第九章 想いの行きつく先 (1)
「ていうかさ、どうやって戦争とか止められるのかな?」
ソレイユは神殿の床に座り、ぽつりとつぶやいた。
ジークムントの言う戦争を、ソレイユにはどうやって止めればいいのか見当もつかない。
ただボスがいて、それを殴り倒せば終わりという簡単な話ではないだろう。
「確かに、実質的に内政に関わる人間しか戦争をやめさせることはできないですね」
横にいたシャルアールも言葉を続ける。
「大丈夫ですよ、僕に名案があります」
まだ大人の姿のままだったレーヴェはウィンクして言った。
「え?」
「あるのですか、レーヴェ様」
私とシャルアールは顔を合わせる。
「あります。まさか何の勝算もないゲームに賭けるほど僕もバカじゃないですよ」
レーヴェの言葉にもう一度、私とシャルアールは顔を見合わせた。
かつてないほどレーヴェがこれほど頼もしく思えたことがあっただろうか、いやない(笑
そんな私たちを見て、レーヴェはむっとした顔になって言った。
「ひどいです、ソレイユも、シャルアールも。まるで僕がお子様で、その時の感情でついつい後先考えずに行動しちゃう人間みたいじゃないですか」
すいません、てっきりそういう人間だと思い込んでいました。
私はそう思ったが口には出さなかった。
「ま、まぁ、なにはともあれ作戦があるなら教えてよ」
「そ、そうですね!時間もないですし」
「どれ、わたしにも聞かせなさい」
いつの間にか会話に参加してきたソーヤも加わっている。
どうでもいいけど、この神様は意外とフレンドリーだ。厳めしいイメージしかなかったんだけど、そうではないらしい。今まで教会とか行かなかったけど、今度お参りしに行こう。
「こうすれば・・・・」
レーヴェが作戦について話し、しばらく聞いていた私たちはその作戦を全て聞き終えておもわずレーヴェに拍手していた。
「すごーい!それだったら可能性あるっ!!考えてるじゃない、レーヴェ!」
手を叩いて私は言った。
「えへへ」
レーヴェは頬を染めて照れている。私に褒められて嬉しかったんだろう。
「すごいですよー、レーヴェ様」
「ふむ、それならできなくもないな」
シャルアールやソーヤも同意し、有頂天になったレーヴェは言った。
「えへへ。ではソレイユ、そんなすごい僕にキスを」
「却下。それは全部やり遂げてからねー」
私はさらりと返した。
この二人の前でそれは遠慮してもらいたい。
レーヴェは私の一言ですっかり泣きそうになっていた。
「ひどいです、すごいって言ったのに、素敵だねって言ったのに」
「素敵だね、は言ってないかな」
「ひどいですぅ」
銀のきらめきと共にぽとりと大粒の涙がこぼれた。
「泣かないでよー」
私はおもわず涙をぬぐい、レーヴェを抱き締めて頭を撫でた。
はっきり言って私は他人の涙に弱い。特にレーヴェの涙にはかなり弱い。なんだかとっても庇護欲をかきたてられてしまうのだ。そもそも超絶美青年の泣き顔に対抗できる女ってそんなにいないと思う。
「えぐっ、ひぐっ、そ、それ、じゃ、ソレイユが、ほっぺに、チューして、くれ、た、ら、泣かない、で、すっ」
べそをかきながらレーヴェは言った。
「むぅ」
私は悩んだ。
ほっぺにチュー。
この二人の前でするのはちょっと・・・・。
「もうちょっとゆるいやつならなんとか」
「愛して、る、って、言うの、と、どっち、がいい、です、か」
レーヴェの代わりの案が提案されたが、正直どっちも嫌だ。
別にレーヴェが嫌いというわけじゃない。
恥ずかしいのだ!
しかしどちらかと言えば・・・・・。
私は覚悟を決めて深呼吸したあと、おもいきってほっぺにキスをした。
「えへへ、ソレイユのチュー」
レーヴェは一瞬で泣きやみ、私がキスしたところを嬉しそうに撫でている。
「レーヴェの泣き顔って、なんか瞬間芸みたいだね」
一瞬ですっきりできるんだからすごい。もはや詐欺ではないか。
なんか言いようにされた気分でソレイユとしても微妙だ。
すっかりご機嫌をなおしたレーヴェだったが、すぐにぽそっとつぶやいた。
「でもソレイユは愛してるって言ってくれないですよねー。僕はいつだって言ってるのに。なんだか悲しいです」
「いーの。言わなくても伝われば」
「伝わってないですよー」
レーヴェが続けたが、私はそれには何も言わなかった。
「イチャイチャは終わりましたか?」
シャルアールがにこやかな笑みでたずねた。
「そんなにこやかに言わないでよー、シャルアールぅ」
「いいじゃないですか、仲が良くて。これで将来も安泰ですね」
「そうですよね、シャルアール。僕もそう思います」
「そう思うなっ!!」
なんだこの主従関係!
ソレイユは肩をがっくりと落とした。
「ひとつ質問なんだがー」
ソーヤが挙手して言った。
「そもそもワープホールを人が作るのはどれだけ優秀でも一個が精一杯。その作戦を実行するためにはどうしても同時に二つ作らないと無理だと思うのだが」
ソーヤの指摘にシャルアールとレーヴェが黙る。
「そーなの?」
「・・・・・そういえば、そうですね」
長い沈黙のあとにレーヴェが答えた。
「じゃ、シャルアールが作れば・・・」
「すみません、そんな高度な魔法を自分は使えないんです」
シャルアールは申し訳なさそうに言った。
「じゃ、この作戦って始まる前から無理ってこと!?」
「・・・・・・・・・・・・・」
私の言葉に誰も返事をしない。
「そ、そんなぁ」
これでは話は振り出しに戻る、だ。
落胆を隠せない一同を見て、ソーヤは挙手して言った。
「もうひとつ質問なんだがー」
がっかりした顔つきの三人の視線がソーヤに集中する。
「なんでみんな、わたしという完全無欠の偉大すぎる存在を無視して話を進めるのかね?」
一同は黙りこくった。
そりゃそうだ。いくらなんでも神様にそんなことをほいほいと頼めるわけがない。
「困ったときの神頼みという言葉を人類は忘れたのかね?」
「いや、そういうわけではなく。やっぱり神様に頼むっていうのは気が引けるし」
私がそう言うと、嘆かわしいと言わんばかりに大げさに手を額にあててソーヤは言った。
「なんということだ、そこまで神様はケチではないぞ。無論、戦争を回避させるなんてことはさすがに無理だが、ワープホールを作るくらいのことならまったく問題ない」
「え、いいんですか!?」
「もちろん。ただし後でわたしを敬いなさいね。お賽銭とか、お供え物とかなるべく目に見える形で」
そこはやっぱり神様だ。
ただでは何もしてくれないらしい。
「もちろんです。レオハルト皇国のジルレール大聖堂に供物をたくさん捧げると約束しますよ」
レーヴェがにこりと笑って言った。
それを聞いてソーヤが満足そうにうなずく。
「それなら文句もない。わたしの偉大な力でなんとかしてやろう」
ソーヤの言葉とともに二つのワープホールが一瞬で展開された。
「ついでだから両方とも送ってあげよう。これはささやかなわたしからのサービスだ。左の方がレオハルト、右の方がドラヘィリャだ」
「何から何まで本当にありがとうございます」
レーヴェがお礼を言うと、ソーヤは「気にすることはない」と言った。
なにはともあれよかった。これで当初の計画を実行することができる。
「それでは、僕はレオハルトに向かいます。ソレイユとシャルアールはドラヘィリャへ向かってください。本来であればソレイユには僕がついて行きたいところなのですが・・・・この状況ではそれもまかりとおりません。口惜しいのですが、シャルアール、お前にソレイユを任せる。危険から守れ」
レーヴェの言葉に私の横に寄り添ったシャルアールが「御意」と礼をした。
「ソレイユ、御無事で」
「うん、レーヴェも!後で絶対に会おうね」
「はい、もちろんです。終わったら夜のデートしましょう。お泊り込みで」
「えっ、それはちょっと・・・・。考えてはおくかな・・・・あは」
私は曖昧な笑みと共に返事をした。最後のあたりが何かしらひっかかるのだが、今はまだそれを言うまい。
「さぁ、頑張って行って来い」
ソーヤの言葉とともに、三人はしゅんと消えた。
ソーヤはそれを見届けて、仕事をやり遂げた満足感を胸に抱いて元の彫像に戻った。
一瞬のきらめきと共にそこにあったのは、厳めしい顔つきをした大きなソーヤ神の像。しかし、よく見ればうっすらと口元は笑っていた。
“ソーヤ神の奇跡”と呼ばれ、後に聖地の見どころとなる像の誕生の瞬間であった。
番外編と一緒に更新(^^)
なんだか話が混乱するかもー、な感じかもしれませんがそこは許して
ください(^_^.)
作戦の内容はまだ秘密です。作者は秘密にしたいのですが、キャラたち
がいつ暴露するかと思うとヒヤヒヤします。
すぐにわかると思うので、今はこれから何かやらかそうとしてるんだなー
くらいだと思ってください。
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