10. 崩れた希望
車内での会話は一切なかった。
ただ、重い空気が流れるだけ。
コナンは窓の風景を見ているようだったが、その目には何も映っていなかった。
「よく来たね。コナン君。いや・・・新一君と呼んだほうがいいのかな?」
FBI本部の一番奥にある、コンピューターやスクリーンが数多く並ぶ部屋に通されたコナンは、久しぶりに
会うジェイムズに声を掛けられた。
「どちらでも・・・。それより話を聞かせてください。」
これ以上は我慢できないという目で、コナンはジェイムズを見据えた。
「わかった・・・。では、そこに座って。」
そう促された椅子の前には大きな液晶テレビが置いてあり、地図らしきものが映し出されていた。
「これは・・・組織の本拠地の地図ですね?」
「その通りだ。」
「何があったんですか?」
ジェイムズは大きく息を吸い込むと、コナンから目を背けずに言った。
「特別チームのメンバーの一人がやつらに捕らえられた・・・。」
「何だって!?」
思わず、コナンは立ち上がる。
「3日前から潜入調査を行っていたんだ、最終確認のために。しかし、その内の一人が現在も戻って来ていない。
おそらく、やつらに捕まったとみて間違いない。」
「・・・って事は・・・計画がバレた・・・。」
「そうとまでは言えない。これが、最後に彼から送られてきたメールだ」
そう言うと、画面が地図からメールに切り替わった。
『脱出不可能。通信を終了する。拘束される前に自決する。』
「・・・・・・・。」
言葉にならず、コナンは呆然としていた。
今度は大きなスクリーンに組織の地図が映し出されると、ジェイムズがレーザーポインターを使って説明する。
「確かに、彼が所持していたGPSの信号はこの研究室の前で途切れている。恐らく、ここで囲まれたんだろう。
このメールを信じれば、彼らに捕えられ計画を自白させられた可能性は低い。ただ、FBIが潜入捜査を
行っていたことはバレた訳だから、我々が何かを計画していたことは奴等にも想像つくだろう。もちろん、
向こうもそれ相応の対策を取ってくる可能性が高い・・・。」
コナンは、放心状態のまま椅子に座り込んだ。
「これから・・・どう・・・するんですか?」
「それを君と相談しようと思って呼んだんだ・・・。我々は、計画の一時中断を考えている。このままでは
危険すぎる。一度計画を練り直したほうがいい。」
ジェイムズの言葉に、コナンは思わず声を上げた。
「そんな・・・!それじゃ、奴らを倒せるのはいつになるんですか!?」
「・・・半年から1年は先延ばしも止むを得ない・・・。」
ジェイムズは、承服できないと言わんばかりのコナンを説き伏せようとしていた。
「わかっている。君がどのくらいの覚悟を持って、この計画に臨んでいるか。これにすべてを掛けていることも。
しかし、現在の状況で突入するのは危険だ。それでなくても、無事に戻ってこられる可能性は50%だったんだ。
それ以下になってしまった状態で、君を突入させることはできない!」
ジェイムズが言っていることは、理屈としてわかる。
しかし、コナンにはそれを受け入れられない理由があった。
「このまま計画を止めたら・・・蘭たちは・・・どうなるんですか?」
その言葉にジェイムズの顔が歪む。
コナンは更に言葉を重ねた。
「計画を先延ばしにしたら、蘭たちが危険にさらされるんじゃないですか!?」
「・・・その可能性は否定できない・・・。」
やっと聞き取れる程の低い声でジェイムズは答えた。
「しかし、このまま突入してもやつらを倒せる可能性は限りなく低いんだ!彼女達のことは、我々が責任を
持って警護に当たる。だから、ここは自重して欲しい。」
もはやコナンにはジェイムズの声が聞こえていなかった。
(蘭があぶない・・・。)
その事実が、彼の心を蝕んでいった。
「とりあえず、一晩ゆっくり考えてみてくれ。」
止まっていたコナンの時間を動かしたのは、ジェイムズだった。
自分が冷静に考えられていないと自覚したコナンは、彼に従うことにした。
「わかりました・・・。明日、もう1度話し合いましょう。」
これまでの様子を黙ってみていたジョディが、コナンに声を掛ける。
「哀には・・・どうするの?」
現段階で話せば、哀が取り乱すことは目に見えていた。
「灰原のことは、オレに任せてもらえませんか?結論が出たら、オレから話します。それまで、
このことは黙っていてください。」
「わかったわ・・・。あなたに任せる。・・・それじゃ、家まで送るわね。」
そう言うと、彼女は車を準備するため、重い空気が残る部屋を後にした。
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