魔王はどっち?
「ぱんぱかぱーん! おめでとう神様に選ばれた異界の少女様! ご褒美として雑用をやらせてあげる」
嫌な神様? もいたものだなあと私、栗本伽耶は思った。
家でごろごろしていたらよく分からない空間にいて、目の前の幼女のような自称神様がそんなことを言ってきた。思わず苦い顔になっても私は悪くないと思う。
「あれ? すっごく不愉快なそうな顔してるね。異界の存在といえど、神様が直々に頼むなんて光栄なことなんだよ~?」
「……はぁ」
「テンション低すぎだよ! 何やってるの! そんなんじゃこの先大変だよ!」
「え? 私、承諾するなんて一言も」
「ありがとう助かる! それでね、用件なんだけど、人間の赤子を乗っ取った魔王を探してほしいんだ! 私の世界における最優先事項だから、それをサポートするカヤちゃんには色々恩恵あげとくからね!」
どうしよう、この神様話聞かない。
「言っとくけど拒否権はないよ。あと帰る方法もね。その分こっちで面倒見てあげるから。まあ、この条件で嫌だと言われたら、このまま成仏してもらうしかないんだけど……。地球の肉体から中身引っぺがしちゃったからなー」
これ本当に神様? 神様騙る悪魔じゃないの? 何か大変な事情らしいけど、それが何で私に白羽の矢が。
「何かね、カヤちゃんが魔王見つけるといいことあるらしいの。占い的なものでそう出た」
「占い? 神様なのに?」
「未来くらい見通せって? 神様のくせにって? 神様が完璧な存在だったらそもそも人間なんて出来てないから!」
コンプレックスを刺激されたらしい幼女神様に何か怒られた。理不尽すぎる。……もしかして神様ってどこもこんなのなのかな。自分のところの神様がこんなノリだったら嫌だなあ。
「あー……コホン。とにかく、腐っても私は神様。完璧じゃなくても神様。世界に最悪の事態を起こさないために日々努力しているんだよ。理想の世界は無理でも、最悪の世界にだけはさせないんだ。でも、その反対が魔王なのよねー……」
おちゃらけた顔していた幼女神様の表情が引き締まる。
「元は人間の負の感情を抜き取ったものなんだよ。だから自我なんて無い……はずだった。これが無ければ世界平和かなーなんて考えて抜き取りまくって一箇所にまとめておいたら、自我は無くても本能みたいなのが形成されちゃったみたい。人間を恐怖に陥れるのを目的に百年に一度世界を荒らす。……こうなるって分かってたら抜き取ったりしなかったのに。あと人間の感情って資源と違って無限なんだものー……失敗した」
小学生みたいな神様だ、本当に。でも魔王のシステムは分かったけど、それで何で私?
「こうなったら消すことは出来ないんだ。でも封印は出来る。百年間眠らせるの。でも起きる頃にはまた封印を上書きしなきゃ。……これを何度かやってたら、学習したみたいで、魔王、復活の時期に合わせて人間の女性に憑依して、赤子に転生したみたいなんだよ。で、それが誰か、というか同じ誕生日のどっちか分からない。だから貴女。カヤちゃんの出番!」
「???」
「だって私神様だもん! 直接下界におりてお前が魔王かなんて威厳台無しなこと出来ない! あと万が一外れて、冤罪を起こしちゃうの怖い! 人間じゃあるまいし神様が間違いなんて! この業界信用第一なんだもん! よく失敗する神様なんて誰が信仰してくれるの! ……だから代理人――神子を立てるんだよ」
「……尻拭いをしろと?」
「頭の良い子は大好きだよ☆」
と、いう経緯により、カヤの魔王探しが始まったのだった。
◇
王立メイヤ魔法学園。伽耶はここにいる魔王候補達に会うために、転校生として入学した。
「は、初めまして。カヤ・ナディクといいます。よろしくお願いします」
あの神様――学園の名前も彼女にちなんで付けられたという、メイヤちゃん(ちゃんづけでいいよね)により、異世界風の身体と名前、戸籍を与えられて万全の体制で臨む。ちらりとクラスを見回すと、生徒達は髪や目はカラフルだけど、それ以外は元の世界と変わらないように思えた。
「カヤちゃんっていうんだ。よろしくね」
「ねえカヤちゃんは雑誌とか見る?」
「黒髪だー、可愛い! 珍しいよね」
フレンドリーな人が多いのか、カヤは休み時間は女の子達に囲まれた。あっという間に友達が出来る。ぼっちになったらどうしようと思ったけど、心配は要らなかったようだ。
「あ、そうだ。カヤちゃんに紹介するね。うちのクラスの委員長。学園の案内とか教科書貸し出しとか彼に頼むといいよ」
クラスメートのその言葉にびくっとする。確か、メイヤちゃんいわく、魔王候補は二人。一人はこのクラスの委員長。
「ヒューアくん! これから移動教室でしょ? 先生に言って教科書とか持って来てあげなよ。親の都合で急な転校だったから、彼女何も持ってないのよ」
同じ十四歳くらいだと思うのに、何て気の利く女子達なのだ、とちょっと感動する。設定だけで何も持たせてくれなかったメイヤちゃんよりよく出来てるのではなかろうか。
と、そんなことばかり考えてもいられない。魔王候補の一人、ヒューア・イシュキ。こちらに向かって歩いてくる彼は、深い栗色の髪と目に、ニコニコと優しげな容貌。……魔王とは思えないような、理想的な委員長像だ。
「カヤさんだね。朝に来る事は聞いていたから、もう用意してあるんだ。はい、これ。とりあえず午前中の分。お昼前にまた午後の分持ってくるから」
「え、あ、ありがとう」
地味に授業をどうしようかと思っていた身には堪える。優しさが。
……いや! これも魔王の策略かもしれない。悪魔というものは、最初に甘言でたぶらかし、落ちぶれたところで畳み掛けるという。詐欺師のようなものだ。油断してはならない。ほだされそうになる自分を抑えて、キッと彼を見つめる。そんな私にヒューアくんは、いきなり睨まれても動じずに逆に優しく対応してくれた。
「どうしたの? 怖い顔して。緊張してる? そうだよね、初日だし。何かあったら僕を呼んで。力になるよ」
……人を疑って生きるのって、悲しいと思います。こんな優しい人を疑いの目で見なければならないなんて。この人が魔王じゃなかったら、私嫌な人間すぎる。
自己嫌悪で気分が沈んだその時、彼の、ヒューアくんの周りに、黒いもやのようなものが見えた。はっとして周りを確認したけれど、誰も何も見えていないようだった。やがて、もやは薄くなって見えなくなった。
あれは、まさか。
◇
お昼前、午後の分の教科書を貰ってから高速で購買のパンを食べ終え、もう一人の魔王候補のもとへ向かう。九月一日。同じ誕生日の魔王候補二人。正直、もう大体の見当はついてるんだけど一応。
その候補――ランケ・シェバ・アレイスン。メイヤちゃんは名前とクラスくらいしか教えてくれなかったから、容姿とか性格とかは自分の目で見ないといけない。すぐ分かる人だといいんだけど……。
そしてクラス前まで言ってふと思う。どう呼び出したものだろう? 転校初日で呼び出しなんてちょっとアレだよね。不良の喧嘩じゃあるまいし。告白みたいに思われても面倒だ。でも確認しない事には……。誰か彼の噂話でもしてないかなあ。
そんな感じでクラス付近をうろうろしていたら、前方不注意で誰かとぶつかった。
「わっ」
「きゃっ、ごめんなさい!」
慌てて頭を下げ、目の前のぶつかった人間を見ると、金髪で青い目。てっぺんのアホ毛以外はまるで絵本の王子様みたいな容姿の人が立っていた。うわあ、元の世界じゃイケメンに縁なんてなかったから、何か感動。
「こんな綺麗な人いるんだ」
感動のあまりうっかり声に出してしまった。それを聞いた相手はきょとんとした顔でこっちを凝視している。……もしかして痛い子と思われたかも? まずい! 一応スパイみたいなことしてるのに、変な子と思われて警戒されるのはまずい! 慌てて自己フォローしようとすると、何故か彼のほうからフォローしてくれた。
「お前、このランケ様を知らないとは、さては転校生だな?」
え、あなたがランケだったの? 自分に様づけ? 何で知らないと転校生だってなるの? 色々疑問があったけど、向こうから色々話してくれるのは正直助かるから黙っておく。
「は、はいそうです。あなたがランケ……様?」
「様はいらないぞ。俺は学園のスターで王族だけど、ファンには気さくな人間なんだ。お前、制服のラインの色が同じだから同学年だろ? 普通でいい」
「え、学園のスターなの!? どうりで……」
カヤはランケの言う事をあっさり信じた。イケメンを見慣れていなかったので、スターだと言われてあっさり納得する様子を、教室から見ていたランケのクラスメート達は苦笑しながら囁きあった。
「ランケのやつ、またやってるよ。どうする? 誤解とく?」
「ほっとけば? すぐ分かるでしょ。自称スターだって」
「学園内では入学式の時に一通りやったから、もう騙されるやついないもんねー」
「自分は王族だって言ってるけど、それも傍系の傍系なのにね」
「顔もねー。下の学年に行けば、容姿がいいのがかなり来てるから、混ざるとイケメンじゃないとは言わないけど、並だよね正直」
「歌がちょっと上手いくらいかな。でもそれだってプロに比べれば……」
「何であんなに固執するんだろうね、スターだとかアイドルだとか。傍で見てて寒いのに」
「人は自分に無い物に焦がれるのよ」
クラスメートからボロクソに言われている間、ランケは生まれて初めてスターだと信じてくれた少女を前に感動していた。
何この子。この子には俺がスターに見えるんだ。やばい嬉しすぎる。
そんなランケを目にしながら、カヤは冷静に観察していた。
なるほど人気者なんだ。それなら人の目もあるから迂闊なことも出来ないだろうし、今のところ怪しいとこも無いし、放っておいても平気かな。それにしてもスターって呼ばれる人と話せるなんてラッキー!
カヤはそうして初日で魔法候補達と会った。そしてお昼が終わり、清掃の時間。クラスメートに頼まれてひと気のない焼却炉にゴミ棄てに行きながら、メイヤとの通信機となっているペンダントに小声で話しかける。
「メイヤちゃん? 二人に会ったよ」
ペンダントはきらりと光って、メイヤの声を響かせる。
「早いね、どうだった?」
「ヒューアくんの周りに、黒いもやが見えた。ランケくんは特に何も」
言いながらカヤは思い出す。落ち込んだ時に黒いもやが見えるってことはやっぱり、恐怖を好むという魔王、だよねやっぱり。
「ほうほう。……黒いもやって魔王のオーラだよ。じゃあヒューアで間違いないね」
「すごいあっさり分かったんだけど。これ私が来る意味あった?」
「あるよ! あとは魔王の食事――人間達が大勢恐怖に陥るような時に私を呼んで。食事の時にはあいつも身体を棄てて表に出るからね」
「え? それって危険な状況ってことじゃ……」
「だけど表に出ないことには私も手が出しようがないし! 大事の前の小事だよ。ってなわけで、その時に呼んでね。そんでかっこよく現われた私は魔王を封印して、民衆には崇められ、カヤちゃんは神様の加護を受けた神子ってことで今後も安泰と」
「え、ええ……ってことは、そんな事態を私に起こせと?」
「心配しなくてもいいよ。魔王は腹がすけば自分から行動を起こす。貴女は出来るだけヒューアを監視して、被害が大きくならないうちに私を呼ぶことに気を遣えばいい。んじゃ、授業頑張って☆」
メイヤはそう言って通信を切った。カヤは犠牲前提の神様召喚ってどうよ、と思いながらゴミ棄てを終わらせた。
◇
その日の午後の授業は、午前中に行われていた机の上の学習と違い、魔法の実践だった。魔法学園というだけあって、皆ローブのような法衣をまとって実習を行っている。
カヤはわくわくしていた。異世界に来てから魔法が使えるようになったのだ。力を指先に溜めると、ライターのように火がつくという生まれて初めての魔法。昨日の晩はこればかり眺めてうっとりしていたものだ。幼稚園の将来の夢という文集で、「魔法少女になる」 と書いたこともあったけど、ついに夢を叶えました!
「はい、では出席番号一番の人から、あの案山子に各々の属性の魔法で攻撃するように」
先生がそう言うと、一番の人から攻撃が始まる。一番の人の属性は水だったのか、ざばーっと案山子に水がかけられる。次の人は風だったのか、案山子の周りでミニ竜巻が起こる。次の人は……。えーっと、攻撃って言うけど、私……。
「では次、カヤさんどうぞ」
先生に言われて攻撃しようとしても、私の魔法は指先に火が灯るくらいで、攻撃なんて出来やしない。小さな火だけでうろたえる私を前に、先生は険しい顔をしてこう言った。
「カヤさん……あなたふざけているのですか?」
その声と表情で、私の魔法が低レベルも低レベルだったことを知る。だ、だってメイヤちゃんそんなこと教えてくれなかった。魔法って、これで充分なんじゃないの? え?
「先生、カヤちゃんは転校してきたばかりで緊張しているんです」
「そうです、魔法はメンタル面に大きく左右されるから仕方ないと思います」
友人の慰めが嬉しくてつらい。先生はクラスメートの訴えに溜息をついて妥協してくれた。
「そうですね……。初日ならある程度仕方ないかもしれません。ですが特例は今日限りです。仮にもメイヤ様の名のついた学校でそのレベルなんて恥ずかしい。いいですか、明日までには何とかしてきなさい。つらい家庭環境なのは貴女だけではないのですよ。もし明日もこの調子なら、退学を視野に入れるように」
教師が他の生徒の前でする落ちこぼれ宣言に、絶望がカヤを支配する。そんなカヤの肩を優しく叩くものがいた。
「大丈夫。委員長として、君を守るよ。退学なんてさせない……こんな絶望、久しぶりだから……」
ヒューアの背後、黒いもやの向こうに、爛々と光る二つの目が見えた。とっさにメイヤを呼ぼうとするが、カヤの気が変わったからか、すぐにもやは引っ込みそれは叶わなかった。
◇
その夜、用意された家でペンダントにカヤは泣きついた。
「嘘つきいいいい! ちゃんと設定したって言ったくせに!」
「えー……そんな。1+1が出来る人間と2+2が出来る人間の違いなんて神様分かんないよ……。あーもー泣かないで。分かった、何とかするから。退学されたら監視も出来ないし。とりあえず上級くらいにはしとくよ。出来なかった言い訳はそっちで何とかしてよね」
◇
翌日、一時間目から実習となった。
「ではカヤさん。始めなさい」
昨日と同じ案山子。カヤは力をこめる。出来なかったら退学……不安に駆られるカヤは、必要以上に気を溜めた。
「えい!」
指をさして案山子に攻撃する。――――案山子には何の異常も現われなかった。最悪の事態を考えたカヤだったが、次の瞬間、背後の山が吹っ飛んだ。
二時間目以降、実力主義のメイヤ魔法学園で、カヤは一躍英雄扱いとなった。昨日厳しく接した担任などは、見る目が無さ過ぎるとして処分すら与えられるところだった。それはさすがに止めた。言い方はともかく、先生は真面目に仕事をしていただけであると。それこそメイヤ女神よりよほど、とはさすがに言わなかったが。担任は感動してカヤに優しくなった。
すごい、昨日とは打って変わって薔薇色の学園生活だ、と思っていた。しかし、カヤのあまりの変貌に納得できない人間達がいた。カヤの昨日出来た友人達だ。彼女達はカヤの様子を窺うように問いただしてくる。
「カヤちゃん、昨日はどうして出来なかったの?」
「本当だよ。私達、びっくりしちゃった」
「やっぱり、実力が違いすぎるから、遠慮して隠してたの?」
「それとも、落ちこぼれでも見捨てないか試してたりしてた?」
気を遣って言ってくれてるように思えた。言い訳は自分で、とメイヤに言われていたので、自分で考えるのが面倒だったカヤはその推測に安易に乗っかることにした。
「えっと、うん! そうなの! やっぱり色々複雑な魔力だと大変だし……」
魔力じゃなくて境遇なんだけど、とカヤは脳内でぼやく。何にしても、落ちこぼれの時も見捨てなかったんだから、英雄になっても見捨てられないだろうと思っていた。
「ふーん……。あなた、友達を試すような人なんだ」
「感じ悪ーい。行こうよみんな」
うろたえるカヤを尻目に、クラスの女子達は全員カヤのもとを離れた。知り合って間もない人間にこんな事する人柄なんじゃ、何やってもまた試されるのかと信用できないと揃って言った。カヤは己の要領の悪さを呪いながら、便所飯を体験した。
トイレから出てくるカヤの前に、ヒューアが相変わらず優しげな笑みで現われた。
「何か事情があるんだよね? ああ、話したくないなら話さなくてもいいよ。大丈夫。僕は味方だから。……君は、いい絶望をしてるね」
触手のような黒いもやがカヤに触ろうとする。胸のペンダントを握り締めると、触手はふっと消えた。後ろにいたクラスメートが、目をゴシゴシとこすっていた。
やっぱり魔王かと疑って、ヒューアの好意に甘える形で傍から離れないようにする。単純に、ぼっちが嫌だったからというのもある。ぼっちになったのに魔王は関係ないし、ヒューアくんの好意? 魂胆? がカヤは少しだけ嬉しかった。
◇
落ち込むカヤとは逆に、浮かれまくる男がいた。ランケだ。
二時間目以降、ランケはクラスメートがチラチラとこちらを見るのが気になっていた。ついに俺の魅力に気づいたか、と思うランケ。だが実際はそれ以上だった。
山を吹っ飛ばしたことで、カヤは授業終了後、学園長直々に学園の模範生に指名された。これは学園内外の顔になるということなので、しばらくは学園新聞などでカヤが出ずっぱりになるだろう。そして模範生とは、色々な特権も与えられる学園カーストの最も上位。校内への影響力が凄まじい。よほどのことが無ければ尊敬と崇拝の対象だ。そんなカヤが昨日スターだと認めたランケ……。
「確かに、イケメンといえばイケメンよね」
「オーラがあると言われれば、そんな気もしてきた」
「私なんか、前から素敵だと思ってたから」
「大体、最初からスターって言ってたじゃない? 本物は自分の価値をよく分かってるのよ」
「あのアホ毛は可愛いと思ってた」
お昼休みになった時、購買でパンでも買うかと腰を上げたランケに、女子達がわっと群がる。
「ランケくん! いえ、ランケ様! これ私が作ったの。食べてください!」
「ちょっとあなた、順番守りなさいよ!」
「きゃーランケ様かっこいい!」
え、なにこれ。確かにスターって言ってたけど、お前ら今までそんな扱いしてこなかったのに、今さら何?
内心そう思いつつも、夢にまで見たスターの扱いに、微笑みながらアイドルのような振る舞いをしてみる。一度はやってみたかった。
「ありがとう、頂くよ」
一斉に黄色い悲鳴が教室に響く。紳士だ、王子様だ、なんて声が聞こえたが、今までお前らの中で俺のキャラって三枚目だったよな……とぼんやり思うランケ。
食べ終わったあと、教室にいると一挙一動が話題になるので鬱陶しく、余った時間を校内散歩に使った。すると、掲示板に張られた校内新聞で、カヤが大きく取りざたされたページが目にいた。下のほうには自分のことが書かれた記事があった。
今まで、これに載ったら誇らしくて死ぬんじゃないかとまで思いつめてたのにな。実際に載ってみるとどうだ。ふーんって感じだ。そんな事より、最初に自分を認めてくれたカヤが一番大きな記事なのが、まるで自分のことのように誇らしい。
後ろでこちらに話しかけるかかけまいかひそひそ話す女子達に構わず、ひたすら記事を見つめていると、本人のカヤが通りかかる。日直だったのか荷物を抱えていた。
「あ、ランケくん」
「! カヤ!」
子犬のように走りながら近寄って、カヤに一方的にまくし立てる。後に目撃したクラスメートからは「忠犬」 「わんこ」 と呼ばれることになった。
「カヤすごい! すごい! 俺の一番ファンなことはある!」
「? 一番? ランケくんって前からスターだったんじゃ……」
「一番ファンなのはカヤ! 喜んで、俺の終身名誉ファンに任命する!」
「??? ありがとう?」
いまいち分かってないカヤを前に、ランケはただただ嬉しそうだった。カヤは色々あって鬱々としていたがランケを見て多少慰められた。
それにしても、彼の髪、アホ毛がハートみたいな寝癖になってるの、突っ込んだほうがいいんだろうか? でも人前で言うのも……。迷ってる間にチャイムが鳴った。荷物を移動教室先に届けるためにもランケに別れを告げて慌てて走る。
カヤとばったり会えて嬉しかったがランケだが、良いことは重なるのか、もっと嬉しいことがランケに起こった。
放課後、クラスの文化祭委員がランケを呼びとめこう言った。
「あ、ランケくん? あのね、十月の文化祭なんだけど、来る予定だった歌手が来れなくなっちゃって。それで、どうせならランケくんのライブにしちゃおうかなって。なんたって学園のスターだもの」
二つ返事で了承した。ランケの脳内では、既に素晴らしいステージのライブが行われていた。もちろん満員で大喝采を浴びて、アンコールを乞われて出てきた時、客席にいるカヤに……。
『お前が好きだ!』
ランケはハッとする。今自分は何を考えていた? カヤに告白? ……。したいかもしれない。きっかけになったカヤが、何だか眩しくて仕方ない。彼氏いるのかな。それに何だか事情があるのか、悪い噂もチラホラ聞く。……それが何だ。噂が悪くても、自分を最初に認めたのはカヤ。絶対ライブを成功させて、悪い噂を払拭するくらいに俺がスターになって、カヤに……告白したい。
ランケが部屋でじたばたしている頃、カヤは自室でメイヤと相談し合っていた。
「だめ。中々尻尾を出さない。でもお昼ごろからクラスメートにも見えるようになってきたみたい」
「私の加護を受けた人間以外にも見えるか。そろそろね。監視を怠らないで」
「うん。でも具体的に、どういう瞬間に呼べばいいのかな。呼ぼうとすると引っ込んじゃって……」
「食事中ね。誰かの不安や恐怖、絶望を食べてる間なら無防備になるし。食べてる瞬間は貴女にも分かるはずよ。それに、カヤちゃん何気に切り替え早いからずっと食べ損ねてるし、空腹すごそう。強硬手段に出るかもね。気をつけて」
その後、校内新聞委員や魔法学界の権威の人やらに追われながら、カヤはヒューアの監視を続けた。あの黒いもやが出ていない時は、普通にいい人なのがカヤを僅かに苦しめた。
「まだ学校に不安はある? 慣れてないうちに有名になったから、さぞ苦労も多いだろうね」
「う、うん……」
「僕の前では遠慮しないで。いつでも力になる。……落ち込んでも、受け止めてあげるよ?」
「……」
これは魔王の人格なのか? それとも元々の人格で、ふとした時に魔王が出てしまっているのか? 魔王が出て行ったら、彼はどうなるんだろう? その処遇は?
カヤがその後について悩んでいる間にも、時は流れ、文化祭になった。浮かれる学園とは裏腹に、人が集まるこの時だから気をつけようとヒューアを監視するカヤの腕を、強引に引っ張る者がいた。
「え!?」
「俺だよ、ランケ様。ほら、こっち!」
突然の出来事に慌てふためいている間に、カヤは無理矢理ランケのライブ会場、その舞台袖に連れてこられた。
これはさすがに苦情を言ったほうがいいのだろうか? でも魔王の監視云々なんて彼は知らないし、自分も疑われてたなんて気を悪くするだけだよね。どうしたものか。
迷うカヤを横目に、ランケは軽く咳払いしてカヤに向かって言う。
「あのさ、今日ライブなんだ。俺の」
「うん知ってる。新聞にも載ってたし」
「……こうなったのって、カヤのお陰だと思うんだ」
「そうなの?」
やはりいまいち分かっていないカヤに、ランケは意を決して言う。
「百人の応援、百万人の声援より、俺はカヤが見てくれるのが嬉しい。だから、ライブ見てて。それで、終わったら伝えたいことがある」
それはどういう意味だろうとカヤが聞くより先に、時間だからとランケは舞台に走った。ランケを追って目を舞台に、そして客席に向けて、カヤは絶句した。
客席に、ヒューアがいる。米粒みたいな大きさでも分かった。周囲が真っ黒で何も見えない……。ランケを追ってライブを中止するよう頼もうと思った。が、それよりも魔王のほうが早かった。
「ランケ様のライブ楽しみ!」
「ん? ちょっと、アレ。照明が揺れてない……?」
今まさに歌おうとしたランケの舞台上の照明が、ぷつりと落ちた。客席に悲鳴が走る。落ちた照明が粉々に砕けて舞台前にいる生徒達が巻き添えを食う。楽しみだったライブが地獄絵図となった。その絶望は大きい。時間が経つにつれすすり泣きと怒声が辺りに満ちる。
誰もが逃げようと会場を出て行こうとする中、ヒューアだけが悠然と舞台まで歩いて近づき、黒いもやを全放出して呟いた。
「ニンゲン……ゼツボウ……モット……」
黒い塊が倒れている生徒達に手を伸ばし、何かを貪るような仕草をしている。周囲の人間も見えているらしく、「来ないで」 「死神が、お母さん……」 と呻いている。食事中なのだとはっきり分かった。
「メイヤ様!」
叫ぶようにカヤが呼ぶと、美しい妙齢の外見をした女神が現われた。
「魔王よ、ここまでです」
メイヤが右手を振り上げると魔王は悲鳴を上げて消滅した。――後で聞いたところ、見た目は威厳の問題、消滅じゃなくてちゃんと封印とのことだった。そして左手を周囲に振ると、生徒達の怪我が一瞬にして治る。ただし、最も重傷だった照明に押し潰されていたランケは、入院が必要な程度の怪我は残った。
その時、学園の体育館は女神とそれを呼び出したカヤ、そして棄てられた器のヒューアで視線を独占していた。
◇
表ルート
学園始まって以来の天才が実は女神の申し子。カヤはその世界の王族に気に入られ養女になり、堂々と好き放題な暮らしが出来るまでになった。無理矢理に元の世界と決別させられただけのことはある、とカヤは思った。
反対に、魔王の器だったヒューアは落ちぶれた。一応は被害者という事になっているものの、何せ前例がなく、アレ自らが呼び寄せたのではと口さがない者から言われ嫌われた。意識を取り戻した時、ヒューアが「覚えてる……」 と言ったのも拍車をかけた。
「あっち行け!」
「またあんな目にあっちゃたまんねーよ!」
ヒューアは人格は以前と変わらなかったが、周りが変わった。それもある意味しょうがないのかもしれない。あのライブ会場にいた人間のほとんどは、あの地獄絵図がトラウマになっているらしく、ヒューアを見るだけで過呼吸になる人間もいた。過激な者になると、また取り付かれるかもしれないから殺せと言う者すらいた。ヒューアはそれらを仕方ないと諦めて、いつも空気になるように努め、いつも一人でご飯を食べている。カヤには、すごいデジャブだった。
「ヒューアくん」
プール裏の草地(薬品臭くて誰もこんなところで食べない)で一人でお昼をとっているヒューアにカヤは話しかける。
「……時の神子様が僕に何か?」
そっけない返事だったが、それでも寂しそうなのが伝わってくる。
「ぼっちって……つらいよね。でも私の時にはヒューアくんが話しかけてくれたよね」
「……それは、魔王が異界の人間の絶望を食べてみたかったからでは?」
「それでも、私はあの時ヒューアくんに救われてたんだよ。だから、今度は私の番」
カヤはヒューアの手を取って言う。
「神子として命じます。魔王の元器のヒューア・イシュキを生涯私の監視対象とする」
ランケは病院で目が覚めた時、長い夢だったな……と思った。カヤの影響で学園のスターになったけど、初ライブでこんな事故を起こしてスターも何もない。縁起が悪いとして、学校に復帰したら後ろ指さされるかもな、と暗い考えに取り付かれる。
そして面会謝絶が終わったと同時に、それが間違っていると気づいた。札が取り外されるなり記者が押しかけてこう言う。
「ランケくん! ライブで魔王をあぶり出した生ける伝説の君にどうかインタビューを!」
「世界を救う手助けをしたとして、今や多くの人間――老若男女問わず尊敬の眼差しで見られていますよ!」
「マネージャーはもういるのかい? なんだったらうちが紹介するよ! 誰もが君の登場を待ちわびているのだから。退院したらスケジュールが大変なことになるだろうね」
夢はまだ続いている。続くどころか、パワーアップしてる。病院で新聞を手に取ると、一面が自分の記事だった。『ランケ快方に』 それくらいで一ページを飾っている。
全ては利用した女神のせめてものお詫びだったが、ランケを勘違いさせるには充分だった。ランケは、退院後すぐにカヤにプロポーズしようと決めた。いつ人気が落ちるかなんて分からない。だったら絶頂だと思う時に、好きな女に告白したい。
そして告白のために指輪を買ってカヤの前に立つと、カヤはニコニコ顔でこう言った。
「あれ、ランケくん。そうだ、私ヒューアと結婚するの。ランケくんだけでも祝福してほしいな。スターなら影響力もあるし、少しはヒューアの差別も収まるかも」
指輪は自宅で叩き壊した。ただその前に、ヒューアに文句を言った。言わずにいられなかった。
「何でお前なんだ」
呪詛のように呟くランケに怯みもせず、ヒューアは答えた。
「……表を歩ける身分で、地位も得て名誉も欲しいままにして願いも手に入れて、この上何もない僕からカヤすら奪う気か? お前は神子によって名誉を、僕は命の保障を手に入れたんだ。僕には彼女しかない。お前は充分だろ、僕からこれ以上奪うな」
譲る気が無いと知って、激高のまま思わず目の前の男の首に手をかける。ヒューアはそんな状況でも笑いながら言った。
「やれよ。どうせ生きながら死んでいた身だ。犯罪者になって見向きもされなくなったお前をあの世で笑ってやるよ。どう転んでもお前にだけはカヤを譲らない。僕の社会的な死と引き換えに有名人になったお前には」
首から手を離す。よき友人としての地位すら失いかねないと思ったからだ。こいつを殺したくないと思った訳ではない。
勝ち誇った笑みで去っていくヒューアを見送りながら、呟く。
「……だ。まだだ。魔王に身体を乗っ取られてた人間なんて、長生きするとは限らない。未亡人になったら、俺が引き取ればいい。その時のためにも、今の地位と名声をもっと磐石にしなければ……」
その後、世界はランケの歌で溢れた。多くは悲恋を歌う曲だったが、それでも聞く人の心を揺さぶる歌声だったので彼のライブはいつも人で溢れていた。そしてランケが人気の理由は、その売り上げをほとんどをチャリティーに使うことにある。人格者として名を馳せ、不動の人気を獲得した。ランケの名のついた募金で国がまかなえるとまで言われた。
そんな状況を全て知っていて喜ぶ存在が一人。
「すごーい! カヤを呼ぶといいことあるってこれだったんだ! 魔王の器を殺さないことで女神の名に傷もつかない、何かいい人材も育てたしで私ウハウハ!」
メイヤ女神様は、ことの結果にご機嫌だった。
◇
裏ルート
カヤは学校の先生達の質問責め、国の偉い人の詰問が終わってから、すぐにランケに会いに行った。
魔王に気をとられて、結局伝えたい事とやらを聞きそびれた。それに結果的に、ランケがあんな楽しみにしていたライブを魔王のあぶり出しに利用してしまった。
メイヤの取り成しを得ても解放されるのに数日かかった。もう意識は回復しているだろうか? 病院につくと、看護をしている人間から「まあ神子様。ああ、彼ならまだ意識は戻っていません。心配でしょうね、特例で部屋にお通ししますわ」 と伝えられる。
……私、世間でどう思われてるんだろう?? 気にはなるけど、今はランケくんのことが心配だ。
病室に入り、ベッドに横になるランケを見て罪悪感が込み上げる。初ライブを惨状の現場にしちゃったんだよな、私……。どうしようもないことだったとはいえ。どう償ったものだろう。やっぱり起きたら「騙してたのか!」 って叱られるかな。
鬱々とした気分で見ていると、不意にランケの瞼がピクリと動く。
「!」
目が完全に開くと、今度は口を覚束ない様子で動かすランケ。
「……夢? カヤがいる……」
「夢、じゃないよ。あの、ライブはごめんなさい。私その、」
「カヤ……好き。大好き。夢でもいいや、伝えられなかった事だけが無念だった……」
重傷の患者からのまさかの告白。罵倒されても仕方ないと考えていただけに、一気にカヤは落ちた。
「夢じゃないよ、ここにいる。ちゃんと聞いてる。ありがとう……私も好き」
◇
魔王封印は、選ばれし神子とその未来の夫との共同作業だったのだ、と、世間では噂された。その流れの中で、噂は何故か改変されていった。王族の傍系の身分だったランケは、もとは良い身分だったのに不当に貶められ、それを神子によって見出され元の地位を取り戻した……と。どこの世界でもシンデレラストーリーは好まれるのね、とカヤは苦笑いした。
納得がいかないのは一人だけ。
「何でお前なんだ」
呪詛のように呟くヒューアから無意識に目を逸らすランケ。
ヒューアは幼少期に親を亡くしており、今は奨学金で寮暮らしをしている。カヤの助力がないと、ヒューアは偏見と差別により普通の生活が出来ない。学校を辞めさせられ、寮を問答無用で追い出され、数日後にどこぞの研究施設行きが決まった。その前にヒューアは監視の目を盗みランケに会いに来た。呪うために。
「何でも何も。俺は最初からカヤが好きだった。そもそも何でカヤがわざわざ魔王の器を選ぶ必要があるんだ? お前だって意識が中途半端だっただろ」
「けれど……どうして僕ばかり……。親の死も魔王の仕業と疑われて、顔も記者に晒されて……もう一生普通の生活は出来ない。あのライブで、僕の運もお前が吸い取ったみたいだな」
「人聞きの悪いこと言うなよ。これは……天災みたいなものだ。どうしようもないんだ。少なくとも俺のせいじゃないだろ」
あの事故で同じ誕生日の片方は有名人に、片方は乞食に。神は平等でないとヒューアは感じていた。けれど――人間の理屈の通じない神より、目の前の成功した同じ人間の男の方が憎い。だって、魔王の器であった時から、カヤのことが好きだったのだから。こいつは成功して、カヤまで奪っていった。もしカヤがこいつを選ばなかったら、奪われることや孤独をよく知るカヤが選んだのは自分だったかもしれないのに!
「お前は全てを得て、僕は全てを失う。何も感じないのか?」
「……何が言いたい」
「死んじまえ自己中野朗! 僕が死ぬのはお前のせいだ! 何で同じ誕生日なんかに生まれてきた、何で……」
――騒ぎを聞きつけ、ランケの護衛がヒューアを取り押さえた。脱走して著名人に暴言を吐いたとして、予定より早く施設行きが決まった。
そして数日後、ランケのもとに一つの知らせが入る。事務所になっている部屋で、マネージャーをしている男から、気まずそうに伝えられた。
「あのヒューアが、研究施設のカーテンで首を吊ったそうです」
「! 一体なぜ……」
「その、言いにくいのですが、研究員達は魔王の器なんて前例のない話に興奮し、色々と非人道的な実験をしたらしく、耐え切れなかったヒューアは……ということだそうです」
恨まれることに身に覚えがあるランケはふっと思った。
それ、計算じゃないのか。人生に絶望したなら初日にでも死ねばいいものを。非人道的な実験をされた後に死ぬなんて、当て付けにように感じる。お前のせいでこんな事になったんだ、と言いたげで。
性悪説を地でいくような考えをしているランケに、彼の妻が突然来訪する。
「ランケ? もう、お弁当忘れてるよ」
マネージャーは何事も無かったかのように姿勢を正す。主であるランケの許可が下りない限りは、カヤに話すつもりはないようだ。出来たマネージャーだと安堵する。何も知らないカヤはぷんぷんしながら話し出す。
「もう、神子の時もそうだったけど、それでも超有名歌手の奥さんのほうが記者はしつこいのね。ここに来るまで何度つかまったか。あることないこと聞かれるの、疲れた……」
そうは言いながらも、雲の上の人として追い掛け回されるのには満更でもない様子だった。神子なんて大層な肩書きがついていても、彼女は所詮人の子なのだ。ランケは、彼女の薬指に光る指輪を見て思う。
あれが受け取ってもらえない未来があったかもなんて冗談じゃない。人が死ぬから何だって言うんだ。自分を最初から信じてくれた得がたい人。……殺してでも欲しかった。だから死ぬと分かっていても……。
「ランケ?」
ぼーっとするランケに、カヤがきょとんとした顔で覗き込んでいる。慌てて考えを振り払って立ち上がる。
「ちょっと疲れてるかな。でも明日は休みだから」
「大丈夫? 無理しないでね」
「大丈夫。カヤの旦那さんなんだ、手なんて抜けないよ」
その言葉通り、いつでも全力投球の男としてランケは世代をこえて人気者だった。世間の噂のシンデレラストーリーも人気に拍車をかけた。そんな様子をみて、空の上でメイヤは笑った。
「あっはっは。異世界人を呼んでまで魔王封印なんて非難されるかなーって思ってたけど、さすが私! 成り上がり話が受けすぎて些細なこと扱いなんてさすがの私もびっくりだわ。汚いさすが人間汚い。次の魔王復活の時も、適当な落ちぶれ男選んで同じことすれば、非難どころか持て囃されるんじゃない? 素敵! 良い大義名分じゃない! 次もこの手で行こう! にしても、ヒューアが死んじゃったな。これに関しては冷静になった頃に苦情くるかなー? でもさ、研究の結果、人間に憑依されない方法でも開発されれば万人のためになるんだし、少しくらい我慢すればいいのに。寿命からいってもどうせ数十年でしょ? 人間ってほんと堪え性が無いなー」
誰も愚痴を聞く者がいない中で、メイヤは人間には到底理解不能な世界の苦悩を嘆いた。