帰るべき場所(29/49)PDFで表示縦書き表示RDF


帰るべき場所
作:蒼藍



28. 敵わない相手


  何も知らないコナンと平次が哀の不在を聞かされたのは、彼女が蘭との対面を果たした日の夜遅く。

  その日は、組織への突入に関する議論が長引き、本部から帰宅できたのは日付が変わる頃だった。

  哀の行動を心配した博士は、2人の帰りを待って事情を説明した。

  「どこに行ってんだ?あいつ」

  「それが『気分転換しに』としか・・・。詳しい事は何一つ話してくれなくてのう。」

  博士の報告をいぶかしげに聞いたコナンに対し、平次はさして気にしていないようだった。

  「あの姉ちゃんかて、一人になりたい時もあるんとちゃうか。」

  「まあ・・・な。」

  ここ最近、哀の様子がおかしい事には、コナンももちろん気付いていた。

  ただ、それは組織との対決が近づいていて、ナーバスになっているだけだと思っていた。

  しかし、奴らに見つかる危険を冒してまで外出したことを考えると、理由はそれだけではないような気がする。

  (何、考えてるんだ?)

  疑問は膨らむ一方だが、彼女の行動や思考が理解できないのは、今に始まったことではない。

  手がかりのない難問に取り組むのを諦めたコナンは、早々に自室に引き上げた。





  深夜2時。

  コナンは携帯電話を片手に、『010』から始まる電話番号を滑らかな手つきでダイヤルする。

  数回のコール音の後、聞きなれた声が受話器の奥から聞こえてきた。

  『Hello?』

  「あ、母さん?オレだけど。」

  電話の向こうは、ロンドン。

  日本との時差は9時間だから、先方は午後の5時頃だろう。

  『まぁ、新ちゃん。新ちゃんから電話なんて、珍しいわね。どうしたの?寂しくなったの?』

  「そんなんじゃねーよ!!」

  いつもと変わらない母親とのやり取り。

  目下それに付き合うほどの余裕を持ち合わせていないコナンは、早々に本題へ移る。

  「父さん、いる?」

  『ええ。ちょっと待ってね。』

  久しぶりの息子からの電話の目的が自分でない事を知り、名残惜しそうな声でそう言うと、有希子は近くで本を

  読んでいた優作に声を掛け、受話器を渡した。

  『どうした?新一。』

  「ちょっと大事な話があって。時間いいかな?」

  『ああ。大丈夫だが・・・。』

  優作は、いつもと違う息子の控えめな発言に少し戸惑いを覚えながらも、彼の申し入れを快諾する。  

  承諾を得たコナンは、ここ2週間ほどに起こった事のあらましを、重要な部分だけを抽出して説明した。

  『それで、突入はいつの予定なんだ?』

  黙って最後まで聞いていた優作は、今後のことを尋ねる。

  「まだ、やらなきゃなんねー事があるから・・・1週間後くらいかな。」

  FBIと完全に詰まっている訳ではないが、彼なりの予想日時を答えた。

  『そうか。で?新一。蘭君のことはどうするんだい?』

  「え?!」

  突然、現段階の一番の難題を突きつけられ、コナンは間誤付く。

  この短い会話の中で、的確に核心を突いてくるところは尊敬に値するが、今はそれに敬意を表せる気分にコナンは

  なれなかった。

  しかし、この父親を前に誤魔化したところですぐに見抜かれてしまう事を思い知らされている彼は、ある程度正直に

  答えることにした。

  「蘭には、何も伝えてない。話すつもりもない。巻き込みたくないんだ。あいつには、幸せになって欲しいからな。」

  その言葉で息子の考えていることのおおよそを感じ取った優作は、複雑な感情を抱いた。

  そして、その感情を彼なりの言葉で表白する。

  『新一。最後は、お前が決めるしかない。だから、よく考えるんだ。本当にそれでいいのか。』

  父親の真意を読み取ったコナンは、ただ黙ることしかできなかった。

  沈黙から自分の思いが伝わったことを確信した優作は、話を続ける。

  『それで、何か頼みたい事があるんじゃないのかい?』

  「ああ。父さん、インターポールに知り合いがいるって言ってたろ?突入までのわずかな時間でも何か情報がつかめたら、

   教えてもらいてーんだけど。」

  『ああ。わかった。頼んでおくよ。』

  当初の目的を達成したコナンは、これ以上の長話は無用と判断し会話を切り上げた。

  「それじゃ。」

  『新一。』

  その意向を優作の鋭い声が阻む。

  そして、息子を心配する父親の気持ちを明確でない短い言葉で伝えた。
 
  『最終的な予定が決まったら、必ず連絡するんだぞ!』

  「わかってる。」

  通話を終了させた後、コナンは自分が想像以上に緊張していた事に気がつく。

  (やっぱり、父さんにはかなわねーな。)

  優作の言葉を思い出しながら、コナンの胸の奥にはモヤモヤした感情が渦巻いていた。





  「ふぅ・・・。」

  大きなため息をつくと、優作は静かに受話器を置いた。

  (さて、どうしたもんかな。)

  たった今聞いた状況を消化しながら物思いに耽っていると、不安そうな声が背中から聞こえた。

  「優作。新ちゃん、大丈夫なの?」

  息子の話は聞こえていなかったが、夫の言葉で大方の流れが理解できていた有希子は、縋るような目で優作に

  問い掛ける。

  そんな妻の表情を明るくしてやりたいところだが、それが出来るほど優作も現在の息子の状況を楽観視はできなかった。

  「どうかな。まぁ、FBIの全面協力があるから、緻密な計画が練られているようだ。ただ、服部君を巻き込んで

   しまっているようで、それが気がかりだな。」

  「蘭ちゃんは?」

  親友の娘で、自分の娘のように大切にしている、息子の幼馴染。

  ただ、息子の帰りを待っている彼女の心情が手に取るようにわかる有希子は、息子同様に蘭のことを案じていた。

  「それも、問題の一つだな。しかし、それは新一が自分で答えを見つけなければならない事だ。」

  そう言うと、優作はシステム手帳から目当ての電話番号を探し出し、再び受話器を手にした。


    


いつも読んで下さり、ありがとうございます。
今回は、1ヶ月空けずに更新できました!
それでも、遅いですね。
このままの調子だと、書き終えるのに何年かかるんだか・・・。
もう少し、ペースを上げれるように頑張ります!

さて、今回は工藤夫妻が登場です。
私の文章力があれば、優作と新一の多くを語らずとも思いが伝わる親子関係が表現できたのでしょうが、
現段階ではこれが限界です(涙)。
また、良いアドバイスなんぞありましたら、是非お願い致します。











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう