかも分かんねえからな」


 アルバさんはそれを聞いて諦めるどころか挑戦的なまなざしをタウラスに送った。


「私の調べた情報によると、今記録されている最下層は41層のようだな」


 アザリーグラードの迷宮で踏破できている階層は41層。それより下へ入ったパーティーで、無事に帰ってこれた者はいない。迷宮は20層を超えたあたりからトラップが増え、魔物の強さも規格外になる。

 30層を超えるとダンジョン自体が常に構造を変える。

 それゆえ引き返そうとしても引き返せなくなるらしい。


「その記録を破れば最強を証明できよう」

「な……42層を目指すってのか?」

「うむ」

「………」


 42層より下に何が待っているのか。

 大魔術師エンペドが造りだしたリゾーマタ・ボルガは迷宮の地下深くに眠っているという話だ。シルフィード様の話ではリゾーマタ・ボルガで記憶を取り戻せる、あるいは素性が分かるというような事を言っていた。だけど記憶を取り戻すだけにしては、かなりリスキーな挑戦だ。


「20層以降、獣人族の直感スキル持ちがいればずいぶんに楽になる、と聞いた」

「聞いたって誰にだよ」


 タウラスがうさん臭そうに尋ねる。


「情報屋だ」

「………その情報屋ってのは信用できるのか?」

「当たり前だ。なにせ、高い金を払ったんだからな」


 えええ。

 この人、高い金払えば正しいと思ってるのか。


「それってぼったくられただけじゃなくて?」

「なに?! 高い金を払えば確実な情報を教えてくれるんじゃないのか!?」

「どんな法則だよ」


 どうせぼったくられたんだろう……。


「この鎧も最強の鎧だというから高い金を払って買ったんだ」

「最強の鎧がなんでこんなに肌剥き出しになるんだよっ」

「知らん」


 だめだ、この人。



     …



 最強の証明か。

 興味がないわけじゃない。

 俺だって強いんだぞって周りに知らしめたい。でも記憶を取り戻すために目立つことはやめようって決めたから、力を抑えて今まで過ごしてきた。

 だけどそれも最近諦め気味。

 そろそろ思い通り力を発揮させてもいいんじゃないか?


「ロスト、今回のはさすがにちょっとやばい。アルバさんは良い女だけど頭の方が残念そうだ」


 タウラスの意見に俺も同感だ。

 でも、そもそもなんで最強の証明を目指しているのか。証明なんてなくても私は強いって実感できればいいだけの話じゃないのか。


「戦闘経験は?」

「もちろんある。北の方では巨人族との決闘に勝ち抜いた経験もある」


 巨人族―――文字通り、体が大きい種族だ。魔力や敏捷力は低いが、筋力で言えば普通の人の3,4倍はあるとか。


「それなら十分強さを証明してきたんじゃないの?」

「だめだ。それだけでは最強ではない。どんな街でも一番を証明しなければ、世界で一番強いということにならない」


 意地っ張りだな。


「ところでアルバさんは迷宮には何層まで行った事があるんだ?」

「私か? そもそも入ったことがない」


 入ったこともないのにあんな自信満々に踏破するとか言ってたのかよ。


「この街の人たちは迷宮を中心に生活している。その迷宮の最下層まで行ったのが私なら、この街の最強は私ということになる」


 こんな調子だと放っておいたら勝手に迷宮に潜ってそのままあの世行きってこともありうる。

 お節介だけど、なんだか心配だ。

 死なれたら後味も悪いし。


「わかった。パーティーを組んで迷宮にいこう」

「本当か!」

「ロスト、おまえ!」


 タウラスが俺を止めようとした。


「このまま放っておけない。それに、迷宮の奥地まで行けば自分の甘さを実感して諦めてくれるかもしれないし」

「それもそうだが……」


 俺だって迷宮の何層までいけるのか興味がある。

 腕試しってやつだ。


「ありがとう! お前はいい男だなっ」


 初めてアルバさんの笑顔を見た。

 その顔は今までの印象と打って変わって歳相応に感じた。



     ○



 そろそろシムノン亭から解散。

 迷宮探索はいろいろ準備をするのは大変ってことで3日後にした。

 タウラスもそれまでに出来る限り強い冒険者を集めてくれるらしい。

 文句言うけど、タウラスもお人好しなんだろうな。

 タウラスはそんな感じで慌てて仲間集めに出て行ったのだが、アルバさんは店を出ても俺に付きまとっていた。


「ロスト、お前はどこにいくのだ?」

「いや、だから宿屋に帰ってもう寝ようかと……」


 後ろからべたべたと俺の肩に腕をかけて、胸を首筋に押し当ててくる。


「なに? では私もそこに泊まろう」

「ご自由に」

「その部屋にはベッドは2つあるか?」

「え?! 相部屋するのか?!」

「そこに泊まると言っただろう」

「違う部屋に泊まれよっ! なんで同じ部屋なんだよ」


 俺の貞操を奪うつもりか、この人。

 というか守る貞操があるのかどうかも分からない。

 11歳だし、さすがにまだ童貞だろう。

 そんな調子で宿屋へ向かって歩いていたところ。


「あ―――」

「ん?」


 通りの影からシアが出てきた。俺とアルバさんを交互に見て、なんだか汚らわしいものを見たような目でこっちを眺めている。


「シア、勘違いするなよっ」

「勘違い? なにを違えるというんですか?」

「今汚いものを見るように俺を見ていた」

「それは、気のせいというやつです」

「それならいいんだけど」


 こんな場面見られたらシアの好感度だだ下がり間違いないじゃないか。


「そこの子ども、ロストと知り合いか」

「たぶん、そうです」


 多分じゃなくてそうだろ。


「多分? 知り合いではない可能性があるのか?」

「ええ、たぶん」

「なんだと? 多分知り合いではない可能性があるということは、人違いの可能性もあるのか?」

「ええ、たぶん」

「それも多分? 人違いの可能性もある……ということは、知り合いじゃない、のか?」

「なんでそうなるんだよ! 普通に知り合いだっ」


 話が進まない。

 シアも完全にアルバさんをからかってる。


「ええ、そうですね。あるいは―――」


 そう言ってシアは俺の脇に近寄り、アルバさんから引きはがすように腕を引っ張って擦りついた。


「知り合い以上の関係、という可能性も」


 アルバさんはその光景を見て目を丸くさせた。


「な、なにぃ……知り合い以上の関係だと?」

「ええ、たぶん」

「多分? 多分、知り合い以上の関係の可能性がある、ということは―――」

「やめろやめろ! なんだよその進展性のないやりとりは!」



     …



 シアにも一通りの事情を話して迷宮攻略の話を持ちかけた。


「なるほど。面白そうです」

「一緒に行ってくれるのか?」

「いいですよ」


 シアは2つ返事だった。

 そのあと、小声で俺に耳打ちした。


「ロストさんがいれば大丈夫でしょう」

「実際、30層から40層のレベルはどんなもんなんだ?」

「知りません。少なくとも、そこを狩り場にしている冒険者でもスケルトンを一発で骨粉に変えられる能力はありません」


 ってことは通用すると考えていいか。


「ただ問題は敵の強さよりもダンジョンの構造自体でしょう。最悪何日間も帰れなくなる可能性もあります」


 迷宮は激しく構造が変わるらしい。

 そんな中、無事に戻ってこれるんだろうか……?

 最悪、魔物にやられることはなくても餓死という危険性はある。

 シアの家と俺がいつも利用している宿屋の分かれ道までたどり着いた。


「それじゃあ3日後に」


 いつもの調子で適当に挨拶して別れようとした。


「ちょっと待ってください」


 シアが背中から呼び止めた。


「なぜアルバさんも同じ方へ歩いていくんですか?」

「む? 私も同じ部屋に泊まるからだ」

「同じ……部屋……」


 いや、さすがにそれはないだろ。


「さすがに別の部屋に―――」


 言いかけたタイミングでシアが近寄ってきた。


「では、私も同じ部屋に」

「え?! いや、2人とも別の部屋で寝てくれよ」

「なに? そういうわけにはいくまい」


 アルバさんが平然と答える。


「なぜなら私には金がないからな」


 だからなんでそんなに自信満々なんだ。


「金がなければ宿には泊まれまい。だからロストの部屋で寝るのだ」

「あ、そういえば私もお金がなかったです。だから今日はロストさんのお部屋で寝ましょう」


 家があるシアの理屈はおかしい。


「だったらシアの家に2人で寝ればいいだろ!」

「私はこの子どもを信用したわけではない。一晩明かすわけにはいくまい」

「私もアルバさんをよく知りません。2人っきりは気まずい、というやつです」

「………」


 俺だってこの金髪褐色肌の女戦士の素性を知らないよ……。

 その日の晩、1つのベッドではあまりにも窮屈だったが、シアもアルバさんも無理やりベッドに入り込んできた。あまりにも窮屈だったので俺だけ床で寝た。シアとアルバさんは仲良さそうに抱きしめ合って寝ている。

 色白と色黒のコントラストだ。

 もうお互いを信用し合ってんじゃねえかよ。



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