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とんでも腐敵☆パートナー
作:卯月海人



Act. 5-7


<<<< 栗子side >>>>
 
 一度は完全に見失った二人の姿だけど、しらみつぶしに探してるうちに見つかった。
 
 公園の奥、車も通る大きな坂道を上ったところにある、アイスクリームワゴンの前。
 
 どうやら高地さんが、アイスを奢って祥子のご機嫌取りしてるようだった。
 
「はい、レモンシャーベット」
 
「言っとくけどこんなんでさっきのは帳消しにならないからね」
 
「わ、わかってます。深く反省しております……」
 
 滅茶苦茶尻に敷かれてますな。
 
 あたしと拝島さんは、緑地帯の高木の陰に潜み、再び監視の体勢を整えた。
 
 ここら辺はさっきの芝生と低木の多い開けた場所とはまた違って、森林の中の遊歩道っぽい雰囲気となっている。
 
 海から山の上に向かって、縦に広い公園なのだ。
 
 下は海の景色、上は森林の癒し、一粒で二度美味しい公園。人気スポットなだけはある。
   
「アイタタタ……」
   
 アイスに食いつこうとした高地さん、さっきの猫にやられた傷口が広がったのか、顔をしかめて痛がった。
   
「いい気味ね」
 
「そんなぁ〜……。こんなに反省してるのに……」
 
 二人はそんな会話をしながら公園の更に奥へと進む。
 
 辺りはゆっくり茜色に染まっていった。
 
 風が、秋らしさを帯びてくる。
 
 そして、急斜面の階段を登った後に、不意に開けた視界。
 
 
「わぁ……っ」
 
 あたしは思わず感嘆の声をあげた。
 
 
 真っ赤な空が、突然現れて視界を埋め尽くしたのだ。
 
 その下に覗くのは、地平線。
 
 オレンジに陽の光が反射してキラキラ輝く海だった。
   
   
「うっひゃぁーっ! 綺麗だね、祥子ちゃん!」
   
 高地さんが木の手摺に飛びついて言う。
   
 階段を登りきった先はまた緩やかな下りの斜面となり、行き当たりは開けた展望台になっていた。
 
「そうね……いい眺めね」
   
 祥子もゆっくり下りながら、景観に目を向け柔らかな声音で言った。
   
 こんなに景色が綺麗な場所があったなんて。そっか。ここは展望台になってるんだ。
   
 実はこの公園、初めて来たので知らなかった。
   
「風も気持ちいいね」
   
 隣に立つ拝島さんがいつもの穏やかな笑みを浮かべてあたしを見た。
   
 うん、気持ちいい。
   
 海から吹く風に、秋の柔らかい冷たさが混ざり合って頬を撫でていく。
   
 もっとこのままこの壮大な景色に浸っていたい。だけど二人に見つかるかもしれないので、あたしと拝島さんは道の端に連なる大きな岩の影にささっと移動した。
 
 そして、手摺にもたれつつ、じっと景色に見入る二人と、二人が溶け込んでいく美しい世界にしばし見惚れたのだった。
 
 
 
 
 
「祥子ちゃん……」
 
 どれだけ時間が経ったのか。多分ものの数分なんだけど、すごく長い間見惚れてたような気になってた時、不意に高地さんが口を開いた。
 
 真剣な眼差しを祥子に向ける。
 
「俺……」
   
「ちょっと。無粋な顔をこっちに向けないで」
  
 がくっ
   
 肩すかしを食らわすようなその発言に高地さんの肩が下がる。
   
「無粋って……」
   
「だってその顔、雰囲気ぶち壊し。浸ってたのに笑かさないでよ」
  
 ぶぶっ。確かにその通り。
   
 真面目な雰囲気ぶち壊しの網目模様。さっきのひっかき傷は、ウソみたいに漫画の絵そのものだったのだ。
   
 真剣な顔されればされるほど可笑しくなる。
 
「そりゃ俺も内心『こりゃないっしょ〜』って思ってたけどさ。そこは見て見ぬ振りしてよ」
 
「見て見ぬ振りなんかできるわけないでしょ。十人中十人が振り返ってたわよ」
 
「色男だから振り返ってたんじゃなくて?」
 
「どんな白昼夢よソレ」
 
「いやいや、『きゃ〜あの人ステキ! 顔に傷のある男ってワイルドなカンジよね〜』とか、百万分の一くらいの確率で思ってたかもしれないって!」
 
 ぷっ
 
「ば、ばっかじゃないのっ。それのどこがワイルドに見えんのよっ。――くっ」
 
 あ。
 
 祥子が――――笑った。
 
 
 頬を微かに緩め、肩を震わせて。今、弾みで漏れた笑い声すら聞こえた。
 
「祥子ちゃん――――へへっ」
 
 高地さんも目を細めてにへらっと笑う。軽薄な笑みだけど、高地さんの笑顔には厭らしさがない。どんな重い気持ちも笑い飛ばしてくれそうな――そんな安心感のある笑顔。
 
「なに」
 
 既に笑いを消した祥子は失態を見せたと思ったのか、ふてくされたような顔で高地さんを横目に睨みつけた。
 
「思った通り、笑った顔も可愛いや♪ 猫に引っ掻かれた甲斐もあったってもんだよ」
 
「ばっ!」
 
 ばっかじゃないの。
 
 そう、言おうとして言葉に詰まったような顔。
 
 その反応が嬉しかったのか、さらにでれっと頬を緩ませる高地さん。
 
 頭に血を昇らせた祥子がわなわなと震えて睨みつけるも、高地さんは引かない。あの祥子がなんだか子供扱い――信じられない光景だ。
 
 でもそろそろ祥子の手が飛ぶかな、と思った時、再び高地さんは笑みを消し、少し真面目な顔になった。
 
「ねぇ、祥子ちゃん」
 
「………………」
 
「俺、こうして祥子ちゃんといるの、すごく楽しいんだ」
 
 祥子の怒りの表情が消える。代わりに表れたのは、微かな戸惑い。
 
「だからさ、たまに、こうして一緒に映画見て笑ったり、公園を散歩したり、で、デートとまでは言わないまでも、俺と、その……」
 
 鼻の頭をぽりぽりと掻きつつ。赤らんだ顔で高地さんは言葉を続けた。
 
 夕陽が二人を照りつける。
 
「お、俺と……な、なんてゆーかその、えっーと……」
 
 だぁーっ! じれったい! 男ならがつーんといかんかいっ!
 
「だ、ダメだ。いざとなると言葉が……えーと、そ、そう、アレだっ!」
 
 やっと言うべきセリフに思い当たったのか、高地さんは意を決したように顔を上げ、祥子を真っ直ぐに見つめた。
 
 祥子はもうはぐらかしたりせず、いつもの無表情に僅かな驚きを加えて高地さんを見返す。
 
 太陽が、一際眩しく輝いた。
 
 そして、逆光が二人の姿を影へと変えた時、ぎゅっと拳を握った高地さんの震える声が、大きな叫びとなって辺りに木霊した。
 
 
「お、俺と……俺と、明るく幸せな家庭を築いてくださいっ!!」
 
 
 気が早すぎだ――――――っ!!
 
 
「ああっ! しまった! 飛ばしすぎたっ! ち、違うんだ祥子ちゃんっ。俺はちゃんと段階踏んだお付き合いを望んで……」
 
 
「アホか――――いっ!!」
 
 
 次の瞬間。
 
 野球選手さながらの綺麗なフォームで祥子が放ったバッグは、ほぼ直線の軌道を描き、ばし――んっといい音を響かせながらアホの顔面にクリーンヒットした。
 
 ジャストミートッ!
 
「がはっ。しょ、しょおこ、ちゃん……」
 
「話にならんわっ! グリコッ!」
 
 きっと真っ直ぐこっちを振り向いて怒鳴る。
 
 え。
 
 今、アタシのナマエが、ヨバレマシタカ?
 
 カキーンと石のように固まるあたし。
 
 聞き間違い? 聞き間違いですよね、きっと。
 
 は、はは、ははははは。
 
 だがもちろん聞き間違いなどではなかったようで。
 
「そこにいるんでしょっ! 帰るよっ!」
 
 憤怒の表情はメデューサの如く。
 
 その瞳は一点違わずあたし達が隠れてる岩山を見据える。
 
 
 おーまいがっ。
 
 
 同じく石化していた拝島さんが、「く、栗子ちゃん……」と小さく震える声であたしを呼んだ。
 
 や、やっぱ、出て行かなきゃダメですかね?
 
 泣きそうな顔で拝島さんの目を見ると、気の毒そうな視線と首肯が返ってきて、あたしは一気に奈落に突き落とされた気分になった。
 
 のおおぉぉぉぉぉっ!
 
 観念して岩の陰からおずおずと首を出す。
 
「…………バレてました?」
 
「当たり前でしょ。バレバレよ。拝島さんまで何やってんの」
 
「ご、ごめんね祥子ちゃん。高地が心配でつい……」
 
「拝島っ!? グリコちゃんっ! いつからそこにっ!?」
 
 高地さんが驚きの声をあげる。
 
「最初からいたわよ。まったく……悪趣味にも程があるっての」
 
「ご、ごめ〜〜ん祥子ぉ〜〜。高地さんに頼まれて……」
 
「それについては、これからゆっっくり話を聞かせてもらうわよ」
 
 キッ、と氷の瞳に睨まれ、あたしは一瞬にして蛇に睨まれた蛙の氷漬け状態となる。
 
 寒いっ。寒いよママン。周囲が永久氷土だよぉぉーっ。
 
「と、いうわけで」
 
 祥子はあたし達三人が緊張と驚きで硬直してる中、一人飄々として歩き出す。数歩進んだところで背後の高地さんを振り返り、
 
「デートはこれにて終了。多分もう二度とはないわね。じゃ、高地さん。お先に失礼」
 
 いつもの鉄面皮で、ひらひらと手を振って言ったのだ。
 
 
 ぐわぁぁ〜〜〜〜んっ
 
 
 そんな効果音が聞こえてきそうなほどショックに顔を歪ませてよろける高地さん。背景にピシッとヒビが入ったのまで見えた気がした。
 
 チ――――ン
 
 残念ながら、完全なるご破談です。南無阿弥陀仏。
 
 
 同情的な眼差しを高地さんに送ると、高地さんは深くこうべを垂れ、へなへなと地面にへたり込んだ。
 
「そんなぁ〜……うぅ……俺、まだちゃんと告白してないのに……」
 
 それは自業自得というか。
 
「いやだいやだぁ〜〜っ。お願い、祥子ちゃんっ! もう一度、もう一度だけチャンスをっ!」
 
 泣き叫ぶ高地さんをもう振り返りもせず、祥子はすたすたとあたしの元にやってくる。
 
 もはや興味なしといった風の氷の女王。
 
 祥子とは逆に、高地さんの元に歩み寄った拝島さんが、ポンとそのうなだれた肩を叩き、
 
「高地……えーっと……ドンマイ」
 
 
「うわぁぁぁ〜〜〜〜んっ! 終わってねぇっ! まだ終わってねぇよこんちくしょぉ〜〜〜〜っ!!」
 
 
「なんかおごってあげるからさ……」
 
「慰めるんじゃねぇてめぇっ! 俺はまだ諦めてねぇぞ! 恋は諦めたらそこで終わりなんだっ!」
 
「そうかなぁ……ここは男らしくきっぱりと諦めた方が」
 
「諦めないっ! 高地元治は不屈の男なんだっ! いつか……いつか必ず祥子ちゃんを振り向かせてみせるっ!」
 
 がばっと身を起こし、不死鳥の如く蘇えった高地さんが闘志に燃える瞳を祥子の背中に向ける。そして大きな声で叫んだのだ。
 
 
「待っててねぇ〜〜祥子ちゃんっ! 絶対君に相応しい男になってみせるからっ! 大好きだよぉぉぉぉ――――っ!!」
 
 
 うは。ホントにめげない人だ。
 
 呆れを通り越して感動すら覚えるよ。
 
 
「行くわよグリコ」
 
 足を止め、呆れ混じりのため息をひとつ落とす祥子。高地さんの言葉も完全無視であたしを促す。
 
 いつもの絶対零度の口調。冷たい無表情。
 
 さっきまで確かにあった戸惑いや恥じらいの表情は、もうカケラも残ってない。
 
 やっぱり高地さん、望みゼロなのかな。
 
 最初こそ高地さんの軽薄さが信用ならなかったけど。
 
 本当に、真剣に祥子を好きな様子が伝わってきて。
 
 結構お似合いの二人なのかも……なんて、思えてこなくもなかったんだけど。
 
 
 高地さんをちらっと振り返ってまた祥子を見る。
 
 ――――――ん?
 
 あれ? もしかして。もしかするとだけど。
 
 
 ――高地さん、確かにまだ終わってないかもよ。
 
 
 あたしはなんだかウキウキしてきて、にやつく頬を抑えながら祥子の後を追いかけた。
 
 日没の闇がおりようとする道を、足取りも軽く駆け抜ける。背後のナンパ男にそっとエールを送りながら――
 
 
 
 
 再び歩き出し、あたしの前を通り過ぎる祥子の横顔。
 
 多分。きっと。気のせいじゃない。その横顔は――
 
 
 微かに、笑っていたのだった。
 
 
 


とゆーわけで祥子&高地編終了です。
普段なかなか目立つことのできないサブキャラ達をクローズアップしてみました。いかがでしたでしょうか?
それぞれの個性を少しでも感じていただけたら幸いです。
真昼ファンの方達は・・・すみません。真昼がクローズアップされるのは、かなり先になっちゃいます。(> <)
ちなみに寺尾ファンとかいないですよね?(笑)
彼女はアレで終わりのチョイ役ですので。(可哀想)
祥子&高地は、暇ができたらいつか番外編を書くかもしれません。いつになるやら・・・。
 
ところで、最近「なろう!」で春の「はじめてのXXX」企画というのが催されてまして。
自分も、もしかしたら応募するかもしれなくて、今応募作品のプロット練りやらなにやらに取り掛かってます。
そのため、腐敵の更新が少しスローペースになります。
ご了承ください。m(_ _)m
 
卯月の「はじめてのXXX」は、腐敵とは違ってちょっとエッチでラブラブな中編ラブコメになる予定です。
腐敵はグリコに色気がないんで全然トキメキがないですが(笑 いやいつかグリコにも色気は出てくる予定ではあるのですが今現在のアヤツでは無理だw)、こちらは精一杯胸キュンさせようと思ってますので、投稿したらよければ見てやってくださいね。
ではでは。
全然文章力の上がらない(泣)卯月でした♪






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