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Act. 12-12
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「拝島さん、一体なんで朽木さんとケンカしたんですか?」
 
 ボートを降りた後、移動しがてら、みんなの後ろでこっそり拝島さんの腕を引き、小声で問いかける。
 
 今日の朽木さんはおかしい。あたしへの敵意が尋常でない。
 
 確かに怒らせることはいっぱいやってきた。警察に突き出されるのなら納得がいく。
 
 でもこんな陰湿な嫌がらせをされるほど憎まれるようなことをした覚えはない。
 
 嫌われてるのはわかってる。でも「嫌う」と「憎む」は違うのだ。
 
「っ! ……それは……」
 
 拝島さんは困ったように目を伏せた。
 
 言いにくいことなのだろう。例えば、朽木さんがゲイだってことを、バラすことになるとか。
 
 そんなのはもう知っている、とよっぽど教えてしまいたいけど、それもまだ言っていいかどうか判断できる材料がない。
 
 とにかく、少しでも情報を集めないと。
 
 このまま陰険な嫌がらせを続けられちゃ、ストーカーがやりにくい。
 
「誰にも言いませんから。朽木さんの秘密に関することなら、あたしも知ってます」
 
「え? 朽木の秘密?」
 
 きょとん、とした目であたしを見る拝島さん。
 
 あれ? 朽木さんがゲイだってことや、神薙グループのことは関係ないのかな?
 
 例えば、朽木さんの性癖やトラウマに触れちゃって、それを拝島さんに教えたのがあたしだと思った朽木さんが怒ってるのかとか考えたんだけど。
 
 そういうわけじゃない?
 
「朽木の秘密ってなに?」
 
 やべ。そういう突っ込みを受けると思わなかった。
 
「えーと……知らないんなら気にしないでください」
 
 あたしは心配そうな顔になる拝島さんから視線を逸らし、逃げるように早足で歩きだした。
 
 と、いきなり目の前に大きな影が現われ、バンッと顔にぶつかる。
 
 イデデデっ! なんか硬いものに当たった衝撃が!
 
「あそこで昼飯にするそうだ」
 
 予想通り、そこにいたのは朽木さんだった。
 
 大きなバッグを肩から背中に垂らし、わざと後ろに下がった。あたしがいるのをわかってて。
 
 拝島さんと話してるのが気に入らなかったんだろう。意地悪オーラが漂ってる。
 
 そんなに警戒しなくても、ちゃんと拝島さんと朽木さんの仲が危うくなるようなことは吹きこまないって。
 
 そのくらいはあたしだって気をつけてるんだから。
 
「そっか。遊びに夢中だったから、お昼の時間を全然気にしてなかったよ」
 
 拝島さんがお腹の空き具合を確かめながら、朽木さんの示す方向を見る。
 
 大きなレストランだ。確か収容人数が一番多いんだっけ。
 
 テラス席もあって、家族連れやカップルが楽しそうにプレートに載った料理を食べている。
 
 うちの大学の学食を一段と大きくしたようなカンジだ。
 
「早くいこーぜー!」
 
 高地さんの元気な掛け声で、みんなの足が動きだした。
 
 
 
「500円にしちゃなかなかうめーな、このハンバーグ」
 
「あたしにも一口ください。代わりにこの唐揚げ一個あげます」
 
「おっ。物々交換ね。いーぜ」
 
「いじきたないわね、アンタたち」
 
「だって色々食べたいじゃん。祥子のパスタも一口もらってもいい?」
 
「あっ、俺も祥子ちゃんの……」
 
「断固拒否するわ」
 
 そんな会話を交わしながら、あたしたちはそこそこ満足のいく食事にお腹を満たしていた。
 
 気づいたらもう二時過ぎてんだもんな。お腹も空いてるはずだよ。
 
 あっという間にみんな料理をたいらげ、ぼーっと疲れを癒すことに移行し始めた。
 
 食後のお茶でひとごこちついていた時のことだった。
 
「ところで朽木。結局その荷物は何だったんだ?」
 
 高地さんが朽木さんのバッグを指差して訊いた。
 
 あ、それ、あたしも気になってた。普通、遊園地にこんな荷物持ってこないと思う。
 
「ああ、これか」
 
 朽木さんは椅子の背にかけていたバッグを手に取り、チャックを開けた。
 
「たいしたものじゃない。グリコに返そうと思ってたものを持ってきただけだ」
 
 え? あたしに?
 
 不思議に思っていると、バッグの中から分厚い本屋の紙袋が現れる。封がされてないところを見ると、買ったものじゃなくて、袋は家にあったものを入れ物にしたってだけだろう。
 
 朽木さんは席を立ち、それを持ってあたしの横に来た。
 
「そら。こないだうちの本棚にお前が勝手に置いていったやつだ。二度と俺の部屋にこんなものを持ち込むなよ」
 
 ハッとして手を出す。
 
 朽木さんちの本棚に置いたもの。思いっきり身に覚えがある。それって確か――
 
 と、その時、あたしが受け取るはずだった紙袋がスッとあたしの手をすり抜けた。
 
 
 
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