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帰るべき場所
作:蒼藍



24. 切願の先に待つもの


  探偵たちの内談の翌日の昼下がり。

  ジョディは、車を運転してある場所へ向かっていた。

  スモークガラスが装備されているその車の後部座席に、若い年頃の女性を乗せて。

  女性は、サングラスをかけ帽子とマスクをしているため、顔を窺うことはできない。

  その女性は、車窓から見える風景を眺めながら、これから会いにいく人物のことに思いを馳せていた。





  昨日、ジョディは阿笠邸を訪れていた。

  応対したのは、博士。

  「哀はいる?」

  「今日は1日、独りになりたいと言っておるんじゃ・・・。」

  暗い顔をして答える博士。

  コナン同様、一人で抱え込んでしまう哀を博士はとても心配していた。

  「そう。ちょっと顔だけ見てくるわ。別に病気な訳じゃないんでしょう?」

  「ちょ・・・、ジョディ先生!」

  半ば強引に家に上がりこむと、彼女は哀の部屋へ向かった。

  コン・・・コン・・・。

  ドアをノックするが、応答がない。

  「哀・・・私よ。」

  声を掛けてみると、すぐにドアが開いた。

  「先生・・・。」

  沈み込んでいた哀の表情が、少し明るくなる。

  そして、部屋に入るなり、哀は待ちきれないというようにジョディに尋ねた。

  「例の件、調べてくれた?」

  「ええ。あんまり、良い状態とは言えないわね・・・彼女。」

  そう。

  哀がジョディに依頼したのは、毛利蘭の現在の状況について。

  哀は蘭が今、どうしているのかどうしても知りたかったのだ。

  「彼女はここ3日、体調不良を理由に学校を休んでいるわ。家からも1歩も出ていないようよ。かと言って、

   病院に行った形跡もないわ。彼女の母親が毎日様子を見に来ている状態よ。」

  蘭が倒れた朝、小五郎は妻の英理に助けを求めていた。

  父親には話したくないことも、母親になら言えるかもしれないと思ってのことだった。

  ジョディは話を続ける。

  「鈴木さんが毎日お見舞いに行っているようだったから、彼女が友人にしている話を探ってみたけど・・・彼女も

   詳しいことは聞けていないみたい。毛利さん、何かを話そうとすると、突然泣きだしてしゃべれなくなるって

   話していたわ。」

  (蘭さん・・・。)

  彼女にとって、彼の言葉がどれだけショックだったのか。

  学校にも行けなくなるくらいの・・・誰かに助けを仰ぐこともままならないくらいの衝撃。

  彼女の気持ちを考えると、哀も胸が苦しくなる。

  「哀・・・何があったの?」

  事情を知らないジョディも、蘭の状況をさすがに不審に思っていた。

  「ちょっとね・・・。」

  (このままじゃ・・・いけない。やっぱり彼女に会わなくちゃ。)

  昨夜の衝動が蘇る。

  「ねぇ・・・先生。もう1つお願いしてもいい?」

  「え?」

  「私・・・蘭さんに会いたいんだけど・・・。」

  ジョディは驚いた。

  灰原哀は既に、米花町から引越したことになっている。

  その彼女がのこのこ現れたら、誰だって混乱するに違いない。

  もちろん、組織の連中に見つかる可能性もある。

  そうなれば、危険度はさらに増していく。

  何よりも、そういうことを哀自身がわからないとも思えない。

  「どういうこと?」

  「どうしても、彼女に会って聞きたい事があるの。」

  彼女の真剣な眼差しに混乱しながらも、ジョディは努めて冷静に状況を説明する。

  「わかってると思うけど・・・あなた、もうこの街にいない事になってるのよ?」

  「ええ。だから、この姿では会わない。」

  「え?」

  ますます哀の言っている意味が理解できないジョディ。

  「『灰原哀』としては会わない。『宮野志保』として会うわ。」

  「何ですって?!」

  それこそ自殺行為だ。

  組織は裏切り者のシェリーを見つけようと必死になっている。

  そのため、哀は小学生の姿であっても、なかなか外に出ようとしなかったくらいだ。

  それなのに、『宮野志保』で外に出るということがどれだけ危険か、想像しただけでも身の毛がよだつ。

  加えて、もう一つ疑問が残る。

  「『宮野志保』で会うって・・・どうやって??」

  「解毒剤の試作品が残ってるのよ。私は、工藤君と違って一度も飲んだ事はないから、多分元に戻れるわ。」

  哀の今までと正反対と言っていい言動に、ジョディは戸惑いを隠せない。  

  「哀・・・それがどういうことかわかってるの?」

  「わかってるわ。それでも、どうしても彼女に会わなくちゃいけないのよ!」

  哀の見た事のない切迫した表情に、ジョディは圧倒される。

  「お願い先生・・・。彼女に会わせて。」

  懇願する哀の顔を見据えながら、ジョディはひとつ大きなため息をつくと、観念したように頷いた。

  「わかったわ・・・。一度、チームで相談してみる。それにしても・・・あなたたちは、ほんとに次から次へと我儘ばっかり

   言うんだから・・・。」
  




  そして、ジョディは約束どおり段取りを整えてくれた。

  彼女と会うための準備も、その場所も。

  どんな無理をしても、彼女に会いたかった。

  そして、彼女に尋ねたい。

  スモークガラス越しの風景が、約束の場所が近づいていることを教えてくれていた。

  抑えられなかった願望がもうすぐ叶うと思うと、嫌でも冷静な自分が戻ってくる。

  これから、そこへ向かって自分はどうするのだろう。

  自分の心の奥底にある感情がくすぶる。

  その感情と、彼女に向けられている感情は、相反するものだ。

  どちらの感情が本当の気持ちなのだろう。

  自分は、何を望んでいるのだろう。

  彼女に会いたいと思った時から、その自問自答が始まっていた。

  解毒剤を目の前にしながら、自分がこれからしようとしている事は正しいのかと悩んだ。

  それでも、そうしなければ前に進めないと思ったのだ。

  (だから、私はここにいるのよ。)

  逸る気持ちを抑えながら、彼女が待つ場所はもう目の前だった。


いつも読んで下さり、ありがとうございます。
前話投稿から、半月も経ってしまいました。
相変わらず更新が遅くて、申し訳ございません。
ただ、少し余裕が出てきたような気がするので(あくまで、気がするだけかもしれませんが・・・)
もう少し、スパンを短くしていければと思っています。

今回のサブタイトルは、悩みに悩みました。
こんなに困ったのは、初めてかも・・・。
内容とかみ合っていなくて、すみません。











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