人間には守りたいものの優先順位と言うものがある、当然の事だ。例えば簡単な例として見ず知らずの他人と親友、どちらかを助けるとどちらかが死ぬ、そんな状況になった時普通なら迷わず親友を選ぶだろう。他人には悪いが諦めて死んでもらう、これで他人を選ぶやつがいるとしたらそれは頭が可哀相なんだろう。ただその他人が超がつく程の大金持ちだったら少し迷う。
話が逸れた……つまりはそういう事だ、人間何かを守るときは必ず優先順位ってものがある。担任が言った、人には等しく優しくしろ、と……。それはどこの聖職者、もしくは偽善者だよ。そう言ったアンタだってきっとそんな事はできないだろう。
何て柄にもなく真面目に考えている俺は試しに付き合いの長い友人に聞いてみた、するとやつは
「1に妹、2に妹、3〜4も妹5も妹」
なんておっしゃりやがった。真面目に聞いた俺が馬鹿だった、こいつは色んな意味で腐っていた。
「やっぱ妹しかないな、オレの最大の夢だ!」
「何を想像してるかわからんが絶対にお前の考えてる様な妹は現実に存在しない、夢見てるなよヘタレ」
俺は慣れてる人間に対しては結構言いたい事ははっきりと言う方だ。友人である坂井利昭もそれは理解しているらしく特に文句を言ってこない、というか言っても無駄だと理解している。
「そんな事はない! 朝には優しく起こしてくれて料理は上手くて勉強もそれなりにできて何より兄を最優先でもちろん可愛い妹くらいいるはずだ!」
「………いねぇよ」
いたらそれはどっかのこいつに似た変態が作ったサイボーグが演技か望み過ぎて見ちゃった幻覚くらいだろ。
さて、また話が逸れた、だが今のでわかると思うが優先順位ってのは当然人によって違う。
ちなみに俺、風御圭吾の場合1に家族2に金3〜4は省いて5に家
本来なら1に金と言いたいが死んだ俺の母さんとの約束で家族は絶対に守ると決めた。もちろん偽善である事はわかってる、しかも家族って父親しかいない。息子に守られる父って世間的にああダメ人間なんだなと後ろ指指されること間違いなしなクズだろう。俺の父は残念ながら半分はそうである、非常に残念ながら……。ちなみに本来なら妹が両親は欲しかったらしい。
色々と考えながら家に着いた俺はリビングに行くとそこには例の如く親父がいた。何かニヤニヤとうざったい笑みを浮かべながら。
「お帰り息子よ」
「とりあえずその笑み気持ち悪いから消えてくんない?」
「ひどっ! 帰っての最初の言葉がそれ!?」
「わかった、言い方を変えよう。存在が気持ち悪い様な気がするからとりあえず俺の視界に入らない様に消えてくれない?」
「何気にさらにひどくなってるよね!?」
うるさい親父だ、大体昔から親父がこの笑みを見せるとロクな事がない。一番ひどかったのは幸せになるとか言って五百万の妖しさ当社比200%のツボを買ってきやがった。もちろんツボを返すか五百万払い切るまで家からは追放したが。
「今回は本当に朗報だぞ息子よ」
「そのセリフは八回目だ、社会のミジンコ」
「……と、とにかくまあ聞いてくれ」
泣きそうな顔になるが耐えて話を進めようとする。中々頑張ってるな、惨めな事この上ないが。
「なんと君に妹ができた!」
「おい親父、そろそろ食材切れるから買っとけって言ったのにないぞ、この存在自体が窓際族」
「話を無視したあげくにひどいよそれ!」
もう何かマジで泣きそうだ、うざいな、仕方ない…そろそろ話くらいは聞いてやるか。
「冗談にしちゃ性質が悪いな」
「冗談ではないぞ〜息子よ、なんだかんだ言いながら実は嬉しいんだろ? 素直じゃないなぁはぐっ!?」
とりあえずムカついたので世間一般的に鳩尾と呼ばれる場所に拳を減り込ませてみる。意外と効き目ばつぐんらしい。
「証拠を見せろ、馬鹿親父」
「よ……よし、では……もう来てもいいぞ」
死にかけた様な情けない声でそういうとキッチンの方から人影が現れる。それは女の子だった、多分中学生くらいか? なんつうか第一引証はおとなしそう、だった。
「どうだね? これで信じる気になったかね?」
非常に腹立たしいが認めざる選ない、さすがにまさか本人がいるとなると否定ができん。
「で、どうしてこうなった?」
「簡単な事だ……この子に親がいなかったからだ」
まるで当たり前の様に言いやがる。この親父は昔からそうだった、何しろ優しいのだ、誰に対しても。困ってる人がいれば迷わず助けるし誰に何て言われようが他人に笑顔を向けられる。担任が言ったとおりの事を当たり前にやってのける。俺が唯一この親父に尊敬できる部分だ、俺にはできないから……。
だから俺は軽くため息をついて笑うしかなかった。
「全く、まさか本当に妹ができるとはな」
「息子よ、では…」
「そこの、名前は?」
話がすんだところで親父はさっさと除外し今まで黙っていた俺の新しい妹に声をかける。長い黒髪にまだ少し幼さの残る顔、客観的に見て可愛いんだろう、多分……。
「私は……綾野って言います」
「綾野ね、俺は圭吾だ、親父から聞いてると思うが」
「圭吾……さん」
まるで名前を刻む様に呟く。もしかして聞いてなかったのか? だとしたら親父は後で砕く。
「お前は兄貴に対してさん付けか?」
「え?…あの、それじゃあ……」
「さん付けみたいでなければ好きに呼べばいい」
「えっと、お兄様」
瞬間、俺は膝から崩れ落ちる。親父は何てもんをひろってきやがった、後でミンチにしてやる。もちろん八つ当たりだ。
「好きに呼べと言った俺が悪かった、それは周りの目とかどうとかやばいからやめてくれ……」
「じゃあ、兄さん…」
「それでいい」
無難なとこに落ち着けて自己紹介も済んだところで横を見ると話から除外された親父が部屋の隅でしくしくと泣いていた。塩でも撒いてやろうかと思ったが塩がもったいないし親父が買い忘れた+綾野の分も含めた食材を買いに行かなくてはならないので放置。
綾野に留守を頼んで俺は愛用の自転車(通称アルトアイゼン)に跨がるとさっそうとこの辺りで一番デカい食料品店に向かう。今日は少し奮発したものを買うか、その分は親父割り振られた小遣いから削ればいい。原因は親父だからな。
次の日の朝、何やら心地よい振動に意識が覚醒する。そして最初に聞いたのはこんなセリフだった。
「起きてください、朝ですよ兄さん」
兄さん? ブラザー? これは何の夢だ、いやもしかしたらこれは幻想でしばらくすると現実に戻っていい夢見れたか? とか言われるのか?
「兄さん、朝ご飯もできてますよ、起きてください」
ゆさゆさと体を揺すられる。むぅ……俺は何かを忘れてないか? 大事な何かを………………あ…。
「って何ぃぃぃぃぃ!!」
「はぅっ!?」
俺は一気に起き上がるとさっきから俺を起こしていた張本人を見る。いきなり叫んだ事に驚いたらしく若干離れた位置にそれはいた。
「何でお前がここにいる? 綾野」
そう、昨日あの馬鹿親父が連れてきて突然俺の妹になった女の子だ。そして綾野がここにいるのははっきり言ってありえない、何故なら…。
「確かドアに鍵がしてあったよな?」
「はい、でも昨日お父さんがこの部屋の合い鍵をくれましたから」
……あの親父、後で三枚におろしてやる。というか合い鍵なんて存在、今初めて知ったぞ、いつの間に作りやがったんだ?
「とにかく朝ご飯もう出来てますよ」
そう言って綾野はご機嫌で俺の部屋をあとにする。今の時刻は七時半、朝食ができてるって事はあいつ何時に起きたんだよ?
リビングに向かうとそこには日本人の心、和食が並んでいた。しかもどれもがかなり旨そうだ。俺は椅子に座るとさっそく味噌汁を一口飲んでみる。
「……旨い」
思わず口に出ていた。悔しいが俺よりかなり上手だ、他のメニューも多分そうだろう。
「よかった、兄さん料理が得意だって聞いてたから頑張ってみたんです」
嬉しそうに話す綾野。親父も無意味な情報を率先して伝えるな……しかし、なんと言いますか…。
「人間国宝?」
「え? え?」
「いや、忘れてくれ……」
まさか利昭の言ってた様な人間がいるとは、世の中まだまだ未確認な物が多いな。ツチノコやイエティなんてのも実はいるんじゃないかと思えてくる。大袈裟か?
「さて、そろそろ俺は学校に行くか」
「はい、いってらっしゃい」
「お前学校はどうするんだ?」
「お父さんが新しい学校に行かせてくれるらしいです」
何と言うかそういうとこだけ本当にマメだよな、親父も。そのマメさをもっとしっかりと使えないもんかね、全く。
玄関で綾野に見送られた俺はアルトに乗り学校へ向かう。徒歩でも行ける距離にあるがやはり速い方がいい、何より気持ちいい。
しばらく走ると先の方に見知った背中を見つける。向こうも音で気付いたのか立ち止りこっちを振り向き手を振ってきたので俺は……。
「げぶぁっ!」
もちろん迷わず引き飛ばした。
「朝に俺に出会った不幸を呪うがいい」
「実に……トロンべ…」
中々わかってるな、惜しいやつをなくした。死んでないけど。先に学校に着いた俺は後から来た利昭に文句を言われたが知った事じゃない。通路を妨害したお前が悪い、少し横に逸れれば普通に回避できたが別にこいつなら問題ない。一般的にはかなり問題になるが。
今日の担任の言葉は一意専心だった。何が言いたいのか全く理解できなかった。
そして放課後俺はさっさと帰り支度を済ませ学校を後にする。特に用事もなければ利昭に合わせて帰る必要もないのでアルトに乗り真っ直ぐに自宅に向かう。自宅に着いた俺は違和感に気付く、というか気付かない方がおかしい。
家の前には見慣れない車、そして半分開いてる玄関からは何やら言い争いの様なものが聞こえる。イヤな予感がする、母さんが死んだ日もそうだった。俺はアルトをしまわずに玄関を開け放つ。
「親父、何かあった……のか」
そこにいたのは誰にでも優しい親父が珍しく怒っている姿と半分泣いている綾野、そして一人の男、そこから大体の事は予想できた。
「あんた、綾野の……」
「父だ」
男が答える。やっぱりな、しかし気に入らねえ。
「今更綾野に何の用だよ?」
俺は綾野の前に立ち冷たい視線で男を睨みつける。
「決まっている、綾野を引き取りに来たんだ」
「この男は自分が付き合っていた女と別れた途端に綾野を引き取りに来た」
親父が俺に詳細を告げる。実にわかりやすい、女がいると娘が邪魔になるが一人になると必要になる。俺が最も気に入らない人種の一人だ。なら俺のやる事は決まってる、綾野は俺の妹だ。
「帰りなおっさん、あんたの様な社会の掃きだめには綾野はもったいない」
約束……家族は守る、俺の中の絶対のルール。誰にも曲げることはできない、本人が拒否しようと守る。
誰にだって譲れない物がある、それが俺は自分の意志。
誰にだって守りたい物がある、それが俺は家族。
偽善でいい、それでも決めたから。
「綾野はもう俺の妹で家族だ、誰がみすみす不幸になるとわかってるやつに渡すかよ、腐った脳でも考えれば理解できるだろ?」
「兄さん……」
「子供が偉そうにするな、親に養ってもらってる分際で」
俺は相手によくわかるよう盛大に馬鹿にした笑みを浮かべる。
「生憎、俺の場合は養ってる側なんだよ、それにあんたもどうせ自分一人じゃ何もできないんだろ? なにせ女に捨てられていきなり娘を引き取るなんて生活能力がないからに他ならないんじゃないか?」
「ぐっ……ガキが」
今にも男は飛び掛かってきそうなくらいこちらを睨みつけている。だが引かない、引いてやるかよ。
「わかったら諦めろよ、お前は娘を含めた全ての女に捨てられる運命なんだよ」
その一言で男はキレた、真っ直ぐに拳が迫ってくる。
「危ない!」
綾野が後ろで叫ぶ、俺は笑う。多分相当イヤな笑みを浮かべてるだろう。拳は俺のところまで届かなかった、止めたから当然だ。人間必死になれば意外と何でもできるもんで知るかぎり大体の武術は学んだ、護身術も覚えた、トレーニングもやった。
何にもできない馬鹿が必死にあがいた、あがいて、あがき続けて、カッコ悪くても、馬鹿らしくても、それでもあがいた。いつの間にか周りで自分に勝てるやつはいなかった。
「正当防衛って……知ってるよな?」
俺はどうやらイヤな性格らしい、今更だが思った。ボロボロになって泣きながら逃げてく男を見て笑ってるんだから。ちなみに過剰防衛って言葉もあるが知ったことか、法律なんて都合のいいように使えばいいんだよ。
「ごめんなさい」
綾野から最初に出た言葉がこれだった。泣きながら何度も頭を下げる、見ているこっちが申し訳なくなるくらいに。
何と言うか馬鹿はここにもいた。俺は綾野の頭に手を置き髪をくしゃくしゃと撫でる。
「家族を相手にそんな態度とるな、それは他人に対しての態度だ」
「でも、私が…」
「だから家族相手に遠慮するな、される方が嫌になる。こういう時は素直に礼を言え」
しばらく黙っていた綾野だが、最後には顔を上げ笑いながら
「ありがとう」
そう言った。そうでないと俺の行動に意味がない。
「それでいい、そこのごくつぶしの駄目メガネみたいにとは言わないがもっと頼れ、遠慮をするな」
「何気にひどい事を言うね、息子よ…」
うるさい親父だ、また鳩尾に入れるぞ。俺に睨まれすぐに黙る親父、そんな光景を見て綾野がおかしそうに笑う。まあ滑稽な親父の姿は確かに笑える。
「わかりました、今度からはもっと兄さんに頼ります」
「そう、そんなもんでいいんだよ」
この瞬間、俺達に本当の意味で家族が増えた。
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