第53話:決着
北郷流二刀心眼術の真髄、ここにあり。
ライルさん達が袁紹の後軍を攻撃している丁度その頃、俺達が相手をしている袁紹の前軍は壊滅寸前に陥っていた。
「劉備軍の有志達‼あと一息だ‼いま一度我等の強さを雑兵共に見せつけろ‼」
愛紗が偃月刀を掲げ、兵達に鼓舞すると自らも再び切り込む。豪の中に柔が見られる武で、舞うように袁紹軍兵士を斬りつける。
「うりゃうりゃあぁぁ‼突撃‼粉砕‼勝利なのだぁ‼」
俺達の特攻隊長とも思える鈴々も小柄に似合わず豪快に丈八蛇矛を振り回し、次々と敵を文字通り吹き飛ばしていく。
「我が名は趙雲‼この戦局でもまだ向かって来るならば、我が命を奪ってみせよ‼」
星も敵を挑発しながら愛槍の龍牙で敵の身体を次々と貫いていく。その動きは霞に匹敵するほどの動きで、敵は気付いた頃には既に死んでいるだろう。
「我が主を救って頂いた一刀様や劉備様に仇なす下郎共が‼退かぬのならば地獄に叩き落としてくれる‼」
華雄こと嵐は持ち前のタフさで縦横無尽に暴れ回る。
彼女の武は力と破壊力を重視したもので、敵の身体を舞いあげるとそのままフルスイングで吹っ飛ばした。
「よっしゃあぁぁ‼まだまだやれるぜぇ‼」
新たな劉備軍武将となった夏侯覇 仲権こと露蘭もライルさんが用意してくれた右肩に3本の棘が付けられた白と緑に塗装された西洋風の甲冑を身に纏いながら、同じく用意した彼専用の片手剣“西欧海龍”と円形状の盾“北欧天龍”を手にして戦いを繰り広げる。
しかしライルさんはあの装備を何処から用意したんだ?
西欧海龍は緩やかな湾曲の片刃で、幅が広く切先が鋭い西ヨーロッパのバデレールと呼ばれる片手剣で、北欧天龍も表面の彫刻以外はまさしくアキレウスの盾だ。そんなことを思いながらも、俺も同様に敵を倒していく。
「死にたくなかったら大人しく降伏しろ‼民や仲間に仇なすっていうなら容赦しない‼」
俺は愛刀の心龍双牙を繋げた薙刀モードで縦横無尽に、降伏せず闇雲に向かって来る敵を斬る。俺の流派である北郷流二刀心眼術特有の剣技だ。
俺が向かって来る敵を倒していくと、いきなり大剣を装備した敵が斬りかかって来た。それに素早く反応した俺は心龍双牙を2つに分けて攻撃を受け止めた。
相手は黄緑色の髪に動き易さを重視したと思われる胸当てと左肩当てという軽装の活発そうな少女・・・・・・袁紹の腹心の1人である文醜だ。
「文醜かっ⁉」
「へへっ‼悪いけど相手してもらうぜ・・・兄ちゃん‼」
そういいながら文醜は大剣を力一杯振り下ろして斬りかかるが、流石に受け止められないと判断した俺は、素早く後ろに飛んで回避する。
するとその直後、背後から別の気配。これにも反応してすぐ横に転がって回避すると大槌
を構えたボブカットの黒髪に重装兵と思える鎧を身に纏った少女。文醜と同じく腹心の顔良だ。
「もぅっ⁉文ちゃん‼私たち囲まれちゃってるんだから1人で動いちゃダメだよ‼」
「囲まれてるんだったら総大将を倒したらいいと思ってさぁ〜」
「総大将って・・・・・・わぁ⁉ほ・・・北郷さん⁉」
俺にようやく気が付いた顔良は驚きながらも大槌を構え直す。
「へへっ・・・悪いんだけどあたし達も負けたくないからな・・・あたしと斗詩(とし/顔良の真名)の力、見せてやるよ‼」
「ごめんなさい北郷さん・・・こっちが悪いのは分かってるんですけど、文ちゃんのいう通り、私達も負ける訳にはいかないんです‼」
2人はほぼ同時におれに仕掛けて来た。文醜が大剣を横に振って来た攻撃を弾きながら回避して、顔良の大槌の振り下ろしにも後方に飛んで回避。
二人とも武器が大きく重いということで大振りになっているが、それを連携でカバーしている。
正史の文醜と顔良も袁紹軍では同格の地位と強さを誇った武将で、義兄弟の契りを結んだともされる。それを表すかのように2人は互いの動きを把握して適した動きで仕掛けて来ている。
こういう敵が厄介だ。実力のある敵を同時に相手にしているだけではなく、連携もしっかりとれている。
2人の連携攻撃を弾き返し、距離を置くと心龍双牙を鞘に戻し、腰だめの姿勢で身構える。
「なんだ?」
「北郷さん・・・なんのつもりですか?」
「悪いがこれ以上、付き合ってられないんでね・・・・・・一瞬で決めさせてもらうよ」
そういいながら俺は全身から剣気を発して彼女達に当てる。凄まじい剣気を前にして2人は思わず怯み、近くにいた袁紹軍兵士はそれだけで気を失うか、戦意を失なって降伏していく。
しかし彼女達は武将だ。それに怯みながらも武器を抱えて俺に仕掛けて来た。
「くっ・・・あんたが賭けに出るんだったら・・・・・・あたしもその賭けに乗ってやる‼ハァアアアアア‼」
「負けない・・・ええええええい‼‼」
2人は身構えている俺に対してほぼ同時に仕掛ける。しかし勝負は一瞬で決まった。2本の刀を鞘に戻した音と共に・・・・・・。
「ぐっ・・・・・・と・・・斗詩ぃ・・・」
「ぶ・・・文・・・・・・ちゃん・・・」
ほんの少しだけ視線を後方に向けるとそこにあったのは地面に倒れた文醜と顔良と2人の得物の残骸。
俺が使ったのは北郷流二刀心眼術における一の太刀“朧月”という抜刀術だ。
鉄も切断する心龍双牙の居合い抜きで相手の武器を切断して、すれ違いざまに柄頭で相手の後頭部に一撃を加えて意識を奪う。まさに捕縛に適した技である。
決着を付けた俺は心龍双牙“天”を抜刀して切先を天高く掲げた。
「敵将文醜及び顔良‼劉 玄徳が天の懐刀・・・北郷 一刀が捕虜にした‼」
俺の勝鬨で劉備軍兵士も声高く勝鬨を上げ、反対に残っていた袁紹軍兵士達は戦意を完全に失なって降伏していき、ライルさん達も敵後軍を壊滅させて戻ってきた。予想以上に敵が多かったようで、本陣を制圧した時には既に袁紹は僅かな部隊を連れて逃げ出したようだ。
文醜と顔良、更にかなりの捕虜を捕らえたことで徐州攻防戦は劉備軍の圧倒的勝利で幕を下ろす。更にライルさん達は次の作戦に備えて準備を始めるのであった・・・・・・・・・・・・。
徐州攻防戦は劉備軍の圧倒的勝利で幕を下ろした。捕虜になった文醜と顔良はライルが捕らえた捕虜から衝撃事実を聞かされ、思い悩む。
そしてその日の晩に行なわれた戦勝打ち上げで一時の寛ぎを取る。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[打ち上げ]
銀狼、劉備軍からの信頼を勝ち取る。