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ツギハギ
作:ふあ



1-1 睡魔の払いかた


 ザラついた温かいものが何度か頬に触れ、反対側に寝返りを打った。追うように、背を向けた首筋を小さな柔らかいものに押され、ようやく少年は目を開けた。ぽん、と、先程彼の頬をなめて首を頭で押していたものが目の前に降り立つ。
 少年の黒い瞳に、真っ黒な身体に深い緑色の眼をもち、首に細い青色のリボンを巻いた小さな猫が映った。
「ああ……。おはよう、クロ」
寝惚け眼のまま彼が言うと、クロは投げ出されたその左腕に、濡れた鼻を押し付けた。右手でその小さな体を軽く撫でて、起き上がる。ベッドの足元にある靴をひっかけて、反対側の壁にある窓へ歩く。あとは椅子が一つしかない小さな部屋なので、数歩で窓の鍵に触れられた。鍵を回して窓ガラスを横へスライドさせると、冷たい空気が流れ込む。半袖半ズボンの薄い生地の隙間をぬって、透明な風が体温を奪う。
「さむっ」
と、思わず彼は身震いした。しかしそう言いながらも、ぼんやりと外を眺める。朝を迎えたばかりの街はまだ静かで、どこか遠くで雀の鳴く声しか聞こえず、アスファルトの道には、ゴミ捨てに行ったり早くからジョギングをする人たちしか見られない。遠くの靄の中に、立ち並ぶ高層ビルの巨大な影が見える。
 どうかするとそこで再び意識を失いそうになったが、猫の鳴き声ではっと顔を上げた。見下ろすと、クロが自分の左足をしきりに頭で押して見上げては、
「にゃぁ」
と鳴いている。「わかったわかった」と、少年が反対の足を一歩踏み出すと、クロは先に立って駆けて行った。
 びっくりするほど冷たい水で顔を洗い、茶色がかった黒髪はほっといたまま、隣の部屋の隅にある流しの下に膝をついた。床が冷たい。流しの下の段に頭を突っ込み、さらに半身まで入れてから、小さな缶詰を取り出す。俗に言う猫缶。その中身を美味しそうに食べるクロを眺めながら、
「クロ、猫缶ってそんなにうまいか?」
と少年が聞くと、猫は一度顔を上げて数度瞬きをした。再び俯いたその頭を撫で、彼は立ち上がった。
 十五、六程の彼には不自然だと言われる、薄茶色の大きめのコート。その下は、指先や足首まで届くほどの丈の服で、手袋までする。その上小柄だから、絶対寒がりだろとよく言われるが、別にそうでもない。秋生まれで夏の方が好きだが、自分が寒がりだと思ったことはない。
 目が覚めて三十分もした頃、少年と黒猫は部屋を出た。外の冷え切ったコンクリートは、少しずつ温まりだしていた。












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