えー、どうも、のび太です。
何か先日、自分をネコ型ロボットだといって憚らない女の子が机の引き出しから飛び出してきました。
その子曰く、“未来からやってきた”そうです。
理由としては、
時間軸のズレが原因でもうすぐ僕の身に危険が迫ってくる云々との事でした。
そうなると僕が生まれないじゃないか!と子孫のセワシが、彼女をここに送り込んだそうです。
で、ソレを回避すべく、僕は彼女と住むことになりました。
両親は未来の力(主に金銭関係)で和解。彼女は今、僕の押入れに住んでいます。
はい、まぁ、一応、僕はまだ生きてます。
「ただいま〜」
僕はいつも通りの帰路についた。
家に入って、いつも通り階段を上る。そうして左側に見える襖を開けると、そこが僕の部屋だ。
が、
「おかえり〜」
そこには数日前には居なかった少女、ドラ江。
自分をネコ型ロボットだと言っているが、尻尾(型機械)が付いている以外は普通に人間にしか見えない。
が、前に機械の部分見せられた(突然服を捲り上げて機械部なるものを見せようとしたので見たと言っておく)ので、もはや信じるしかない。
髪は青く、服には青と白のジャージ?のような物を着用。お腹の辺りにはポケットがあって、そこから未来の道具が出せるのだと言う。
彼女は本来猫ミミらしいが、未来の世界でネズミ(型ロボット)にミミをかじられ、以降スペアの人間型の耳をつけているらしい。以来ネズミは嫌いだと言う。
まぁ、そんな話はどうでもいい。
「ただいま」
僕は軽く挨拶を済ませて、机の脇に立てかけてあったバットを手に取った。
「・・・?どこか行くの?」
ドラ江が首を傾げたので、
「うん。これからジャイアンとスネ夫と野球するんだ」
僕はうなずいて、襖をもう一度開けた。
「じゃあ行ってくるね」と僕。
「あ、じゃあ、ドラも行くよ」
ドラ江は言った。因みに、ドラ江は自分のことを“ドラ”と称する。悪しからず。
「君も?いいけど、野球って解る?」
「解るよ。未来にでも野球はあるんだから!」
畳から腰を上げ、ドラ江は拳を固めた。
「バットを使って何人の人を感動させられるか競う競技だよね?」
「あー、うん、未来と今では“野球”に関する情報がかなりズレてしまっているようデスね。しかも野球の“球”の部分はどこにいったのだろう」
まぁ、ルールは追々説明するとして、
「じゃ、行こうか。空き地」
僕等は平和そのものを感じながら、何の気がねなく外に出た。
僕は自分に何かが起こるなんて信じていなかった。
信じたくなかったし。
今が楽しければいいかな、と、たまに思うのだ。
「おうのび太!ん?なんだ、ドラ江も一緒か?」
ジャイアンがその大きな体を揺らして僕等に手を振った。
僕もジャイアンとスネ夫に手を振り替えして、
あれ?と、彼女に気付いた。
「し、静香ちゃん、来てたんだ」
土管に座る女の子に、僕は少し緊張してしまう。
静香ちゃん。ドラ江が言うには、僕の未来のお嫁さん、らしい。
そう聞いた日から、どうも意識してしまう。
「のび太さん、がんばってね」
ニコリ、と、土管の上に座って静香ちゃんは微笑んでる。
一瞬、幸せに包まれた僕です。
が、
「――――――!」
殺気!?
不意に後ろから感じたオーラに、幸せは一気に霧散した。
「な・・・、何・・・?」
僕は、恐る恐る後ろを振り返る。
と、
「ひっ!」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ
と効果音を出さんばかりに、ドラ江の体の周りにオーラが湧き上がっていた。何か、悪霊とかその辺を一緒に纏ってそうだ。
「ど、どうしたの・・・?」
「・・・あの子が、静香ちゃんだね・・・?」
ドラ江の声は少し低い。
「え・・・?あ、うん」
「っか、そうか・・・。あれが・・・、ふぅん・・・。可愛いねぇ・・・。ふふふ・・・」
ぶつぶつとつぶやき始めたドラ江は取り合えずスルー。早速僕等は野球に専念することに。
「えー・・・、と、とりあえず僕等がやってみるから、君はルールが解ったら君も参加しなよ?ソレまでにその禍々しいオーラは取り払っておくようにッ!」
ドラ江に忠告したら早速スタンバイ開始。
僕がバッターで、ジャイアンがピッチャー。それでキャッチャーがスネ夫。この三人しか居ないから、当たったらソレでおしまい。
野球と呼べるかは解らないけど、僕等にはコレが楽しい。
「行くぞのび太!俺の魔球、受けてみろぉぉぅぁあああああああッ!」
奇声と共に放たれるチェンジアップ。
「フン!そんな球見飽きたわぁッ!」
僕もきめ台詞と共にバットをフルスイング。
バシィンッ
見事に、ボールはキャッチャーミットに収まった。
要するに、豪快な空振りだ。
「ふはははははは!俺様の球は見飽きて尚打てぬ代物だ!」
ジャイアンが大きく笑う。
僕は悔しさと多少の恥ずかしさを隠すように、
「来ォいッ!」
大きな声と共に、もう一回バットを構えた。
「その意気や良し!受けてみろッ!」
もう一回、大仰なアクションで放られる一球。
それを、
「うおりゃあッ!」
バシィンッ
空振り。
「ふあっははは!後一球でお終いだ!」
ジャイアンはスネ夫からボールを受け取って、がははと笑った。
最後の一球・・・。
ジャイアンは漢だ。ここで一球外す、なんてことはない。
つまりは、直球勝負。
ギリ・・・ッ、っとバットを握りなおし、ちらり、と静香ちゃんの方を見た。
静香ちゃんもふとこっちを見て、目が合った。
ニコリ、と、静香ちゃんは笑った。
僕は恥ずかしくなって、視線を外した。
その、外した先にはドラ江が居た。
視線をそっちにやった瞬間に、目が合った。
・・・ずっと僕を見ていたのだろうか・・・?
何か、気合が入った気がする。
ソレは静香ちゃんのおかげなのか、それともドラ江のおかげなのか・・・。
ともかく、と、僕はジャイアンを改めて睨み直し、バットを構えた。
「くくく!さて、打てるかなァ!?」
叫び声と共に、ボールが唸りを上げて飛んでくる。
僕はソレをよく見て、
「だぁぁああああああああああッ!」
振った。
カッキィイーーーンッ!
何て、景気のいい音が響くこともなく。
結果、三振。
ぐははははは、と、ジャイアンは笑った。
僕も笑いながら、無性に泣きたくなっていた。
顔を少し伏せながら、土管に戻る。
「はは・・・、ダメだったよ」
悔しさを隠すように、僕は笑った。
「うーん、ちょっとかっこ悪かった、かな?」
ズキン
静香ちゃんの言葉が、胸に刺さった。
「はは・・・」
僕は今、笑えているだろうか?
もう帰ろうかな。
そんな風に考えて、
「そんな事ないよ!」
この声に、僕は顔を上げた。
ドラ江だった。
バットを手に持って、ドラ江は笑っていた。
「カッコ良かったよのび太クン!カッコ良かった!」
手をグーにして、ちょっと子供みたいにそう言うドラ江に、
「・・・ありがとう」
素直に、感謝の言葉を口にしていた。
ああ、そういえば・・・。
と、ドラ江を見る。
ドラ江に“ありがとう”を言うのは、コレが初めてかもしれない。と。
少し、気分が晴れた。
「って、ん?」
ふと、ドラ江の持っているバットが気になった。
ドラ江はバットを手に持ち、ブンブン振っている。
「あれ?君、何やってるの?」
「見ててのび太クン!ドラが、のび太クンの仇をとってあげる!」
そう言って、
「勝負だ!ジャイアン!」
ドラ江はバットを構えた。
「ほう、ドラ江。俺様に勝てるとでも思っているのか?」
ジャイアンは笑いながら、それでも勝負を受ける木満々だ。
「負けないよ!絶対!」
グッ、と胸の前に手を持ってきて、「勝つ!」と意気込むドラ江。
僕の、仇・・・?
ドラ江がバッターの位置に、ジャイアンはピッチャーの位置に。
バットをぐるぐる回して、ドラ江はボールが来るのを待つ。
「打てるわけないのにね」
と、隣で静香ちゃんが言った。
「そ、そうだね・・・」
と、僕は笑っておいた。
何故だか胸が痛くなった。
「よっしゃあ!勝負だドラ江!」
「来い!」
第一球。
ジャイアンの懇親の一球目。
そしてドラ江の初の一球目は、
バシィンッ
空振りだった。
綺麗にスネ夫の構えたミットの中にボールは収まった。
ドラ江も一応バットを振ったが、掠りもしなかった。
まぁ、僕がどーのこーのと言えた事じゃないが。
「さぁ!二球目行くぜ!打ってみろドラ江!」
「来ぉい!」
ジャイアンを睨みつけて、ドラ江は再びバットを構える。
ズザァッ!と効果音を立てて、ジャイアンから第二球が放たれた。
が、
バシィンッ
ストライク。
今回も掠らせる事できなかった。
「ほら、だめなのよ。あの子、野球やった事なかったんでしょ?」
静香ちゃんが言った。が、僕は答えなかった。
答えたくなかった。
答えたら、たぶん後悔する。
そう思ったから。
「さぁ、最後の一球だぜ!掠らせるくらいしてみろよ?」
スネ夫からボールを受け取り、グローブの中で弄ぶ。
ドラ江は、
ジャイアンを、ボールを凝視し、願っていた。
「あぁ・・・」と。
どうか、
どうかのび太クンの敵討ちを・・・。と。
「行くぞォ!勝負だぁりゃっはっはぁぁぁあああああああッ!!」
ジャイアンのオーバーアクションから、ボールがバキュオン!と放たれる。
僕は、
体が勝手に動いていた。
口のところに手を当てて、叫んでた。
「頑張れぇッ!」
と。
「う・・・・、うえ・・・。ううう・・・」
ドラ江は泣いてた。
僕等は空き地から家に帰る途中。
僕等は日が傾くまであの野球モドキを続けて、今帰路についてる。
「もう泣かないでよ・・・」
僕はドラ江をなだめる。
あの後、
ボールは、バットの端っこに当たって空に舞い上がった。
ソレを追いかけるようにミットを構え、スネ夫がそれをしっかりとキャッチした。
負けは負けだけど、何か、僕は凄いと思った。
素直に。
「凄いよ。初めてでジャイアンの球に掠らせたんだよ?凄いことだよ」
「うう・・・、でも、でもぉ・・・!の、のび太クンの、か、かた、かたたたき、仇討ち・・・、出来なかった・・・あぁ・・・」
さっきからこの調子。
「仇・・・って、僕は死んでないよ・・・。しかも途中『肩叩き』混じったでしょう」
僕の敵が取れなかったから、彼女は泣いてる。
何か僕はとても複雑な気分。
が、ともかく。
「もう泣かないで?ありがとう。当てただけでも、十分な仇討ちだから。ね?」
「う・・、うう・・・」
ドラ江はしきりに目を擦るが、どうやら涙(洗浄液)が止まらない様。
どうしたもんだか・・・。
僕はドラ江の横を歩きながら、頭を掻いた。
ふぅ、とため息をついて、交差点を渡る。
まぁ、交差点と言ってもただの十字路。
車が一台通ってぎりぎりの細い道がクロスしている。
だからこんな道、車なんて殆ど通らない。通るのは、年に数回だ。
だから交通事故なんて今まで起きたことなくて、反射鏡とかもついてない。
僕はいつも通りに、道を横切ろうとした。
が、
年に数回の可能性に―――――
キキィィィイイイー
―――――どうやら該当してしまったようで、
車がこっちに向かって走ってきていたのが見えた。
もう、当たる―――――
そう思った旬瞬間、僕は無意識に、
ドラ江の背中を押して――――
バキィイッ
「のび太クーーーーーンッ!!」
僕は車に撥ね飛ばされた。
簡単に三メートル以上飛んで、地面に強く打ち付けられた。
そんな僕を見た車の運転手は、慌てた様子で車を発進させていった。逃げられた。
僕はナンバーを確認しようと思ったが、生憎、視界が真っ赤で確認できなかった。
「のび太クン!」
ドラ江が駆け寄ってきた。
「・・・だ、い・・・じょう・・・、ぶ、だった・・・?」
不思議なくらい、ドラ江の安否が気になった。
「ドラは大丈夫!怪我してないよ!大丈夫!今救急車から呼んだから!」
と、ドラ江は言った。
救急車、か・・・。
さっき言ったとおり、ここは細い道だらけだ。
最寄の警察署から救急車が来くるとしても、早くても二十分は掛かる。
生憎、そんなに長い時間、意識をとどめておく自身はなかった。
「頑張って!頑張ってのび太クン!」
何か、ドラ江の声が遠くに聞こえ始めた。
あぁ、と、初めてドラ江と会ったときを思い出す。まぁ、そんなに前の事じゃないが。
ドラ江はあの時言った。
『時間軸がズレて、のび太クンは死んじゃうかもしれない』と。
残念ながら、当たってしまったようだ。
あぁ、セワシとかいう子孫に悪いことしたな・・・、と、ふと思う。
僕が死んだらアイツの存在も無くなってしまう訳だから、大幅に未来が変わってしまうのではないか。
まぁ、僕が未来に与える影響がどれほどのモノか解らないが。
あぁ、少なくとも、静香ちゃんとは結婚できなくなるな。
もっとも、このまま生きていても結婚するか解らないけど。
まぁ、どの道、僕はこのまま死ぬんだろうけど・・・。
だけど、とりあえず、
これだけは言っておきたかった。
「ど・・・ら・・・」
「何!?どうしたの!?苦しいの!?喋っちゃだめだよ!血が・・・!」
何かが、顔に落ちた。
それがドラ江の涙(洗浄液)だと解るのに、時間は要らなかった。
僕は自意識過剰だろうか。
その感触すら、どんどん遠のいていく。
僕は、最後の力を振り絞った。
「ドラ江・・・」と。
「あ・・・、リ・・・、が・・・・とう・・・・」と。
「のび太クン!?」
意識が遠くなった。
ドラ江の声も、もう聞こえない。
遥か遠くになりつつある意識の中、僕は思った。
ああ、確か僕、
ドラ江のことを名前で呼んだの、これが初めてだったな・・・、と。
「ただいま〜」
僕はいつも通り、帰路についた。
部屋の襖を開けて、カバンを机にかける。
あの後、
僕の死の間際、ドラ江が閃いて、僕は“お医者さんごっこカバン”なるもので一命を取り留めた。
その道具の効き目はすばらしく、三日も寝たら体はすっかり元気になっていた。
未来の器具様々だ。
部屋の中には、先日までこの部屋に居なかった彼女、ドラ江が居ます。
自分をネコ型ロボットだと言って憚らない、女の小型のロボット。
ドラ江は未来から来たそうです。
時間軸のズレが原因で、もうスグ僕の身に危険が迫るとの事でした。
そうすると僕が生まれない、と、子孫のセワシが彼女をここに送り込んだそうです。
で、それを回避すべく、僕は彼女と住むことになりました。
両親は未来の力(主に金銭関係)で和解。彼女は今、僕の押入れに住んでいます。
泣き虫です。
何かと頑張ります。
ドラ焼きが好きです。
野球を最近覚えました。
最近学校に行きたいとか言ってます。
今まで一回、彼女に助けられました。
はい、まだ僕は生きています。
ドラ江と、一緒に。
「おかえり!のび太クン!」 |