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Act. 9-1 とんでも腐敵な学園祭!
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 もうお馴染みとなった正門の前に、でかでかと置かれた色彩豊かな看板。
 
 抽象画のような背景に、うねる飾り文字で書かれたド派手な一文字は楽しげで。
 
 看板の主旨をこれでもかってくらいに主張する。
 
 『祭』
 
 そう、今日はお祭り。
 
 朽木さんの大学――天道大学の、学園祭なのだ。
 
 
 
「祥子ちゃんっ! それにグリコちゃんも真昼ちゃんも! いらっしゃ〜〜い!」
 
 食堂のひとつをそのまま使った喫茶店。
 
 普段はない観葉植物やフラワーポットで随所を飾られ、各テーブルには白いテーブルクロスが掛けられ、上品な雰囲気の内装に変えられている。
 
 蝶ネクタイにベストという、フォーマルなウェイター姿の高地さんがあたし達に気付いて嬉しそうに手を振った。
 
 馬子にも衣装っつーか結構似合ってる。袖を半分捲くってるのがワイルドな高地さんらしい。
 
「どうどう? 似合ってるこれ?」
 
 それを自分で言わなきゃもっと良かったんだけど。
 
 空いてる席についたあたし達のもとに来て、高地さんは早速自分の晴れ姿を祥子にアピールしだす。
 
 正方形のテーブルの三辺をあたし達が埋め、残る一辺の前にウェイターの高地さんが立った。
 
 祥子はいつもの仏頂面で、真昼は楽しげに見守る微笑を浮かべて高地さんを見上げる。
 
「せっかくフォーマル着ても髪型がそのままじゃね……。それに着こなしがだらしない」
 
 祥子の厳しい評価にうっと言葉を詰まらせる高地さん。
 
 いや、あたしは悪くないと思うよ? 捲くった袖も、崩れた襟元も、結構萌えだと思うよ? これをイケメンが着てればね……。
 
 ちなみに高地さんの頭はいつもの髪型。金髪をツンツンに逆立てた、今風なんだか、ゲームのヒーローコスプレなんだか、微妙な位置付けのやつ。確かにそれでフォーマル着ると、どことなくいかがわしい。
 
「それよりちゃんと注文取らないの?」
 
「はっ、はいぃっ!! 何にしましょうかお嬢様方っ」
 
 祥子の鶴の一声にビシッと姿勢を正した高地さん。訊かれてあたしもメニュー表に目を通す。お茶好きな真昼が少し感心した声で言った。
 
「へぇ〜色んな紅茶があるんだ」
 
 本格的な革張りのメニュー表を開いた中には、十種類以上の紅茶の名前が記された紙が貼ってあった。
 
 確かに凄いな、この喫茶店。文化祭の割には凝ってるや。
 
「じゃあ、あたしダージリン」
 
 あたしがまず最初に注文すると、真昼と祥子もそれぞれ「オレンジペコ」、「アッサム」と続ける。高地さんはそれを手元のメモ用紙に書き込んでいく。
 
 その間、あたしは周囲をきょろきょろと見回し、不満も露に言った。
 
「ねぇ高地さん。朽木さんと拝島さんはウェイターやんないんですか?」
 
 目当ての姿が見つからなくてちょっと頬を膨らます。
 
「うん? ここはテニスサークルの出店だからな。俺は手伝いでやってっけど、朽木と拝島は無関係だからやんないよ」
 
「えぇぇ〜〜〜〜っ。二人のウェイター姿見たいのにぃぃ〜〜っ」
 
 ブーブー! そこは無理矢理にでも着せるべきでしょっ! 繁盛間違いなしだよ!
 
「拝島ならともかく、朽木がウェイターなんて承諾するわけないっしょ」
 
 苦笑混じりに返される。まぁ確かにそうでゴザイマス。
 
 高地さんは一旦厨房に引っ込み、注文の品を盆に載せて戻ってきた。
 
「はい、どうぞ。お姫様方」
 
 おぉ〜〜いい香り〜〜。
 
 シンプルなデザインのティーカップから漂う紅茶の香りを満喫し、他のお客さんのところに注文を取りに行く高地さんの背中を見送った。
 
 なんとはなしに祥子を見ると、女性客にニッコリ微笑みかける高地さんをちらちら横目で盗み見てる。
 
「なかなかサマになってるんじゃない? 高地さん」
 
 意味深な言葉を祥子に投げかけたのは真昼だ。ぎくっと目線をあたし達に戻す祥子の顔は心なしか慌ててるようだった。
 
「そう? あんなもんじゃない?」
 
 わざとらしい素っ気無さが可愛いったらもう。カンペキにツンデレキャラしてるよ祥子。
 
「仲良さそうね〜あのコ達と知り合いなのかな? 高地さん、なんのかんので人気者よね」
 
 煽りまくりの真昼のセリフに祥子の口がへの字に曲がる。
 
「軟派野郎だからよ」
 
 表情を誤魔化すためか、ティーカップを口につける。いつもの仏頂面だけど、祥子と付き合いの長いあたしと真昼の目には僅かな違いが映ってた。
 
 眉毛がちょっと上がり気味。
 
「今もナンパしてるのかな?」
 
 あたしが言うと、
 
「じゃあ結構脈アリかもね。あのコ達、高地さんへの好感度高いよ」
 
 真昼もノリノリに乗ってくる。
 
 祥子の手が微かに震え、眉がどんどん吊り上がっていった。
 
「何が言いたいのよアンタたちっ!」
 
 とうとう爆発。あたしと真昼は何食わぬ顔でカップを手に取った。
 
「別に何も〜」
「いい香りね、この紅茶」
 
 こくりと一口喉に通す。砂糖なしのダージリンは思いっきり苦かった。
 
 
 
「もうすぐ交代だから、もうちょっとくつろいでてくれる? あちこち案内するからさ」
 
 次から次へと来るお客さんの対応に追われる中、あたし達のテーブルに寄って高地さんは空のカップを下げながら言った。
 
「別にアンタの案内なんかいらないわよ」
 
「そんなこと言わないでさ、祥子。案内してもらおうよ。お昼にオススメの店とか連れて行ってもらいたいわね」
 
 素直じゃない祥子をフォローする真昼。
 
 その時、いつもは開放されてるんだけど、今日は閉められてる店のガラス扉が勢いよく開き、入ってきた男性が誰かを探してる風にぐるりと辺りを見回し、こちらに目を止めた。
 
「いたっ! 高地〜〜っ!」
 
「ん? なんだ山田?」
 
 名前を呼ばれてそちらに顔を向ける高地さん。その男性は、ゼイゼイ息を切らしながら高地さんの前までやって来た。
 
「あ、あのさっ。ウチの出し物、お化け屋敷なの知ってるだろ?」
 
「おう。知ってるぜ。体育館でやってるやつだろ?」
 
「そう、それっ! 実はさ、お化け役の奴が足んなくてさっ! 風邪で休んでる奴も多いし予想外に客が来て受付に人とられたりしてさっ! 頼むっ! ピンチヒッターでお化けやってくんねぇか!?」
 
「えぇぇぇ――っ!? ヤだよ俺っ!」
 
 高地さんは嫌そうに顔をしかめて全面的に拒否。なるほど。この山田さんて人は高地さんの友人で、あちこちの部で助っ人をやってる高地さんに手伝いを頼みに来たらしい。
 
「そんなコト言わずにさぁ〜。何回も合コンに誘ってやっただろっ!?」
 
 全く引き下がらないその男性は両手を合わせて懇願してくる。てゆーか合コン仲間なのか。
 
「うわっ! 余計なこと言うんじゃねぇてめぇっ! 俺はこれから予定があんだよ!」
 
「どうせナンパだろ!? 今度可愛いコ紹介してやるからさ!」
 
「いらねぇっ! 俺はもうナンパなんてしないの!」
 
「はぁっ? いきなり硬派宣言かよ。そんなのお前が一ヶ月ももつワケないだろ?」
 
 話の流れが徐々におかしな方向に向かっていく。思いっきり慌てふためく高地さんの様子が面白い。
 
「うるせぇ! 口閉じてとっとと帰れバカ! 俺はお前と違って一途に生きることにしたんだよ!」
 
「なんだよソレ。んな戯言はともかくさ、過去に受けた恩はきっちり返せよ。お前のアドレス帳に入ってるケイ番、半分は俺の紹介だろ? こういう時くらい手を貸せよな!」
 
「だっ、だからやめろバカッ! 祥子ちゃんの前でなんつーコトをっ!」
 
 醜い男の言い争い……。
 
 と。
 
「ふぅ〜〜ん……」
 
 あたしの横で、不意にブリザードが吹き荒れた。
 
 
 ビュオォォォォ
 
 
 瞬間、周囲の景色が氷の台地に一変する。
 
 さ、さむ、寒いっ。なんという冷気。「ふ〜ん」の一言でここまで空気を寒冷化させるとは!
 
 あたし達は一瞬にして凍りつき、会話はぴたりと止んだ。
 
 こ・こ・怖い。この冷気を誰が発してるのかなんて、振り向かなくても分かる。
 
 底冷えのする声が祥子の席から発された。
 
「行ってくれば? 私達は特に案内を必要としちゃいないから」
 
 怒ってます! 激・怒ってますっ!
 
「しょ、祥子ちゃん……。あああの、これは全部、昔の話だからさ」
 
「関係ないね。お友達に必要とされてるんだから、昔の恩返しすればいいんじゃない?」
 
 寒いぃぃぃぃっ!!
 
「ごめん! 本当にもうナンパとか合コンとか二度としない! 誓うから!」
 
「勝手に誓ってな。興味もないから」
 
 全く取り付く島もない祥子。不機嫌全開です!
 
 高地さんはダラダラと汗を流し、肩を震わせながらあたしと真昼に顔を向ける。救いを求めてるのは明らかだけど、残念ながらこうなった祥子にどんなフォローも効きゃしない。
 
 あたしと真昼は沈痛な表情を浮かべ、無言で首を横に振った。
 
 見るも無残な顔面蒼白になっていく高地さん。望みを絶たれた人間の魂が抜けていく。ムンクの『叫び』がそこにあった。
 
「私、先に行ってるから」
 
 冷気を纏った祥子が席を立ち上がり、高地さんに一瞥もくれず店の外に向かう。
 
「祥子ちゃん!」
 
 慌てて追いかけようとする高地さん。その背中にぽかんと成り行きを見守っていた男性がハッと我に返り声をかける。
 
「おい、高地! ピンチヒッター……」
 
「あ〜もしもし、山田さんとやら」
 
 これ以上ひっかきまわされたら高地さんがお気の毒なコトはともかく、あたしと真昼が凍死してしまう。
 
 あたしは山田と呼ばれてたその男性の肩を叩いて言った。
 
 しょーがないな、まったく。
 
「そのピンチヒッター、男じゃなきゃダメですか?」
 
 あたしの言葉に、その人は「えっ?」とこちらを振り返る。
 
 高地さん、貸し一つだからね。
 
「あたしがやりますよ、そのお化け役」
 
 
 
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