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作:佐乃海テル


 小さい頃、親や先生に
「後の結果をよく考えてから行動しなさい」
と言われてからはいちいち、と言っていいくらい結果のことを考えて生きてきた。だが一方では
「打算的」
などという言葉もある。

 この2つの違い、それは人のことを考えているかどうか、ということなのだろう。それは大きくなるにつれて分かってきたし、分からずには生きてはいけなくなったことも事実だ。
 社会人になって数年たち、僕は一人前になっていった。いやそれも錯覚かもしれない。家庭も持ち、可愛い子供にも恵まれ、愛情に飢えるなんてことともかけ離れていたはず。……でも今は何も考えられない。
 僕はもう生きていないからだ。

 その日も僕は普段どおり電車に乗るためプラットホームに降り立った。都市近郊のベッドタウン、たいていの列車はこの駅に停車する前に都市駅で乗った乗客でいっぱいになっている。僕は一人前の社会人としてこの駅の数少ない始発列車に、それもあわてずに乗ることを目標に、「結果」を考えた計画性を持って生活していた。6時台の始発列車はなおさら少ない。だから妻に悪いとは思いつつも――もっとも優しい彼女は嫌なそぶり一つ見せてくれなかったが、少し早く朝食を作ってもらい、家を出るようにしていた。

 計画性はそれで終わらない。降りた後もなるべく変なところで体力を使わないようにと、降車駅でエスカレータの位置にちょうどあたる乗車位置まで歩いた。その位置で止まると朝の安心を得たように、ほっと息をつく。雪もよく積もる冬の朝、安心は白い息となって外の世界へも広がっていく。

 一般的な駅では乗客は2列になって並ぶ。この駅ももちろんそれが採用されており、乗車位置のステッカーの隣にも「二列整列」、駅名の柱の上にも「二列の整列にご協力をお願いします」と宗教のように二列整列が強調されている。いわば1列目の1番目に立って列車を待っていた自分の隣に、その日は桃色のマフラーを巻いた若い女性が立った。

 そのうちアナウンスが鳴り始める。別に何を思うことも無く、強いて言うなら暖房が効いていて暖かい電車内、それも通勤ラッシュとは無関係な快適な座席状況が保証されている。極上の環境に気持ちはもうすでに入り浸っていた。

 すると自分が歩いてきた後方から一風変わった格好の男がやってきた。彼は作業着を着ていた。普段ならそう怪しむ対象にはならないだろうが、この雪の中作業着は考えてみれば寒いだろう。事実、彼は「ああ、寒ぃ、寒ぃよ……」と言いながら歩いていた。

 少しの同情はしながらも、自分の勤務先のある都市もまたそういった貧しい人は多かった。だから思いつめるなどといったところまで考えてはいなかった。ところが、無関係でなくなってきたのはこの後である。

「畜生、食うものにも余裕が無いのにこんな紙切れを買っちまったぜ。どこ行ったって同じだ。こんなの行くところが無いようなもんじゃないか。じゃあ何でこんなもん買ってしまったんだ……はっはっは。死ぬためかねぇ、神のお告げが自然と俺の行動に出たわけか」

 紙切れ、とは切符のことを指すのだろう。急に話の展開が変わってきてしまった。ここで何かを感じ取ればよかったのだろうか。そうすれば今、このようなことで悩むことは無かったのだろうか。でも自分のやったことに間違いは無いのに。

「くそ! 俺は死ぬのか! そうかそうか! 死ぬのか!」

 人身事故なんか起こしてくれるなよ、と思った次の瞬間。

「しゃくだ! どいつでも、道連れにしてやる!」
 と言い放った瞬間、走り出した。どっちの方向かと振り向けば自分たちじゃないか。この乗車位置から先はあまりにも後方すぎて、かえって降りる人間の苦になることが多く、人はいなかった。いわば自分、いや自分とこの女性は注目のアンカーだったのだ。

「死ねぇ!」
 それも、それも女性のほうに向かっているではないか。まだ若く、社会人になって間もなく、これからの人生設計に楽しみを馳せているだろう、隣の女性に。

「や、やめろ!」
 気がついたら「結果」を考えて男に向かっていた。
 僕は男にぶつかられ、男もまた反動でプラットホームから転落、ジャストタイミングで極上の環境は僕を迎えに来た。

「キャーッ」

#  #  #

 その後の自分については駅の電光掲示板・状況を見た限りでわかったことから言うと、

・男と自分は死んだ
・その後午前中いっぱいに渡って路線は運転見合わせになった
・女性は助かった

らしい。それがまた自分にとってどうでもいい情報なのが、とてつもなく、空しい。

 かくして自分は死んだわけだが、どうだろう。当たり前だが大損、一つも得をしていない。女性は得しただろう。そうでないと困る。僕は他人である、彼女のことを考えてこのような行動に出てしまったのだから。

 でも何故か悲しい。悲しい。何度言っても、忘れようとしても、忘れられない悲しみ。僕は正しいんだ。僕は悪くないんだ。僕は偉い。人のことを考えたし、何も罰を受ける心当たりは無い。でもこの悲しみは罰を受けているようだ。何か、悪いことをして罰を受けているようだ。

 この話を聞いている人の多くは、答えを出せずに「運が悪かったんだ、仕方が無いさ」と言うだろうし、それが世論の見解だろう。結論は何だ、と聞かれてそれに答えなければいけないような状況になってしまったら、僕もそう答えるだろう。でも今はそんな状況じゃない。誰かに「運が悪かった」と結論を言ったところでどうにもならないし、どうにもできない。もっといえば、誰も聞いてくれない。

 最後にあなたに聞こう。
「人のことを考える」って何だ。「後先、結果を考えて行動する」って何だ。
 それに良い答えが無いなら、僕は「結果」を恨むまでだ。
 少なくとも、今自分の前に良い答えは浮かばない。


短編1作目です。どう見ても駄作ですが……。

執筆したあとに
「resultを更新しました。」
と出るんですが、この小説の内容を考えると、少し想像してしまうわけですが。

ご意見・ご感想・ご批評お待ちしております。













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