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  獅子物語 作者:Strudel
なかば無理やり連れていかれたお城での生活。
貧民で庶民な私には夢のような至れり尽くせり具合なんだけど、やっぱ
自称”私の婚約者”な彼に振り回されるのはいただけない。

これからどんな面倒くさいことが起こるのやら・・・。
第一章 恋する王子は面倒くさい (1)
首都ジルレールまでかなりの道のりがあるのだが、皇族はさすがというか、お約束というかそこはやっぱり庶民とは違う。
「ワープぅ?」
案内されたのはパタの大聖堂の最深部。一般の人は立ち入り禁止の場所だ。そこには数人の司祭たちが立っている。他は私とバカ皇子レーヴェと側近らしいシャルアールだけ。皇国陛下と皇妃様はとっくに帰ってしまわれたらしい。

そりゃそうだ。祭りが終わってもしばらく滞在してたんだから。

本来なら「皇族たるもの・・・」と皇国陛下がお説教するところだが、今回は婚約者と愛を深めるというこっぱずかしい名目があったので、お咎めなしだったようだ。こういうところで甘やかすから、こんな傍若無人な人間に成長するのだろう。
念願の欲しいものはレーヴェに全部買わせ、毎日レーヴェの鬱陶しい干渉がありつつも豪華なスイートルームやら一流のシェフの料理やらを堪能した日々はわりと充実していた。どうせなら、儚い恋としてここで終わらせてほしいのが庶民の私のささやかな願いだったのだが、レーヴェは私と離れるつもりはないようだった。激しい言い争いの末、なんと10時間にも及ぶ死闘を制したのはレーヴェだ。「君は僕の婚約者だから」の一点張りのヤツを説得することは不可能だった。その間にもこっちが身悶えするような美辞麗句を口走り、魂が折れる危機的状況だったためギブアップを宣言したのだ。とはいっても、私も健闘したので「今のところ滞在予定は1ヵ月」というところまで持ってきた。あとは皇国陛下や皇妃様、そしてコイツに嫌われるように努力するのみである。
内心の腹黒い策略を隠し、私は中央に描かれた魔方陣の上に立った。少し遅れてレーヴェとシャルアールも続く。
「ジルレールは素晴らしいところだから、きっとソレイユも気に入るよ」
レーヴェは自信たっぷりに言った。
「そうね、楽しみにしてるわ」
魔方陣が光り、視界がぐにゃりと曲がる。ふと気付けば、見知らぬところに立っていた。
「ここは・・・?」
「エーデルフラウ城の地下ですよ。ソレイユ様」
「そして、僕の生まれ育った場所だ」
レーヴェが私の手を恭しくとった。こういう立ち居振る舞いは皇子様なんだよなぁ。彼に導かれるまま地下を歩いていくと、明るい光が差し込み始める。階段を上ると、そこには豪華絢爛な城内の一室につながった。あまりに別世界の金ぴかな世界に目がくらむ。
「お帰りなさいませ、皇子」
控えていたらしい侍女たちがお辞儀をした。どの人も洗練されているし、美人だ。
「部屋にいったん戻る。飲み物と何か甘いものを用意してくれ」
「かしこまりました」
ぺこりとお辞儀をし、侍女たちはそそくさと出ていった。
「さ、とりあえず僕の部屋へ行こう」
「う、うん」
あまりにも違う世界に普段はあまり物事に動じない私も借りてきた猫のようだ。長い道のりを歩き、城の中でも一番見晴らしのいい部屋。それがレーヴェの私室だった。すぐそばには空中庭園へと続く入口もあり、とにかく彼が皇子様なんだと実感する。
「どう?気に入ってくれた?」
侍女たちが持って来てくれた最高級のお茶とケーキは、どれも見栄えもいいし、味もおいしかった。おしゃれにティータイムをするなんて、いかにも貴族様っぽい。
「本当はこの部屋で寝泊まりしてほしいんだけど、さすがに結婚前はダメなんだって。だから、ソレイユには別室を用意してるから。ここよりはちょっと景色が悪いけど、何不自由なくさせるし、気に行ってもらえると思う」
お茶を飲み、レーヴェは笑顔で言った。お茶を飲んでくつろいだ後は、城内をいろいろとまわったり、空中庭園を散歩したりした。最後に滞在する部屋まで案内してもらい、夕食までの時間はひとりでのんびりさせてもらうことにした。
「はー、疲れたー」
城の中はとてつもなく広くて、しかもレーヴェや一部の者しか知らない隠し通路まで案内された私はヘトヘトだった。広い、それにしても広すぎる。この部屋だって、私の家の敷地面積くらいはあるよ。
荷物はすでに部屋に運ばれていて、いかにも高級そうなテーブルの上に置かれていた。大切な相棒も置かれている。私はベッドにぼふんと倒れた。一人で寝るには大きすぎるベッドで、まさに王様のベッド!って感じ。しばらくごろごろしていると、ノックがされ、侍女がやってきた。
「どうしたの?」
「これから夕食まで時間がありますので、湯浴みなどいかがでしょうか?」
「あ、いいね」
疲れた体にはお風呂が一番!これは全ての女性に共通するはずだ。
「ご案内いたします」
侍女に案内されて、たどり着いたのは大浴場。とんでもなく広い浴槽のあちこちに獅子の石像が置かれ、口からはお湯が出ている。お湯は乳白色で、どうやら温泉のようだ。
「これ、一人で入るの?」
「めっそうもございません!私どもがお体を洗わせていただきます」
「え、いいよ!そういう意味で聞いたんじゃないし!」
貧相な体を見られるのは嫌だー!これが本音。
「ですが、それでは私どもの立場が」
「それで何かレーヴェとかに言われたら私がそう言ったって言えばいいから!とにかくここで待ってて!」
侍女をなんとか説き伏せ、私はひとりで入ることに成功した。それにしても、無駄に広いなぁ。これで商売やったら相当儲かるのになぁ。そんな庶民な考えをしながら風呂に入った。と、誰の人影が見えた。
「誰だろ?」
一般の人間じゃないと思うんだけど、だとしたら誰?
おそるおそる近づいてみると、その影が揺らめき、いきなりぐわっと腕を掴まれた。
「わっ!」
そのあまりの力におもいっきり前につんのめって倒れた私を受け止めたのは、厚い胸板。
「やっと来たね♪あんまり遅いから、のぼせるところだった」
のんびりとした口調。私の手首をがっちし掴んで離さない手をたどり、上を見上げるとそこには水もしたたる良い男がいた。レーヴェだけど。
「な、ななななななな何でここにいるのっ!?」
「そりゃ、皇族専用のお風呂だから」
「そうじゃなくて!私が入ってるのに!!」
「何つれないこと言ってるの、婚約者なのに。お互いに一緒にお風呂入るなんて当たり前じゃないか。わざわざ侍女に呼ばせたんだよ?」
「・・・・(ため息)」
「あぁ、ソレイユの胸の谷間が見える。幸せ」
「そんなもの欲しそうな目で見るな。そしてちゃっかり触ろうとするな」
不快な視線とずうずうしい手を払いのけ、私はけっこう離れたところに避難した。
「ひどい。そんな遠くからじゃ、ちゃんと拝めないじゃないか」
「いーの。そんな人に見せられるようなもんじゃないから。さらばだ」
私はレーヴェから見えないところまで泳いでいった。これだけの広さだから、離れてしまえばところどころに障害物もあるし一人で入るのと変わらない。
「ふぅ、気持ちいい」
お湯に疲れが溶けていく感じ。私は足を片方上げ、おもいっきり振り落とした。

ごっ。

と良い音がする。と同時に水中からレーヴェが手で頭を押さえながら唸った。
「痛いじゃないか!」
「ヨコシマな感情で私に近づくからよ。自業自得。あまりにも下心がありすぎて、気配隠せてないし」
「将来の伴侶なんだからもう少し優しくしてくれても」
「却下。さ、そろそろあがろうっと♪」
「え!?まだ入ったばかりじゃないか!」
「長風呂はしない主義なの。じゃ、またあとでね」
「うわーん」という泣き声も聞こえたかもしれないが、気にしなーい。私はまだ婚約者として認めてないしね。ルックスも家柄も申し分ないんだけど、初対面の時にはわからなかったが性格に難ありだ。物腰がいくら上品でも、会話や思考が下品だから面倒くさい。
浴室から出ると、待ってましたとばかりに侍女たちがいた。みな、それぞれに化粧品やらドレスやらを持っている。
「私どもにも意地というものがあるのです、観念なさいませ」
「・・・・・もう、好きにしてちょーだい」
下着を身につけたあたりでなぜか奥から「きゃー」という悲鳴があちこちで上がった。なんだろうと思う間もなく、元凶は現れた。
「ソレイユ!あのあとじっくり考えてみたんだが、やっぱり裸の付き合いというものは絆を深めるという意味で僕たちには必要なことだと思うんだ!!」

「その前に大事なところを隠せー!!!!」

侍女が持っていたバスタオルを掴み、私は素っ裸の変態皇子に投げつけた。
「なぜ恥ずかしがる?これでも自分に自信があるのだけど」
「自分に自信があるのは結構!けど、公共のマナーは守れ」
お引き取り願って。と侍女たちに頼むと、侍女たちはささーっと手際よく皇子を然るべき場所に連れていく。さすがに女性に対して力押しすることもできず、タオルで全身を隠されたままどんどん押されて連れていかれた。「ソレイユぅー」という哀愁漂う声が小さくなるまで、しばらく私と取り巻きの侍女たちは皇子のアホ加減に呆然としていたのだった。
「皇子様のイメージ壊れたわ」
私のつぶやきに、取り巻きの侍女たちはくすくすと笑いながら言った。
「どうか無礼をお許しくださいませ。悪気はないのです」
「それにしても、愛する女性の前ではあんなに可愛らしいなんて」
「可愛らしいで済むならいいけどね、ありゃ変態の域だよ」
「愛するがゆえの暴走ですよ、皇子もまだお若いですし」
「そういえば、いったい皇子は何歳なの?」
そういえば年齢聞いてなかった。
「皇子はまだ14歳ですよ」
「・・・・・・・・・・・・・14?」
「はい」

「何っ!?」

マジか!?私はもう18だぞ!?何か鈍器のようなもので後頭部を殴られたような衝撃に目まいを覚えた。年下じゃん。まだまだお子様ランチじゃん。犯罪なのは私のほうだったのか・・・・?
「それにしては、ずいぶんと発育いいよねー」
「皇族の人間は獅子王様の血筋ですから、あれが普通なのですよ。13歳でほぼ一般の成人男性と同じ程度の発育を終えますからね」
獅子王。聖獣と崇められているこの国のシンボル。人と神の間に生まれた彼は、獅子と人のどちらの姿にもなることができ、強大な力と魔力を持っていたという。その高貴なる血はあんな副作用効果をもたらすんだね・・・。
「でも体がいくら立派でもさー、精神年齢はまだまだお子様だよね」
レーヴェに感じる不自然さに納得した。肉体的にはいくら成熟しても、中身は子供。私が恋愛対象として見れないわけだ。
「えぇ、実はそれが私どもの悩みなのです。本来であれば精神の成熟も早いはずなのですが、レーヴェ様はどうやらそういうわけではないようなので。陛下も皇妃様も、早く立派になられてほしいと憂う日々なのです。その一環として、陛下が婚約者を作れば少しは大人になるのではないかと国内外問わず妃候補を挙げていた矢先だったのですが」
「私が選ばれちゃったのね」
「はい・・・・」
陛下にとってトンデモナイ想定外だっただろう。私が親の立場だったら、即決で庶民出身のどこの馬の骨とも知れない女なんかNOって言うよ。
「ですが、御安心を。ソレイユ様は闘技大会であのシャルアール様を負かされたとか。陛下は武勇に優れた人間を重宝していますので、婚約者候補としてお認めになられています」
「そういえば、婚約者候補はひとりではなく数人いるとか」
「私どもはソレイユ様を応援しておりますわ」
どんどん話が面倒くさいことになっている。レーヴェの相手するだけでも疲れるのに、いつの間にかライバルらしき影もちらついているなんて。
「前途多難だなぁ。棄権したいなぁ」
「そんな弱気になられないでください。ソレイユ様ならきっと大丈夫ですわ」
「レーヴェ様はソレイユ様に懐いているようですし、私どもは期待しています」
「うーん。ま、やれるだけやってみるね。でも期待はしないでね」
本当に。
「ではまずは、どこに出しても恥ずかしくないようにしましょう」
侍女たちは楽しそうに髪をいじり、化粧をし、ドレスを着せていく。これから厄介事が次々と起こりそうになる予感に、せっかくお風呂でとってきたはずの疲労がぶり返すのだった。


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