挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。

ちょっと国王殴ってきますわ

作者:美鈴
「どうしてこうなった……」
修道院へ行く馬車に揺られながら、私を見張る兵士がちらりとこっちを見る。
その兵士を見て私はへらりと笑い壁にもたれかかった。

私の名前は箱崎沙世という名前で、日本で平々凡々と女子高生をしていた。
しかし、信号無視のプ◯ウスに轢かれたところまで覚えている。
てかあの名◯屋ナンバー逃げていったので一生許さん。
ガードレールにぶつかって死なずに大量の修繕費を払って苦しむ呪いをかけておこう。

なぜ死んだはずの私が馬車に乗っているのかというと、この体の主人格であるソフィア=アルテーンの精神が意識の奥に引きこもってしまったからだ。

この世界は、『アルテーン王国物語 〜この世は愛で満ちている〜』という剣と魔法ありの乙女ゲームの世界だ。
通称、アル物と呼ばれる結構有名なゲームだった。
ストーリーは王道のラブストーリーで、平民の少女が魔法の才能が認められて貴族の学校に入学する。そして同じ学生である貴族の男の子たちと恋に落ちるが、身分の差が壁となり苦悩するのだが、実は主人公は現国王の娘ということがわかるのだ。
アルテーン国の王位継承権は男女関係なく生まれた順番で決められるので、誕生日的に王位継承権一位を持つ主人公は、身分の差なんてなかったんや!という状態になる。

つまりハッピーエンドとなるのだ。

そして、アル物にはライバルキャラとしてソフィア=アルテーンというお姫様がいる。
彼女は主人公の出生がわかる前まで長女であったため第一継承権を持っており、友好国の王子とも婚約関係結んでいた。
だが、主人公ことを知り婚約者である王子と関わり出すと、嫉妬にかられた彼女は主人公を集団無視や仲間内での陰口といったいじめをしてしまうが、主人公と攻略キャラは結ばれる。
そして、冬のパーティーで主人公に対してのいじめを糾弾され、ソフィアは罰として王都から遠く離れた北の大地の修道院へ連行及び王族としての地位を剥奪される。

簡単に言えば勘当からの島流しである。

ソフィアは、主人公に対してやってきたことは反省し処罰を受ける覚悟はあったし、王位継承権に執着心などなかった。
だが、父親である現国王からの勘当宣言という行き過ぎな罰に強いストレスを感じた結果、ソフィアは自分の前世である箱崎沙世の記憶を思い出したのだ。
父親には見捨てられ、箱崎沙世の18年間の記憶を思い出したソフィアの精神は限界に達してしまった。
その結果、前世のである箱崎沙世の人格を創り、前世の記憶を沙世に押し付け、ソフィア本人は意識の奥に引きこもったということだ。
つまり二重人格になってしまったのだ。

箱崎沙世、つまり私のことなのだが、ソフィアの記憶をみて、勘当する程酷いことしてなくない?と思った。
ソフィアがしたいじめは、本当に小学生の女の子がするような陰口や無視といった可愛いものなのだ。
元の世界のいじめの方がえげつない。

しかし、ソフィアは引きこもってしまったのでこれからの生活はとりあえず私が主に動くしかない。
幸い、ソフィアの記憶はわかるのでソフィアになりきることはどうにかなるだろう。
今のソフィアに大事なのは休息と、気持ちを整理する時間なのだ。
私自身は死ぬ前は修道院という場所に興味を持っていたし、シスターという神に仕える仕事に少し憧れていたのでこれからの生活は少し楽しみである。
ソフィアが表に出てくることができるまで、私はソフィアが生活しやすい場所を作ることを目標としよう。
所詮ソフィアに創られた人格だ、私はソフィアのために生きようと思う。

目的地は雪に閉ざされた北の大地。ただでさえない体力を温存するために私は仮眠をとることにした。


________________


北の修道院に身を移し、ソフィア=アルテーンからソフィア=ファラデーになってから一年たった。
最初の一ヶ月は、城とも前世とも違う環境で四苦八苦したが、北の修道院のシスターたちや近くの村の人たちが優しく面倒を見てくれたおかげで、泣いたり落ち込んだりとしながらも生活に慣れることができた。
修道院といえば時間に追われているイメージがあるが、案外自分の時間も取れるので楽しく生活している。
一年の殆どを雪に覆われる森に修道院は建っているので不自由も多いが、それをなかったことにできるぐらいにこの場所は美しかった。

私が来た季節は春だった。
冬の寒さを押しのけるように森の植物たちは活き活きと新芽を出し、動物たちも春を喜ぶように走る姿を見せてくれた。
北の大地には領主が管理する大規模な農園があり、そこでは冬の間に荒れてしまった畑を種を蒔くために汗水垂らして整備する住人がいた。
私はその光景を見て、生きるということは美しいと実感した。ソフィアも感動したようで、私の目からはぼろぼろと涙が流れる。

『私が住む世界はこんなにも美しかったのね』
そう意識の中で呟くソフィアが一番印象的だった。

夏はあまり気温が上がらないので過ごしやすかった。
だが、夏は魔獣たちが活発になるのでそこらで被害が出ていた。それらを解決するのは主に領主の私兵なのだが、万年人手不足と言われているようで、全然手がまわらない。なので、修道院にいる神父やシスター達が手伝うことになっている。
しかし、ここの魔獣はめちゃくちゃ強い。
そのおかげか、北の修道院にいる人たちはそこらのギルドに所属している人よりも戦闘力が高いのだ。
修道院では回復魔法は絶対に教えられるので、熟練の神父だと回復しながら敵を粉砕する。
その戦いを近くで見ていたが壮観だった。
私も王族ゆえに魔法を習っていたので、魔獣の討伐に連れ出された。
だが、足手纏いにしかならなかった。
魔法を使おうと思えば、前衛の人に当たりそうになるし、周りの自然を壊しそうになったので使うなと怒られてしまったのである。

しかし、どうしても役に立ちたかったので戦い方を教えてもらったが、どんな武器も使えないこともないが魔獣と戦うには心許ないという微妙な結果になってしまった。
いっそのこと武器を使わない前衛である格闘技をやってみたら、こっちの方の才能はあったようでどんどん技を吸収した。
王族の特徴である膨大な魔力を使い、肉体強化しながら大地を駆け、敵を粉砕する。
拳に炎や風といった魔法を纏わせるようになってからは、前衛をよく任せられるようになった。
だんだん鍛えるのが楽しくなってきたので、次は肉体強化無しで魔獣を倒せるようになりたい。

『鍛えるのも楽しいものね』
ソフィアもこの環境に慣れたということだと私は思った。

秋は収穫祭があり、祭を主催する修道院内はてんてこ舞いだった。
巡礼の方々も観光客も秋になるととても増えるので、領主が私兵を出して警備を強化する。
警備といっても、酔っ払いの介抱や喧嘩の仲裁といった仕事しかないのだが。
私たちが信仰するのは、太陽の女神であるファラデーという神様で、その女神の名を取りファラデー教というのだが、ファラデー教の教典には
ーー力なき者に剣を向けることは裏切りとするーー
と書かれている。
その教えのため私たち修道院のものはどんなに力があろうが、人に手をあげることはできない。
だが、その教えを逆手にとった人が、シスターたちにセクハラをしたり暴言を吐いたりとしてくる。
そうなったら地元の人か、警備の人に助けを求めるしかない。
私も他のシスターのようにセクハラをされたが、その時私たちと歳が近いであろう警備の少年に助けてもらった。

『なんて勇敢な方なの……』
これは恋の予感?と思ったのは仕方ないと思う。

冬はゲリーケというファラデー様の夫である夜の神様の休日と言われている日の落ちない日の白夜と、ファラデー様の休日と言われている日が登らない極夜がある。
そのせいで時間の感覚がずれてしまい大変だった。
というか、吹雪のせいで殆どを部屋の中で過ごすので憂鬱になるのは仕方ないと思う。
吹雪が止む日はとても貴重なので、その間に修道院を囲う森を領主の私兵とともに手分けして見回りを行わなければならない。
もし雪で倒れそうな木があったら危ないので切り倒さなければならないし、吹雪なのに外に出た人の死体などがあったら供養しなければならないからだ。
この頃になってくるとソフィアも表に出てくるようになったので、私は体の主導権を渡し、私は奥で眠るようになった。
そろそろ私もいなくなると思うと、感傷深いなと思っていたのだ。この時の見回りもソフィアが表で私は奥で寝ていたのだが、ソフィアの暴言で飛び起きた。
なんだなんだとソフィアの記憶を探ってみたら、どうやら森に住む貴重な動物を狙う密猟者と出くわしてしまったようだ。
密猟者はソフィアを排除しようと切りかかったその時、一緒に行動していた祭の時の少年兵がソフィアを庇って怪我をしてしまった。
そしたらソフィアはブチ切れたようで

「おみゃーら、何しとるん? ファラデー教のシスターやからって、おみゃーらと戦えんわけじゃねーわ。こんのどくそたわけが!!」

とわたしの故郷の言葉で相手をなじりながら密猟者の鳩尾に拳を叩き込んだのだ。
私はそこらへんで起きたのだが、私が止める暇もなく密猟者たちをなぎ倒していった。
ソフィアが正気に戻った時には、ソフィアしか立っていない状態になっていた。

異変に気付いた神父が駆けつけてくれたおかげで誰も命は落とさなかった。
ソフィアのしたことも、密猟者を魔獣と処理したのでお咎め無しである。
大人って本当に怖い。
だが、ソフィアをかばった少年兵の怪我が酷く、彼はもう剣を振れなくなってしまったのだ。

「私が責任をとりますわ!」
『はぁ!?』
「それはどういうことかな?」
「私が彼の代わりに働き、彼を養います!」
「待って、それはだめだよ!」
『そうだ!もっと言ってやって!」
「女の子に養ってもらうなんて男してどうかと思うよ!てか、僕が君を養いたいよ!」
『嘘だろ!』
「じゃあ、結婚すればいいんじゃない?禁止してるわけじゃないし」
『マジかよ!』

善は急げととんとん拍子に話が進み、ソフィアはソフィア=ファラデーから、少年フークバルト=へーゲンに嫁入り。
そして、ソフィア=ファラデー=へーゲンと名前を変えたのだ。

今は領主から結婚のお祝いとして土地を貰い、そこで小さな家と畑を作り二人で住み始めている。
まだ一ヶ月と短い期間だが円満に生活している。

ーー円満に生活していたのだーー

何だろうか、この目の前の手紙は。
お偉いさん特有の、オブラートに包んだものに生八つ橋で包み、さらには小麦粉とパン粉をまぶして揚げたような遠回しな内容の手紙は。
要約すると、『王都に戻って結婚して次期女王を支えろ、結婚の相手はこっちで決めといたし、地位も戻してやる。感謝しろ。』

こいつは何を言っているんだ?
というか、もう結婚しているし地位なんてもういらないのに。

「なんて自分勝手なのかしら、ちゃんと結婚をした事は手紙で連絡したはずなのに……」
「それで、どうするの? 国王からだし、お父さんでもあるんだから、行くの?」
「あなたはどうして欲しい?」
「僕は嫌だなー。ここから王都まですごく遠いし、いつ帰ってくるかわからないんでしょ?だったら行かせたくないよ」
「結婚については何もないのね」
「君は僕の事大好きでしょ?僕も君の事大好きだから、心配するだけ損だよ」
「さすがあなた!よく分かってるわ!!」
『そんな場合じゃないでしょ、一応離婚の危機だぞ』

うふふ、あははとほのぼのするのもいいが、どうするか何一つ決まってはいない。
本当にこの人たちは大丈夫なんだろうかと心配になってしまう。

一通り笑いあうと、ソフィアは顔を引き締め、

「ちょっと、お父様を殴ってくるわ!」
『はあ?!』
「えっ?どういうこと?」
「だから、

ちょっと国王殴ってきますわ!」

『はああああああ?!』


と言ったソフィアはすぐに荷物をまとめて心配したフークバルトと共に王都に向かうのであった。

この時の私はこんなにも楽しくて大変な旅になると思わなかった。

想像以上に反響があったので、書きます。連載については活動報告にて詳しく書いています。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項をご確認ください。

名前:

▼良い点
▼気になる点
▼一言
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ