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帰るべき場所
作:蒼藍



17. 夜明け


  

  気がつくと、空が白みがかっている。

  壁に掛かっている時計が、彼女との電話から5時間近く経っている事を知らせてくれた。

  (朝・・・か。)

  コナンは、まだリビングから動けずにいた。

  時間の経過の速度と、心が現実を消化する速度が連動していない。

  FBIで知らされた事実も、あの恐ろしい夢も、彼女との電話も、全部幻のように思えてくる。

  しかし、それはただの願望でしかなかった。

  (蘭・・・。)

  夜更けに散々傷つけた彼女のことを思い出す。 

  あれから、彼女はどうしただろう。

  もう、彼女の瞳から涙が零れていないだろうか。
  
  もう、自分のことを忘れてくれただろうか。

  『私、新一のこと・・・待っていたら・・・いけない・・・ってこと・・・なの・・・・・・?』

  ふと、彼女の言葉が蘇る。

  彼女の自分への気持ちは、自惚れない程度に自覚しているつもりだ。

  以前、彼女の口から『工藤新一』に対する気持ちを聞いたこともある。

  本当に彼女のことを思うなら・・・

  本当に自分のことを忘れてほしいと思うなら・・・

  『嫌いになった。だから待たなくていい』

  このくらいのことを言ったほうが、良かったのかもしれない。

  でも・・・

  嘘でも『嫌い』という言葉は使えなかった。

  自分自身よりも大切に思える彼女に、その言葉だけは言えなかった。

  (結局・・・中途半端なんだよな・・・オレは・・・。)

  そう思った頭が、座り込んだままの体が鉛のように重かった。

  



  「おはよう・・・。」

  ふいに聞こえた声。

  その方向に目を向けると、哀が立っていた。

  「あぁ・・・。早いな。」

  彼は少し驚いて答える。

  「寝てないの・・・?工藤君。」

  哀は、答えを知っている質問を彼に投げかけた。

  「いろいろ考えてたら、朝になっちまった・・・。オメーも寝てねーのか?」

  彼女も彼と同じような顔をしている。

  目の下にクマを作り、悲愴な面持ちをして。

  「えぇ。データの分析に没頭していたら、朝になってたわ・・・。」

  (お互い嘘つきね・・・。)

  哀はそんなことを思いながら、コーヒーの準備を始めた。

  「昨日は・・・悪かったな・・・。」

  コナンの意外な言葉にドキッとして、彼女は振り返る。

  「何のこと・・・?」

  「昨日、ここに戻ってきたとき・・・オメーの事・・・。」

  (気付いてたの・・・?)

  思いがけない彼の言葉が、あの衝撃で傷ついた彼女の心を癒していく。

  「気にしてないわ・・・。」

  気にしてくれていた事が嬉しくて仕方ないのに、素直になれる訳でもなく無愛想に答える。

  そして、用意したコーヒーを彼に手渡した。






  「ねぇ・・・。」

  2人はソファーに向かい合って座り、しばらく無言のままコーヒーを飲んでいた。  

  その静かな空気の中で、彼女は無意識に呟く。

  「ん?何だ?」

  「昨日・・・どうして・・・。」

  そこまで言って、哀は自分の言動に気付き困惑した。

  思わず口に出してしまいそうになった言葉。

  『どうして、彼女にあんな事言ったの?』

  それは昨夜、哀が夜通し考えていた難問だった。

  (どうしよう・・・。)

  コナンと蘭の電話を哀が聞いていたことなど、彼自身知る由もない。

  「何だよ・・・灰原。」

  彼が怪訝そうに尋ねる。

  「だからね・・・。」

  哀は取り繕うと必死に頭を働かせるが、良い口実が浮かんでこない。

  すると、ため息と共に彼が少し顔を曇らせて言った。

  「昨日、何があったか・・・知りたいんだろ?」

  どうやら、コナンは昨日の件を哀に話さずにいることを気にしているらしい。

  「えぇ・・・。」

  彼の誤解に、哀はホッとする。

  本当の質問を隠して、彼の勘違いにのることにした。

  「今日、帰ってきたら話す・・・。だから、もう少し待ってくれねーか?」

  その表情は、哀が昨日の夜見たものと全く違っていた。

  どこか憂いを帯びていながらも固い意志を持つ目。

  何かが彼の中で動いたのだと、彼女は感じ取る。

  「わかったわ・・・。」

  そう答えると、彼女は再びコーヒーを口に含んだ。   

     


いつも読んでくださって、ありがとうございます。
今回は、『夜明け』と言う事で背景色と文字色を変えてみました。
この場面の時の空の色を表現したかったのですが、あまりイメージに合うものがなく、散々悩んだ挙句この色になりました。
いかがでしょうか?

さて、次回から物語がまたまた少し動きます。
あの人も登場予定です。
今後もご愛読、よろしくお願いします。











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