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Act. 9-10
<<<< 栗子side >>>>
 
 次なるチェックポイント、情報科学センターのコンピュータ室に辿り着いたあたし達。
 
 扉を開けると、まず教室の広さ、そして、おびただしい数のパソコンが奥までずらっと並ぶその光景に圧倒され、思わず腰を引いた。
 
 凄い。軽く百台は超えてそう。自宅に一台しかパソコンを持ってないあたしには圧巻の一言。しかもその一台は市兄ちゃんの物だし。
 
 このパソコン、全部売っぱらったらいくらになるだろう、なんて思いつつ首を部屋の端から端まで巡らしてみる。
 
 朽木さんに「そこだろ」と指摘され、案外近くにあった目的のボードをようやく発見。これぞ灯台もと暗し?

 最前列の机の真ん中辺りに立てかけられてるボードに近付くと、モニタの影になってて気付かなかったけど、一人の男性が座っていた。
 
 胸に着けた札に書かれた名前は、『山崎の友人A』。名前のない役ですか……。ちょっと淋しいね。
 
「僕は山崎の友人役です。ここでは山崎がホールに姿を現すまで一緒にいたことを証言します。詳しくはボードを読んでください」
 
 ほいほいっと。
 
 あたし達は立てかけられたボードに目をやった。
 
 
刑事:「あなたが山崎君の友人A君ですか?」
 
友人A:「はい。そうですけど、何ですか?」
 
刑事:「実は演劇部でちょっとした事件がありまして、関係者である山崎君の事件当時の行動を証言していただきたいのです」
 
友人A:「えっ! 山崎のやつ、なんか事件に巻き込まれてるんですか!? 僕で証言できることなら何でも答えますよ」
 
刑事:「ありがとうございます。では早速ですが、今日山崎君はお昼頃、屋台のお手伝いをしてたそうですね。それは具体的に何時までだったか分かりますか?」
 
友人A:「ああ、それならはっきりと言えます。僕の当番は1時まででした。忙しくて少しオーバーしたけど、それも5分くらいだったと思います」
 
刑事:「その後、山崎君と記念ホールの前まで一緒だったんですよね?」
 
友人A:「はい。屋台を出て、途中焼き鳥一本買って記念ホールに向かいました」
 
刑事:「焼き鳥を一本?」
 
友人A:「ええ。ちょっとしたおやつに。そん時、山崎がなかなか財布出てこなくて、リュックひっくり返すバタバタがあって、ホールに着いたのは1時20分くらいになってたんじゃないかな。ホール前の広場で別れました」
 
刑事:「リュックをひっくり返した……中の荷物を全て取り出したんですか?」
 
友人A:「はい。全部出してましたよ」
 
刑事:「その時、荷物に刃物のような物はありませんでしたか? 折り畳み式のナイフとか」
 
友人A:「ええっ!? 穏やかじゃないですね……。そんなものはありませんでしたよ。川田じゃあるまいし、山崎はナイフなんか持ち歩きませんよ」
 
刑事:「川田君? 川田君はナイフを普段持ち歩いてるんですか?」
 
友人A:「え? いえ、本当に持ち歩いてるかは知りませんけど。あいつナイフマニアだから。高校時代はよく見せびらかしてましたよ。僕と川田、高校が一緒なんです」
 
刑事:「そうだったんですか。一応念のため、山崎君の荷物にどんな物があったか思い出せる限りでいいので、教えてもらえますか?」
 
友人A:「あ、はい。ええと確か……」
 
刑事:「ふむ……ふむ……。実際確認した中身とほぼ同じですね。その時にはもう台本を失くしてたようですね……。はい、分かりました。お話どうもありがとうございました」
 
 
 会話文は以上だ。
 
「うーん。急展開だね。川田君がナイフマニアなんて、いかにも怪しい話だね〜」
 
「怪しすぎて逆に川田は犯人じゃねぇだろ、って気もするけどな」
 
「だよね。きっと犯人は川田君じゃないよ」
 
 あたしと高地さんはボードの内容から推理できることを論じ合った。
 
「アンタ達、もっと論理的に推理できないの?」
 
 またまた祥子に呆れられる。だってなんか複雑すぎてさー。
 
「こんなの大したトリックじゃないでしょ。なんでこんなに長々と文字読まされなきゃいけないんだか。さっさと犯人逮捕して終わりにしたいわ」
 
 受け取ったシールを台紙に貼りながら祥子はぶつくさと文句を言った。
 
「え? 祥子、もう犯人分かってるの?」
 
「大体ね。証拠が出てこないと断言できないけど」
 
 ほえー。さすが読書家の祥子。
 
 推理小説は好きじゃないって言ってたけどそれでもあたしの十倍は読んでるだけある。
 
「朽木さんも分かってるの?」
 
 あたしの台紙にシールを貼り付ける朽木さんに訊くと、
 
「まぁな。こんなに話が長いのは――多分、犯人以外の容疑者が犯行を行えない証拠を固めようとしてるのと、レースとして成り立たせるためだろうな」
 
 涼しい顔で答える。
 
「すごーい! ねぇねぇ、誰が犯人なの!?」
 
「少しは自分で考えろ」
 
 うは。冷たい正論が頭にグサッと突き刺さったよ。正論って痛いよね。
 
「あの〜。次のポイントなんですが……」
 
 と、さっきから黙ってあたし達のやり取りを見守ってた山崎君の友人A君が、言いにくそうに割って入ってきた。
 
「あ、わりぃわりぃ! 次はどこだって?」
 
 聞き寄る高地さんに、一枚のカードを差し出すA君。
 
 受け取って目を通した高地さんの顔がしかめっ面になり、みるみる額に汗が浮かんでくる。
 
「次に行くべきポイントは、そのカードに暗号で書かれています。それほど難しくないので、身近な物を使って解いてください」
 
 また暗号かよ!
 
 あたしもA君から真っ白なカードを受け取り、ぴらっと裏返してみる。
 
 
『5X23X24X53X28X620X3』
 
 
「………………」
 
 ナニコレ。
 
「分かった。グリコ、行くぞ」
「行くわよバカ地」
 
「って、はやっ!」
 
 既に動き出してる朽木さんと祥子の後を追う。カードを見てからものの1分と経ってないんですけど。
 
 コンピュータ室を出て、外に向かう廊下を二列で進む。
 
「次は西図書館。ここの二つ東の建物だわね」
 
「あの〜すみません祥子様、朽木様。もしよろしければ解説のほうを……」
 
「なんで西図書館なの〜〜?」
 
 二人に従うしかないあたしと、知能同レベル仲間の高地さんは、なんとも複雑な気持ちで解説をお願いした。
 
 いい加減説明するのも面倒くさそうな顔で朽木さんは答える。
 
「身近な物――携帯で文字を打ってみろ」
 
「携帯で……?」
 
 
 ……………………。
 
 
 あ。なるほど。
 
 
 
 ほどなく西図書館に辿り着く。
 
 大きな自動扉の入り口をくぐってすぐの場所であたし達を待っていたものは。
 
 なんと、またもや四択クイズの立て札。
 
 今度はダイイングメッセージものだ。もうクイズはカンベンして。
 
 しかもメッセージの絵柄を頭に入れる前に、頭脳派の二人は移動を開始してしまうのだ。
 
「グリコちゃん、俺達って、やっぱ役立た……」
 
「考えちゃダメだよ高地さん! 考えたら負けだっ!」
 
 気を落としがちな高地さんの背中を叩いて次なるポイント、すぐ隣の工学部棟大講義室に向かう。
 
 途中、第二講義室とやらの前を通り過ぎる時、「くっそーっ!」と叫びながら部屋を飛び出して来る男二人組とぶつかりそうになった。
 
 なんだ? と部屋の中を覗いてみると。
 
 教卓の黒板に、でかでかとチョークで書かれた文字が目に飛び込んできた。
 
 
『はずれ。もう一回挑戦してね☆』
 
 
 …………なるほど。ハズレを引いたらこうなるわけか。
 
「移動時間ロスのペナルティだな」
 
 自分には全く関係ないと言わんばかりに徹底して他人事な態度の朽木さん。悠々たるもんだ。はいはい。頭の偉いお方は違いますね〜。
 
 なんだか嫌味のひとつも言ってやりたい気分になったけど、
 
「ほらほら。今の内だよ。一気に順位上げるよ!」
 
 その覇気のない背中をぐいぐい押して、少しでも足を進ませようとする方向に労力を使うことにする。
 
「押すな! ちゃんとクイズだって解いてやってるだろ。無駄な体力を使わせるな!」
 
「無駄じゃないよー。こういうイベントで頑張るのって、青春の煌めく一ページじゃない?」
 
「もう青春とか言う歳じゃないだろ」
 
 歳って……。おっさんだよこの人。中身おっさんだ! 若さが死んでるよ!
 
「おっさ……」
 
「なんか言ったか?」
 
 イテテテ。その言葉にすぐ反応するところもおっさん臭いよ朽木さん。
 
 つねられた頬を擦りながら渋々歩調を合わせた。
 
 
 
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