レーヴェのうっとうしい愛情表現に振り回されながらも、ようやく
城での生活に慣れてきた私。
そんな矢先に私の目の前に現れたのは、なんだかとっても可愛い
美少女だった。
第二章 美少女には敵わない (1)
ソレイユがエーデルフラウ城に来て数日経った。
慣れない上流階級の暮らしにもようやく落ち着いてきたころ、シャルアールがソレイユの元を訪ねてきていた。
「レーヴェ様と仲直りしたので、その報告をしにきました」
いつもと変わらない淡々とした口調だが、わずかに嬉しさを含んでいるようにソレイユは感じた。
「あれだけ険悪だったから、どうなることかと思ってたよ」
「ソレイユ様が仲直りするよう進言していただいたことが功をそうしたのですよ」
あの晩餐会のあと、ソレイユはレーヴェをなだめすかしてシャルアールに謝るようにそれとなく言っていたのだ。ソレイユとしても、自分のせいで仲が悪くなってほしくない。
「ん、本当に良かった。それにしても、レーヴェのこと好きなのね」
「はい、心から臣下として忠誠を誓っております。ですから、あの時は正直生きた心地がしませんでしたよ」
「ともかくよかったわ」
「本当にあなたには感謝しています。それでは、自分も仕事があるので」
「うん、またね」
シャルアールが去ったあと、入れ替わりにものすごい勢いでレーヴェが入ってきた。
「どしたの?そんな物騒な顔して」
一流の芸術家でも表現することは困難であろう美貌は毎度のことながら目に痛い。庶民にはちょっとインパクトがありすぎる顔なのだ。
「今、シャルアールとお話していたでしょう」
「うん、あなたと仲直りできてよかったーって話してたの」
「本当に?」
「本当。そこにいる侍女さんたちに聞いてみれば?」
疑っているようなので、そう言ってみた。レーヴェが侍女たちを見ると、侍女たちもうなずく。それを見てレーヴェは納得したようで、下降気味の機嫌を直した。
「なら、いいんですけど」
そう言って私の横に座る。侍女たちがすぐに飲みものを用意した。レーヴェはそれをごくごくと飲んでいる。甘いいい匂いがすると思ったら、レーヴェはオレンジジュースを飲んでいた。嗜好までお子様ランチだ。その容姿でそれはないだろう、と心の中で密かにつっこむ。
あの一件で判明したのだが、レーヴェはものすごく嫉妬深い。私が異性と話すだけでも我慢ならないみたいなのだ。さすがに私に嫌われると思ってはっきりとは言ってこないのだが、言動でバレバレである。お子様だから好きなおもちゃが誰かにとられるのが許せない心理が働くんだろう。見た目は完璧に大人なのでそのギャップには驚かされるばかりだ。
「ところでソレイユ、シャルアールから聞いたのですがカティス将軍から剣を教わったというのは本当なのですか?」
「そうだけど」
「なるほど、あなたのその戦女神のような美しい戦い方の秘密はカティス将軍が関わっていたのですね。カティス将軍は本当に才ある者にしか剣を教えないとか。だとすれば、あなたはやはり僕が見込んだ通り非の打ちどころのない美しさと賢さ、そして強さを兼ね備えた完璧な女性なのですね!」
おいおいおいおい、君のその独創的な感覚で私をそんな風に見ないでくれ。カティスのじーさんは村の子供たちに全員教えてたから。ただ単純に現役の時は面倒くさがったからソレらしいこといってごまかしてただけだから。
「レーヴェもカティス将軍のこと知ってるの?」
なんか私のこととかもう鳥肌たつからやめてほしかったので、ちょっと話題をそらす。
「もちろんですよ。僕に剣術を教えてくれたフィガロ将軍もまた名将ですが、彼が唯一ライバルと認めた相手がカティス将軍なんです。彼の戦い方は無駄がまったくなくて、特にアルクレイユの攻防戦は見事としか言いようがありませんね」
アルクレイユの攻防戦はカティスがその名を諸国に轟かせた戦で、自軍の3倍の敵兵をわずか半日足らずで全滅にまで追い込んだ歴史的大勝利の戦のことだ。あれはミケアの人間で知らない者はいないし、その日は勝利の日として国民の休日にもなっている。
「ミケアは何にもない国だけどね、カティス将軍はミケアが生んだ軍神だと思うよ」
「いいえ!カティス将軍もそうですが、なによりミケアはあなたという女神を生んだ聖地です!いつか神殿をたてましょうね」
「結構です」
そんな大層な人物じゃないんです。もし神殿なんかできたら、それこそ生き恥じゃないか。
ていうか、君の意思ひとつでミケアに神殿建つんだね。ちょっと考えるとすごい。
「それはともかくとして、レーヴェは執務サボってここにいていいの?」
痛いところをついたようで、レーヴェは苦い顔をした。
「今日は、ちょっとお腹の調子は悪くて・・・」
「そんなわけないじゃん。お腹の調子は悪い人はジュースをがぶがぶ飲まないんだよ」
ここじゃなくて、トイレにいるんだよ。とはさすがに言えなかった。
「お願いだから、今日はここにいさせてください」
「え、それってまずいんじゃないの?」
「いえ、今日は執務ないんです。代わりに執務よりもっと厄介なものがあるので」
「え、何?」
ソレイユがレーヴェに問いただそうとした矢先、遠くからものすごい足音が聞こえた。ドタドタとかいうレベルではなく、まるで地響きのようだ。強いていうなら、ズシンとかドシンとか。とにかく人が出せる足音ではない。
レーヴェは「ひっ」とか言って人に断りもなく隣接している寝室に逃げて行った。本来なら追いかけて引きずりだすのだが、今はそれどころではない。
何か脅威が迫っている!と思う。たぶん。
レーヴェよりも足音の主のほうが気になってしまった私はそのまま座っていた。すると、バタンと勢いよく扉が開かれた。
「レーヴェ様、どこにいらっしゃるのですか!!」
鈴を転がしたようなきれいな声と共に現れたのは、私と同じくらい小柄で私以上に華奢な、なんとも愛くるしい容貌のお姫様だった。桃色のふわふわカールのボブ、うさぎさんみたいな赤い瞳、フリルのいっぱいついたドレス。まるでお人形さんみたいだ。見た目からし
て、どっからどう見てもお姫様は私を見て「そこの侍女、レーヴェ様はどこにいるのか教えなさい!」と言った。あ、私やっぱ上流階級の人間には侍女に見られるんだね。と安心したような悲しくなったような複雑な気持ちになった。
「答えなさい、侍女!」
「えー、レーヴェ様は隣の寝室のどこかにいると思われます」
「そう、ありがとう」
そう言うと、お姫様はたっと駈けて行った。え、さっきの足音の主ってあの子なの?呆然していると、横にいた本当の侍女の一人が「嵐がやってきましたわね」と言った。もう一人の侍女も困ったような顔をして「今回は何事もなければいいんですけど」と続けた。
「ねーねー、あの子誰?」
「姫様については、私どもの口からではなく、当人にお聞きになるのがいいと思いますよ。強いて言うのであれば、最も有力な婚約者候補ですわ」
「・・・・婚約者候補。なるほどねぇ」
奥で「ぎゃーっ」というレーヴェの悲鳴が聞こえる。
なんだか面白いことになりそうだ。わくわく。
空中庭園の中に設けられたティールームには、レーヴェとソレイユ、そしてお姫様が座っていた。
「さっきは侍女と間違えてしまってすみませんでした」
お姫様はしゅんとして言った。
「全然気にしないで。私、生粋の庶民だから間違えて当然だよ」
「まったく信じられないな!彼女を侍女と間違えるなんて。彼女の内から溢れ出る魅力がどうしてわからないんだ」
信じられないのは、君のその視力だよ!
「ところで、お姫様は何ていう名前なの?せっかくだから友達になりたいなー」
場を和ませようとした私の気づかいだったのだが、お姫様には相当心外だったらしい。可愛らしい頬をぷっと膨らませて言った。
「私はジュリエンヌ=ドラヘィリャ。ドラヘィリャ帝国の姫ですわ。そして、あなたのライバルです!ソレイユ=シルヴィ!!」
びしぃぃっと指差し、なんとびっくりレオハルト皇国と肩を並べる強大な軍事国家であるドラヘィリャのお姫様は言った。
「あ、もう負けでいいです。負けました、降参です」
もう肩書きだけで最初から勝負になってない。
「ソレイユ!」
レーヴェが非難の声をあげた。
「賢い選択ですわ!私とあなたでは、何においてもあなたに勝つ要素はありませんものね。
初めからおかしいと思っていたんです、レーヴェ様が女神と出会ったなどと手紙に書くものですからどんな美女かと想像していたら、女神どころか庶民なんですもの!」
返す言葉もありません。まったくそのとおりです。
「勝手なことを言うな!ソレイユは僕の理想の女性なんだ。お前みたいなお子様にはわからないだろうけどっ!!」
「お子様!?私のどこがお子様だというのです!私はもう立派な淑女ですわ!!」
「どこが!?一人で夜寝れないくせに!」
「いまだにティータイムにオレンジジュース飲んでる人に言われたくないですわ!」
いやもう、どっちもお子様です。言わないけど。そのあとも不毛な言い争いが続き、いい加減どうでもよくなってしまった私は戦線離脱することにした。
「あ、ソレイユ!どこに行くんだ!?」
「んー、なんか二人の仲を邪魔するのは忍びないんでとりあえずどっか行きます」
「まぁ、なんて気がきくんでしょう!ちょっと見直しましたわ!」
「冗談じゃない、ジュリとこれ以上おしゃべりするのはごめんだ」
「レーヴェ、一応あなたは皇子なんだし、彼女はドラヘィリャのお姫様なのよ。ここは外交の場だと思って頑張りなさい」
私の言葉にレーヴェは自分の立場を思い出したようだ。立ち上がりかけていた腰をおろし、渋々うなずいた。
「・・・わかりました。ソレイユの言葉にも一理ありますし、なによりあなたが将来の僕の妻としての自覚をもって皇子としてあるべき姿を望むのであれば、僕は喜んでそれに従いましょう」
ちょっと中盤あたりに引っ掛かりを覚えるが、納得してもらえたんならいいや。あとは二人でよろしくやってください。
「それじゃ」と軽く挨拶してソレイユはその場を後にした。
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