表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

そのココロを溶かすユキ

作者: 堆烏

あなたのSFコンテスト参加作品です。


「Snow Field」や、「Snow's Feeling」などイロイロ浮かびましたが、この作品の「SF」とは、やっぱり「すべて(Subete) Fiction?」に決めました。


楽しんで読んで頂けると幸いです。

「昔ある村に、化け物と呼ばれ、村はずれの山奥に逃げ込んだ一人の少年がいました。


心優しい少年だったのですが、とある理由で追い出され、暗く冷たい性格となってしまいました。


何故追い出されたのでしょうか。盗みを働いたり、誰かに暴力を振るったりでもしたのでしょうか。


違います。彼は争い事を好まず、貧しいときでも他の人のことを思いやれる、とても純粋な少年でした。


しかし、物心がつく頃になると少年は、自分が他の人とはかなり違うことに気づき始めました。


そう、彼が行くところ、彼が触るもの全てが凍ってしまう、そういう体質を持っていたのです。


そのことを周りの村人が知るまでに時間はそんなにかかりませんでした。


そして、その体質を村人たちが疎ましく思い始めるのも、時間の問題でした。


例えば、とある日のことです。少年が通りを歩いていると、がたいの良いおっさんに声をかけられました。


『あ、そこのお兄さん、ちょっと力貸してくれねえか。隣の家から木材運びたいんだが人手が足りなくてよお・・・・。』


その声に反応して、振り返ろうとしたときです。隣にいた奥さんらしき女の人が、声をかけてきたおっさんに囁きかけたのです。嫌なものを見た、と言わんばかりの顔をこちらに向けながら。


(バカっ、あんた、あの小僧は噂のバケモノの子だよっ)


『あ・・・・。す、すまねえ、人手はやっぱり足りてるみてえだ。悪いなぁ、気にせず行ってくれぇ。』


『・・・・・。』


そんな会話を前にして、少年は黙って通り過ぎていくことしかできません。


小声でも、内容はよく聞き取れなくても、少年を忌み嫌っているということだけは伝わってくる。少年は、そんな会話を通る道々で嫌というほど聞いてきました。


握手をするだけで相手の手を凍傷にしてしまったこともありました。食器を洗っていると、蛇口から流れる水までも凍りつき、蛇口が使えなくなることもありました。


人のために何かをしようとすると、必ず疎まれる。その連鎖は彼の心を次第に侵していったのです。


村人も決して悪い人たちではなかったのですが、あまりにも特異な少年の体質に対しては、流石に手に負えませんでした。


少年はそんな村の雰囲気がだんだん嫌になっていきました。


追い出しというよりも、村の雰囲気を悟って少年自ら村から離れていったとも言えます。


しかし、それも追い出しの一種かもしれません。



少年は荷物をまとめて、暮らしていた納屋から出ました。その納屋のまわりにはもちろん家はありません。冷気が漂う納屋のそばでは、夜も昼も寒くて誰も生活できなかったのです。


『もう行くの?』


気づいたら納屋の外に同じぐらいの背丈の子どもが立っていました。


『ああ。今まで仲良くしてくれてありがとな。隼人。』


それでも、少年には同い年の友達はいたのです。それが隼人でした。彼だけは村人が避け始めても、ほかの子が避け始めても構わず一緒に遊ぼうとしてくれました。


始めは少年も隼人と一緒に遊んでいましたが、隼人が他の子たちから自分同様嫌われるかもしれない、と思い、最近はたまに会って会話を少しするだけにとどめていました。


しかしそれが少年にとって一番楽しかったことでした。


『山にこもるんだって?たまには村に帰ってきなよ?』


『ああ。いつか、な。』


そう笑顔で言った後、少年は隼人に背を向けて歩き出しました。すぐに会話を終わらせないと山にこもる決断が鈍ってしまいそうだったからです。


『ばいばーい。』


隼人の声に振り返らず手を振って応える少年。隼人も少年の気持ちをちゃんと理解していたので、引き止めるような言葉を発しませんでした。少年の姿が見えなくなるまで手を振り続け、完全に見えなくなっても手を振り続け、少し経った後、彼も自分の家へ歩いていきました。



少年が通ると、辺りの温度が急激に下がります。それを感じた村人は大抵家に避難して事なきを願います。別に、少年が誰かに対して故意に被害を加えようとしたことはなかったのに。


自然と、彼はいつも一人ぼっちで村を歩くことになってしまうのでした。


(しかし、それも今日まで)


そう決心した彼は山の奥まで進んでいき、それ以降村には近寄りませんでした。


(別に一人でだって生きていける。)


少年は自分に言い聞かせ、一人で暮らしていました。幸い昔誰かが建てた家が見つかりましたし、狩りや採集、釣りの腕もあったため、彼は難なく山での生活に慣れていきました。


しかし、もちろん彼がいることで山も次第に変化していきました。


村はずれにある緑鮮やかだったその山は、当時とても美しく、太陽あふれる草原や大自然を誇っていました。動物もたくさんいて、季節ごとに花は咲き乱れ、その光景を見るためだけに訪れる旅人もいたほど、それはそれは素晴らしい山でした。


少年がその山を訪れて一か月後、夏なのに雪が降り始めました。


それ以降日の光が差すことはなく、雨の代わりにひょうが降り続け、環境は大きく変わったのです。


村人は『バケモノの祟り』と恐れ、少年は変わってしまう村と山に涙しました。


自分はバケモノなんかじゃない、と叫び続けた少年も、いつしかすっかり冷めきってしまい、全てを受け入れてしまいました。


そんな少年でも、全てが苦痛だったわけではありません。山の中ではたくさん友達をつくることができました。と言っても全て動物ですが。


言葉が通じなくても意志の疎通は意外ととれるもので、少年は動物たちと共存して暮らしていました。なかでも、雪イタチとは特別仲がよく、狩りなどを一緒に手伝ってもらったこともありました。人の言葉を理解しているような、そんな気がしました。隼人が山に遊びに来た時、とても恥ずかしがり、いつも隠れていたので、もしかしたら隼人のことが好きなのかもしれません。

隠れている雪イタチを隼人が見つけて、嬉しそうに抱きしめられている雪イタチを見るたび、心が和みました。


隼人は、その雪イタチを『チィ』と呼んでいました。


まぁ、チィと隼人の話は、また別の物語なのですが。



しかし、年々雹の勢いが強くなり、隼人もそう何度も山に遊びに来れなくなりました。雪イタチのチィも見かけなくなりました。少年の心はまた、次第に冷えていきました。





それから数年が経ちました。


ある日、山道に小さな女の子が倒れていました。


『ぐぇ』


少年は気づかずに踏んでしまいましたが。


奇声に反応し、足下を一瞬見た少年は、何を踏んだのか確認したあと、また歩き出しました。


隼人以外の人間には興味すら湧きません。湧いたところでつらい思いをするだけと分かっているからです。


しかし、少年は先に進むことができませんでした。


『ご飯………』


少女は少年のズボンの裾を掴んで離しません。余程お腹が空いているのでしょう。目の焦点が合っていません。


『ご飯に踏まれた……ご飯が歩いている……ご飯、つかまぁえたぁ……』


『ご飯って俺のことかよ……』


涎を垂らす少女を見下ろし、少し呆れていた少年は、次の瞬間、とても後悔しました。


目の前に山熊がいました。


『ちっ……コイツがいなけりゃ……』


けたたましく吼え、襲いかかる山熊に二人は呟きました。


『えぇ~こんなにデカいご飯たべられないよぅ~』


『久々の肉を独り占めできないとはな……』


後悔すべきはどうやら山熊の方だったようです。



少年は家に帰り、熊の肉を食べました。少女も何故か許可なく食べていました。火おこしも、調理も、全部少年がしたのに。


連れてくるつもりではなかったのですが、少女は熊に抱きつきながらかぶりつき、そのまま寝てしまったのでしょうがなかったのです。


よほどお腹がすいていたのか、ものすごい勢いで肉を消化していきました。全部食べられたら困る、と少年も負けずに熊の肉にがっつきました。


誰かと一緒にご飯を食べることは、とても久しぶりのことでした。


『・・・・何であんなところで倒れていたんだよ。この山は危険だから登るなって村の人から聞かなかったのか?』


『ん?んー、言われた気もするけど・・・・。なんとなく、かな。山にも誰か住んでいるって聞いて、じゃあ行ってみようかなーとか思ったわけですよ。』


『その、山にも住んでいる誰か、が危険人物だとは紹介されなかったのか?』


少し声を低くして、皮肉めいた笑みを浮かべながら少年は聞いた。村の人が自分のことについてどのように言っているのか、知りたくはないけれど、聞かずにはいられなかった。


『危険人物?いやいや、とっても優しくていい人が住んでいるから、道に迷ったり困ったことがあったらその人を探せばいいよって、そう聞いたよ?』


そんなことを言う村人がいるはずがない。と思っていたら頭の中に隼人の顔が浮かんだ。


『可愛いイタチに会いに行くって言って二、三日前に山に入っていったけど、会ってない?何かいつもニコニコしてそうな人だったよ?』


・・・・アイツしかいないな。しかし、確か二、三日まえはすごい天気が悪かったような。隼人のやつは大丈夫なのだろうか。


『それでねー。私もその可愛いイタチさんに会ったのですよ。お腹が減っているようだったからご飯分けてあげたんだよ。食べっぷりも可愛かったなー。』


その時を思い出すかのようにニヤニヤしながら熊の肉をがっつく少女。その食べっぷりには可愛げはなかった。


というか、


『・・・・、じゃあ何で倒れてたんだ?』


『お腹がすいて動けなかったのですよー。』


イタチにご飯を与える余裕ないじゃないか・・・・


『だから、だからね?今たくさん食べれてとっても幸せなんだよ?とても美味しいよ?。ありがとう、ありがとうねクマさん!』


・・・・俺の方を見ながら熊に感謝を捧げないで欲しい、俺はクマさんじゃない。


そんな少年の心の声は無視して、少女は食べ続けます。


そして、少女は完食して、とても満足そうな笑みを浮かべました。


その笑顔は、思わず少年も笑顔になりかけてしまうほど幸せそうな笑顔でした。


少年も隼人以外の人とこんな風に楽し気に食事をしたり、会話したりしたことはなかったので少し嬉しかったのです。


本人はそのことに気づいてはいませんが。


もう少し話していたい。もう少し、この子と一緒にいたい。そんな感情が少年の心の中に無意識のうちに生まれ始めました。


そう思った矢先、少女は突然倒れたのです。


流石に少年は慌てました。さっきまでは普通に会話していたので、流石に状況を理解することがすぐにはできませんでした。


しかし、倒れた少女の手足を見るとすぐに察しました。


手足は既に凍傷になりかけていました。少女は服をモコモコ着ていたので、少年は何ともないと思っていましたが、少女は靴も履かず、手袋もせずこの山に訪れていたのです。


そして、顔は真っ赤に染められ、汗をだらだらかいていました。


熱もあるようです。


なんせ、雹しか降らない山なのです。ここまで元気にふるまっていること自体おかしかったのです。


今まで我慢して笑顔でい続けていたのかと思うと、気付けなかった自分に腹が立ちました。


何で気付いてあげれなかったのだろう、と。苦しみを耐える辛さは、自分が一番理解しているからこそ、少年は自分を責めました。


当然、少年はすぐに手当てをしようと考え、思いとどまりました。


自分には、彼女に手当をしてあげることができない・・・・。


『俺が触れれば凍傷は余計悪化する。くそっ。どこまで俺は冷たい人間なんだ…!』


歯ぎしりしても、何も変わりません。ただ見ていることしかできない。


『これだから・・・・これだから人間は嫌なんだ・・・・。』


自分をバケモノと認めてしまった、自虐的かつ絶望的な叫びでした。


こんな状況から目をそらすために、山で独りで暮らしていたとも言えます。


うなだれる、そんな少年の手を誰かが握りました。


うっすら目を開けた少女は弱々しく微笑んでいました。


『そんなことないよ。君の手、スゴく温かいよ。きっと氷も心もこの山も、みんな暖かいんだよ。』


そして、


『そして、君だってちゃんと人間でしょ?だって、こんなに暖かいんだもの。』


少年は急いで手を離そうとしましたが、少女は離しませんでした。少年には、少女がどんどん衰弱していくのが分かりました。


『頼む・・・・。手を、手を離してくれ。じゃないと・・・・。』


だんだんと、指先から温度が下がってゆくのが少年には伝わりました。


『私は大丈夫だから。少し眠っていれば治るから。そして、ちょっと眠たくなっただけだから。』


少女の目が言葉の通り眠たいのか、だんだんと閉じていきます。でも手は強く握られて離れません。


『君も大丈夫だよ。いや、違うね。君なら大丈夫だよ。もっと楽しく生きていこうよ。あ、言い忘れてたけど、私、今日はとっても楽しかった・・・・よ?』


こんな状況でも、彼女は少年の事を思いやっていました。


『本当に、・・・・あり・・・・がと・・ね・・・・。』


最期にこう言い残して、少女は目を閉じました。


手が離れました。


少年の目からは、何年ぶりかの涙がながれました。


そして、彼女を抱きしめて、泣き続けました。


彼女の身体は小さく、でもとても暖かいものでした。少年は、この時初めて、人の暖かさに触れることができたのです。








少女の遺体は山に埋めました。


家から運び出すとき、氷だらけのこの山に埋めたらこの子は痛がりそうだな、と少年は思いながらドアを開けました。


少年は目を疑いました。何かが、いや、全てが変わっていました。


辺り一面、雪化粧。空をみても雹などは見当たらず、柔らかな雪がヒラヒラと地面に吸い込まれていきます。


凍っていたはずの木々や花々は、氷なんて知らない、と言わんばかりに美しく、その姿を見せつけていました。


少年は一歩、また一歩と雪の上を歩きます。少年自身の心の中の氷を、一つ、また一つと、溶かしていくように。


立ち止まって、少年は空を見上げました。顔には雪がポツポツと当たるだけでした。いつもは顔面に突き刺さるような氷の刃。もう恐れることはないのだとようやく実感がわいてきたのです。


少年も頬に触れた雪は、冷たさを持っていませんでした。柔らかく、暖かく、全てを包み込むような、そんな雪でした。


改めて、両腕に抱えた少女を見下ろします。


彼女の体からは、未だに強い温もりを感じることができました。


まるで、まだ、生きているかのように。


まるで、今まさに、この山の氷を全て溶かそうとしているかのように。


まるで、今まさに、少年の氷を全て溶かそうとしているかのように。





『本当にこの子が全部を暖めてくれたんだな。』


少年は昔の優しい顔に戻っていました。


そして何年か振りの満面の笑みを浮かべて少女に囁きました。











『ありがとう。』と。」























そこまで、話し終わって彼は教室を見渡した。うん。みんな静かに聞き入ってくれている。あ、若干名寝てやがる。まぁ、寝てるヤツはどうでもいいか。


そして、一拍おいて、もったいぶって、満面の笑みを浮かべて俺はこう締めくくった。


「あ、これ、俺の昔話だから。」


全員「嘘つけ!」


真剣に聞いていたクラスメイト達は勢いよく突っ込んできた。なかなかノリの良い奴らだ。


まぁ、普通だれも信じるわけはないよな、こんな話。


そんな中、一際大きな声で「嘘つき!!」と叫んだ女の子がいた。


まぁ、これも予想通り。


顔を真っ赤にしてちょっと怒ったような表情だったので、ほほ笑み返すと、更に顔を赤らめて俯きながらぼそぼそ何かを言っていた。


教室にいた人で彼女のつぶやきを聞き取れたのは、








その女の子、ユキの隣に座っていた隼人だけだった。


「・・・・・・・私死んでないもん。・・・・・おなかいっぱいで寝てただけだもん・・・。」


その呟きを聞いた隼人は、親友と彼女を見ながら、ニコニコずっと笑っていました。


昼休みの教室の、窓の外を見ると雪がひらひら降っていました。


柔らかく、暖かく、全てを包み込むような、そんな雪でした。


この作品の原点は、友達へ書いた三題話で、それを肉付けした作品となっています。


その三題とは、雪、嘘つき・・・・・あと一つは思い出せません。(笑)

(雪じゃなくて氷だったかも)


チィと隼人の物語も作ってはいますが、まだまだ肉付けができていないのでしばらくして投稿できたらいいなと思っています。


ご拝読、ありがとうございました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ