第43話:狼とクズ
オペレーション“トロイ”。佳境に突入。
公孫瓚と夏侯覇を救出した直後、潜入を袁紹軍に悟られてしまい、既に追手が迫っている。
「交互支援を行なえ‼敵の接近を許すな‼」
『了解‼』
「2曹‼2人の護衛に付け‼絶対に死なすなよ‼」
「了解‼」
俺達は接近してくる袁紹軍兵士にセミオートで敵を確実に仕留めながら後退する。撤退先に展開しているハンター2とハンター3も援護射撃で敵を攻撃する。
「手榴弾‼」
敵が固まっている場所にM67対人破片手榴弾を投げ込み、何も知らない敵を爆風、もしくは飛び交う破片で一網打尽にする。
しかしやはり数で圧倒的に不利な状況なのは変わらない。隣でMk48 Mod0で攻撃する曹長も同様にM67を投擲。
<こちらハンター3‼敵の増援が接近‼>
「くそっ⁉数が違いすぎる‼」
「スモークグレネードを投げろ‼その隙に撤退だ‼」
『了解‼』
俺達は敵の速度を少しでも削るべく、ありったけのM18発煙手榴弾を投げつけ、周辺に白い煙がたちこもる。その煙に巻かれて敵は思うように前進できなくなっている。
「よし‼ハンター1から全隊員‼直ちに着陸地点まで後退しろ‼急げ‼」
「2人とも‼こちらへ早く‼
今がチャンスだ。そう判断した俺達は急いで回収機の着陸地点へと走り出す。俺も煙の中にM67を放り込むとすぐに後を追う。着陸地点地点は当初は6km先だったが、この追撃では不可能。
緊急回収として敵陣地の近くで強行着陸させるしかない。1kmほど走って川まで到着するとすぐに通信を行なう。
「こちらハンターリーダー‼敵の追撃を受けている為、緊急回収を要請する‼座標はフォックスロットタンゴ-0611‼」
<こちらオーディン‼了解ハンターリーダー‼緊急回収要請確認‼指定座標到着まで3分‼>
「了解したオーディン‼IRビーコンでマーキングする‼ハンターリーダー out‼」
指定座標を指示するとすぐに敵がいる方角に銃口を向けるが何か様子がおかしい。数では向こうが圧倒的になのに攻めて来ないのだ。
そう考えていると一角が道を開け始め、そこから誰かが出てきた。
「侵入者の皆さん‼もう逃げ道はありませんことですわ‼」
金髪の女がそう叫ぶ。その声は忘れようが無い。自分の欲望の為に無駄な戦争を勃発させ、冀州に住む民に圧政に続く圧政を敷き、幽州に対して一方的に攻め込んで民や捕虜を虐殺した張本人、袁家当主の袁紹 本初だ。
正史でも無能で知られ、名門出身という理由だけで成り上がった愚か者である。
声を聞くだけでも腹ただしい。本当ならすぐに撃ち殺してやりたいところだが、冷静をキープして警戒しながら一歩前に出る。
「・・・袁紹軍総大将の袁紹 本初と身請けする」
「あら、顔も出せない“ブ男”の分際で私の華麗な名前を呼ぶとは・・・まあよろしいですわ。私がこの漢王朝で華麗で優雅、いずれは頂点に立つ最も有能な未来の漢王朝の袁 本初ですわ」
こいつを産んだクソッタレの顔を見てみたい。もはや頭のネジが緩んでいるではなく、ネジの大半が紛失しているだろう。印象からしてこの野郎は“クソッタレ以下”だ。
「・・・それで、何の用だ?」
「単刀直入に仰いますわ。今すぐそこにいる“貧乏人”を引き渡して私にひれ伏しなさい。そうすればこの心広い袁 本初。命だけはお助けしますわ」
・・・・・・本当に殺してやりたい。俺だけではなく部下達も必死にトリガーを引くのを抑えている。だがこれ以上戯言を言われると我慢出来る自身は無い。
「・・・・・・我等を傘下にいれてどうする気だ?」
「あら?お分かりになりませんの?この私に仕えることが出来るのですよ。これ程名誉なことはありませんことよ。それに私の事をバカにする孫策のような田舎者と野蛮で下品な呉が“天の軍隊”を持つなんて、宝の持ち腐れです「ふざけた事を抜かすなクソッタレ野郎‼‼」なっ⁉」
俺のことを馬鹿にするならまだしも、仲間や雪蓮殿と呉のことを侮辱されるのは我慢ならない。
「無意味な戦争を起こしている貴様が何を抜かしやがる‼貴様に仕えることが名誉⁉雪蓮殿と母国孫呉には宝の持ち腐れ⁉寝言は寝てから言いやがれ‼貴様のようなクソ虫に仕える位なら死んだ方が遥かにマシだ‼」
俺は感情のままに怒鳴り散らす。その怒気を前にして袁紹を含めた敵兵は恐怖に震える。だが無駄にプライドが高い袁紹は、地団駄を踏みながら奇声を出す。
「きぃいいいい‼なんて無礼な‼よく分かりましたわ‼部下の皆さん‼そんな無能な輩を殺して私に『うるせぇ‼』な・・・⁉」
「中佐のことを馬鹿にするんじゃねえ‼」
「貴様に仕えるなんてまっぴら御免だ‼誰が仕えるかってんだ‼」
部下達も俺のことを侮辱したことで怒りを露わにする。彼等にとって俺という存在は上官としてだけではなく、ウルフパックという家族を纏める存在だ。
自分の思い通りに行かないことが人一倍嫌いな袁紹は我慢の限界に達していた。
「・・・・・・よく分かりましたわ・・・そんなに仰るのでしたら・・・皆殺しにして差し上げますわ‼やっておしまい‼」
『応‼』
袁紹が指示を下すと一斉に走り出す。俺達もそれぞれの得物を構えて備えるが、敵はその場で立ち止まる。
「な・・・なんだよありゃ⁉」
「り・・・龍⁉」
「俺達の軍紳様のご到着だよ‼」
袁紹軍兵士はもちろん、夏侯覇や公孫瓚も驚愕する。上空にはホバリング状態で滞空しながら降下しているオスプレイがいた。潜入の後に燃料補給で一旦キャンプ・ヴェアウルフに帰還して、予備タンクに燃料を満タンにして戻って来たのだ。
<こちらオーディン‼お待たせしました‼>
「よく来たオーディン‼機体を横に向けながら着陸しろ‼クソッタレ共にガトリングガンを見舞ってやれ‼」
<了解‼ガナー、制圧射撃始め‼>
オスプレイの機体右側面に搭載されているGAU-19/A 12.7mm3銃身式ガトリングガンが敵に対して攻撃を開始する。
毎分1000発を誇るこの兵器は“無痛ガン”の遺命を持ち、敵は痛みを感じる前に死んでいる。ある意味で“慈悲深い兵器”である。
ガトリングガンを発砲しながら着陸したオスプレイに俺達は公孫瓚と夏侯覇を守りながら駆け出す。
「公孫瓚殿‼夏侯覇君‼早く乗るんだ‼」
「こっ・・・これに乗るの⁉」
「もたもたするな‼急げ‼」
俺達の援護射撃でハンター3が2人を連れて乗り込む。続けてハンター2が乗り込み、ハンター1も最後に残った俺の肩を軽く叩くとすぐに乗り込んだ。
「全員搭乗‼」
<了解‼離陸します‼>
機長が後部ハッチを閉鎖すると、オスプレイは攻撃を加えながら急いで離陸していく。
「何をしてらっしゃいます⁉早く追い掛けなさい‼」
「無理です袁紹様‼」
「むっきーー‼‼守備隊長さん‼今回は全部あなたの責任ですわ‼」
自分の失態をやはり部下に押し付けている。俺は蒸れたMICH2001を取り、大きく息を吐いた。
「ふぅ〜・・・もう大丈夫だ。安全は確保された・・・・・・」
「こ・・・ここここれは夢だ・・・わ・・・・・・私は悪い夢を見てるんだ・・・」
「すっげー‼飛んでるぜ‼俺、空飛んでるぜ‼」
この状況に完全に混乱している公孫瓚は夢であると言い聞かせ、夏侯覇は窓から外を見てはしゃいでいる。
俺は溜息を吐きながら公孫瓚に話しかける。
「公孫瓚殿」
「夢だ・・・夢だ・・・はっ⁉な・・・なんだ?」
「落ち着いたか?」
「はぁ・・・ああ・・・・・・なんとかな・・・」
「これから劉備軍の徐州に向かいます。そこで2人の保護を・・・」
「桃香のところ?」
「そうだ公孫瓚殿「白蓮(ぱいれん/公孫瓚の真名)だ」え?」
「助けてくれた礼だ。あんたに真名を預けたい」
「おっ⁉だったら俺の真名も託すぜ‼俺の真名は露蘭(ろらん/夏侯覇の真名)ってんだ‼」
「なあ、そういえばあんたの名前を聞いてないんだが・・・」
そう言われると確かに自己紹介が済んでいなかった。俺は考えるとフェイスマスクを取る。
特殊部隊で素顔を明かすのはご法度だが、
今見せなくても劉備軍と合流すれば、嫌でも素顔を晒すことになる。要するに俺に対してなら何の問題も無い。
「俺はライル。孫策 伯符率いる孫呉軍指揮下群狼隊指揮官だ」
「あんたがあの“銀狼”⁉」
「あんたが銀狼かぁ・・・よろしくな‼ライルの兄貴‼」
2人の真名を預かり、俺も2人に名前を教えた。そして俺達を乗せたオスプレイは進路を劉備軍が治める徐州へと向かう・・・・・・。
白蓮と露蘭を救出した頃、徐州では袁紹軍による侵略に備えて軍議が行なわれた後、一刀と劉備は2人っきりで話をしている。
そしてライル達を乗せたオスプレイが到着して英雄同士が再び対峙する。
次回“真・恋姫無双 海兵隊の誇り,Re”
[仁徳と天の武人]
袁紹を撃退するべく、行動を開始する。
キャラクター設定
夏侯覇 仲権
魏の名門である夏侯一族の1人で夏侯淵の従兄妹。自由気ままな性格で、百合属性が多いことと規律があまりにも厳しいことで所属していた黒騎兵隊を辞め、傭兵として公孫瓚に雇われていたところを袁紹軍に攻撃されて捕虜になったところをライル達に救出されて、そろまま保護先の劉備軍に参加する。
性格は年相応の明るい好少年であり、誰とでもすぐに打ち解けられる。
武将としての能力は関羽並に高く、西洋風の甲冑に加えて盾牌剣“絶守盾風雷剣”を使いこなすことから自称“煌めく騎士”と名乗るに恥ない実力である。