「えぇっ、皆様お静かに」と、ツアーガイドがハンドマイク越しに言う。「左にみえますのが」
その土地の名所の説明を始める。
乗客たちは皆いっせいに、ガイドが掌で示す方をむく。つい今しがたまではワイワイガヤガヤうるさかったのに、この時ばかりはおとなしいもの。
暇にあかせての旅行とはいえ、それなりの散財はしている。見るべきもの、聞くべきこと、それらはしっかり見聞しないと損。なかには熱心にメモを取っている者もいる。
しかし、子供はそうもいかない。すぐに飽きる。名所になんて、興味がない。
両親に連れられてきた旅行は、楽しい。だけど、時に退屈。
彼は周りの目を盗んで、自分の座っている後部座席の窓を開ける。右側。
皆の視線は、観光名所。左側。気付かれない。
ポケットからペンシルを取り出し、地面に手を伸ばす。届くわけがない。
彼はぐるりを見渡す。棚の上。長い棒がある。あれなら。
彼は座席に立ち上がってその棒を手に取ると、窓から身を乗り出した。
「何を、やってるの!」その様子に気付いた彼の母親が、注意する。「あぶないわよ」
服をつかまれ、彼は引き戻される。ふくれっ面。「だって、退屈なんだもん」
「わがままを言わないの。ちゃんと、ガイドさんの話を聞きなさい!」母親は彼から棒切れを取りあげた。「それに、そんなことしたらここに住んでる人たちが迷惑するわ」
「はぁい」彼は不本意ながら、従う。怒られてまでするほどのことではない。ただの、暇つぶし。
やがてガイドの長ったらしい説明は終わる。
彼を含めた乗客たちは、次の観光地へむかう。
「なんだ、これは!」地元の住民は驚きの声をあげる。「昨日までは、こんなものなかったぞ」
もうひとりの住民が言う。「なんの目的で、そしてなんの意味を込めてこんなもの描いたんだ!?」
彼等は話合い、あれやこれやと考える。
しかし、答えは出ない。ほとほと困り果てる。
これほど大掛りなことを意味もなくする者がいるとは、考えられない。だから、とりあえず彼等はそれに名前を付けておく。
――[ナスカの地上絵]、と。
それが、巨大な宇宙人の子供の描いた暇つぶしのラクガキとは、つゆ知らず……。
【了】 |