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ツギハギ
作:ふあ



9 天秤と二つの背中


 フリークスの男が言っていたことの意味は、すぐに分かった。
 それから一週間と少しが経ち、この間に、金属義肢装着者による犯罪が各地で立て続けに続いた。その全てが、犯罪組織「フリークス」によるもののようで、捕まった者は全て心臓麻痺で死んでしまっている。とはいっても、禁止されている技術による犯罪の、前代未聞の増加に、世間は揺らいだ。その犯罪の中身は多種多様で、目的などは全く不明。流石、日本最大規模の犯罪者集団というだけあって、個人的に彼らの目的等を追っていたとかいう連中が、分かった風な顔をして解説をしている様子が、テレビなどでもしょっちゅう目に付く。その内容もまた多種多様で、信憑性はまるで無い。金属義肢に使用されている物質が電波のようなものに反応して、このような行動を起こしているのだという馬鹿馬鹿しい推測をする者もいるが、それでも、何も知らない一般人はそうなんだと頷く。
 兎にも角にも、いてはならないはずの者による犯罪だ。政府は、どうして今まで彼らを野放しにしていたのかという言葉が、一般人からかけられ、ようやく全国の対象者への徹底的な洗い出しが開始され、禁止法はこれまでになく強化された。
 彼らは、一体何を考えているのだろう。たった一人の人間を引き入れるために、貴重な人員を割いているのだろうか。OCで構成されているはずの彼らの中では、金属義肢装着者の立場は、比較的はしの方だと思う。しかし、それでも、無いはずの技術を持った人間だ。むざむざ捨て去るだろうか。
 本当は、この状況を見て楽しんでいるだけなのかもしれない。それこそ、理由ともいえない理由だが、愁はあの男の笑い声を思い出し、あながちあり得ない事ではないと思った。もちろん、自分に脅しをかける意味合いもあるのだろう。その為に、すでに幾人かの犠牲者も出てしまった。このままだと、更に犠牲者は増えてしまうかもしれない。かといって向こうについても、人殺しを強要される事に変わりは無い。何があっても寝返るつもりは無いが。
 どうすればいいのだろう。
「おい、ちょっといいか」
突然声をかけられて、愁ははじかれたように顔を上げた。
「これ、情報部まで持ってってくれないか。今どうしても手が離せないんだ」
「分かりました。情報部ですね」
頷きながら立ち上がって、愁は封筒を受け取る。「悪い」とすまなさそうに言って、彼は忙しそうに席に戻っていった。
 そして、情報部の方は年末並の騒ぎになっており、受話器を置いたばかりの男に封筒を差し出すと、彼は礼を言って受け取った。
「まったく。敵さんも今更面倒なことしてくれるよな」
なあ、というように見下ろされて、愁は苦笑いを返す。
「でも、もう少しでひと段落着くんだ」
彼はそう続けて笑った。

 それから一週間ほどかけて総力を動員して調べ上げた、現在金属義肢を使用していると思われる人数は、すでに一桁にまで減っていた。禁止法が制定されても、普通義肢に代えたと報告する義務を果していない人間の数だ。残り僅か。一気にその人間を確保する動きになった。当然、消息不明な人間ばかりだが、この機会を見逃すことは許されない。少数でも対象者による凶悪犯罪は続いているし、原因も不明なままだ。
 休憩室の椅子に座り、テーブルに頬杖をついて、温海瑞穂は窓の外を眺めていた。時刻はすでに夜中の一時を回っており、ガラスには外より明るい廊下が映し出され、窓の向こうの様子はよく見えない。ところどころ照明の落とされた廊下の隅には、黒い影の塊が横たわり、突き当たりには非常灯が浮かび上がっている。
 窓を見つめたまま、
「お疲れ」
と瑞穂は声をかけた。
「……こんばんは」
自販機の前で、廊下を通りかかった愁は立ち止まる。窓ガラスに映ったその姿から視線を外し、彼女が振り向いた。
「今日も遅いね。もう一時過ぎてるよ」
「帰れそうにはないです」
そう言いながらも眠たげに目をこするのを見て、瑞穂は微笑む。
「でも大丈夫ですよ。ちゃんと猫には餌あげてるし」
「そっか、猫飼ってるんだよね」
瑞穂は楽しそうな声を出した。
「名前何だったっけ。クロ……っていってた気がするけど」
「そうですよ」
「ちゃんと大きくなってる?ずっと前はまだこのぐらいだったよね」
左右の手の間を指の長さほどに開ける。
 それはいくらなんでも小さすぎる。と思いながら、愁は答えた。
「大分大きくなったけど、でも元が小さいから、大きい子猫ぐらい」
「そうなんだ。ねえ、やっぱり動物にも性格ってある?」
「あります」
特に考えず即答した。猫や犬が、全て同じ性格をしているとはとても思えなかったから。クロを思い出しながら答える。
「クロは……すごく臆病だけど、かわいいですよ」
「それ飼い主が言うか」
可笑しそうに瑞穂が笑い、つられて愁も笑った。
「よかった」
「よかったって、僕は捨てたりなんかしませんよ、絶対」
「違う違う、ちゃんと成長しててよかったってこと」
 ほんの数分後には、愁は再び廊下の突き当たりの方へ歩き出した。その子供のような笑顔と振られる白い手袋をした手に、手を振り返して、その背中が廊下を曲がって見えなくなると、瑞穂はだれもいない自販機の前を眺めた。そこに先ほどの愁の姿と、これはもう何年か前のことだが、同じ位置に立っていた椋の姿を見る。ただ、さっきの愁のように笑うことなく、同じ様に廊下の向こうへ消えていったその背中。
 兄弟でも、こんなに違うものなのか。
 そう思い瑞穂は一人、苦笑した。












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