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  獅子物語 作者:Strudel
美少女には敵わない (2)
空中庭園を出た私は何をしようかちょっと迷ったけど、相棒を持って中庭で訓練することにした。ここ数日は自堕落な生活を送っていたので体を鍛え直さないと、と思ったからだ。
中庭に出ると、そこにはすでに先客たちがいた。近衛兵たちだ。その中にはシャルアールもいた。彼はやはり近衛兵の中でも腕が立つほうらしく、剣のさばき方も他の人間よりもうまい。私が近づくと、向こうも気づいて近寄ってきた。
「これは、ソレイユ様ではないですか?いったいどうしてところへ?」
「レーヴェは今、来客の相手をしてるから。私、暇だし。それに、剣を振りたくなっちゃったの」
来客、という言葉でシャルアールはすぐにわかったみたいで笑った。
「そうですか。ということは、ジュリ様にはもう会いましたか?」
「会ったよ。見かけはそうでもないのに、すごくパワフルで可愛い子だね」
「レーヴェ様とは昔からの幼馴染なんですよ。年も同じで、なんだかんだの腐れ縁ってやつです」
「レーヴェもあんな可愛らしい婚約者がいるんだから、わざわざ私にしなくてもいいと思うんだけど」
「まぁ、人の好みはそれぞれですから。皇国陛下などは縁談をさっさととりまとめたいみたいなのですけど、皇子があなたにメロメロですしね、難しいでしょう」
「もし結婚したら、それってすごいことだよね」
世界最強の二国はそれぞれ今まで対立してきたから、この結婚の重要性など庶民の私でも想像できることだ。
「いいえ、世の中そんなに甘くないですよ。まぁ、戦争の危険性などはぐっと減るでしょうけど、彼女の兄で帝王継承権第一位の王子であるイェオーシュア様はレーヴェ様と犬猿の仲でして、このまま二人の仲が改善されなければどうにもなりませんよ。だから、ソレイユ様が肩身の狭い思いをする必要なんてないですから、安心して婚約者の一人として頑張ってください」
「最後のオチはそこなのね」
「もちろんです。自分はレーヴェ様の幸せを一番に望んでいますから」
「はいはい。それよりもシャルアール、私も剣の練習に付き合わせてよ」
「本来は危ないからダメって言うんですけどね、仕方ないなぁ」
「ありがと♪」
ソレイユはひさしぶりに剣を握って戦った。近衛兵たちはそれぞれに強く、剣の相手としても申し分がなかった。近衛兵たちもソレイユの独特の剣術に興味深々で、お互いに剣術を教えあったりして充実した時間を過ごしたのだった。

剣の稽古を終えたソレイユは近衛兵たちと別れたあとお風呂に直行していた。やっぱりお風呂は一日の締めとして最高である。
「ふー、良い気持ち」
のんびりとつかっていたソレイユだが、神速で手をお湯の中につっこんだ。
「まーだ懲りてないのね、悪い子なんだから♪」
「ご、ごめんらひゃい。放ひへくらはい」
掴んだのはレーヴェの頬だった。おもいっきりつねられて、ちょっと赤くなりはじめている。せっかくの美貌にあとが残るのはちょっと後ろめたいので、ソレイユは放してあげた。つねられた頬をさすりながら、レーヴェは涙目で言った。
「あいかわらずひどいです。痛いです」
「ごめんごめん、つい変態が忍び込んできたのかと思って」
私は悪びれずに言った。嘘は言ってない。
「ここに入れるのは皇族の人間と、ごく一部の人だけです。あのあと大変だったんですよ。僕はソレイユに言われたとおり、嫌だったけどジュリの相手をしていたのに、あなたはまたシャルアールと浮気してましたね」
「・・・・どっからの情報?」
「近衛兵たちがあなたのことを話してましたよ。あなたがシャルアールと親密そうにしていたと」
近衛兵め、余計なことを。皇子様の機嫌が非常に悪化しているのがわかる。あぁ、お湯でぶくぶくし始めちゃったよ。まずいよ、こりゃ。
「違うって、剣の練習してただけだよー」
「信じられません」
「ぬぅ」
どうしたらいいんだろ?私は困ってしまった。恋愛経験少ないもんだから、こういうのって対処の仕方わかんないよ。
「・・・・では、証明してください。僕のほうが好きなら、僕とキスしてください。愛しているのなら大したことではないでしょう?」
「き、キス!?」
そりゃハードル高いよ!
レーヴェのこと嫌いじゃないし、むしろ好きだけどそういう対象としてまだ見られない。
でもここで拒否したらレーヴェは傷つくしなぁ。あぁもう、目ぇつぶっちゃってるよ。待ってるよ。どうしよう・・・・。
私は迷った。一応、これでも純粋乙女なのだ。ファーストキスは本気で惚れた相手としたい。レーヴェだって、中途半端な気持ちでキスなんかしてもらいたくないだろう。かといって、ここでしなかったら取り返しのつかないことになりそうだ。
「どうしたんです、ソレイユ?」
目をつぶりながらレーヴェは言った。頬はほんのりピンク色に染まっている。
「ちょ、ちょっと待って!心の準備ってのが必要なのよ!!」
「ソレイユ?」
やばーい!どうしよー!!
オロオロしてる私の耳にバシャンという水音がした。
「こんなところでイチャイチャと!これだから油断も隙もないのです!!」
「ジュリちゃん!?」
「ジュリ!?何でお前がここにいるんだ!」
「あら、ドラヘィリャの姫に不可能なことなどこの世にありませんわ」
天の助けとばかりに私はジュリに抱きついた。
「ジュリちゃん、ありがとー!」
「礼には及びませんわ。なんで言われるのかわかりませんけど」
レーヴェは口をへの字に曲げた。
いやー、危ないところだった。人生でベスト3に入る危険な体験だったよ。
お風呂からあがり、特別に用意された料理(どう見てもお子様ランチにしか見えない)を三人で食べた後はレーヴェは自室に戻り、私とジュリ姫は一緒に寝ることになった。ジュリ姫は本来は日帰りのはずだったのだが、予定を変更してお泊りということになった。ドラヘィリャの側としても特に問題もないらしく、すんなりと了解をもらったようだ。
ジュリ姫はひとりでは夜寝られないらしいので普段は侍女と寝るらしいんだけど、今回はライバル同士で親睦を深めあい、お互いに落としどころを見つけようじゃないか。というジュリ姫の提案で一緒に寝ることになったのだ。
「いいなー、ジュリいいなー」とレーヴェは別れる間際までずっと言っていた。ジュリ姫に嫉妬してもしょうがないと思うんだけど。
ジュリ姫はピンクのこれまた彼女にぴったりなパジャマを着てお気に入りの竜のぬいぐるみを抱いてベッドに横になっていた。可愛い。可愛すぎる。
私はふつうにシルクのTシャツと短パン。本当は麻とかもっとランクの低いやつでよかったんだけど、レーヴェにわぁわぁ言われてからはこれを着ている。自分でもずいぶん妥協したほうだ。
「ソレイユは、レーヴェのどこが好きなんですの?」
同じく横になった私に、ジュリ姫は言った。
「んー。婚約者になったのは成り行きだからねー。どこが好きかと言われると難しいかなぁ。ジュリちゃんは?」
「私はレーヴェ様の全部です。小さい頃から遊んできた仲なんですけど、レーヴェ様は口は悪いけど、本当はとっても優しくて素敵な人なんです。私はそれを誰よりもよく知っているんです。だから、レーヴェ様が私ではなくソレイユを婚約者として選んだと聞いたときはショックでした」
「そっか」
この子は私なんかよりレーヴェのこと知ってるし、好きなんだ。まだ小さいけど、レーヴェに対する想いは私なんか恥ずかしくなるくらい強い。私なんかより、よっぽどレーヴェに相応しい相手だ。
「今はまだ負けてますけど、いつかきっと私のほうへ振り向かせてみせますわ。だから、覚悟してくださいね」
まっすぐに見つめる強い瞳。誠心誠意が込められた想いに、私は応えるべきなんだろう。そうじゃなきゃ、彼女にも、レーヴェにも失礼だ。
「うん、私も負けないから」
私はふと思いつき、相棒を取って戻ってきた。ジュリ姫はきょとんとした顔で見ている。
「これはね、私の剣の先生が教えてくれた一種の約束を誓う儀式なんだ」
鞘から剣を少しだけ抜き、約束を口にし、そして鞘に戻す。
大昔の騎士たちがやってたもので、今はもうほとんど廃れてしまったものらしい。でも、この場に最もぴったりくるんじゃないかと思う。
「素敵ですわ。私もやります」
私がしたようにマネて、彼女はにこりと優雅に微笑んだ。
「これで私たちは本当のライバル同士。正々堂々戦いましょうね!」
女たちの誓いと共に、夜は更けていった。



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