サイドワインダー
その頃、きょん姉さんと福之助は予定を早めて、千メートル級の峰々を縦走する竜神スカイラインを、最新の水燃料自動車で走っていた。
「これ、テストしてみたかったのよ。」
「そうだと思った。」
「このハンドル、まだ慣れないよ。」
ハンドルは、飛行機の操縦桿のように、上下にも動いた。
「これじゃあ、まるで飛行機ですねえ。大丈夫ですか?」
「う〜ん、なんとか。おまえこそ大丈夫かい。」
「もう、大丈夫ですよ。」
「もともと、いかれてるからね。」
「そりゃあ〜ないよ〜、姉さ〜ん!」
水燃料自動車は、水を電気分解した水素ガスで走る自動車だった。
左右には、ブナの原生林が広がっていた。
「もうすぐ、紅葉ですねえ。」
「そうだね。」
「標高が高いので、やっぱり少し寒いですねえ。」
「そうだね。でも、なかなかこんなところには来れないから、気持ちいいよ。」
「地球の空気の八割は、上空十一キロ以内の対流圏にあります。」
「うん、それで?」
「地球では、百メートル高くなると、対流圏の気温は約一度下がります。」
「ふ~~ん、そうなの。」
「これは、乾いた空気の場合の条件で、湿ってる場合だと、比率は低くなります。」
「ふ~~ん、そうなんだ。」
「この道は、冬は雪で通れなくなるそうですよ。」
「ああ、そうなの。
「姉さん、もう直ぐです。」
「分かってるよ。」
姉さんは、飛行機のようなハンドルを左に倒した。
すると、前輪と同時に後輪のタイヤも向きを変え、自動車はスライドしながら左側に寄って行った。
「なんだか、これ横にスリップしてるみたいで妙だねえ。まだ慣れないよ。」
「後ろで走ってた自動車の人、なんだかびっくりしてましたよ。」
「そうだろうね。この自動車は市販されてないからねえ。これ何という自動車だったっけ?』
「サイドワインダーです。砂漠に生息する、ガラガラ蛇の名です。」
「なんだか、まるで蛇に乗ってるみたいだよ。」
「え~~~、蛇に乗ったことあるんですか!?」
「あるわけねえだろう!」
「ほんとに、なよなよと蛇のように走ってますねえ~。」
「よりによって、わたしの大嫌いなものじゃないかよ~~!』
二人を乗せたガラガラ蛇は、ガラガラと音を立てながら、水蒸気を吐き出し、這うように国道485号線に入って行った。
「曲がる度に、どうしてガラガラと言うのかねえ?」
「歩行者に対しての、安全のためじゃあないんですか?」
「なるほどお!」
十分ほど走ると、風景は変わった。
「なんだか、いきなり風景が人里っぽくなってきましたねえ。。」
「そうだねえ、いいねえ~。」
福之助が叫んだ。
「なんだ、ありゃあ!」
姉さんも叫んだ。
「わ~~!」
それは、恐ろしく巨大な恐竜の壁画だった。姉さんは、壁画の下まで行くと、ガラガラ蛇を止め、外に出た。
そこには、高さ五十メートル以上の壁画がビルのようにそびえていた。
「うわ~~、凄いなあ~、これ!」
「凄いですねえ。」
それは、まるで大きなナイフで削ったような断面だった。コンクリートで固められ、大きな恐竜が描かれてあった。
「どうやって、塗ったんだろうね?」
「ペンキじゃないみたいですねえ。」
二人は、しばらくの間、呆然と見上げていた。
壁画の下のほうに、<日本一大きい花園村の大壁画>と、大きな文字で書いてあった。
「あ~あ、首が痛くなあっちゃうよ。」
「わたしも、首のボルトが外れそうです。」
「この村、お金が余ってるんだねえ。」
「そうですねえ。」
「首に悪いから、もう行こう!」
「はい!」
福之助が首を戻すとの首の間接が、ギコっと唸った。
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