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Act. 11-4
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 ゆっくりと身を起こした。
 
 これが現実の世界であることを確かめるかのように。
 
 そして額に手をやった。ぐっしょりと汗で濡れている。
 
 腕には鳥肌が立ち、心臓は激しく脈打っている。視界が霞んでるのは汗が目に入ったからなのか、別の何かなのかよく分からない。
 
 ひどく気だるかった。
 
 夢を見ていたような気がするが、思いだせない。頭に靄がかかっている。
 
 俺はベッドから降り、焦点の定まらぬまま、おぼつかない足取りでバスルームに向かった。
 
 また――悪夢でも見たのだろうか。
 
 グリコの声を聞いた気がするから、きっと悪夢だったのだろう。
 
 湿ったパジャマを脱ぎ捨て、浴室に入った。
 
 
 俺は時たま悪夢にうなされることがある。
 
 内容は大抵覚えていないが、そういう時は全身に汗をかき、絞られるような胸の痛みにより、しばしの呼吸困難に陥るのでそれと分かる。
 
 どんな夢を見たのか、気にならないわけではないが、恐らく思い出したくもない昔の夢だろうとは察しがつくので、忘れたままにしておくのが常だった。
 
 いつまでも過去に囚われているなど、情けない話だ。
 
 とびきり熱いシャワーを浴び、気分を落ち着かせるための紅茶を淹れてリビングのソファーに座った。
 
 何もする気が起きなかった。
 
 ぼんやりと中空に視線を泳がせ、思考を休ませれば浮かんでくるのは拝島の顔。
 
 会いたい――
 
 何故か無性に、拝島に会いたかった。
 
 
 
 
 
 入学当初から仲良くしていたわけではなかった。
 
 むしろ最初は避けていた。顔も体も好みのタイプだったからだ。
 
 俺はクラスメイトなど、身近な存在には手を出すのを良しとしない。失敗した時ゲイの噂が流れるのは好ましくないし、別れた後が面倒だからだ。
 
 そういう理由から、食指が動き出さないよう、整った容姿に惹かれつつも接触は避けていた。
 
 拝島拓斗。
 
 その存在は教室に一歩入った時から光り輝いていた。
 
 いつも数人の仲間に囲まれ、楽しそうに笑い、その笑顔は決して曇ることはない。
 
 誰にでも優しく朗らかで、芯は強く、特待生ながらも驕ることなく、生活費をバイトで稼ぐしっかり者。
 
 春の陽差しのように眩しい存在だった。
 
 まるで俺とは正反対の――
 
 
 堕としてみたい。
 
 
 それが、拝島拓斗を見て、まず思ったことだった。
 
 
 
 入学してから最初の一年は何事もなく過ぎた。
 
 俺と拝島の仲は朝の挨拶を交わす程度で、俺は夜の街に繰り出しては、一晩限りの遊び相手を見つけ、己の欲を満たしていた。
 
 二年の春のことだった。
 
 その日、俺の部屋に不意打ちの客人が訪れた。
 
 俺の生活ぶりを見たかったから、という理由で部屋の戸を叩いたのは、一年以上顔もあわせていない母だった。
 
「外に出ましょう」
 
 俺の部屋――俺のテリトリーに入れたくないという反抗心から、近くの喫茶店まで母を連れだした。
 
 その頃、神薙にさらわれた時から俺たち親子の間に入った亀裂は時を重ねるごとに広がり、最早親子関係と呼べるものは戸籍以外には残っていない状態だった。
 
 高校に入ると同時に独り立ちした俺にとっては親など不要な存在。ましてや自分はもう大学生で、成人まであと一歩。
 
 完全に切り捨てる準備は整っていた。
 
 そういう意図を隠す気もなかった俺は、母に対し、常に冷たい態度で接していた。
 
 なにしろ俺が苦しい中学時代を送ることになった元凶なのだ。
 
 しかも神薙家から俺を連れ戻そうとしてくれなかったことは、根深く恨みとして残っている。神薙に放り出された後に謝罪の言葉はもらったが、それで帳消しになるはずもない。
 
『僕は誰のものでもありません。神薙家のものでも、朽木家のものでも。僕に親はいない。そう思うことにしましたので、今後一切僕に関わらないでいただきたい』
 
 高校の入学式当日、母に言った言葉だ。
 
 冷たい微笑と共に。
 
 
「僕は言いませんでしたか? 部屋には尋ねてくるなと」
 
 近くの喫茶店――『猫屋敷』という名の、一風変わった喫茶店に母を案内し、席に座るなりまずひとこと釘を刺した。
 
「聞いた覚えはあるのだけど忘れてたみたい。だって顔が見たかったんですもの」
 
「母親面もやめてください。僕に親はいないとも言いましたよね?」
 
「それは承諾できないわ。だってあなたはまだ未成年で、私は保護者ですもの」
 
 俺たちの間の溝などないかの如く振舞う母が苛立たしかった。
 
 いや、溝を埋めようと懸命に仮面を被る母が疎ましかった。以前のような笑顔を無理矢理作ろうとする母が。
 
 誰がその手に乗るものか。
 
「お茶の一杯くらいはここでご馳走しますから、飲んだらさっさと帰ってください。目障りです」
 
 メニュー票を手に取ると同時に鋭く睨みつけた。
 
 母が一瞬表情を凍りつかせるのに微かな満足感を覚えたその時。
 
「朽木……?」
 
 横から確かめるように名を呼ばれ、ぎくっと振り返り、息を呑んだ。
 
 どんな知り合いであっても居合わせたくない状況だが。
 
 この男は、特に見られたくない相手だったかもしれない。
 
 
 驚いた顔の拝島拓斗がそこに立っていた。
 
 
 
親愛なる黒雛さまから、またまた素敵なイラストをいただきました!
なんと、あの、ゴスロリ猫耳メイド服グリコです!!
しばらく作品TOPページに貼り付けておきますので、どうぞごゆるりと目の保養にしてください♪
めちゃくちゃ可愛いですよぉ〜〜!(>∀<)
黒雛さん、どうもありがとうございます!
 
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