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  帰るべき場所 作者:蒼藍


更新が大変遅くなってしまいました事、心よりお詫び申し上げます。

59. 待ち望んだ瞬間
  和葉は、手にした機械を耳から外すのと同時に体から力が抜けていくのを感じていた。

  ただ、涙腺だけはその動きを止めずに、彼女の瞳からとめどなく雫が流れ落ちている。

  待ち続けていた男性ひとが無事だったという安心感と待ち望んでいた声が聞けたという嬉しさで胸がいっぱいになり、次に

  しなければならない事すらも浮かばない。

  そんな時、突然電話の音が遠山家に響き渡った。

  どうやら母親が出たらしく、ぼそぼそと会話が聞こえる。

  そして一分も経たないうちに、部屋の向こうから大きな声が投げ掛けられた。

  「和葉!電話やで」

  文明の利器が浸透している今の時代に、携帯ではなく自宅に電話してくる人間など極少数だ。

  それは和葉にも当てはまることで、彼女の友人や知人が連絡してくる時も、基本的には携帯でやりとりすることが多い。

  自宅に連絡してくる状況で考えられるのは、彼女の携帯番号は知らないが自宅の電話番号は知っている人が連絡を取り

  たがっている場合。

  でも、それに当てはまる人物は和葉には思い当たらない。

  あれこれ悩んでいる内に、そこそこの時間が経過していたらしい。

  いつの間にか二階に上がってきた母親が、彼女の部屋のドアを開けた。

  「和葉、何してんの。お待たせしたら失礼やろ。はよ、電話に出な・・・」

  尻窄みになっていく母親の声に、和葉は現在の自分の顔の状態を思い出して俯いた。

  「あんた、どないしたん?」

  案の定、聞かれた質問に彼女はどう答えていいのかわからない。

  平次の現状を和葉の両親は当然のことながら知らないのだ。

  「ちょっとな。ほんで、電話って誰から?」

  和葉ははぐらかす以外の方法が見つからなくて、涙を拭いながら話題を元に戻す。

  「・・・ああ。平蔵さんからや」

  「え?」

  意外な人物の名前に耳を疑いながらも、それはこれ以上待たせられないとばかりに、和葉は慌てて電話のあるリビング

  へ急いだ。






  「もしもし」

  『和葉ちゃんか?夜分遅くにすまんな』

  「いえ。こちらこそ、お待たせしてもうて」

  『そんなこと、気にせんでええ』

  あまり電話越しに聞く事の無い渋い声に耳を傾けながら、何を言われるのかと不安に駆られた和葉の鼓動が次第に早く

  なっていく。

  そんな和葉の様子を分かっているのか、平蔵から単刀直入に用件が伝えられた。

  『平次から、連絡あったやろ?』

  「・・・はい」

  答える前に間が空いてしまったのは、この事を誰にも言うなという平次の言葉を思い出したからだ。

  しかし、平蔵の問い掛けに和葉は嘘がつけなかった。

  『明日、関空までの車をワシが手配しておくさかい、朝早いんやけど家の前で待っといてくれるか?』

  「えっ・・・?」

  ついさっき平次から連絡があったばかりで、彼女は事態を何一つ消化できていないというのに、彼の父親の素早い対応に

  和葉は驚きを隠せないでいた。

  『和葉ちゃん?聞いとるか?』

  「おじちゃん・・・なんで?」

  質問で返された事で彼女が混乱していると知った平蔵だったが、今の段階で何かを話す訳にはいかない。

  『それは、平次に直接聞いた方がええやろ。とりあえず、明日朝4時半に迎えを行かすから』

  「わかりました」

  これ以上尋ねても無駄と察しておとなしく引き下がった和葉に、平蔵は父親に代わるようにと伝え、彼女はそれに

  応じて珍しく家にいてテレビを見ていた父親に受話機を渡す。

  平蔵が何を言っているのかは聞こえないが、どうやら明日和葉を東京に行かせることへの了承を取っているよう

  だった。

  短いやり取りの後、電話を切った父親が何か言いたげな表情で和葉を見つめていたが、すっと視線を逸らすと一言

  呟いた。

  「明日、早いんやろ?はよ、準備して寝たほうがええ」

  「う・・・ん。おやすみなさい」

  和葉は父親の言葉に従って、何も言わずにリビングを後にした。






  結局、大して眠れずに夜が明けて、和葉は予定通り東京行きの始発の飛行機の中にいた。

  僅か1時間足らずのこの時間がもどかしくて堪らない。

  一般市民が使える乗り物でこれ以上早く移動できるものなどないのだが、それでも彼女には遅く感じられてしまう。

  心が急いて、寝不足の体を休めることも出来ないまま、定刻通り飛行機は羽田空港へと降り立った。

  そして、到着ロビーを出てきた和葉を見知らぬ声が呼び止める。

  「和葉さん」

  聞こえた方向に視線を向けると、そこにはサングラスを掛けた茶髪の女性が黒いスーツに身を包んだ男性と共に立って

  いた。

  「あの・・・」

  「服部君から頼まれて迎えに来たの。とりあえず、行きましょう」

  突然のことで驚いたが、平次のことを知っている人だということが和葉を安心させた。

  男性が和葉の持っていた荷物を手に取り、二人をエスコートするように歩き始める。

  足早に歩く二人の後を必死についていく和葉の目に入ってきたのは、黒塗りの車。

  それは、一ヶ月ほど前に東京に来た時に乗った車によく似ていた。
  
  流れるような所作で後部座席のドアを開けた男性は二人が乗り込んだことを確認し、ドアを閉めて運転席へと座ると

  無言のまま車を発進させた。

  動き出した車の中で発せられた言葉は、茶髪の女性の自己紹介と『よろしく』という挨拶だけだった。

  どこへ行くのか、平次はどうしているのか、聞きたいことがたくさんあるのに、それを許さない車内の空気に和葉は

  困惑する。

  そして、彼女がどうすることも出来ないまま、車は小一時間ほど走り続けた。






  目的地に着いた車から降りて入った建物が病院だと気付いたのは、エレベーターを降りたときに和葉の鼻腔を掠めた

  消毒液の匂いだった。

  (平次・・・怪我してるん?)

  和葉の心で不安がどんどん増殖し、歩くスピードが徐々に落ちていく。  

  そして、少し前を歩いていた志保がある扉の前で立ち止まると、おもむろに和葉の方に向き直った。

  「服部君はここよ」

  そう言った志保は、和葉の憂いを帯びた表情を見て苦笑いを浮かべる。  

  「彼は確かに怪我をしているけど、命に別状はないわ。って言っても、慰めにならないのかしらね」

  いつだって、彼女達はそうだった。

  彼女達の幼馴染が危険な目に遭うたびに、たとえその時負った傷が掠り傷だとしても心配で涙を流す。

  そんな事を思い出しながら、志保は目の前のドアをノックした。

  「はい」

  聞こえてきた声は、いつもよりも少し低い。

  (彼も、緊張してるって訳ね)

  和葉に見られないように少し笑った志保は、勢いよくドアを開けた。

  「連れて来たわよ。ご所望の女性ひと

  志保はそう言って、和葉の背中を優しく押し出した。

  「和葉」

  呼んだ彼の声は、先ほどの緊張しているものから、慈愛に満ちたものへと変わる。

  そして、これ以上は聞いてはならないとばかりに、志保はゆっくりとドアを閉めた。

  先ほどまで不安に満ちた顔をしていた和葉が、幸せの笑みを浮かべることを願って。

 
いつも読んで下さり、ありがとうございます。
まずは・・・
本当に、本当に、申し訳ございませんでした。
2ヶ月以上も空けてしまったのはさすがに初めてで、続きが読みたいという
コメントまで頂いていたのに、なかなか更新できませんでした。
言い訳になりますが、事情としては急に忙しくなった事への対応ができず、
生活リズムを崩しまくりで、執筆活動に時間を割く余裕がなかったためです。
去年もこの時期は忙しかったのですが、今年はそれ以上で、正直ちょっと
困ってます・・・。
実は、まだ落ち着いた訳ではないのですが、これ以上は限界と思って、
今日更新致しました。

最悪年内は、不定期な状況が続くかもしれませんが、できるだけ
早くコントロールできるようになって、執筆する時間を作りたいと
思っていますので、長い目で見守ってやって下さい。
相変わらず、亀のような更新速度ではありますが、必ず完結はさせよう
とは思っています!
今後とも、ご愛読頂けると嬉しいです。
よろしくお願い致します。
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